「以前、きっと合言葉にかけてだろうな、『愛言葉』ってお題なら見た記憶があるわ」
今回の恋と愛にせよ、先日の「big love!」にせよ、更に過去のお題としては「I LOVE...」に「cute!」、「愛情」、「秋恋」に「愛を注いで」。
出題者のクセや生活の結果であろう、「書く習慣」は恋愛系・エモ系のお題が比較的多い傾向にある。
ひとつのジャンルへのかたよりは、ネタの枯渇を誘発するものの、「いかに多角的に『それ』に切り込めるか」のトレーニングにはなるだろう。
「……出題者としては『こっちに来い』と『恋』をかけてほしいんだろうな」
物書きは再度、お題を確認する。
「愛にきて」に関しては、「愛」という名前の人物に会いに行くよう誘わせれば、どうだろう?
――――――
前回投稿分の背景に繋がるおはなし。
昔々のおはなしです。「ここ」ではないどこかに、地球のどの国よりも、どの組織よりも、はるかに文明の進んだ世界がありまして、
特に今回のお題回収役の少女と少年――前回投稿分で登場した「アテビ」の両親が住んでいた国では、
成体ドラゴン1匹を炉心に使うことで、
全世帯7000万の消費エネルギーを余裕で供給しながら、なお余りある分を他国へ融通・売却して、豊かに暮らしておったのでした。
ところで今回のお題は「こっちに恋」「愛にきて」ですが、まさしくその日は春の恋、愛の祭典。
愛するひと、恋するあのひとと黄色い花のジュエリーを交換して、翌年に再度そのひとを見つけられたら、ふたりの恋愛は成就するでしょう。
そんなおとぎ話を、商業利用したフェスティバル。
こっちに恋、あっちに恋、そっちに恋で向こうも恋、どこでも恋。あの恋はどこの恋?
誰もが大きなフェス会場で、黄色い花の宝石を消費して、恋と愛を交換しあって、
あるいは、昨年宝石を交換しあった愛を探して。
楽しく、幸福に、エネルギー枯渇の心配も経済停滞の不安も無い世界を、謳歌しておりました。
「事故」が起きたのはまさにその日でした。
炉心に用いていたドラゴンの、魂の暴走。
制御を外れたドラゴンは、エネルギー炉を焼き、建物を溶かし尽くして、
そして、愛と恋の祭典をも、破壊しました。
「こっち、こっち!」
正気を失って周囲に炎を撒き散らすドラゴンに、
フェスの参加者は完全に大混乱。
お題回収役の少年が、恋する大好きな少女の手を引いて、彼女だけでも守ろうと走り出します。
少女は目の前の惨劇を現実と理解できなくて、
ただただ、手持ちの端末でそのドラゴンを、暴力と暴走の権化を映してばかり。
「逃げよう、はやく!!」
大人たちはドラゴンをエネルギー炉へ再収容しようと捕獲銃を連発しますが、
なにせ、相手は一国全世帯のエネルギーを供給してなお余りあるチカラを有する、最強のドラゴン。
科学という科学、技術という技術、すべてが炎に包まれて、焼けて、崩れて、溶け落ちてゆきます。
少年少女の両親は、壊れゆくこの世界から安全な別の世界へ、脱出を決意しました。
それぞれがそれぞれの渡航船を割り当てられて、少年と少女は一時的に、引き離されました。
「来年、必ず会いにきて」
難民をその世界から別の世界へ、密航の形で避難させる組織、「世界多様性機構」が用意した別々の渡航船に乗り込む前に、
少女は少年から貰った黄色い花のネックレスを、少年に見せながら言いました。
「絶対、ぜったい、このネックレスに、
プレゼントしてくれたこのネックレスに、愛に、
来て。約束だよ。ぜったいだよ」
「約束する。絶対、絶対、見つけて会いに行く」
少年も、少女から貰った黄色い花の指輪を、少女に見せながら言いました。
「そのネックレスに、愛に、行くよ」
こっちに恋、そっちに恋、あっちにも恋の祭典は、
一瞬にしてドラゴンに壊されてしまいましたが、
少年と少女の美しくまぶしい恋は、ずっとずっと、避難先の世界へ渡った後も残り続けて、
そして翌年、少年は少女の「愛にきて」の約束を守り、巡り逢い、
そして大人になった十数年後、めでたく結ばれて、
そして前回投稿分の登場人物「アテビ」が黄色い花咲く季節に、無事、生まれました。
