かたいなか

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4/23/2025, 7:29:40 AM

「Love、Heart、Cute。随分とまぁ、カワイイ系の英単語と遭遇しやすい」
スワイプ、スワイプ。物書きはスマホを見ながら、去年のお題、「I LOVE...」を探した。
「書く習慣」は恋愛ネタのお題が意外と多いのだ。

「I LOVE」と言われても、「アイデア」だの、「アヤメ科」だの、あとパックご飯に家電製品しか思い浮かばぬが。某所在住物書きは頭をガリガリかきながら、これで少なくとも10度目の恋愛ネタに苦悩した。
4月か3月末あたりには「My Heart」なんてお題もあったが、もう、何を投稿したやら。

「……で、なに、ビッグラブ? ソゥスイート?」
オタク投稿くらいでしか見かけたことねぇわな。
物書きは「BIG LOVE」を検索して、結果を見て、
それがそこそこ昔から存在する言葉だと知り……

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所に、日本在来の花をよく愛する雪国出身者がおりまして、
花に対してまさしく「big love! 」なその雪の人は、名前を藤森といいました。

藤森は都内に息づく在来の、希少で絶滅危惧な植物の一部が、特に自然公園内のそれらが、
適切に保護されていないのを、憂えておりました。
すぐ近くで貴重なランが咲いているのに、除草剤で雑草対策されたり、
あるいは他の雑草と一緒に刈ってしまったり。
なにより昨今の気候変動の影響もあって、都の希少な花の数は年々減少。

それを悲しんでおった藤森を、「世界多様性機構」なる異世界の組織が、
先進世界の技術の粋を紹介すべく、彼等の小さな城、「領事館」に招待したのが前回投稿分。

花にビッグラブな藤森に、異世界人の代表、領事館の館長が披露したのは、コピー/クローン作成機。
ほらすごいだろう、使ってみたいだろうと、館長が藤森にプレゼンします。
何故でしょう? 領事館の館長は、藤森に彼等の――異世界組織の仕事を手伝ってほしいのです。
何故でしょう? 藤森は彼等に――世界多様性機構の異世界人に、できないことができるのです。

機構の敵対組織、「管理局」へのスパイ行為です。
領事館の館長は、なんということでしょう、
藤森を闇堕ちさせて、あるいは心を抜き取って、
機構の思うままに動く、操り人形にしようとしておるのです!……わぁタイヘン。

――「あーあー。行ってしまったわ」
藤森が世界多様性機構の領事館に、行ってしまうことを前々から、占いで余地していた魔女さんが、
喫茶店のアンティークなテーブルの上にカードを広げて、ポツリ、ぽつり。
「先月の今頃から、言っていたでしょう?
このまま信頼を構築できなければ、藤森は『機構』に誘われて、領事館に行ってしまうと」

長いため息を吐く魔女は、「世界多様性機構」の敵対組織に身を置くおばあさん。
現地住民の藤森を心配して、藤森に何度か世話になっている同僚に、「救ってこい」とツンツン、だいたい過去投稿分3月21日頃、
口を酸っぱくして、言っておったのですが、
どうやら失敗した様子。

「この世界に住む藤森には、きっと、多様性機構が持つ技術やアイテムは魅力的に見えるわ。
『使ってみたいだろう』と言われたらおしまいよ。
愛する花たちを守るために、藤森はきっと私達『管理局』の中に潜り込もうとして」
潜り込もうとして、そして、私達に近づくなり、機密を盗むなりして、罪を犯すでしょう。
再度長いため息を吐いた魔女のおばあさんは、
「救ってこい」と突っついていたハズの男性に、
チラリ、視線を向けました。

「『カナリア』に護衛と監視を任せてある」
魔女のおばあさんに目を向けられた男性は、つまり「世界多様性機構」の敵対組織の構成員。
機構が都民を勝手に操り人形にしたり、勝手に他の異世界人を連れ込んだりしないように、取り締まりをしている側の部署のひと。
ビジネスネームを、「ルリビタキ」といいます。

「花に詳しくない俺なんかより、花を愛するカナリアの方が、藤森との信頼も構築しやすいだろう」
ルリビタキは魔女に言いました。
「カナリアで全部解決するなら、最初からそっちに『藤森を機構に渡さないで』と言っているわ」
魔女が3度目のため息を吐きました。

