かたいなか

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「今まさに、『ささやき』に屈してる最中だわ」
風、恋人、星、ゴースト。「ささやく」とされているものは多々存在する。
たとえば食欲。某所在住物書きは小さなポテチの袋をビリリ、ちょいと裂いてパリパリ、ぱりぱり。
幼少期からカルビ◯一択。うすしおとコンソメを好んだ――堅揚げは何故コンソメを見かけないのか?

「一時期、結構頑張って痩せたんだがな。
おかしいな。おかしいな……」
そろそろ、また痩せる努力をしなければ。
物書きの理性は賢明にささやき、
しかし結局、食欲のビッグボイスに負ける。

――――――

前回投稿分に繋がるおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な杉林の奥底に、
「ここ」ではないどこかの世界からやってきた、異世界人による異世界人のための館がありまして。
そこはすなわち、「領事館」と呼ばれています。

領事館は支援拠点。
滅んだ世界から東京に逃げ延びて、東京で新しい生活を始めた者たちのための、最後の砦。
東京を大規模な滅亡世界難民シェルターに整備するための、唯一にして最前線。

領事館を運営している親分組織は、名前を「世界多様性機構」といいました。

で、その多様性機構の領事館に、
日本の貴重な在来花、絶滅に向かっている在来植物の行く末を憂う心優しい雪国出身者が、
異世界の保全技術を求めて、ご来館。
雪の人は名前を藤森といいました。

ところで
滅んだ世界のオーバーテクノロジーを
日本のド真ん中、政治の中枢、都内で勝手に
そうそう、ズバズバ、どんどん、じゃんじゃん、
使っちゃって大丈夫なんでしょうか?
そもそも滅んだ世界の難民のためとはいえ、
東京を彼等のためのシェルターに、勝手に作り変えてしまって、よいのでしょうか?

――そうです。「それ」を監視して取り締まって、
場合によっては罰するための組織が、
多様性機構の他に、ちゃんと、あるのでした。

「これが俺達世界多様性機構が所有する、滅亡世界のカケラ。この世界で言うところのオーパーツ、オーバーテクノロジーアイテムです」
領事館の館長さん、スギ館長が、藤森にキレイな装丁の本と、それの説明が表示されたクリスタル製のタブレットを渡して言いました。

「物語の神が持つという『本』を目指して作られた、いわば異次元ストレージです。
この中に保存した物は、クッキーでも花でも、この本のサイズまでであれば小さな生き物だって、完璧に、複製することができる。
そのための『影絵変換器』の額縁も、この領事館では、別の部屋に完備してあります」

「『影絵変換器』?」
藤森が本をペラペラめくると、
そこには例えば異世界の花、異世界の蝶、異世界の鳥に異世界のお菓子がいっぱい。

「現実の3次元にあるものを、本の2次元で保管して、『影絵』に投影してコピーするのです」
スギ館長が説明します。だけど藤森、サッパリ。
「ゆえに、『影絵変換器』。影絵にしてコピーして、そのコピーを3次元に再変換すれば、クッキーは2個に、蝶は2匹に、絶滅危惧種の花は2輪に」
まぁ、それ相応の電力や魔力、場合によっては魂のチカラ等々が必要ですがね。
スギ館長は「これぞ異世界の先進技術」とばかりに、自信満々に笑って言いました。

「絶滅危惧種の、花が2輪に」
すごい。 藤森は感嘆のため息を吐きました。
「エネルギーは質量の2乗」という方程式があります。人間はこの方程式を使って、質量からエネルギーを取り出してきました。
この世界の外ではその逆。エネルギーから質量を生成することに、成功しているのです。

「すごい」
これがあれば、絶滅に向かっている花々を、なんなら小さな動物たちを、一気に増やせる。
異世界の技術があれば、地球の問題を解決できる。
藤森が目を輝かせた、その時でした。

ここでようやくお題回収。
藤森のそばで……正確には藤森の肩の上で、
「なにか透明なものに隠れた、藤森のよく知る声」が、藤森にヒソリ、ささやきました。

『ダメだよ』
藤森は驚きました。
『静かに。そのまま。僕だよ藤森』
それは以前、メタいハナシをすると最近なら過去投稿分3月20日頃、藤森に色々異世界のことを教えてくれた、不思議なハムスターの声でした。
「カナリアさん?」
『しっ。 久しぶり』
ささやき声の主は、世界多様性機構の違法行為を監視している組織の職員。
世界線管理局法務部の、「カナリア」の声でした。

『惑わされないで藤森』
透明なローブに身を隠し、藤森の肩の上でささやくカナリアに、スギは気づいていない様子。
それを良いことに、カナリアがささやきます。
『専用の本に閉じ込めた物を専用の空間に投影して複製できるこの「影絵変換器」はね、
植物をはじめとした生き物、それから金銀をはじめとした金属のコピーには、それぞれ別々の理由から、向いていないんだ』

どういうことだ?
藤森がこっそり、カナリアの方に視線を向けると、
『金属は、単純に消費電力が酷い』
カナリアは異世界の「先進技術」の、決定的なデメリットを、ひそひそ。ささやきました。
『植物は、 たしかに完全に同一なクローンは何個でも、相応の資材があれば作れるんだけど、
何故かコレで複製された個体は、繁殖能力が酷く、ひどく、落ちてしまう。世代を繋げないんだ』

「……つまり、」
『この異世界の技術を使ったって、キミの世界の絶滅危惧種を、根本的に救うことはできない』

4/22/2025, 7:29:17 AM