かたいなか

Open App

「影絵の他に、影アートなんてのもあるのな」
最近、どうにも物語が1600字前後で収まらなくなってきた。某所在住物書きは今日も今日とて、頭をガリガリかいて、
その手を影絵の犬の形にしたり、鳥の形にしたり。
ネットで検索したところ、狐に白鳥、カウボーイなんてのもあったと判明。
先人は本当によく考えたものである。

「で、 影?」
なんか書けそうなネタ、転がってねぇかな。
物書きは「影」と「シャドー」で検索して、
結果として「シャドーボックス」に行き着き、
「……いや、シャドーボックスは、影じゃねぇな」

――――――

影絵といえば、子供の頃、カエルの影絵の作り方がさっぱり分からなかった物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、末っ子の子狐は遊ぶのが大好き!
心優しい人間が稲荷神社にやって来ると、すかさず突撃していって、
毛づくろいごっこで髪の毛をカジカジしたり、
一緒についてまわって散歩をしたり、
あるいは、ヘソ天して寝っ転がって、ナデナデを要求したりなど、しておったのでした。

ところでそんな子狐の稲荷神社で、若いひとがひとりして、誰かと待ち合わせをしておる模様。
子狐を撫でてくれる良い人間です。風吹き花咲く雪国の出身で、名前を藤森といいます。
子狐から稲荷のお餅をよく買ってくれるので、
子狐は藤森を、「おとくいさん」、と呼びます。

藤森は昔から日本に根づく四季の花が大好き。
子狐の稲荷神社が美しく、最近はイチリンソウにニリンソウ、フデリンドウなんかが見頃なので、
時間のあるときに参詣しては、参道の花をスマホに撮り、時折落ちているゴミなども拾ってやって、
それで、子狐に見つかり突撃されては、唇などベロンベロンされておるのでした。

花好きな雪の人、藤森が昨今悔しいのは、
都内に息づく貴重な在来植物たちの、周知と管理と手入れが全然行き届いていないこと。

自然公園のギンランは、公園管理者が委託した業者によって、他の雑草と一緒に刈られます。
アマナなんかは寂しいものです。藤森が知っている緑地のそれは、地面ごと剥がされて、全部芝生と芝桜に置き換えられてしまいます。

貴重で、絶滅が心配されて、本来ならば守られてあるべき花たちが、それを保護すべき行政側の無知によって逆に粗末にされ、減らされていく。
藤森はそれが寂しくて寂しくて仕方がないのです。

「おとくいさんだ!」
藤森を見つけた子狐は、さっそく遊んでもらおうと、ダダダ、ダダダッ!疾風の速さで数秒だけ、
突撃したのですが、途中ですぐに、急ブレーキ。

女の人が来ました。
藤森に挨拶して、藤森が応じて、
そして、藤森と一緒に、どこかへ行くようです。

「きいろいお花の、おねーちゃんだ」
子狐はその女の人を、少し知っていました。
女の人は、「ここ」ではない別の世界から来て、「ここ」ではない別の世界の人のために働いて、
そして、稲荷神社の黄色い春の花を、とってもとっても愛している人でした。

別の世界から来たその人は、ビジネスネームを「アテビ」といいまして、
滅んだ世界の難民を東京に「密航」の形で避難させて、彼等がここで生活できるように支援をする、
「世界多様性機構」なる組織の職員でした。

「さぁ、行きましょう」
アテビが先導して、稲荷神社から出ていきます。
「機構の保管品で、絶滅しそうな花の保護活動のお手伝いができそうな物が、いくつかあるんです。
今日はそのひとつを、藤森さんにお見せします」

「なんだろ。なんだろ」
コンコン子狐、藤森たちがどこへ行くのか、
気になって、きになって、仕方ありません!
「なんだろ。なんだろ」
子狐はこっそりトテトテ、とてとて。
藤森とアテビのあとを、ついてゆきました。

「『花の保護活動の手伝い』?」
「私達はアレを、『影絵変換器』と呼んでます」
藤森とアテビは会話しながら、人混みを避けて多摩寄り周辺、杉林の中へ入ってゆきました。
「影絵、」
「3次元のものを専用世界に入れて、2次元で保管するんです。白い世界の中で、保管物は黒く見えるから、白と黒で『影絵』と呼んでいるんです」

「そんなことが」
「できるんです。先進世界の技術なら。
それに、影絵をコピーして、3次元に再変換すれば、簡単にコピーやクローンが作れるんです」

絶滅危惧種の花を「影絵」で増やせば、あるいは、絶滅危惧種の花を「影絵」の中に保管しておけば。
そんなことを言いながら、藤森とアテビは杉林の中を、2人して、歩いていきます。

「到着しました!」
アテビが立ち止まったのは、大きな大きな館の前。
「ここが私の職場、世界多様性機構の領事館です」
さぁ、入ってください。
館長には既に、話を入れてあります。
アテビはそう付け足すと、館の中へ藤森を、両開きの扉から入れてしまいました。

それを見ておったのが稲荷神社の子狐。

「ふーん」
これは良い秘密基地だ。
コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
館のロックもセキュリティーもガン無視で、
館の中に、忍び込んだのでした……

4/20/2025, 7:37:53 AM