かたいなか

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4/30/2025, 3:47:07 AM

「『好きじゃないのに』とか『好き嫌い』とかなら、去年のお題で書いた」
好きに「成れない」ではなく、好きに「慣れない」、「馴れない」とするなら、
他者から向けられる継続的な好意だの嫌悪だのに、馴染むことができない誰かのハナシも書ける。
某所在住物書きは「なれない」がひらがな表記であることに着目して、その変換先を探った。

成れない、慣れない、鳴れない。
「好きに鳴れない」とは鳥等々のさえずりか。

「好きと嫌いなぁ」
物書きは天井を見上げた。個人的にそれは、執筆作業に使用している某焚き火アプリであった。
好きになれない理由は広告。時折ヤバい、疑うべき、不明な広告を見ることがある。

――――――

前々回と前回投稿分から続くおはなし。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしている某喫茶店に、
ドチャクソに悩める雪国出身者が、バチクソに難しいような、実は至極簡単かもしれないような、
ともかく、単純な二項対立とは言えないハナシを、
真面目に、至極真剣に、悩んでおりました。

雪の人は名前を藤森といい、
藤森は異世界から来たふたつの組織の、それぞれの言い分を聞きました。

カラカラ、から、からり。
藤森が双方のハナシを聞き終わる頃には、不思議な不思議なネズミ車はいつの間にか運動をやめて、
その下で1匹のハムスターが、プカプカ。
出てきてはいけない何か尊厳というか、命というか、心そのもののようなものを吹いていました。

藤森が聞いた異世界組織の言い分の、
ひとつめの組織は「世界多様性機構」。
彼等は滅んだ先進世界の人々全員に手を差し伸べ、
まだ生きている発展途上の世界に送り込み、
途上世界を豊かにするかわりに、途上世界のバランスを崩してしまうリスクを野放しにするのでした。

多様性機構は言いました。
「管理局」の職員を信用してはならぬ。
管理局には、先進世界を滅ぼしかけたドラゴンが、1匹、勤めているのだ。
きっとそのドラゴンは東京をも滅ぼすだろう。

藤森は機構の言い分を聞いて、
機構を、嫌いになれないでおりました。

もうひとつの組織は「世界線管理局」。
彼等は生存している世界のどんな問題にも手出しをせず、介入せず、滅ぶも生まれるも双方見守り、
しかし、その世界が「その世界」の独自性を持ち続けていられるように、
その世界がその世界で在り続けられるように。
保全と保護と、他の世界との調停をしていました。

管理局のドラゴンは言いました。
「機構」にこの世界を渡してはならぬ。
機構はこの世界を、東京を途上世界とみなして、
事実として今まさに、他の滅亡世界の難民たちを、
密航させて、違法に移住させているのだ。
きっとこの機構は東京を混乱させるだろう。

藤森は管理局の言い分を聞いて、
管理局を、好きになれない、嫌いになれない。
ただ少なくとも、彼なりの精一杯に、藤森に対して誠実であろうとしているのは、理解したのでした。

「つまり、あなたがたは、」
藤森は目の前の、世界線管理局のドラゴンが変身した男性に対して、呟きました。
「私達の、この世界の滅びゆく花々を、救ってくれることはないワケだ」
藤森は日本の消えゆく花々を、憂いていました。
絶滅に向かい続けている花々を救いたくて、多様性機構が持つという異世界の技術を頼ったのでした。

機構は手を差し伸べてくれるが、
管理局は手を出さない。
そういうことだな。藤森はドラゴンに――藤森に「条志」と名乗った男性に、問うたのです。

「そうだ」
管理局のドラゴン「条志」はハッキリ言いました。
「俺達『世界線管理局』は、お前たちの世界に不必要に干渉しないし、介入もしない。そうすべきではないというスタンスだ。
たしかに絶滅危惧種を増やす技術も、それを可能にする道具も、多々収蔵しているが、
それを、お前たちに貸与することはない」
それは「お前たち」が、「お前たち自身」の知恵と技術と魂で、成し遂げるべきことだ。
条志はそう付け足しました。

