かたいなか

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「以前、きっと合言葉にかけてだろうな、『愛言葉』ってお題なら見た記憶があるわ」
今回の恋と愛にせよ、先日の「big love!」にせよ、更に過去のお題としては「I LOVE...」に「cute!」、「愛情」、「秋恋」に「愛を注いで」。
出題者のクセや生活の結果であろう、「書く習慣」は恋愛系・エモ系のお題が比較的多い傾向にある。

ひとつのジャンルへのかたよりは、ネタの枯渇を誘発するものの、「いかに多角的に『それ』に切り込めるか」のトレーニングにはなるだろう。
「……出題者としては『こっちに来い』と『恋』をかけてほしいんだろうな」
物書きは再度、お題を確認する。
「愛にきて」に関しては、「愛」という名前の人物に会いに行くよう誘わせれば、どうだろう?

――――――

前回投稿分の背景に繋がるおはなし。
昔々のおはなしです。「ここ」ではないどこかに、地球のどの国よりも、どの組織よりも、はるかに文明の進んだ世界がありまして、
特に今回のお題回収役の少女と少年――前回投稿分で登場した「アテビ」の両親が住んでいた国では、
成体ドラゴン1匹を炉心に使うことで、
全世帯7000万の消費エネルギーを余裕で供給しながら、なお余りある分を他国へ融通・売却して、豊かに暮らしておったのでした。

ところで今回のお題は「こっちに恋」「愛にきて」ですが、まさしくその日は春の恋、愛の祭典。
愛するひと、恋するあのひとと黄色い花のジュエリーを交換して、翌年に再度そのひとを見つけられたら、ふたりの恋愛は成就するでしょう。
そんなおとぎ話を、商業利用したフェスティバル。

こっちに恋、あっちに恋、そっちに恋で向こうも恋、どこでも恋。あの恋はどこの恋?
誰もが大きなフェス会場で、黄色い花の宝石を消費して、恋と愛を交換しあって、
あるいは、昨年宝石を交換しあった愛を探して。
楽しく、幸福に、エネルギー枯渇の心配も経済停滞の不安も無い世界を、謳歌しておりました。

「事故」が起きたのはまさにその日でした。
炉心に用いていたドラゴンの、魂の暴走。
制御を外れたドラゴンは、エネルギー炉を焼き、建物を溶かし尽くして、
そして、愛と恋の祭典をも、破壊しました。

「こっち、こっち!」
正気を失って周囲に炎を撒き散らすドラゴンに、
フェスの参加者は完全に大混乱。
お題回収役の少年が、恋する大好きな少女の手を引いて、彼女だけでも守ろうと走り出します。

少女は目の前の惨劇を現実と理解できなくて、
ただただ、手持ちの端末でそのドラゴンを、暴力と暴走の権化を映してばかり。
「逃げよう、はやく!!」
大人たちはドラゴンをエネルギー炉へ再収容しようと捕獲銃を連発しますが、
なにせ、相手は一国全世帯のエネルギーを供給してなお余りあるチカラを有する、最強のドラゴン。
科学という科学、技術という技術、すべてが炎に包まれて、焼けて、崩れて、溶け落ちてゆきます。

少年少女の両親は、壊れゆくこの世界から安全な別の世界へ、脱出を決意しました。
それぞれがそれぞれの渡航船を割り当てられて、少年と少女は一時的に、引き離されました。

「来年、必ず会いにきて」
難民をその世界から別の世界へ、密航の形で避難させる組織、「世界多様性機構」が用意した別々の渡航船に乗り込む前に、
少女は少年から貰った黄色い花のネックレスを、少年に見せながら言いました。
「絶対、ぜったい、このネックレスに、
プレゼントしてくれたこのネックレスに、愛に、
来て。約束だよ。ぜったいだよ」

「約束する。絶対、絶対、見つけて会いに行く」
少年も、少女から貰った黄色い花の指輪を、少女に見せながら言いました。
「そのネックレスに、愛に、行くよ」

こっちに恋、そっちに恋、あっちにも恋の祭典は、
一瞬にしてドラゴンに壊されてしまいましたが、
少年と少女の美しくまぶしい恋は、ずっとずっと、避難先の世界へ渡った後も残り続けて、
そして翌年、少年は少女の「愛にきて」の約束を守り、巡り逢い、
そして大人になった十数年後、めでたく結ばれて、
そして前回投稿分の登場人物「アテビ」が黄色い花咲く季節に、無事、生まれました。

エネルギー炉の暴走ドラゴンが、その後どうなったか、お題回収役の少年少女は知らないまま。
捕獲を断念して討伐に切り替えられたとか、
誰もそのドラゴンにとどめを刺していないのに、いつの間にかドラゴンが姿を消したとか。
真相が判明するかしないかは、次回のお題次第。
しゃーない、しゃーない。

4/26/2025, 3:03:22 AM