「藤森は俺をまだ信用していない」
「だから信頼を構築なさいと言ったのよ」
「カナリアの方が早い」
「あの子じゃ機構の『暴力』に勝てないでしょ。
それこそ、花のビッグラブのような子なんだから」

「あいつだって法務部特殊情報部門の局員だぞ」
「言い訳しないの。つべこべ言わず、領事館から藤森とカナリアを救ってらっしゃい」
「……む」

ほら。ビッグラブ、マイスイート、とっとと行ってらっしゃい。 夕飯までには帰るのよ。
魔女はルリビタキに手を振って、しっし、しっし。
「あ、そうそう。『呼び鈴』を使われるでしょうから、ちゃんと耳栓持っていきなさい」

今度はマイハニーだのグレイトラブだの、子供扱いされたルリビタキが、ため息を吐く番。
「20分で片付けてくる」
あまり乗り気で無い風に、魔女から耳栓を受け取って、喫茶店から出てゆきました。

「呼び鈴」って、なに? 耳栓?
それは次回の配信お題次第……

4/22/2025, 7:29:17 AM

「今まさに、『ささやき』に屈してる最中だわ」
風、恋人、星、ゴースト。「ささやく」とされているものは多々存在する。
たとえば食欲。某所在住物書きは小さなポテチの袋をビリリ、ちょいと裂いてパリパリ、ぱりぱり。
幼少期からカルビ◯一択。うすしおとコンソメを好んだ――堅揚げは何故コンソメを見かけないのか?

「一時期、結構頑張って痩せたんだがな。
おかしいな。おかしいな……」
そろそろ、また痩せる努力をしなければ。
物書きの理性は賢明にささやき、
しかし結局、食欲のビッグボイスに負ける。

――――――

前回投稿分に繋がるおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な杉林の奥底に、
「ここ」ではないどこかの世界からやってきた、異世界人による異世界人のための館がありまして。
そこはすなわち、「領事館」と呼ばれています。

領事館は支援拠点。
滅んだ世界から東京に逃げ延びて、東京で新しい生活を始めた者たちのための、最後の砦。
東京を大規模な滅亡世界難民シェルターに整備するための、唯一にして最前線。

領事館を運営している親分組織は、名前を「世界多様性機構」といいました。

で、その多様性機構の領事館に、
日本の貴重な在来花、絶滅に向かっている在来植物の行く末を憂う心優しい雪国出身者が、
異世界の保全技術を求めて、ご来館。
雪の人は名前を藤森といいました。

ところで
滅んだ世界のオーバーテクノロジーを
日本のド真ん中、政治の中枢、都内で勝手に
そうそう、ズバズバ、どんどん、じゃんじゃん、
使っちゃって大丈夫なんでしょうか?
そもそも滅んだ世界の難民のためとはいえ、
東京を彼等のためのシェルターに、勝手に作り変えてしまって、よいのでしょうか?

――そうです。「それ」を監視して取り締まって、
場合によっては罰するための組織が、
多様性機構の他に、ちゃんと、あるのでした。

「これが俺達世界多様性機構が所有する、滅亡世界のカケラ。この世界で言うところのオーパーツ、オーバーテクノロジーアイテムです」
領事館の館長さん、スギ館長が、藤森にキレイな装丁の本と、それの説明が表示されたクリスタル製のタブレットを渡して言いました。

「物語の神が持つという『本』を目指して作られた、いわば異次元ストレージです。
この中に保存した物は、クッキーでも花でも、この本のサイズまでであれば小さな生き物だって、完璧に、複製することができる。
そのための『影絵変換器』の額縁も、この領事館では、別の部屋に完備してあります」

「『影絵変換器』?」
藤森が本をペラペラめくると、
そこには例えば異世界の花、異世界の蝶、異世界の鳥に異世界のお菓子がいっぱい。

「現実の3次元にあるものを、本の2次元で保管して、『影絵』に投影してコピーするのです」
スギ館長が説明します。だけど藤森、サッパリ。
「ゆえに、『影絵変換器』。影絵にしてコピーして、そのコピーを3次元に再変換すれば、クッキーは2個に、蝶は2匹に、絶滅危惧種の花は2輪に」
まぁ、それ相応の電力や魔力、場合によっては魂のチカラ等々が必要ですがね。
スギ館長は「これぞ異世界の先進技術」とばかりに、自信満々に笑って言いました。