やはり、好きになれない、嫌いになれない。
藤森は思いました。
どちらの言い分も、藤森はよく理解できたし、
どちらの立場も、藤森はよく共感できました。

滅んだ世界の難民を救おう。分かります。
自分の世界の問題は自分たちで。分かります。
だからこそ、相手を、信じてはならない。
藤森には、双方、よく分かるのです。
「それでも、」
藤森は思いました。
「……それでも、私は花が好きだから、
絶滅しそうな花を救ってくれる技術や道具があるなら、それが欲しいし、それにすがりたい」
藤森は日本の在来花が好きでした。
藤森は、それらが消えゆくのを、そのまま見殺しにはしたくありませんでした。

だからこそ、
「条志さん。私はさっき、世界多様性機構の組織を、自分の目で見てきた。
あなたの世界線管理局も、見せてくれないか」
藤森は、双方を平等に、見ようとしました。

で、まさかの展開。
「見たいなら見れば良い。すぐ見れる」
条志が藤森のスマホを、ちょいと借りて、
「お前の後輩、高葉井といったな。あいつ、ゲームやってるだろう」
ゲームストアのアプリを呼び出して、ポンポンポンと文字を打ち、検索して、
「それの中の『ルリビタキ』が、俺だ」
ひとつのソーシャルゲームを、表示しました。

「は?」
「俺達は広報活動と資金獲得のために、こっちの世界でゲームだのグッズだのコラボカフェだのを展開している。あの中の、『ルリビタキ』が、俺だ」
「……は?」

「ゲームを入れればだいたい俺達のことは分かる」
「は……???」
藤森はこれから管理局を好きになれるでしょうか?
その先は今後のお題次第。 しゃーない。

4/29/2025, 3:43:57 AM

「『夜明け前』とか、『静かな夜明け』とかは、お題として配信された記憶があるわな」
今回は夜明け、前じゃなくて、夜明けの後か。
某所在住物書きは過去投稿分のお題を辿って、辿って、しかし前回投稿分が「アレ」だったので、
特に新しいことを考えず、別アプリで既に執筆していたハナシをコピペしてリメイクして。

たまにはこういう投稿スタイルも良いだろう。
物書きは頷いて、完成品を投稿する。
「夜明け」のような文章は完成品に組み込みやすい。どこかの描写で時間を説明すればよろしい。
「夜。……よるなぁ」
物書きはポツリつぶやいた。
そういえば「夜」のネタはこれで何度目であろう。

――――――

前回投稿分の続き物、前々々回の物語の裏話。
昔々、だいたい数十年前のおはなしです。
「ここ」ではないどこか遠く、別のところに、滅びに至りそうな世界がありまして、
炎と雷と光のせいで死んでしまった花畑の真ん中に、1匹のドラゴンが弱々しく、倒れておりました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
そして、その世界を一番愛していたドラゴンでした。
ドラゴンは前回投稿分で、「ルリビタキ」だの、「条志」だのと名乗っておりました。

ドラゴンの世界はここ十数年、数十年で、別の世界からの移民によって急速に開発されました。
その世界の一番偉い人が、近代化と繁栄を目当てに世界多様性機構との避難民受け入れ協定を結んだ途端、大量になだれ込んできた移民が、
世界の豊かな資源を根こそぎ採掘して、工場だのビルだのを大量に建て始めて、
世界のバランスを一気に崩し、多くの魔法動物の心魂を、濁らせてしまったのです。

愛する世界を守るために、ドラゴンは移民たちを追い出そうとしました。
だけど移民たちはドラゴンを、大量の不思議なアイテムで縛り付けて、ズッタズタにやっつけて、
エネルギー生成炉に、ブチ込んでしまいました。
なんてったってドラゴンは、その強い魂と魔力が、高出力の炉心に丁度良いのです。

『エネルギー注入開始します。ドラゴンの魂、臨界点到達まで残り90』
移民の目論見どおり、ドラゴンはとても良い炉心として、世界にエネルギーを供給し始めました。
『まだ出力を挙げても大丈夫そうだ。もっとエネルギーを取り出して、他国にも融通しよう』
ドラゴンの魂と魔力によって、世界は一気にエネルギー問題から開放されて、
移民も現地住民も、十数年、数十年、世界の黄金時代を謳歌しておりました。

『もっと、もっと、もっとだ。このドラゴンから効率的に、もっと多くのエネルギーを取り出そう』
発展、開発、発展、開発。
あらエネルギーが足りないわ。炉を改良しよう。
そして、事故が起こったのです。