エネルギー炉の暴走ドラゴンが、その後どうなったか、お題回収役の少年少女は知らないまま。
捕獲を断念して討伐に切り替えられたとか、
誰もそのドラゴンにとどめを刺していないのに、いつの間にかドラゴンが姿を消したとか。
真相が判明するかしないかは、次回のお題次第。
しゃーない、しゃーない。
「以前は『衛星列車ともう一度巡り逢えたらどうする』みたいなハナシを書いた記憶がある」
「誰か」と、巡り逢い、
この人と巡り逢い「やりたいこと」、
巡り逢えたら幸運/悪運な「何か」、
巡り逢え、タラ。 巡り会えた、らっこ。
他に何か書けそうな案あったっけ。某所在住物書きは焚き火のアプリでパチパチ、ぱちぱち。
ものの試しで思考を文章化などしている。
個人的に欲しい「巡り逢い」は勿論宝くじ。
当たればガチャの自爆など気にもしないのだ。
勿論すり抜けも。確率操作を疑いたくなる結果も。
パチン。焚き火アプリの効果音が弾ける。
もう少し簡単に投稿しやすいネタと、複数巡り逢えたら、どれだけラクができることだろう。
――――――
前々回あたりから続いているおはなしも、これでようやく一区切り。
最近最近の都内某所、某深い深い杉林の中に、
「世界多様性機構」なる異世界組織が支援拠点を建てておりまして、その拠点を異世界人は「領事館」と呼んでおりました。
今回のお題回収役は、この「領事館」の新人さん。ビジネスネームを「アテビ」といいます。
アテビは滅んだ世界から脱出してきた、いわゆる異世界の難民。両親の故郷も、アテビの出身世界も、どっちも滅んでしまいました。
「領事館」の仕事ははアテビのような難民を、
密航の形で避難させて、その場所でまた生きてゆけるように、アレコレ、それどれ、支援すること。
故郷より開発レベルの劣っている東京に、アテビは去年赴任してきましたが、
フタを開けてみれば、あらあら、まぁまぁ。
東京には美しい花があり、物を大事に扱う文化があり、素晴らしい伝統が息づいています。
アテビは「藤森」という名前の現地住民から、この世界の美しさを教えてもらいました。
アテビはお礼に藤森を、
そうです、本当は、お礼のつもりだったのです、
藤森を、異世界の技術がたっぷり使われている、領事館に招待したのでした。
「藤森さん!耳!みみ、ふさいでください!!」
「えっ?」
アテビはそのつもりだったのですが、
アテビの上司――すなわち領事館長の「スギ」にとって、現地住民の藤森はいわゆる「駒」の候補のひとりに過ぎなかったようで、
チリン、ちりん。 チリン、ちりん。
スギは藤森を、無理矢理領事館の職員にしてしまおうとして、人の心を操る異世界アイテムを藤森にこっそり使っておったのでした。
「『闇堕ちの呼び鈴』っていうアイテムの音がします。聞いた者の魂を、闇堕ちで無理矢理こじ開けてしまうんです!耳ふさいで!」
「やみおち???」
にげて。 呼び鈴の音が聞こえないところまで。
アテビ自身も耳をふさいで、現地住民の藤森に力いっぱい叫ぼうとした、そのときです!
『――なるほどな、そういうことか』
ダーン!! ドォン!!
アテビと藤森と、それからアテビが居る部屋の、
両開きのドアが炎で弾け飛んで、
どん、ドスン。 どん、どすん。
轟音と業火と、それから煙を押しのけるように、
見覚えのあるドラゴンが、入ってきたのでした。
『世界線管理局、法務部のルリビタキだ。
現地住民拉致疑いの通報を受けて来たが、
どうやら、事実のようだな』
それは、アテビがまだ生まれていなかった頃、
「アテビの両親の故郷を滅ぼしかけたのだ」と両親自身から聞かされた悪竜に、
すごく、よく似たドラゴンでした。
世界多様性機構の新人アテビはこうして、
最初の赴任地で、両親の故郷の仇敵と、バッタリ、偶然、あるいは必然的に、巡り逢いました。
悪しきドラゴンが、藤森をくわえて、背中に放り投げて、領事館の外へ連れて行こうとしています。
アテビの両親の世界を滅ぼしかけた悪竜は、
アテビに東京の良さを、赴任世界の美しさを教えてくれた善き人たる藤森を、自分の巣に持ち帰って食べてしまうかもしれません!