「絶滅危惧種の、花が2輪に」
すごい。 藤森は感嘆のため息を吐きました。
「エネルギーは質量の2乗」という方程式があります。人間はこの方程式を使って、質量からエネルギーを取り出してきました。
この世界の外ではその逆。エネルギーから質量を生成することに、成功しているのです。

「すごい」
これがあれば、絶滅に向かっている花々を、なんなら小さな動物たちを、一気に増やせる。
異世界の技術があれば、地球の問題を解決できる。
藤森が目を輝かせた、その時でした。

ここでようやくお題回収。
藤森のそばで……正確には藤森の肩の上で、
「なにか透明なものに隠れた、藤森のよく知る声」が、藤森にヒソリ、ささやきました。

『ダメだよ』
藤森は驚きました。
『静かに。そのまま。僕だよ藤森』
それは以前、メタいハナシをすると最近なら過去投稿分3月20日頃、藤森に色々異世界のことを教えてくれた、不思議なハムスターの声でした。
「カナリアさん?」
『しっ。 久しぶり』
ささやき声の主は、世界多様性機構の違法行為を監視している組織の職員。
世界線管理局法務部の、「カナリア」の声でした。

『惑わされないで藤森』
透明なローブに身を隠し、藤森の肩の上でささやくカナリアに、スギは気づいていない様子。
それを良いことに、カナリアがささやきます。
『専用の本に閉じ込めた物を専用の空間に投影して複製できるこの「影絵変換器」はね、
植物をはじめとした生き物、それから金銀をはじめとした金属のコピーには、それぞれ別々の理由から、向いていないんだ』

どういうことだ?
藤森がこっそり、カナリアの方に視線を向けると、
『金属は、単純に消費電力が酷い』
カナリアは異世界の「先進技術」の、決定的なデメリットを、ひそひそ。ささやきました。
『植物は、 たしかに完全に同一なクローンは何個でも、相応の資材があれば作れるんだけど、
何故かコレで複製された個体は、繁殖能力が酷く、ひどく、落ちてしまう。世代を繋げないんだ』

「……つまり、」
『この異世界の技術を使ったって、キミの世界の絶滅危惧種を、根本的に救うことはできない』

4/21/2025, 3:00:06 AM

「『星空』、『星座』、『星が溢れる』……
これで星ネタのお題、何個目だろうな?」
複数回遭遇するジャンルのお題は、それを別のものに置き換えて対処してきた某所在住物書きである。
たとえば「流れ星」では星を桜吹雪に、
「星座」は床に落ちた涙に変換して書いた。
今回は「星明かりクッキー」が爆誕している。

「次は、どうすっかな……」
だいたい花への変換が多い物書きだが、
次の星ネタは、星の何を、どれに変えよう。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社の子狐が、
ひょんなことから都内のちょっと多摩寄りの、杉林の中に隠れた秘密の場所で、
異世界からやってきた、難民たちの支援拠点、
通称「領事館」なる館を見つけまして。

「なんだ、なんだ」
子狐は好奇心の塊なので、とたた、とたたた!
ロックもセキュリティーもお構いなし。その館の中にコンコンこっそり、潜入したのでした。

「こんにちは」
エントランスでは子狐とよく遊んでくれるお得意様が、なにやら、領事館の偉い人と立ち話。
お得意様は名前を藤森といいました。
「はじめまして。藤森と申します」

「縺ッ縺倥a縺セ縺励※」
藤森を出迎えた領事館の館長さんは、
日本語でも英語でも、エスペラント語でもスワヒリ語でもない、こちらの世界のものとは思えない言語で、藤森に挨拶したかと思うと、
「……っと、」
藤森に言葉が通じていないと分かるや否や、
そっと、何かに右手で触れました。

途端、館長さんの言葉が日本語に切り替わります。
「失礼。翻訳機を付けてなかった。
アテビからハナシは聞いてある。
この世界の『絶滅しそうな花』を、俺達が持っている異世界の技術で、救いたいんだってな」
まぁ、まずは茶でも。館長さんはそう言って、藤森を美しい食堂に、案内してやりました。

で、 「異世界の技術」ですって?

