かたいなか

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4/20/2025, 7:37:53 AM

「影絵の他に、影アートなんてのもあるのな」
最近、どうにも物語が1600字前後で収まらなくなってきた。某所在住物書きは今日も今日とて、頭をガリガリかいて、
その手を影絵の犬の形にしたり、鳥の形にしたり。
ネットで検索したところ、狐に白鳥、カウボーイなんてのもあったと判明。
先人は本当によく考えたものである。

「で、 影?」
なんか書けそうなネタ、転がってねぇかな。
物書きは「影」と「シャドー」で検索して、
結果として「シャドーボックス」に行き着き、
「……いや、シャドーボックスは、影じゃねぇな」

――――――

影絵といえば、子供の頃、カエルの影絵の作り方がさっぱり分からなかった物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、末っ子の子狐は遊ぶのが大好き!
心優しい人間が稲荷神社にやって来ると、すかさず突撃していって、
毛づくろいごっこで髪の毛をカジカジしたり、
一緒についてまわって散歩をしたり、
あるいは、ヘソ天して寝っ転がって、ナデナデを要求したりなど、しておったのでした。

ところでそんな子狐の稲荷神社で、若いひとがひとりして、誰かと待ち合わせをしておる模様。
子狐を撫でてくれる良い人間です。風吹き花咲く雪国の出身で、名前を藤森といいます。
子狐から稲荷のお餅をよく買ってくれるので、
子狐は藤森を、「おとくいさん」、と呼びます。

藤森は昔から日本に根づく四季の花が大好き。
子狐の稲荷神社が美しく、最近はイチリンソウにニリンソウ、フデリンドウなんかが見頃なので、
時間のあるときに参詣しては、参道の花をスマホに撮り、時折落ちているゴミなども拾ってやって、
それで、子狐に見つかり突撃されては、唇などベロンベロンされておるのでした。

花好きな雪の人、藤森が昨今悔しいのは、
都内に息づく貴重な在来植物たちの、周知と管理と手入れが全然行き届いていないこと。

自然公園のギンランは、公園管理者が委託した業者によって、他の雑草と一緒に刈られます。
アマナなんかは寂しいものです。藤森が知っている緑地のそれは、地面ごと剥がされて、全部芝生と芝桜に置き換えられてしまいます。

貴重で、絶滅が心配されて、本来ならば守られてあるべき花たちが、それを保護すべき行政側の無知によって逆に粗末にされ、減らされていく。
藤森はそれが寂しくて寂しくて仕方がないのです。

「おとくいさんだ!」
藤森を見つけた子狐は、さっそく遊んでもらおうと、ダダダ、ダダダッ!疾風の速さで数秒だけ、
突撃したのですが、途中ですぐに、急ブレーキ。

女の人が来ました。
藤森に挨拶して、藤森が応じて、
そして、藤森と一緒に、どこかへ行くようです。

「きいろいお花の、おねーちゃんだ」
子狐はその女の人を、少し知っていました。
女の人は、「ここ」ではない別の世界から来て、「ここ」ではない別の世界の人のために働いて、
そして、稲荷神社の黄色い春の花を、とってもとっても愛している人でした。

別の世界から来たその人は、ビジネスネームを「アテビ」といいまして、
滅んだ世界の難民を東京に「密航」の形で避難させて、彼等がここで生活できるように支援をする、
「世界多様性機構」なる組織の職員でした。

「さぁ、行きましょう」
アテビが先導して、稲荷神社から出ていきます。
「機構の保管品で、絶滅しそうな花の保護活動のお手伝いができそうな物が、いくつかあるんです。
今日はそのひとつを、藤森さんにお見せします」

「なんだろ。なんだろ」
コンコン子狐、藤森たちがどこへ行くのか、
気になって、きになって、仕方ありません!
「なんだろ。なんだろ」
子狐はこっそりトテトテ、とてとて。
藤森とアテビのあとを、ついてゆきました。

「『花の保護活動の手伝い』?」
「私達はアレを、『影絵変換器』と呼んでます」
藤森とアテビは会話しながら、人混みを避けて多摩寄り周辺、杉林の中へ入ってゆきました。
「影絵、」
「3次元のものを専用世界に入れて、2次元で保管するんです。白い世界の中で、保管物は黒く見えるから、白と黒で『影絵』と呼んでいるんです」

