かたいなか

Open App

「『夜明け前』とか、『静かな夜明け』とかは、お題として配信された記憶があるわな」
今回は夜明け、前じゃなくて、夜明けの後か。
某所在住物書きは過去投稿分のお題を辿って、辿って、しかし前回投稿分が「アレ」だったので、
特に新しいことを考えず、別アプリで既に執筆していたハナシをコピペしてリメイクして。

たまにはこういう投稿スタイルも良いだろう。
物書きは頷いて、完成品を投稿する。
「夜明け」のような文章は完成品に組み込みやすい。どこかの描写で時間を説明すればよろしい。
「夜。……よるなぁ」
物書きはポツリつぶやいた。
そういえば「夜」のネタはこれで何度目であろう。

――――――

前回投稿分の続き物、前々々回の物語の裏話。
昔々、だいたい数十年前のおはなしです。
「ここ」ではないどこか遠く、別のところに、滅びに至りそうな世界がありまして、
炎と雷と光のせいで死んでしまった花畑の真ん中に、1匹のドラゴンが弱々しく、倒れておりました。

ドラゴンは、その世界で一番強いドラゴンでした。
そして、その世界を一番愛していたドラゴンでした。
ドラゴンは前回投稿分で、「ルリビタキ」だの、「条志」だのと名乗っておりました。

ドラゴンの世界はここ十数年、数十年で、別の世界からの移民によって急速に開発されました。
その世界の一番偉い人が、近代化と繁栄を目当てに世界多様性機構との避難民受け入れ協定を結んだ途端、大量になだれ込んできた移民が、
世界の豊かな資源を根こそぎ採掘して、工場だのビルだのを大量に建て始めて、
世界のバランスを一気に崩し、多くの魔法動物の心魂を、濁らせてしまったのです。

愛する世界を守るために、ドラゴンは移民たちを追い出そうとしました。
だけど移民たちはドラゴンを、大量の不思議なアイテムで縛り付けて、ズッタズタにやっつけて、
エネルギー生成炉に、ブチ込んでしまいました。
なんてったってドラゴンは、その強い魂と魔力が、高出力の炉心に丁度良いのです。

『エネルギー注入開始します。ドラゴンの魂、臨界点到達まで残り90』
移民の目論見どおり、ドラゴンはとても良い炉心として、世界にエネルギーを供給し始めました。
『まだ出力を挙げても大丈夫そうだ。もっとエネルギーを取り出して、他国にも融通しよう』
ドラゴンの魂と魔力によって、世界は一気にエネルギー問題から開放されて、
移民も現地住民も、十数年、数十年、世界の黄金時代を謳歌しておりました。

『もっと、もっと、もっとだ。このドラゴンから効率的に、もっと多くのエネルギーを取り出そう』
発展、開発、発展、開発。
あらエネルギーが足りないわ。炉を改良しよう。
そして、事故が起こったのです。

『格納容器損壊!レベル6オーバーの収容事故です、炉心のドラゴンが暴れています!』
過剰な改良により、ドラゴンの心魂が汚染されて、ドラゴンを狂わせてしまったのです。
『駄目です!制御棒、受け付けません!暴走指数が急上昇しています!総員、至急退避――』
狂ったドラゴンは移民が作ったものすべてを焼き払い、叩き潰し、溶かし尽くして夜が明けた。
夜が明けて朝日がのぼる頃には、「移民の技術が無ければ機能しなくなってしまった世界」は、ぐっちゃぐちゃに壊れてしまっていました。

全部ぜんぶ壊し尽くして、傷を負って倒れ込んで、
ようやくドラゴン、正気に戻りました。
もう、生きている異世界の移民はどこにも居ません。
もう、動いている異世界の機械は何もありません。
その「異世界」無しには、
この世界は1週間も生活できないところまで、依存してしまっておりました。

異世界の移民は、一部の現地住民を連れて、別の異世界への渡航船に乗り込み逃げ出しました。
その渡航船に乗り込んだのが、まさしく「こっちに恋」「愛に来て」のお題で甘酸っぱい恋物語を展開していた、例の少年少女。
ドラゴンの世界の夜は明けました。
ドラゴンの世界はとても、静かになりました。

そこに現れたのが世界線管理局。
「あーあー。また一部の利己的な移民が、世界をひとつ壊しかけた」
管理局はこの世界の、移民大量流入と、それによる過度な開発とを、ずっと監視し続けておりました。
「酷いな。この世界には僕のお気に入りの花畑があったのに」
酷いや。本当に、ひどい。
まだ息のあるドラゴンの前に立って、世界線管理局の局員、言いました。

『性懲りもなく、また俺を捕まえに来たのか』
満身創痍のドラゴン、管理局を知りません。
新しい敵と勘違いして、弱々しく、威嚇します。
『ここにはもう、お前たちが欲しがるものは何も無い。出ていけ』

威嚇があんまり弱々しいので、管理局員、ちっとも怖くありません。
ドラゴンを撫でて、嫌がられて、それでも撫でて、
「寂しいこと言うなよ。取り引きしたいんだ」
自分の名刺を――出したらそれを、ドラゴンにパクリ。食われて吐き出されてビッチャビチャ。
『ヨソモノの思い通りになどならん。失せろ』
それでも局員、にっこり笑って、自己紹介もしっかり済ませて、そして、言うのです。

「お前が管理局に身を売るなら、僕たちの収蔵品でこの世界を元に戻してヨソモノも全員追い払おう。
3食昼寝付き。おやつも完備だ。
悪いハナシじゃないだろう。なぁ、どうだろう」

ドラゴンの世界の夜は明けました。
ドラゴンの世界はとても、静かになったのでした。

4/29/2025, 3:43:57 AM