「急げ、いそげ、お菓子をお出ししなきゃ!」
コンコン子狐が領事館の、部屋のひとつの机と椅子の、間に隠れて遊んでおると、
若い女性がその部屋に、とたたた!
急いで、駆け込んできました。
「星明かりクッキーを入れてた本は……これだ!」

その若い女性は、領事館で働く新人でした。
客人の藤森に茶菓子を出しなさいと、館長から言われたので、とっておきを取りに来たのです。

女性が不思議な本を本棚から1冊抜いて、
その本を不思議な台の上に、開いて置くと、
台の前に掛けられている真っ白な額縁に、まるで影絵か切り絵のように、黒い何かのシルエットが、
パッ、 と表示されました。
開いた本のページが、額縁に投影されたようです。

「2缶くらいで良いかな」
若い女性が台の上のスイッチをポンポン!押すと、
額縁の中のシルエットが、ぽん、ぽん!
2個増えて合計3個になり、
「よし。再変換!」
若い女性が台の上の、別のスイッチを押すと、
増えた2個のシルエットが、額縁の中から色と奥行きと質量を――つまり3次元の立体となって、
ポン、ポン!出てきました。

なんということでしょう。
その「出てきた2個」は、子狐が住む稲荷神社の、最寄り駅から5駅先の、青コンビニの隣にある、
とっても美味しいジェラート屋さん、「シャルル・ハイヴィー」が1日20缶限定で販売している、
歯ざわりしっとり、甘さ控えめ、バター香る星の形の、「星明かりクッキー」、
その詰め合わせ缶ではありませんか!!

「クッキーだ」
コンコン子狐、若い女性の不思議な所業を、ガッツリ、ばっちり、観察しました。
「きっと、あのボタンおせば、おほしさまクッキー、いっぱい食べられるんだ」

若い女性はとっても急いでおったのでしょう。
本は台に置いたまま、額縁も明かりがついたまま。
2個の美味しいクッキー缶の、中身をキレイなお皿に並べ替えて、走って部屋から出ていきます。
「キツネも、キツネもクッキー、たべるっ」

右見て人無し、左見て影無し、
前見て後ろ見て妙な明かりも無し。
コンコン子狐は賢いので、しっかり安全確認して、
例の若い女性がいじっていた台の上に乗り、
そして、適当にスイッチをお手々でタシッ!
「クッキー、くっきー!」
コンコン子狐が額縁に目を向けると、
ビンゴ!額縁から2個の星明かりクッキー缶が、
ポン、ポン!出てきたのでした。

コンコン子狐、星明かりクッキーの美味しさは十分理解しておるので、
ひとまず、缶を開けてみて、クッキーを1枚取り上げて、香りを丁寧に丹念にかいで、
しゅくしゅく、しゃくり。食べてみます。
「おいしい」
本物だ。 子狐は思いました。
「ふーん」
あのボタンを押せば、押しただけ、このクッキーが、缶で出てくるのだ。子狐は理解しました。

どういう仕組でしょう。 知りません。
それこそ異世界の技術なのでしょう。
「ふぅーん……」
コンコン子狐、星明かりクッキーの増やし方を、しっかり学習してしまいました。
「キツネ、おぼえた」

ボタンを押せば、クッキー缶が2個、
もう一度ボタンを押せば、クッキー缶がもう2個。
星明かりクッキーを2個2個、にこにこ、
増やして食べて、堪能して、
お母さん狐とお父さん狐と、おばあちゃん狐とおじいちゃん狐の分も出して、おみやげバッチリ!
大満足で子狐が、風呂敷に包んだクッキー缶を持って、お家の稲荷神社に帰還したのは、
まさしく、本物の星明かりが、

いや、東京で星明かりは、ちょっと、
光害の関係で、難しいですね。
しゃーない、しゃーない。

4/20/2025, 7:37:53 AM

「影絵の他に、影アートなんてのもあるのな」
最近、どうにも物語が1600字前後で収まらなくなってきた。某所在住物書きは今日も今日とて、頭をガリガリかいて、
その手を影絵の犬の形にしたり、鳥の形にしたり。
ネットで検索したところ、狐に白鳥、カウボーイなんてのもあったと判明。
先人は本当によく考えたものである。