「そんなことが」
「できるんです。先進世界の技術なら。
それに、影絵をコピーして、3次元に再変換すれば、簡単にコピーやクローンが作れるんです」

絶滅危惧種の花を「影絵」で増やせば、あるいは、絶滅危惧種の花を「影絵」の中に保管しておけば。
そんなことを言いながら、藤森とアテビは杉林の中を、2人して、歩いていきます。

「到着しました!」
アテビが立ち止まったのは、大きな大きな館の前。
「ここが私の職場、世界多様性機構の領事館です」
さぁ、入ってください。
館長には既に、話を入れてあります。
アテビはそう付け足すと、館の中へ藤森を、両開きの扉から入れてしまいました。

それを見ておったのが稲荷神社の子狐。

「ふーん」
これは良い秘密基地だ。
コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
館のロックもセキュリティーもガン無視で、
館の中に、忍び込んだのでした……

4/19/2025, 4:31:24 AM

「『恋物語』、『もう一つの物語』、『終わらない物語』。少なくとも過去3個は『物語』書いた」
他にも「はじまり」といえば、先月「初まり」を書いた気がしないでもないが、どうだったか。
某所在住物書きは天井を見上げて、ため息を吐いて、それから仕方がないのでカキリ、かきり。
小首を鳴らし、最初に書きたかった物語を破棄。
事前に用意していた別の物語に差し替えた。

書きたいシナリオは固まっているのだが
物語の初め方でアレコレ考え過ぎて
そもそも物語が始まらないのだ。

お題が「物語の始まり」なのにそれが「始まらぬ」とはこれいかに。

「……途中まで書いた分、お焚き上げでもすっか」
冒頭は書けたのだ。そっから先なのだ。
物書きは再度ため息。 物語が、始まらない。

――――――

物語の始まりを、だいたい「最近最近の都内某所」から始めるアカウントです。
今回はちょっと趣向を変えて、王道な言葉で、物語のはじまり、はじまり。

昔々。
あるところに、寂しがり屋でひねくれ者な神様(ものかき)が、ポツンとぼっちでおりました。
寂しがり屋でひねくれ者な神様は、すごく寂しがり屋だったので、
長ーい間、それはそれはしんみりと、昼寝をしたりおやつを食べたりしながら過ごしておりました。

ある日、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、昼寝とおやつばかりの1日に飽きて、
もとい、寂しさに負けて、
「他人(だれか)」が欲しくなってきました。
寂しがり屋な神様は、それでも神様だったので、
神様の力で、えいやっと、一冊の本に新しい世界の物語を書いてみることにしました。

まず、神様が夜の暗闇を本のページにすると、世界に1日の区切りが生まれました。
次に、神様が冬の雪を表紙にすると、世界に1年の区切りが生まれました。
白雪の表紙に黒夜のページ。立派な本ができたので、
神様が銀色に輝くペンにたっぷりの夢のインクを含ませて、その本にさらさら文字を書くと、
世界に、たくさんの「登場人物(だれか)」が生まれ、ひとつの大きな物語が始まりました。

「おぉ!これはこれは、素晴らしい。」

神様がどんどん字を書き進めると、物語もどんどん広がっていきます。
しかし、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、酷くひねくれ者だったので、
なんということでしょう、神様が書いた物語は、幸せより不幸が多い物語になってしまいました。

「おやおや。やりすぎてしまったようですね。」

少しずつ不幸に傾く物語にようやく気付いた神様。
この物語を終わらせようか続けようか、6日くらい悩んで、7日くらい昼寝して、
よし、どっちにすべきか誰かに調べさせよう、
と決めた14日目に、
1匹の夢が神様のところにやってきて、
こう、言いました。

「物語を終わらせるか続けるかだって?
書き変えるって手もあるんじゃね?」

神様はそれを聞いて、それもそうだと思いました。
そして、その日のうちにその日のノリで神様がさらさらと文字を書き加えると、
世界に、不幸を幸せに変える奇跡と、物語の行き先を決めるための特別な登場人物が生まれました。

物語を書いた、寂しがり屋でひねくれ者な神様は、
今も、あるところで昼寝をしたり、おやつを食べたり、新しい物語を初めたりしながら、
物語の続きと終わりと書き直しの真ん中で、
世界の行く末をどうするか今も考えているとか、いないとか、なんとかかんとか。
おしまい、おしまい。

4/18/2025, 5:01:34 AM

「『静寂の部屋』とか『静かな夜明け』とかなら、過去のお題で書いてたらしいわな」
お題の「静かな情熱」で、戦隊モノのブルーポジションしか思いつかなかった物書きである。
記号として、レッドはリーダー、ブルーはクール。
イエローは何故か食いしん坊のイメージがある。
特にカレーだ。何故だろう。