「ダメ、だめ!!藤森さんを連れて行かないで!」
アテビは勇気を振り絞り、領事館の扉を壊したおそろしい悪竜にしがみついて叫びました!
「これ以上、誰の何も滅ぼさないで!」
『……だから領事館の緊急出動は俺じゃなくカナリアが良いと言ったんだ』
ああ、やはり、お前は「あの世界」の。
ルリビタキと名乗ったドラゴンは、アテビがどういう境遇か、よくよく察したようでした。
藤森を助け出そうと、背中によじ登るアテビを、悪しきドラゴンは振り落とそうとしますが、
『くっ、 この、』
藤森を助けたいアテビを、なかなか捕まえられず、
『仕方ない。このまま』
最終的に、アテビと藤森を背中に背負ったまま、
大きな翼を広げて領事館から、一気に、一瞬で、飛びたってゆきました。
悪竜と巡り逢ったアテビと、悪竜に捕まった藤森は、どうなってしまうのでしょう?
それは次回のお題次第。しゃーない、しゃーない。
「最近、ハナシが2部構成っつーか、3部構成っつーか、ともかく1個の投稿スペースに収まらなくなってきてるんよ……」
このアカウントの文量、最終的にどこへ行こうとしてるんだろな。 某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、ため息、ため息。
「書く習慣」をインストールした当初は、400字詰め原稿用紙1枚でおさまる文量であったのだ。
それが投稿を続けるにつれて、段々2枚になり、3枚になり、今日はほぼほぼ5枚分。
どこへ行こうというのだろう。
「物語だけじゃなく、『ここ』も合わせれば、文字数だけで2300字だぞ……」
物書きは想像する。 来年の文量やいかに。
――――――
最近最近の都内某所、某深いふかい杉林の中に、
異世界に本拠地を置く秘密の組織の領事館があり、
館長のビジネスネームを「スギ」、
部下のネームを「アスナロ」と「ヒバ」、
そして、領事館の新人を「アテビ」といった。
異世界から赴任してきた彼等の仕事は、
滅んだ世界から密航させてきた異世界の難民を、この辺境の地で行きてゆけるよう支援すること、
そして、1人でも多くの現地住民――この地で言うところの東京都民、あるいは地球人に、
領事館の協力者となってもらって、
そして、領事館の支援活動を妨害する「敵対組織」の邪魔をするための、
駒に、なってもらうこと。
どの世界の、どこへ行こうと、何をしようと、
敵対組織、「世界線管理局」は領事館の活動の一部を取り締まってくる。
それはそうだ。滅亡世界の難民を発展途上の世界に密航させ、支援する領事館の活動は、
いわば違法に限りなく近いグレーであった。
「はじめまして。藤森と申します」
その日は、領事館の仕事の「後者」を十分に理解していない新人「アテビ」が、「藤森」という現地住民を、領事館にご案内。
藤森は都内の貴重で希少な花々が、年々数を減らしてきていることに心を痛めて、
領事館が保有する「異世界の技術」に、希少在来種の保全という希望を見出したという。
「はじめまして」
へぇ、そうかい、そうかい。
自己紹介を為す藤森に、自己紹介で返す領事館の館長は、内心暗い笑いをしており、
藤森を連れてきたアテビ自身も、上司たる館長の暗さに気付いていない――双方、おめでたいことだ。
「アテビからハナシは聞いてある。
この世界の『絶滅しそうな花』を、俺達が持っている異世界の技術で、救いたいんだってな」
まぁ、まずは茶でも。
領事館の館長「スギ」は、そう言って、お茶と茶菓子など用意させつつ、さっそく「地球には存在しない、先進世界の技術」を、藤森に披露。
「現実の3次元にあるものを、本の2次元で保管して、『影絵』に投影してコピーするのです」
藤森の頭の上のはてなマークを置き去りに、館長のスギが異世界の複製機を説明すると、
「ゆえに、『影絵変換器』。影絵にしてコピーして、そのコピーを3次元に再変換すれば、クッキーは2個に、蝶は2匹に、絶滅危惧種の花は2輪に」
なかなか頭が良いのか、勘が鋭いのか、
あるいは、「領事館の『敵』」から事前に何かを吹き込まれていたか。
藤森は、スギのハナシをじっと聞いて、数秒の長考を経て、スッと顔を上げて、
「なるほど」
まるで、スギの隠し事を見抜こうとするような視線でもって、藤森はスギに問いかけた。
「素晴らしい技術だと思います。さすがだ。
ところで、こんなに素晴らしい技術にも、たとえばデメリットとか、注意点とか、禁忌とか。
そういう側面は、存在するのですか」
スギは藤森の視線に既視感があった。
似た視線でもって、スギの同僚を尋問して情報を根こそぎ奪った「敵」が居たのだ。
たしかビジネスネームを「カラス」だか、「ハシボソガラス」だか。