「で、 影?」
なんか書けそうなネタ、転がってねぇかな。
物書きは「影」と「シャドー」で検索して、
結果として「シャドーボックス」に行き着き、
「……いや、シャドーボックスは、影じゃねぇな」

――――――

影絵といえば、子供の頃、カエルの影絵の作り方がさっぱり分からなかった物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、末っ子の子狐は遊ぶのが大好き!
心優しい人間が稲荷神社にやって来ると、すかさず突撃していって、
毛づくろいごっこで髪の毛をカジカジしたり、
一緒についてまわって散歩をしたり、
あるいは、ヘソ天して寝っ転がって、ナデナデを要求したりなど、しておったのでした。

ところでそんな子狐の稲荷神社で、若いひとがひとりして、誰かと待ち合わせをしておる模様。
子狐を撫でてくれる良い人間です。風吹き花咲く雪国の出身で、名前を藤森といいます。
子狐から稲荷のお餅をよく買ってくれるので、
子狐は藤森を、「おとくいさん」、と呼びます。

藤森は昔から日本に根づく四季の花が大好き。
子狐の稲荷神社が美しく、最近はイチリンソウにニリンソウ、フデリンドウなんかが見頃なので、
時間のあるときに参詣しては、参道の花をスマホに撮り、時折落ちているゴミなども拾ってやって、
それで、子狐に見つかり突撃されては、唇などベロンベロンされておるのでした。

花好きな雪の人、藤森が昨今悔しいのは、
都内に息づく貴重な在来植物たちの、周知と管理と手入れが全然行き届いていないこと。

自然公園のギンランは、公園管理者が委託した業者によって、他の雑草と一緒に刈られます。
アマナなんかは寂しいものです。藤森が知っている緑地のそれは、地面ごと剥がされて、全部芝生と芝桜に置き換えられてしまいます。

貴重で、絶滅が心配されて、本来ならば守られてあるべき花たちが、それを保護すべき行政側の無知によって逆に粗末にされ、減らされていく。
藤森はそれが寂しくて寂しくて仕方がないのです。

「おとくいさんだ!」
藤森を見つけた子狐は、さっそく遊んでもらおうと、ダダダ、ダダダッ!疾風の速さで数秒だけ、
突撃したのですが、途中ですぐに、急ブレーキ。

女の人が来ました。
藤森に挨拶して、藤森が応じて、
そして、藤森と一緒に、どこかへ行くようです。

「きいろいお花の、おねーちゃんだ」
子狐はその女の人を、少し知っていました。
女の人は、「ここ」ではない別の世界から来て、「ここ」ではない別の世界の人のために働いて、
そして、稲荷神社の黄色い春の花を、とってもとっても愛している人でした。

別の世界から来たその人は、ビジネスネームを「アテビ」といいまして、
滅んだ世界の難民を東京に「密航」の形で避難させて、彼等がここで生活できるように支援をする、
「世界多様性機構」なる組織の職員でした。

「さぁ、行きましょう」
アテビが先導して、稲荷神社から出ていきます。
「機構の保管品で、絶滅しそうな花の保護活動のお手伝いができそうな物が、いくつかあるんです。
今日はそのひとつを、藤森さんにお見せします」

「なんだろ。なんだろ」
コンコン子狐、藤森たちがどこへ行くのか、
気になって、きになって、仕方ありません!
「なんだろ。なんだろ」
子狐はこっそりトテトテ、とてとて。
藤森とアテビのあとを、ついてゆきました。

「『花の保護活動の手伝い』?」
「私達はアレを、『影絵変換器』と呼んでます」
藤森とアテビは会話しながら、人混みを避けて多摩寄り周辺、杉林の中へ入ってゆきました。
「影絵、」
「3次元のものを専用世界に入れて、2次元で保管するんです。白い世界の中で、保管物は黒く見えるから、白と黒で『影絵』と呼んでいるんです」

