「『星空』、『星座』、『星が溢れる』……
これで星ネタのお題、何個目だろうな?」
複数回遭遇するジャンルのお題は、それを別のものに置き換えて対処してきた某所在住物書きである。
たとえば「流れ星」では星を桜吹雪に、
「星座」は床に落ちた涙に変換して書いた。
今回は「星明かりクッキー」が爆誕している。
「次は、どうすっかな……」
だいたい花への変換が多い物書きだが、
次の星ネタは、星の何を、どれに変えよう。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社の子狐が、
ひょんなことから都内のちょっと多摩寄りの、杉林の中に隠れた秘密の場所で、
異世界からやってきた、難民たちの支援拠点、
通称「領事館」なる館を見つけまして。
「なんだ、なんだ」
子狐は好奇心の塊なので、とたた、とたたた!
ロックもセキュリティーもお構いなし。その館の中にコンコンこっそり、潜入したのでした。
「こんにちは」
エントランスでは子狐とよく遊んでくれるお得意様が、なにやら、領事館の偉い人と立ち話。
お得意様は名前を藤森といいました。
「はじめまして。藤森と申します」
「縺ッ縺倥a縺セ縺励※」
藤森を出迎えた領事館の館長さんは、
日本語でも英語でも、エスペラント語でもスワヒリ語でもない、こちらの世界のものとは思えない言語で、藤森に挨拶したかと思うと、
「……っと、」
藤森に言葉が通じていないと分かるや否や、
そっと、何かに右手で触れました。
途端、館長さんの言葉が日本語に切り替わります。
「失礼。翻訳機を付けてなかった。
アテビからハナシは聞いてある。
この世界の『絶滅しそうな花』を、俺達が持っている異世界の技術で、救いたいんだってな」
まぁ、まずは茶でも。館長さんはそう言って、藤森を美しい食堂に、案内してやりました。
で、 「異世界の技術」ですって?
「急げ、いそげ、お菓子をお出ししなきゃ!」
コンコン子狐が領事館の、部屋のひとつの机と椅子の、間に隠れて遊んでおると、
若い女性がその部屋に、とたたた!
急いで、駆け込んできました。
「星明かりクッキーを入れてた本は……これだ!」
その若い女性は、領事館で働く新人でした。
客人の藤森に茶菓子を出しなさいと、館長から言われたので、とっておきを取りに来たのです。
女性が不思議な本を本棚から1冊抜いて、
その本を不思議な台の上に、開いて置くと、
台の前に掛けられている真っ白な額縁に、まるで影絵か切り絵のように、黒い何かのシルエットが、
パッ、 と表示されました。
開いた本のページが、額縁に投影されたようです。
「2缶くらいで良いかな」
若い女性が台の上のスイッチをポンポン!押すと、
額縁の中のシルエットが、ぽん、ぽん!
2個増えて合計3個になり、
「よし。再変換!」
若い女性が台の上の、別のスイッチを押すと、
増えた2個のシルエットが、額縁の中から色と奥行きと質量を――つまり3次元の立体となって、
ポン、ポン!出てきました。
なんということでしょう。
その「出てきた2個」は、子狐が住む稲荷神社の、最寄り駅から5駅先の、青コンビニの隣にある、
とっても美味しいジェラート屋さん、「シャルル・ハイヴィー」が1日20缶限定で販売している、
歯ざわりしっとり、甘さ控えめ、バター香る星の形の、「星明かりクッキー」、
その詰め合わせ缶ではありませんか!!
「クッキーだ」
コンコン子狐、若い女性の不思議な所業を、ガッツリ、ばっちり、観察しました。
「きっと、あのボタンおせば、おほしさまクッキー、いっぱい食べられるんだ」
若い女性はとっても急いでおったのでしょう。
本は台に置いたまま、額縁も明かりがついたまま。
2個の美味しいクッキー缶の、中身をキレイなお皿に並べ替えて、走って部屋から出ていきます。
「キツネも、キツネもクッキー、たべるっ」
右見て人無し、左見て影無し、
前見て後ろ見て妙な明かりも無し。
コンコン子狐は賢いので、しっかり安全確認して、
例の若い女性がいじっていた台の上に乗り、
そして、適当にスイッチをお手々でタシッ!
「クッキー、くっきー!」
コンコン子狐が額縁に目を向けると、
ビンゴ!額縁から2個の星明かりクッキー缶が、
ポン、ポン!出てきたのでした。
コンコン子狐、星明かりクッキーの美味しさは十分理解しておるので、
ひとまず、缶を開けてみて、クッキーを1枚取り上げて、香りを丁寧に丹念にかいで、
しゅくしゅく、しゃくり。食べてみます。
「おいしい」
本物だ。 子狐は思いました。
「ふーん」
あのボタンを押せば、押しただけ、このクッキーが、缶で出てくるのだ。子狐は理解しました。
どういう仕組でしょう。 知りません。
それこそ異世界の技術なのでしょう。
「ふぅーん……」
コンコン子狐、星明かりクッキーの増やし方を、しっかり学習してしまいました。
「キツネ、おぼえた」
ボタンを押せば、クッキー缶が2個、
もう一度ボタンを押せば、クッキー缶がもう2個。
星明かりクッキーを2個2個、にこにこ、
増やして食べて、堪能して、
お母さん狐とお父さん狐と、おばあちゃん狐とおじいちゃん狐の分も出して、おみやげバッチリ!
大満足で子狐が、風呂敷に包んだクッキー缶を持って、お家の稲荷神社に帰還したのは、
まさしく、本物の星明かりが、
いや、東京で星明かりは、ちょっと、
光害の関係で、難しいですね。
しゃーない、しゃーない。
4/21/2025, 3:00:06 AM