そいつの入れ知恵かもしれない。
(おのれ。忌々しい世界線管理局)
アテビめ。面倒な現地住民を引き込んできたな。
スギは内心で舌打ったが、
まぁ、まぁ。すべては些細なこと。
逆に領事館の敵対組織と通じている藤森を領事館の手中に収めることができれば、
敵のあんな情報も、こんな情報も。
「この技術にデメリットは、」
デメリットは、特にありません。
スギが藤森の質問を受け流そうとしたところで、
「複製するものの材質によっては、電力とか魔力とかの消費がすごいことになります」
藤森を領事館に呼び込んだ新人、アテビが割り込んだ――彼女は正直過ぎた。純粋過ぎるところもある。
これ以上アテビにボロを出されては、藤森が異世界の技術に無条件の盲信を為さなくなる。
(仕方ない。「アレ」を使うか)
スギは隠し持ってきていた耳栓をこっそり付けて、
同じく隠し持ってきていたハンドベルタイプの呼び鈴を小さく小さく鳴らしながら、
アテビを「茶菓子の追加」という名目で退室させ、
チリン、ちりん。 チリン、ちりん。
藤森の耳に届くような、届かないような、かすかな音量で呼び鈴を鳴らし続けた。
それは聞いた者の魂から――
「藤森さん!耳!みみ、ふさいでください!!」
「えっ?」
退室前のアテビが、呼び鈴の音に気付いた。
「『闇堕ちの呼び鈴』っていうアイテムの音がします。聞いた者の魂を、闇堕ちで無理矢理こじ開けてしまうんです!耳ふさいで!」
「やみおち???」
ああ、藤森がスギの手元に気付き、席を立とうとしている……どこへ行こうというのか。
「藤森!」
こっそり藤森を闇堕ちさせて、操り人形同然にして、管理局に潜り込ませようと思っていたが、
バレてしまっては仕方がない。
リリン!チリン!
隠さず騙さず、スギが手元の呼び鈴を、強くつよく鳴らして藤森の魂を揺さぶっていると……
『――なるほどな、そういうことか』
ここで前回投稿の物語が合流。
「前回投稿」とは? それに関しては、文字数……
「Love、Heart、Cute。随分とまぁ、カワイイ系の英単語と遭遇しやすい」
スワイプ、スワイプ。物書きはスマホを見ながら、去年のお題、「I LOVE...」を探した。
「書く習慣」は恋愛ネタのお題が意外と多いのだ。
「I LOVE」と言われても、「アイデア」だの、「アヤメ科」だの、あとパックご飯に家電製品しか思い浮かばぬが。某所在住物書きは頭をガリガリかきながら、これで少なくとも10度目の恋愛ネタに苦悩した。
4月か3月末あたりには「My Heart」なんてお題もあったが、もう、何を投稿したやら。
「……で、なに、ビッグラブ? ソゥスイート?」
オタク投稿くらいでしか見かけたことねぇわな。
物書きは「BIG LOVE」を検索して、結果を見て、
それがそこそこ昔から存在する言葉だと知り……
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所に、日本在来の花をよく愛する雪国出身者がおりまして、
花に対してまさしく「big love! 」なその雪の人は、名前を藤森といいました。
藤森は都内に息づく在来の、希少で絶滅危惧な植物の一部が、特に自然公園内のそれらが、
適切に保護されていないのを、憂えておりました。
すぐ近くで貴重なランが咲いているのに、除草剤で雑草対策されたり、
あるいは他の雑草と一緒に刈ってしまったり。
なにより昨今の気候変動の影響もあって、都の希少な花の数は年々減少。
それを悲しんでおった藤森を、「世界多様性機構」なる異世界の組織が、
先進世界の技術の粋を紹介すべく、彼等の小さな城、「領事館」に招待したのが前回投稿分。
花にビッグラブな藤森に、異世界人の代表、領事館の館長が披露したのは、コピー/クローン作成機。
ほらすごいだろう、使ってみたいだろうと、館長が藤森にプレゼンします。
何故でしょう? 領事館の館長は、藤森に彼等の――異世界組織の仕事を手伝ってほしいのです。
何故でしょう? 藤森は彼等に――世界多様性機構の異世界人に、できないことができるのです。
機構の敵対組織、「管理局」へのスパイ行為です。
領事館の館長は、なんということでしょう、
藤森を闇堕ちさせて、あるいは心を抜き取って、
機構の思うままに動く、操り人形にしようとしておるのです!……わぁタイヘン。
――「あーあー。行ってしまったわ」
藤森が世界多様性機構の領事館に、行ってしまうことを前々から、占いで余地していた魔女さんが、
喫茶店のアンティークなテーブルの上にカードを広げて、ポツリ、ぽつり。
「先月の今頃から、言っていたでしょう?