『格納容器損壊!レベル6オーバーの収容事故です、炉心のドラゴンが暴れています!』
過剰な改良により、ドラゴンの心魂が汚染されて、ドラゴンを狂わせてしまったのです。
『駄目です!制御棒、受け付けません!暴走指数が急上昇しています!総員、至急退避――』
狂ったドラゴンは移民が作ったものすべてを焼き払い、叩き潰し、溶かし尽くして夜が明けた。
夜が明けて朝日がのぼる頃には、「移民の技術が無ければ機能しなくなってしまった世界」は、ぐっちゃぐちゃに壊れてしまっていました。

全部ぜんぶ壊し尽くして、傷を負って倒れ込んで、
ようやくドラゴン、正気に戻りました。
もう、生きている異世界の移民はどこにも居ません。
もう、動いている異世界の機械は何もありません。
その「異世界」無しには、
この世界は1週間も生活できないところまで、依存してしまっておりました。

異世界の移民は、一部の現地住民を連れて、別の異世界への渡航船に乗り込み逃げ出しました。
その渡航船に乗り込んだのが、まさしく「こっちに恋」「愛に来て」のお題で甘酸っぱい恋物語を展開していた、例の少年少女。
ドラゴンの世界の夜は明けました。
ドラゴンの世界はとても、静かになりました。

そこに現れたのが世界線管理局。
「あーあー。また一部の利己的な移民が、世界をひとつ壊しかけた」
管理局はこの世界の、移民大量流入と、それによる過度な開発とを、ずっと監視し続けておりました。
「酷いな。この世界には僕のお気に入りの花畑があったのに」
酷いや。本当に、ひどい。
まだ息のあるドラゴンの前に立って、世界線管理局の局員、言いました。

『性懲りもなく、また俺を捕まえに来たのか』
満身創痍のドラゴン、管理局を知りません。
新しい敵と勘違いして、弱々しく、威嚇します。
『ここにはもう、お前たちが欲しがるものは何も無い。出ていけ』

威嚇があんまり弱々しいので、管理局員、ちっとも怖くありません。
ドラゴンを撫でて、嫌がられて、それでも撫でて、
「寂しいこと言うなよ。取り引きしたいんだ」
自分の名刺を――出したらそれを、ドラゴンにパクリ。食われて吐き出されてビッチャビチャ。
『ヨソモノの思い通りになどならん。失せろ』
それでも局員、にっこり笑って、自己紹介もしっかり済ませて、そして、言うのです。

「お前が管理局に身を売るなら、僕たちの収蔵品でこの世界を元に戻してヨソモノも全員追い払おう。
3食昼寝付き。おやつも完備だ。
悪いハナシじゃないだろう。なぁ、どうだろう」

ドラゴンの世界の夜は明けました。
ドラゴンの世界はとても、静かになったのでした。

4/28/2025, 4:41:48 AM

「今回のお題が『ふとした瞬間』で、前回のお題が『どれだけ離れていようと』って、
あの歌しか思いつかねぇんだが?」
そういえば「踊りませんか」なんてお題もあった。
某所在住物書きは30年以上前の某名曲を、音楽ライブラリから引っ張り出して、スマホで鳴らしてため息をひとつ――30年である。歳もとる。

「まさしくコレだろうね。『ふとした瞬間』に自分の年齢を再認識する、っていう」
某二次創作を始めたのも■■年前、それを掲載していた個人サイトの提供元たる森頁が閉鎖したのだって早くも■年前。
時間、時間、時間。時の流れは早いものである。
この連休とて、「ふとした瞬間」に、早々と流れて終わることだろう。

――――――

前々々回、3日前投稿分の続き物。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしているという喫茶店は、その日、臨時休業。
店内には椅子に両手を縛り付けられ、申し訳程度の拘束を受けている女性と、
その女性を心配そうに見る雪国出身者、
それからその雪の人と相対して、席につき、タバコに火を付けようとして店主の老女とその使い魔猫に、ギラリ睨まれている男性。

ハムスターが1匹カラカラと、ネズミ車式の不思議な珈琲焙煎器を回している。気にしてはならない。

「その女が所属してる『世界多様性機構』は、」
渋々タバコをしまう男性は、「条志」と名乗った。
「『この世界』にせよ別の世界にせよ、途上世界を先進世界の技術で開発して、滅んだ世界の難民を密航させる。強引な違法行為で有名な組織だ」

条志が本名か偽名か、雪の人にはもはや分からぬ。
というのもこの条志、まさかの前々回投稿分に登場して建物の両開きドアを吹っ飛ばしたドラゴン。
当時は「ルリビタキ」と名乗っていた。

