かたいなか

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「ぐあぁぁぁぁぁ!!いそげ!急げ!!」
パタタタタタ、カタタタタ!Bluetooth接続の物理キーボードに指を滑らせて、某所在住物書きの指先はいつになく、忙しい。
「寝過ごした!時間!着替え!やべぇ!」
諸事情により、いつも「この時刻を目指して投稿したい」と思っている時刻ジャストに、
抜け出せない、用事ができてしまっていたのだ。

投稿内容は昨晩の時点でだいぶ整っていたものの、時間がどれだけ離れていようと、
寝坊してしまっては、意味がない。
「おぉぉりゃぁあああああ!完成!投稿!」

タタタタタ、パタタタタタ!タン!
なんとか正午に仕上げが終了した文章を、「書く習慣」に貼り付けて、用事の準備へ。
昔々にブラインドタッチを覚えて良かった。物書きはよくよく再認識したとか、なんとか。

――――――

前々回投稿分の裏でひっそり展開していたハナシ。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織があり、
そこの経理部の万年コタツムリは、ビジネスネームを無毛の猫、「スフィンクス」といった。
スフィンクスは収蔵部の「ドワーフホト」と大の仲良し。というのも、同期なのである。

その日のスフィンクスはいつもの自作コタツ、「Ko-Ta2」の中で、熱心にどこぞの世界の新聞と、
それから、その世界でその日発売した雑誌などを、珍しく真剣に、双方読んでいた。

「スフィちゃん、スフィちゃぁ〜ん」
熱心スフィンクスに声をかけたのがドワーフホト。
「あのねぇ、5月の最初に、3日連続で一緒の日に、お休み取ろうよ、って思って〜」
別に、スフィンクスのコタツに入るでもなく、
特に、スフィンクスの新聞を取り上げるでもなく。
その新聞で顔の隠れたスフィンクスに、お構いなし。コタツのテーブルの上に1枚、チラシを置いた。
「こんなお祭り見つけたの。一緒に行こうねぇ」

それは、スフィンクスが大好きな、ミカンに関する花祭り。ミカンフェスティバル。
法務部執行課のルリビタキに、開催される該当世界のチラシを、無理言って送ってもらった。
5月に咲くというミカンの花は、白く小さく、観光にもってこい。
当日はミカンで香り付けした酒や、ミカンのジャムで甘みをつけた鶏の照り焼き、
それからミカンのジャンボタワーパフェ大食いチャレンジにミカンのアイスケーキプレゼント等々、
ミカングルメが、よりどりみどり。

ドワーフホトとしては、タワーパフェがイチバンの狙いであった。

「チラシ、置いといたからねぇ」
じゃ。お仕事頑張ってー。
ドワーフホトはそれだけ言って、自分の仕事たる収蔵品の管理作業に戻ってゆく。
スフィンクスがこのあとどんな行動に出るか、長い付き合いの親友ゆえに、理解しているのだ。

だいたいその後の返答が分かる。
だいたいその後の行動も分かる。
双方の部署、双方の物理的距離が「どれだけ離れていようと」、スフィンクスは就労時間内にドワーフホトを見つけ出す。
そして、あーだこーだ、云々、かんぬん。
最終的に、双方の予定を確認して、花祭りとグルメ巡りは行くことに決定となるだろう。

ただ今回は少しだけ、ほんの少しだけ、
ドワーフホトの想定シナリオからズレた。

「あのなぁ」
ぱたん。ドワーフホトが消えてから、スフィンクスは新聞を倒し、雑誌も倒し、
長い、大きなため息を、ひとつ吐いた。
「情報が遅いっつーの。
あと俺様もありがたい返答も聞けー」

スフィンクスが見ていたのは、
新聞の天気予報枠と、
本日発売の雑誌に掲載されたミカンの花祭りの見どころと周辺地域の宿情報と割引クーポン。

もう見ていたのだ。
もう、読んでいたのだ。
「ホト。 ほとー。 おーい」
ったく。今日に限って要件だけ言ってすぐ消えて。
収蔵庫かな。
スフィンクスは再度ため息ひとつ吐いて、
ドワーフホトの予想通り、彼女を探しに席をたつ。

ミカンまつりが開催される世界と、2人が働いている世界が、どれだけ離れていようと関係無い。
異世界渡航技術は昔々に既に確立されており、
なにより、彼女たちはその異世界渡航申請を許可したり規制したり、滅亡世界への航路を封鎖したりする立場の組織に属する職員。
その世界が「その世界」で在り続けられるように、
その世界が「その世界」としてどこからも侵略されず、搾取されず、尊重されるように。
世界線管理局は世界の独自性を、保全し続ける。

「おい、ホト!おまえ、このジャンボタワーパフェ、2個食う予定だったのかよ?!
やめとけ!無理!総重量!そーじゅーりょお!!」
なお時折保全対象のに立ち寄っては、その世界の独自性と独立性に、舌鼓を打っているようである。

4/27/2025, 3:01:54 AM