このまま信頼を構築できなければ、藤森は『機構』に誘われて、領事館に行ってしまうと」
長いため息を吐く魔女は、「世界多様性機構」の敵対組織に身を置くおばあさん。
現地住民の藤森を心配して、藤森に何度か世話になっている同僚に、「救ってこい」とツンツン、だいたい過去投稿分3月21日頃、
口を酸っぱくして、言っておったのですが、
どうやら失敗した様子。
「この世界に住む藤森には、きっと、多様性機構が持つ技術やアイテムは魅力的に見えるわ。
『使ってみたいだろう』と言われたらおしまいよ。
愛する花たちを守るために、藤森はきっと私達『管理局』の中に潜り込もうとして」
潜り込もうとして、そして、私達に近づくなり、機密を盗むなりして、罪を犯すでしょう。
再度長いため息を吐いた魔女のおばあさんは、
「救ってこい」と突っついていたハズの男性に、
チラリ、視線を向けました。
「『カナリア』に護衛と監視を任せてある」
魔女のおばあさんに目を向けられた男性は、つまり「世界多様性機構」の敵対組織の構成員。
機構が都民を勝手に操り人形にしたり、勝手に他の異世界人を連れ込んだりしないように、取り締まりをしている側の部署のひと。
ビジネスネームを、「ルリビタキ」といいます。
「花に詳しくない俺なんかより、花を愛するカナリアの方が、藤森との信頼も構築しやすいだろう」
ルリビタキは魔女に言いました。
「カナリアで全部解決するなら、最初からそっちに『藤森を機構に渡さないで』と言っているわ」
魔女が3度目のため息を吐きました。
「藤森は俺をまだ信用していない」
「だから信頼を構築なさいと言ったのよ」
「カナリアの方が早い」
「あの子じゃ機構の『暴力』に勝てないでしょ。
それこそ、花のビッグラブのような子なんだから」
「あいつだって法務部特殊情報部門の局員だぞ」
「言い訳しないの。つべこべ言わず、領事館から藤森とカナリアを救ってらっしゃい」
「……む」
ほら。ビッグラブ、マイスイート、とっとと行ってらっしゃい。 夕飯までには帰るのよ。
魔女はルリビタキに手を振って、しっし、しっし。
「あ、そうそう。『呼び鈴』を使われるでしょうから、ちゃんと耳栓持っていきなさい」
今度はマイハニーだのグレイトラブだの、子供扱いされたルリビタキが、ため息を吐く番。
「20分で片付けてくる」
あまり乗り気で無い風に、魔女から耳栓を受け取って、喫茶店から出てゆきました。
「呼び鈴」って、なに? 耳栓?
それは次回の配信お題次第……
「今まさに、『ささやき』に屈してる最中だわ」
風、恋人、星、ゴースト。「ささやく」とされているものは多々存在する。
たとえば食欲。某所在住物書きは小さなポテチの袋をビリリ、ちょいと裂いてパリパリ、ぱりぱり。
幼少期からカルビ◯一択。うすしおとコンソメを好んだ――堅揚げは何故コンソメを見かけないのか?