「ピンクの他にも、イエローとかグリーンとかを女性が担当することもあるんだっけ?」
どちらかというと、学校とか車とかが変形してロボットになるアニメを視聴していた世代の物書き。
特撮は不勉強だが、記憶はある。
「『静かな情熱』なぁ……」
要するにである。 戦隊ネタの投稿となるのだ。

――――――

ノダケの花言葉が「静かな情熱」だそうです。
ただ、ノダケが咲くのは秋頃であり、春の今頃にはどうにも不向き。なんとも歯がゆいところです。
なんてトリビアはその辺に置いといて。
今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近の都内某所、某稲荷神社には、本物の稲荷狐がおりまして、すなわち人に化ける妙技をもつ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしています。
最近、お母さん狐の妹さんが、雪国から東京へ2泊3日、旅行に来ておりまして。
かわいらしい狐の坊やと、凛々しい狐のお婿さんと一緒に、稲荷神社の宿坊でご宿泊。
稲荷神社にも末っ子の、コンコン子狐がおりますので、2匹してキツネずもうしたり、2匹してお昼寝したり。楽しく2泊を過ごしました。

その日は狐の坊やが雪国へ、おみやげ持って帰る日ですが、その前に本日のお題回収。
「静かな情熱」です。
子狐ーズ、2匹してテレビの前に猛ダッシュ!
リモコンのボタンをタシタシ!

「ネボー!寝坊!タイヘン!」
稲荷の子狐は尻尾をぶんぶん!
「たいへん!たいへん!」
小ちゃい狐の坊やも尻尾をぴろぴろ!
戦隊アニメの時間なのです。

『アンタたち!出動よー!』
チャンネルに移動すると、どうやらイチバン観たい場面には間に合った様子。
世界線管理局の法務部で、司令官のオネェな宇宙タコが、ビシッ!ヒーローに出動を命じます。
『『着装!!』』
変身ジェムをアドミンウォッチの前にかざして、5人の管理局員が決めポーズ!

「かっこいい!」
「かっこいー!!」
子狐ーズは子供なので、カッコいいのが大好き!
尻尾を、振るというより、既に高速回転の域に達する興奮で、変身もとい着装ポーズの真似をします。
「ちゃくそぉ!」
「きんきゅーちゃくそぉ!」

テレビの中の局員たちが、バトルコスチュームを身につけると、さぁお題回収。名乗りのシーンです。

『燃える正義、アドミニスターレッド!』
『静かな情熱、アドミニスターブルー!』
『みなぎる活力、アドミニスターホワイト!』
『見抜く叡智、アドミニスターブラック!』
『たゆたう調和、アドミニスターイエロー!』

『『管理局戦隊アドミンジャー、現着!!』』

「負けるな、アドミンジャー!」
「がんばれぇー!」

世界と世界の独自性を守るため、
世界と世界の独立性を保つため、
管理局戦隊アドミンジャーは今週も、世界間の調和を乱すワルモノたちと戦います。
『このままでは、やられてしまう!』
そして今週も、最後はロボットに搭乗するのです!
『キングマンダリン、統合合体要請だ!』

『おっしゃぁぁ!!統合合体承認!』
管理局のエンジニアが、ボタンを押して叫びます。
24と1個のしらぬい型ミカンが大きくなって、
ガシャーン!ガチーン!
巨大ロボ、キングマンダリンに統合合体です。
『ゴー!キングマンダリン!』

「いけー!キングマンダリン!」
「あどみんすらっしゃー!」
巨大ロボが登場して、子狐ーズの興奮は最高潮!
もはや、「静かな情熱」アドミニスターブルーなんか観ちゃいません。
大きくてかっこいい、キングマンダリンが堂々と、ワルモノを成敗するところしか見えてません。

管理局戦隊アドミンジャーの、エンディングテーマを2匹で歌って、別の番組が始まったら、あとは2匹でアドミンジャーごっこ。
「もえるセイギ!アドミンレッド!」
「しずかなじょーねつ!アドミンブルー!」
コンコン子狐と親戚の坊やは、2匹してそれぞれ「燃える正義」と「静かな情熱」になりきって、
坊やが雪国に帰る時間まで、一緒に楽しく遊んでおったとさ。 おしまい、おしまい。