「世界多様性機構が東京を滅亡世界の難民用シェルターにするため、支援拠点を建てた。
この世界を異世界の技術で勝手に開発するのは違法だ。それで、俺達が調査をしていたんだが」

世界多様性機構に、ドラゴン、滅亡世界と難民。
完全にフィクションファンタジーだと雪の人。
どうやら自分はいつの間にか、物語か夢の世界に迷い込んでしまったらしい。
白昼夢か。それとも明晰夢かな。 小さなため息を吐く雪の人は、名前を「藤森」といった。

「ルリビタキに騙されちゃ駄目です、藤森さん!」
柔らかい布でやんわり椅子に縛られている女性は、条志――ルリビタキに反論する。
「その男の正体は、私の両親の世界を壊しかけた、悪いドラゴンです!話を信じちゃダメです!」

やんわりとした拘束なので、その気になって一生懸命もがけば、簡単に抜け出せる。
ふとした瞬間に布が切れることもあるだろう。
それでも律儀に拘束され続けているのは、自分の実力差を理解しているためだ。
今椅子から脱出したところで、すぐ、目の前のドラゴンに制圧されてしまう。
女性は「機会」を待っているのだ。

ところで、条志にせよルリビタキにせよ、
タバコを吸えず渋々した表情をしているこの男が、女性の両親の故郷を滅ぼしかけたとは、
一体全体、どういうことだろう?

詳細は前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことを気にしてはいけない。

「『条志』と名乗ったそのドラゴンは、」
女性が言った。
「私の両親が子供の頃、両親が住んでいた世界の、インフラもエネルギー網も、食べ物の生産プラントも、全部ぜんぶ、壊し尽くしたんです」
ルリビタキは一切反論しない。
ただタバコをしまったケースを、ぼんやり見て、女性の主張をそれとなく聞いている。

「このドラゴンが壊した世界から、私の両親は世界多様性機構に助けてもらいました。
彼はきっと、藤森さん、あなたの世界も同じように、炎と光で壊すつもりです!」

「このドラゴン」が東京を壊す?
今年の3月から藤森の隣に越してきて、時折藤森の部屋に来て、藤森が出す料理を「美味い」と食っていた「このドラゴン」が??
藤森は女性の発言が信じられない。
これまでずっと「条志」と名乗っていたルリビタキに、ちらり、意思確認の意味で視線をやると、
藤森の目に気付いたルリビタキが、一瞬だけ、それこそ「ふとした瞬間」にたまたま目が合った程度の感覚で、視線を返した。

「あなたの話も聞きたい」
藤森が言うと、
「俺がそいつの世界を壊しかけたのは事実だ」
ルリビタキは淡々と、ただ、言い訳もせず。

「なぜ、」
「聞いてどうする」
「あなたがただ、理由も経緯もなく悪いことをするようなひと……ドラゴン? には、見えない」
「そりゃどうも。ただ、」

ただ、「こいつ」が居る前では話したくない。
女性を拘束していたハズの椅子をルリビタキがチラリ見ると、 おや、いつの間に。
「お帰りになったわよ」
喫茶店の店主たる老女がコーヒーカップを磨いて、椅子のロープを片付けている。
「上司の方でしょうね、迎えに来たみたい」

「話してください」
藤森が喫茶店のメニューを開きながら、ぽつり。
「長くなるようであれば、お茶でも飲みながら」

4/27/2025, 3:01:54 AM

「ぐあぁぁぁぁぁ!!いそげ!急げ!!」
パタタタタタ、カタタタタ!Bluetooth接続の物理キーボードに指を滑らせて、某所在住物書きの指先はいつになく、忙しい。
「寝過ごした!時間!着替え!やべぇ!」
諸事情により、いつも「この時刻を目指して投稿したい」と思っている時刻ジャストに、
抜け出せない、用事ができてしまっていたのだ。

投稿内容は昨晩の時点でだいぶ整っていたものの、時間がどれだけ離れていようと、
寝坊してしまっては、意味がない。
「おぉぉりゃぁあああああ!完成!投稿!」

タタタタタ、パタタタタタ!タン!
なんとか正午に仕上げが終了した文章を、「書く習慣」に貼り付けて、用事の準備へ。
昔々にブラインドタッチを覚えて良かった。物書きはよくよく再認識したとか、なんとか。

