「『好きじゃないのに』とか『好き嫌い』とかなら、去年のお題で書いた」
好きに「成れない」ではなく、好きに「慣れない」、「馴れない」とするなら、
他者から向けられる継続的な好意だの嫌悪だのに、馴染むことができない誰かのハナシも書ける。
某所在住物書きは「なれない」がひらがな表記であることに着目して、その変換先を探った。
成れない、慣れない、鳴れない。
「好きに鳴れない」とは鳥等々のさえずりか。
「好きと嫌いなぁ」
物書きは天井を見上げた。個人的にそれは、執筆作業に使用している某焚き火アプリであった。
好きになれない理由は広告。時折ヤバい、疑うべき、不明な広告を見ることがある。
――――――
前々回と前回投稿分から続くおはなし。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしている某喫茶店に、
ドチャクソに悩める雪国出身者が、バチクソに難しいような、実は至極簡単かもしれないような、
ともかく、単純な二項対立とは言えないハナシを、
真面目に、至極真剣に、悩んでおりました。
雪の人は名前を藤森といい、
藤森は異世界から来たふたつの組織の、それぞれの言い分を聞きました。
カラカラ、から、からり。
藤森が双方のハナシを聞き終わる頃には、不思議な不思議なネズミ車はいつの間にか運動をやめて、
その下で1匹のハムスターが、プカプカ。
出てきてはいけない何か尊厳というか、命というか、心そのもののようなものを吹いていました。
藤森が聞いた異世界組織の言い分の、
ひとつめの組織は「世界多様性機構」。
彼等は滅んだ先進世界の人々全員に手を差し伸べ、
まだ生きている発展途上の世界に送り込み、
途上世界を豊かにするかわりに、途上世界のバランスを崩してしまうリスクを野放しにするのでした。
多様性機構は言いました。
「管理局」の職員を信用してはならぬ。
管理局には、先進世界を滅ぼしかけたドラゴンが、1匹、勤めているのだ。
きっとそのドラゴンは東京をも滅ぼすだろう。
藤森は機構の言い分を聞いて、
機構を、嫌いになれないでおりました。
もうひとつの組織は「世界線管理局」。
彼等は生存している世界のどんな問題にも手出しをせず、介入せず、滅ぶも生まれるも双方見守り、
しかし、その世界が「その世界」の独自性を持ち続けていられるように、
その世界がその世界で在り続けられるように。
保全と保護と、他の世界との調停をしていました。
管理局のドラゴンは言いました。
「機構」にこの世界を渡してはならぬ。
機構はこの世界を、東京を途上世界とみなして、
事実として今まさに、他の滅亡世界の難民たちを、
密航させて、違法に移住させているのだ。
きっとこの機構は東京を混乱させるだろう。
藤森は管理局の言い分を聞いて、
管理局を、好きになれない、嫌いになれない。
ただ少なくとも、彼なりの精一杯に、藤森に対して誠実であろうとしているのは、理解したのでした。
「つまり、あなたがたは、」
藤森は目の前の、世界線管理局のドラゴンが変身した男性に対して、呟きました。
「私達の、この世界の滅びゆく花々を、救ってくれることはないワケだ」
藤森は日本の消えゆく花々を、憂いていました。
絶滅に向かい続けている花々を救いたくて、多様性機構が持つという異世界の技術を頼ったのでした。
機構は手を差し伸べてくれるが、
管理局は手を出さない。
そういうことだな。藤森はドラゴンに――藤森に「条志」と名乗った男性に、問うたのです。
「そうだ」
管理局のドラゴン「条志」はハッキリ言いました。
「俺達『世界線管理局』は、お前たちの世界に不必要に干渉しないし、介入もしない。そうすべきではないというスタンスだ。
たしかに絶滅危惧種を増やす技術も、それを可能にする道具も、多々収蔵しているが、
それを、お前たちに貸与することはない」
それは「お前たち」が、「お前たち自身」の知恵と技術と魂で、成し遂げるべきことだ。
条志はそう付け足しました。
やはり、好きになれない、嫌いになれない。
藤森は思いました。
どちらの言い分も、藤森はよく理解できたし、
どちらの立場も、藤森はよく共感できました。
滅んだ世界の難民を救おう。分かります。
自分の世界の問題は自分たちで。分かります。
だからこそ、相手を、信じてはならない。
藤森には、双方、よく分かるのです。
「それでも、」
藤森は思いました。
「……それでも、私は花が好きだから、
絶滅しそうな花を救ってくれる技術や道具があるなら、それが欲しいし、それにすがりたい」
藤森は日本の在来花が好きでした。
藤森は、それらが消えゆくのを、そのまま見殺しにはしたくありませんでした。
だからこそ、
「条志さん。私はさっき、世界多様性機構の組織を、自分の目で見てきた。
あなたの世界線管理局も、見せてくれないか」
藤森は、双方を平等に、見ようとしました。
で、まさかの展開。
「見たいなら見れば良い。すぐ見れる」
条志が藤森のスマホを、ちょいと借りて、
「お前の後輩、高葉井といったな。あいつ、ゲームやってるだろう」
ゲームストアのアプリを呼び出して、ポンポンポンと文字を打ち、検索して、
「それの中の『ルリビタキ』が、俺だ」
ひとつのソーシャルゲームを、表示しました。
「は?」
「俺達は広報活動と資金獲得のために、こっちの世界でゲームだのグッズだのコラボカフェだのを展開している。あの中の、『ルリビタキ』が、俺だ」
「……は?」
「ゲームを入れればだいたい俺達のことは分かる」
「は……???」
藤森はこれから管理局を好きになれるでしょうか?
その先は今後のお題次第。 しゃーない。
4/30/2025, 3:47:07 AM