「一時期、結構頑張って痩せたんだがな。
おかしいな。おかしいな……」
そろそろ、また痩せる努力をしなければ。
物書きの理性は賢明にささやき、
しかし結局、食欲のビッグボイスに負ける。
――――――
前回投稿分に繋がるおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な杉林の奥底に、
「ここ」ではないどこかの世界からやってきた、異世界人による異世界人のための館がありまして。
そこはすなわち、「領事館」と呼ばれています。
領事館は支援拠点。
滅んだ世界から東京に逃げ延びて、東京で新しい生活を始めた者たちのための、最後の砦。
東京を大規模な滅亡世界難民シェルターに整備するための、唯一にして最前線。
領事館を運営している親分組織は、名前を「世界多様性機構」といいました。
で、その多様性機構の領事館に、
日本の貴重な在来花、絶滅に向かっている在来植物の行く末を憂う心優しい雪国出身者が、
異世界の保全技術を求めて、ご来館。
雪の人は名前を藤森といいました。
ところで
滅んだ世界のオーバーテクノロジーを
日本のド真ん中、政治の中枢、都内で勝手に
そうそう、ズバズバ、どんどん、じゃんじゃん、
使っちゃって大丈夫なんでしょうか?
そもそも滅んだ世界の難民のためとはいえ、
東京を彼等のためのシェルターに、勝手に作り変えてしまって、よいのでしょうか?
――そうです。「それ」を監視して取り締まって、
場合によっては罰するための組織が、
多様性機構の他に、ちゃんと、あるのでした。
「これが俺達世界多様性機構が所有する、滅亡世界のカケラ。この世界で言うところのオーパーツ、オーバーテクノロジーアイテムです」
領事館の館長さん、スギ館長が、藤森にキレイな装丁の本と、それの説明が表示されたクリスタル製のタブレットを渡して言いました。
「物語の神が持つという『本』を目指して作られた、いわば異次元ストレージです。
この中に保存した物は、クッキーでも花でも、この本のサイズまでであれば小さな生き物だって、完璧に、複製することができる。
そのための『影絵変換器』の額縁も、この領事館では、別の部屋に完備してあります」
「『影絵変換器』?」
藤森が本をペラペラめくると、
そこには例えば異世界の花、異世界の蝶、異世界の鳥に異世界のお菓子がいっぱい。
「現実の3次元にあるものを、本の2次元で保管して、『影絵』に投影してコピーするのです」
スギ館長が説明します。だけど藤森、サッパリ。
「ゆえに、『影絵変換器』。影絵にしてコピーして、そのコピーを3次元に再変換すれば、クッキーは2個に、蝶は2匹に、絶滅危惧種の花は2輪に」
まぁ、それ相応の電力や魔力、場合によっては魂のチカラ等々が必要ですがね。
スギ館長は「これぞ異世界の先進技術」とばかりに、自信満々に笑って言いました。
「絶滅危惧種の、花が2輪に」
すごい。 藤森は感嘆のため息を吐きました。
「エネルギーは質量の2乗」という方程式があります。人間はこの方程式を使って、質量からエネルギーを取り出してきました。
この世界の外ではその逆。エネルギーから質量を生成することに、成功しているのです。
「すごい」
これがあれば、絶滅に向かっている花々を、なんなら小さな動物たちを、一気に増やせる。
異世界の技術があれば、地球の問題を解決できる。
藤森が目を輝かせた、その時でした。
ここでようやくお題回収。
藤森のそばで……正確には藤森の肩の上で、
「なにか透明なものに隠れた、藤森のよく知る声」が、藤森にヒソリ、ささやきました。
『ダメだよ』
藤森は驚きました。
『静かに。そのまま。僕だよ藤森』
それは以前、メタいハナシをすると最近なら過去投稿分3月20日頃、藤森に色々異世界のことを教えてくれた、不思議なハムスターの声でした。
「カナリアさん?」
『しっ。 久しぶり』
ささやき声の主は、世界多様性機構の違法行為を監視している組織の職員。
世界線管理局法務部の、「カナリア」の声でした。
『惑わされないで藤森』
透明なローブに身を隠し、藤森の肩の上でささやくカナリアに、スギは気づいていない様子。
それを良いことに、カナリアがささやきます。
『専用の本に閉じ込めた物を専用の空間に投影して複製できるこの「影絵変換器」はね、
植物をはじめとした生き物、それから金銀をはじめとした金属のコピーには、それぞれ別々の理由から、向いていないんだ』
どういうことだ?
藤森がこっそり、カナリアの方に視線を向けると、
『金属は、単純に消費電力が酷い』
カナリアは異世界の「先進技術」の、決定的なデメリットを、ひそひそ。ささやきました。
『植物は、 たしかに完全に同一なクローンは何個でも、相応の資材があれば作れるんだけど、
何故かコレで複製された個体は、繁殖能力が酷く、ひどく、落ちてしまう。世代を繋げないんだ』
「……つまり、」
『この異世界の技術を使ったって、キミの世界の絶滅危惧種を、根本的に救うことはできない』