――――――

前々回投稿分の裏でひっそり展開していたハナシ。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織があり、
そこの経理部の万年コタツムリは、ビジネスネームを無毛の猫、「スフィンクス」といった。
スフィンクスは収蔵部の「ドワーフホト」と大の仲良し。というのも、同期なのである。

その日のスフィンクスはいつもの自作コタツ、「Ko-Ta2」の中で、熱心にどこぞの世界の新聞と、
それから、その世界でその日発売した雑誌などを、珍しく真剣に、双方読んでいた。

「スフィちゃん、スフィちゃぁ〜ん」
熱心スフィンクスに声をかけたのがドワーフホト。
「あのねぇ、5月の最初に、3日連続で一緒の日に、お休み取ろうよ、って思って〜」
別に、スフィンクスのコタツに入るでもなく、
特に、スフィンクスの新聞を取り上げるでもなく。
その新聞で顔の隠れたスフィンクスに、お構いなし。コタツのテーブルの上に1枚、チラシを置いた。
「こんなお祭り見つけたの。一緒に行こうねぇ」

それは、スフィンクスが大好きな、ミカンに関する花祭り。ミカンフェスティバル。
法務部執行課のルリビタキに、開催される該当世界のチラシを、無理言って送ってもらった。
5月に咲くというミカンの花は、白く小さく、観光にもってこい。
当日はミカンで香り付けした酒や、ミカンのジャムで甘みをつけた鶏の照り焼き、
それからミカンのジャンボタワーパフェ大食いチャレンジにミカンのアイスケーキプレゼント等々、
ミカングルメが、よりどりみどり。

ドワーフホトとしては、タワーパフェがイチバンの狙いであった。

「チラシ、置いといたからねぇ」
じゃ。お仕事頑張ってー。
ドワーフホトはそれだけ言って、自分の仕事たる収蔵品の管理作業に戻ってゆく。
スフィンクスがこのあとどんな行動に出るか、長い付き合いの親友ゆえに、理解しているのだ。

だいたいその後の返答が分かる。
だいたいその後の行動も分かる。
双方の部署、双方の物理的距離が「どれだけ離れていようと」、スフィンクスは就労時間内にドワーフホトを見つけ出す。
そして、あーだこーだ、云々、かんぬん。
最終的に、双方の予定を確認して、花祭りとグルメ巡りは行くことに決定となるだろう。

ただ今回は少しだけ、ほんの少しだけ、
ドワーフホトの想定シナリオからズレた。

「あのなぁ」
ぱたん。ドワーフホトが消えてから、スフィンクスは新聞を倒し、雑誌も倒し、
長い、大きなため息を、ひとつ吐いた。
「情報が遅いっつーの。
あと俺様もありがたい返答も聞けー」

スフィンクスが見ていたのは、
新聞の天気予報枠と、
本日発売の雑誌に掲載されたミカンの花祭りの見どころと周辺地域の宿情報と割引クーポン。

もう見ていたのだ。
もう、読んでいたのだ。
「ホト。 ほとー。 おーい」
ったく。今日に限って要件だけ言ってすぐ消えて。
収蔵庫かな。
スフィンクスは再度ため息ひとつ吐いて、
ドワーフホトの予想通り、彼女を探しに席をたつ。

ミカンまつりが開催される世界と、2人が働いている世界が、どれだけ離れていようと関係無い。
異世界渡航技術は昔々に既に確立されており、
なにより、彼女たちはその異世界渡航申請を許可したり規制したり、滅亡世界への航路を封鎖したりする立場の組織に属する職員。
その世界が「その世界」で在り続けられるように、
その世界が「その世界」としてどこからも侵略されず、搾取されず、尊重されるように。
世界線管理局は世界の独自性を、保全し続ける。

「おい、ホト!おまえ、このジャンボタワーパフェ、2個食う予定だったのかよ?!
やめとけ!無理!総重量!そーじゅーりょお!!」
なお時折保全対象のに立ち寄っては、その世界の独自性と独立性に、舌鼓を打っているようである。

4/26/2025, 3:03:22 AM

「以前、きっと合言葉にかけてだろうな、『愛言葉』ってお題なら見た記憶があるわ」
今回の恋と愛にせよ、先日の「big love!」にせよ、更に過去のお題としては「I LOVE...」に「cute!」、「愛情」、「秋恋」に「愛を注いで」。
出題者のクセや生活の結果であろう、「書く習慣」は恋愛系・エモ系のお題が比較的多い傾向にある。

ひとつのジャンルへのかたよりは、ネタの枯渇を誘発するものの、「いかに多角的に『それ』に切り込めるか」のトレーニングにはなるだろう。
「……出題者としては『こっちに来い』と『恋』をかけてほしいんだろうな」
物書きは再度、お題を確認する。
「愛にきて」に関しては、「愛」という名前の人物に会いに行くよう誘わせれば、どうだろう?