4/17/2025, 6:23:33 AM

「遠くから何の声が聞こえるか、ってハナシよな」
某所在住物書きは通知画面を見ながら、書きやすいんだか難しいんだか分からぬお題に目を細めた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』とかがこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、

「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回のお題配信まで3時間プラス数分となった。

――――――

前回投稿分からの続き物。
桜もだいぶ散った最近最近の都内某所で、春恋をテーマにしたスイーツフェスが大盛況。
前回投稿分では東京に住む稲荷の子狐と、
その親戚であるところの小さい霊場の子狐が、
人間2名に連れてってもらって、人間の春恋スイーツをたっぷり堪能。
双方不思議な狐なので、人間のスイーツを食っても平気なのです。野良の良い狐は、特にチョコレートなどは、真似をしてはなりません。

さて。
スイーツフェスの春恋お菓子をたっぷり買い込み、都内某所の稲荷神社に戻ってきた、稲荷の子狐と霊場の子狐です。
買い込んできたスイーツというスイーツを、
お母さん狐に分けて、お父さん狐に分けて、
それから稲荷神社の方の、おじいちゃん狐とおばあちゃん狐にも分けて、
それでもお菓子は、どっさり余っておりました。

自分たちをスイーツフェスに連れてってくれた人間とも仲良く分けっこして、
皆でもぐもぐもぐ、ちゃむちゃむちゃむ!
ケンカせず、楽しく、スイーツフェスの二次会を、自主開催しておったのでした。

「おい、スフィンクス。この稲荷神社の子狐は1匹のハズだぞ。何故2匹に増えている」
おやおや。子狐2匹と人間1人の二次会の、遠くの声は随分と、ギャーギャーしていますよ。
「いつもの子狐の親戚だとよ。母親の妹の子供だとさ。別に分身の術でも何でもねぇよ」

「母親の妹の子供?」
「行楽シーズン。都外の故郷から都内に旅行。
なんでも両親とガキとで2泊3日だとさ」
「聞いていない」
「どうせ面倒見てやるくらいしか能が無いんだから、遊んでやれって鳥頭ちゃん」
「なんだと」

ギャーギャー、ギャーギャー。
遠くの声は物騒です。でも子狐2匹は気にしない。
だって、遠くでギャーギャーされても、自分のお菓子を奪いに来るワケじゃないのです。
遠くでガーガーされても、自分のお菓子は自分で食べることができるのです。

もぐもぐ、ちゃむちゃむ。
美味しいお菓子を全部食べたら、
子狐2匹はお昼寝の時間。
たっぷり食べて、たっぷり寝ましょう。

「やだ!ぼん、あそぶ!」
おやおや。2匹のうちの1匹は、ちょうど第一次イヤイヤ期。一緒にお菓子を食べていた、人間の1人の方によじ登り、登山ごっこなど始めます。
「ぼん、まだ、ぜったい、おひるねしない!」

「お昼寝、しないのー?」
周囲のお菓子のケースやラップを片付けてしまった人間は、子供の対応なんて、おてのもの。
おなかに登ってくる子狐に構わず、おっきい敷布団と、フカフカふわふわタオルケットを敷きまして、にっこり。言います。
「じゃあ、お布団の中で、かくれんぼしよ〜」
そうです。ひとまず、布団の中に入れるのです。
そして寝転がせて、静かにさせるのです。

「あたしがオニぃ。10数えるよ〜。
ほら!いーち、 にーい!」

「かくれんぼ!」
あそぼう、あそぼう!
どっちの子狐も、かくれんぼは大好き!さっそく布団の中に潜り込んで、一生懸命隠れます。
「ぼんも!ぼんも!」
遊びたがりの子狐も、タオルケットの中に潜入!
鬼に見つからないように、ピッタリ、静かに、動かなくなりました。

「さー、どこかなー、ここかなぁっ」
ポンポン、ぽんぽん。
人間は子狐の身体を、優しく、ぽんぽん。
「ちがうよっ、ちがうもーん」
子狐たちは「自分は見つかってない」と自信たっぷり。そこじゃないと、声を出します。

「ここかぁー。ここじゃないかなぁ」
「そこじゃないよ、ここじゃないよ」
ふふふ。どこだろねぇ。人間の声が段々、だんだん、遠くなってきて、静かになってきて、
いつの間にか、タオルケットに潜る子狐たちも、声が小さく、遠くなってゆきます。