「そんなことが」
「できるんです。先進世界の技術なら。
それに、影絵をコピーして、3次元に再変換すれば、簡単にコピーやクローンが作れるんです」

絶滅危惧種の花を「影絵」で増やせば、あるいは、絶滅危惧種の花を「影絵」の中に保管しておけば。
そんなことを言いながら、藤森とアテビは杉林の中を、2人して、歩いていきます。

「到着しました!」
アテビが立ち止まったのは、大きな大きな館の前。
「ここが私の職場、世界多様性機構の領事館です」
さぁ、入ってください。
館長には既に、話を入れてあります。
アテビはそう付け足すと、館の中へ藤森を、両開きの扉から入れてしまいました。

それを見ておったのが稲荷神社の子狐。

「ふーん」
これは良い秘密基地だ。
コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
館のロックもセキュリティーもガン無視で、
館の中に、忍び込んだのでした……

4/19/2025, 4:31:24 AM

「『恋物語』、『もう一つの物語』、『終わらない物語』。少なくとも過去3個は『物語』書いた」
他にも「はじまり」といえば、先月「初まり」を書いた気がしないでもないが、どうだったか。
某所在住物書きは天井を見上げて、ため息を吐いて、それから仕方がないのでカキリ、かきり。
小首を鳴らし、最初に書きたかった物語を破棄。
事前に用意していた別の物語に差し替えた。

書きたいシナリオは固まっているのだが
物語の初め方でアレコレ考え過ぎて
そもそも物語が始まらないのだ。

お題が「物語の始まり」なのにそれが「始まらぬ」とはこれいかに。

「……途中まで書いた分、お焚き上げでもすっか」
冒頭は書けたのだ。そっから先なのだ。
物書きは再度ため息。 物語が、始まらない。

――――――

物語の始まりを、だいたい「最近最近の都内某所」から始めるアカウントです。
今回はちょっと趣向を変えて、王道な言葉で、物語のはじまり、はじまり。

昔々。
あるところに、寂しがり屋でひねくれ者な神様(ものかき)が、ポツンとぼっちでおりました。
寂しがり屋でひねくれ者な神様は、すごく寂しがり屋だったので、
長ーい間、それはそれはしんみりと、昼寝をしたりおやつを食べたりしながら過ごしておりました。

ある日、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、昼寝とおやつばかりの1日に飽きて、
もとい、寂しさに負けて、
「他人(だれか)」が欲しくなってきました。
寂しがり屋な神様は、それでも神様だったので、
神様の力で、えいやっと、一冊の本に新しい世界の物語を書いてみることにしました。

まず、神様が夜の暗闇を本のページにすると、世界に1日の区切りが生まれました。
次に、神様が冬の雪を表紙にすると、世界に1年の区切りが生まれました。
白雪の表紙に黒夜のページ。立派な本ができたので、
神様が銀色に輝くペンにたっぷりの夢のインクを含ませて、その本にさらさら文字を書くと、
世界に、たくさんの「登場人物(だれか)」が生まれ、ひとつの大きな物語が始まりました。

「おぉ!これはこれは、素晴らしい。」

神様がどんどん字を書き進めると、物語もどんどん広がっていきます。
しかし、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、酷くひねくれ者だったので、
なんということでしょう、神様が書いた物語は、幸せより不幸が多い物語になってしまいました。

「おやおや。やりすぎてしまったようですね。」

少しずつ不幸に傾く物語にようやく気付いた神様。
この物語を終わらせようか続けようか、6日くらい悩んで、7日くらい昼寝して、
よし、どっちにすべきか誰かに調べさせよう、
と決めた14日目に、
1匹の夢が神様のところにやってきて、
こう、言いました。

「物語を終わらせるか続けるかだって?
書き変えるって手もあるんじゃね?」

神様はそれを聞いて、それもそうだと思いました。
そして、その日のうちにその日のノリで神様がさらさらと文字を書き加えると、
世界に、不幸を幸せに変える奇跡と、物語の行き先を決めるための特別な登場人物が生まれました。

物語を書いた、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、
今も、あるところで昼寝をしたり、おやつを食べたり、新しい物語を初めたりしながら、
物語の続きと終わりと書き直しの真ん中で、
世界の行く末をどうするか今も考えているとか、いないとか、なんとかかんとか。
おしまい、おしまい。

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