――――――

前回投稿分の背景に繋がるおはなし。
昔々のおはなしです。「ここ」ではないどこかに、地球のどの国よりも、どの組織よりも、はるかに文明の進んだ世界がありまして、
特に今回のお題回収役の少女と少年――前回投稿分で登場した「アテビ」の両親が住んでいた国では、
成体ドラゴン1匹を炉心に使うことで、
全世帯7000万の消費エネルギーを余裕で供給しながら、なお余りある分を他国へ融通・売却して、豊かに暮らしておったのでした。

ところで今回のお題は「こっちに恋」「愛にきて」ですが、まさしくその日は春の恋、愛の祭典。
愛するひと、恋するあのひとと黄色い花のジュエリーを交換して、翌年に再度そのひとを見つけられたら、ふたりの恋愛は成就するでしょう。
そんなおとぎ話を、商業利用したフェスティバル。

こっちに恋、あっちに恋、そっちに恋で向こうも恋、どこでも恋。あの恋はどこの恋?
誰もが大きなフェス会場で、黄色い花の宝石を消費して、恋と愛を交換しあって、
あるいは、昨年宝石を交換しあった愛を探して。
楽しく、幸福に、エネルギー枯渇の心配も経済停滞の不安も無い世界を、謳歌しておりました。

「事故」が起きたのはまさにその日でした。
炉心に用いていたドラゴンの、魂の暴走。
制御を外れたドラゴンは、エネルギー炉を焼き、建物を溶かし尽くして、
そして、愛と恋の祭典をも、破壊しました。

「こっち、こっち!」
正気を失って周囲に炎を撒き散らすドラゴンに、
フェスの参加者は完全に大混乱。
お題回収役の少年が、恋する大好きな少女の手を引いて、彼女だけでも守ろうと走り出します。

少女は目の前の惨劇を現実と理解できなくて、
ただただ、手持ちの端末でそのドラゴンを、暴力と暴走の権化を映してばかり。
「逃げよう、はやく!!」
大人たちはドラゴンをエネルギー炉へ再収容しようと捕獲銃を連発しますが、
なにせ、相手は一国全世帯のエネルギーを供給してなお余りあるチカラを有する、最強のドラゴン。
科学という科学、技術という技術、すべてが炎に包まれて、焼けて、崩れて、溶け落ちてゆきます。

少年少女の両親は、壊れゆくこの世界から安全な別の世界へ、脱出を決意しました。
それぞれがそれぞれの渡航船を割り当てられて、少年と少女は一時的に、引き離されました。

「来年、必ず会いにきて」
難民をその世界から別の世界へ、密航の形で避難させる組織、「世界多様性機構」が用意した別々の渡航船に乗り込む前に、
少女は少年から貰った黄色い花のネックレスを、少年に見せながら言いました。
「絶対、ぜったい、このネックレスに、
プレゼントしてくれたこのネックレスに、愛に、
来て。約束だよ。ぜったいだよ」

「約束する。絶対、絶対、見つけて会いに行く」
少年も、少女から貰った黄色い花の指輪を、少女に見せながら言いました。
「そのネックレスに、愛に、行くよ」

こっちに恋、そっちに恋、あっちにも恋の祭典は、
一瞬にしてドラゴンに壊されてしまいましたが、
少年と少女の美しくまぶしい恋は、ずっとずっと、避難先の世界へ渡った後も残り続けて、
そして翌年、少年は少女の「愛にきて」の約束を守り、巡り逢い、
そして大人になった十数年後、めでたく結ばれて、
そして前回投稿分の登場人物「アテビ」が黄色い花咲く季節に、無事、生まれました。

エネルギー炉の暴走ドラゴンが、その後どうなったか、お題回収役の少年少女は知らないまま。
捕獲を断念して討伐に切り替えられたとか、
誰もそのドラゴンにとどめを刺していないのに、いつの間にかドラゴンが姿を消したとか。
真相が判明するかしないかは、次回のお題次第。
しゃーない、しゃーない。

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