かたいなか

Open App

「今回のお題が『ふとした瞬間』で、前回のお題が『どれだけ離れていようと』って、
あの歌しか思いつかねぇんだが?」
そういえば「踊りませんか」なんてお題もあった。
某所在住物書きは30年以上前の某名曲を、音楽ライブラリから引っ張り出して、スマホで鳴らしてため息をひとつ――30年である。歳もとる。

「まさしくコレだろうね。『ふとした瞬間』に自分の年齢を再認識する、っていう」
某二次創作を始めたのも■■年前、それを掲載していた個人サイトの提供元たる森頁が閉鎖したのだって早くも■年前。
時間、時間、時間。時の流れは早いものである。
この連休とて、「ふとした瞬間」に、早々と流れて終わることだろう。

――――――

前々々回、3日前投稿分の続き物。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしているという喫茶店は、その日、臨時休業。
店内には椅子に両手を縛り付けられ、申し訳程度の拘束を受けている女性と、
その女性を心配そうに見る雪国出身者、
それからその雪の人と相対して、席につき、タバコに火を付けようとして店主の老女とその使い魔猫に、ギラリ睨まれている男性。

ハムスターが1匹カラカラと、ネズミ車式の不思議な珈琲焙煎器を回している。気にしてはならない。

「その女が所属してる『世界多様性機構』は、」
渋々タバコをしまう男性は、「条志」と名乗った。
「『この世界』にせよ別の世界にせよ、途上世界を先進世界の技術で開発して、滅んだ世界の難民を密航させる。強引な違法行為で有名な組織だ」

条志が本名か偽名か、雪の人にはもはや分からぬ。
というのもこの条志、まさかの前々回投稿分に登場して建物の両開きドアを吹っ飛ばしたドラゴン。
当時は「ルリビタキ」と名乗っていた。

「世界多様性機構が東京を滅亡世界の難民用シェルターにするため、支援拠点を建てた。
この世界を異世界の技術で勝手に開発するのは違法だ。それで、俺達が調査をしていたんだが」

世界多様性機構に、ドラゴン、滅亡世界と難民。
完全にフィクションファンタジーだと雪の人。
どうやら自分はいつの間にか、物語か夢の世界に迷い込んでしまったらしい。
白昼夢か。それとも明晰夢かな。 小さなため息を吐く雪の人は、名前を「藤森」といった。

「ルリビタキに騙されちゃ駄目です、藤森さん!」
柔らかい布でやんわり椅子に縛られている女性は、条志――ルリビタキに反論する。
「その男の正体は、私の両親の世界を壊しかけた、悪いドラゴンです!話を信じちゃダメです!」

やんわりとした拘束なので、その気になって一生懸命もがけば、簡単に抜け出せる。
ふとした瞬間に布が切れることもあるだろう。
それでも律儀に拘束され続けているのは、自分の実力差を理解しているためだ。
今椅子から脱出したところで、すぐ、目の前のドラゴンに制圧されてしまう。
女性は「機会」を待っているのだ。

ところで、条志にせよルリビタキにせよ、
タバコを吸えず渋々した表情をしているこの男が、女性の両親の故郷を滅ぼしかけたとは、
一体全体、どういうことだろう?

詳細は前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことを気にしてはいけない。

「『条志』と名乗ったそのドラゴンは、」
女性が言った。
「私の両親が子供の頃、両親が住んでいた世界の、インフラもエネルギー網も、食べ物の生産プラントも、全部ぜんぶ、壊し尽くしたんです」
ルリビタキは一切反論しない。
ただタバコをしまったケースを、ぼんやり見て、女性の主張をそれとなく聞いている。

「このドラゴンが壊した世界から、私の両親は世界多様性機構に助けてもらいました。
彼はきっと、藤森さん、あなたの世界も同じように、炎と光で壊すつもりです!」

「このドラゴン」が東京を壊す?
今年の3月から藤森の隣に越してきて、時折藤森の部屋に来て、藤森が出す料理を「美味い」と食っていた「このドラゴン」が??
藤森は女性の発言が信じられない。
これまでずっと「条志」と名乗っていたルリビタキに、ちらり、意思確認の意味で視線をやると、
藤森の目に気付いたルリビタキが、一瞬だけ、それこそ「ふとした瞬間」にたまたま目が合った程度の感覚で、視線を返した。

「あなたの話も聞きたい」
藤森が言うと、
「俺がそいつの世界を壊しかけたのは事実だ」
ルリビタキは淡々と、ただ、言い訳もせず。

「なぜ、」
「聞いてどうする」
「あなたがただ、理由も経緯もなく悪いことをするようなひと……ドラゴン? には、見えない」
「そりゃどうも。ただ、」

ただ、「こいつ」が居る前では話したくない。
女性を拘束していたハズの椅子をルリビタキがチラリ見ると、 おや、いつの間に。
「お帰りになったわよ」
喫茶店の店主たる老女がコーヒーカップを磨いて、椅子のロープを片付けている。
「上司の方でしょうね、迎えに来たみたい」

「話してください」
藤森が喫茶店のメニューを開きながら、ぽつり。
「長くなるようであれば、お茶でも飲みながら」

4/28/2025, 4:41:48 AM