気がつけばどっちの子狐も、ぐぅすぴ、かぁすぴ。
タオルケットの軽い圧迫感と通気性と、ほんのり暗い安心に負けて、深井深い夢の中。
たっぷり2時間、お昼寝しておったとさ。

4/16/2025, 6:11:15 AM

「去年の秋に出たお題が『秋恋』だった」
まだ遭遇してないのは「夏恋」と「冬恋」か?
某所在住物書きは過去のお題を確認しながら、
しかしこの「書く習慣」、恋愛ネタのお題はちょくちょく配信されてくるので、
ぶっちゃけ、夏の恋と冬の恋そのものは、既にお題として配信されておるかもしれないと、
小さな、ため息など吐いている。

物書きに彼女・彼氏は縁が無かった。

「まぁ1人はいたけどさ。
いたけど、そいつが、2年前に投稿してたネタの
『理想押し付け厨かつ厳選厨な、自分の職場にまで押し掛けてくる元恋人』のモデルだもんなぁ」
つまり恋に良い思い出がねぇのよ。
物書きは思う。 あいつ今頃どうしてるだろう。

――――――

狐は春に恋するにあらず。冬に恋して巣を選び、そこで子を産みおとして育てて、
春に巣穴から育った子供が、よちよち、とてちて、おぼつかない足取りで出てくるのです。
稲荷狐も化け狐もだいたい同じで、
冬に恋して、春に恋が巣穴から出てくるのです。

今回は「春恋」のお題ですので、
春になって外に出てきた化け狐の子供と、
その化け狐の親戚の子狐と、
その子供たちの面倒を見る女性2名のおはなし。

最近最近の都内某所、某スイーツフェスの会場は、
「春恋フルーツフェスタ」と題しまして、
あっちにいちごのチョコファウンテン、
そっちに春ミカンのクリームパフェ、
向こうではサクランボのカップケーキと、
春の恋をテーマに、甘酸っぱい幸福をたっぷり積んだキッチンカーがいっぱい、総勢20台。

チケット制で、10枚つづりが5000円。
各スイーツ、1品につき1枚で食べられます。

で、その春恋スイーツと女子ーズと子狐ーズが、どう繋がるかといいますと。
そうです。2人と2匹して、このスイーツフェスに突撃潜入!ガッツリ甘いものを食う算段です。

「いいか、絶対、ゼッタイ!俺様から離れるんじゃねぇぞ!勝手な行動はダメだ」
目を離したらどうなるか、分かったモンじゃねぇ。
女子ーズの1人はビジネスネームを「スフィンクス」といいまして、1人と2匹に警告します。
「必ず全員で固まって、迷子になら……」

迷子にならないように、一旦全部の店を回るぞ!
しっかりもののスフィンクスが言う前に、

「イチゴ大福だぁ~!コンちゃん、行こう!」
もうひとりの女子ーズの「ドワーフホト」と、

「わぁー!いこう、行こう!!
おばちゃんに、おみやげだぁー!」
しっかり人間に化けた子狐と、

「おかあちゃんにも、おみやげ!
おとうちゃんにも、おみやげ!」
その子狐の手をしっかりにぎり、頑張ってついていく、小ちゃな狐耳が出てしまっておる子狐が、

さっそく、スフィンクスから離れていきます。
1人と2匹一緒に行動してるだけ、マシかというと、食いしん坊ズがいつまでも、お行儀よくしているハズも無いわけで、途端にわちゃわちゃ。
「おねーちゃん!あっち!みたらし団子!」
「あたし、そっちのミニパフェ見てくるぅ。
コンちゃん、いっといで!」
「ぱふぇー!おかあちゃんと、ぼんのぶん!」
「よぉし。こっちのコンちゃんは、一緒に行こう」

あーあー、あーあー。
みんな、自分の春恋スイーツ目指してまっしぐら。
だぁれもスフィンクスの正論を聞きません。
「おまえらぁー!」
どうせ全員、あとで迷子になるのです。
どうせ全員、まとめてスフィンクスが探し出して、見つけて、だいたい子狐かドワーフホトが転んで怪我などしてるので、手当てするのです。

なんなら今回は大きい方の子狐の、母親の方の実家の次女さんが、子供を産んで雪国から、母狐を頼って2泊3日の春旅行の最中。
「ぼんもたべる!ぼんもたべるぅ!」
さっきから「おかあちゃん」、「おとうちゃん」と言っている、小ちゃい方の子狐の面倒まで。

「まってまって、好きなの、頼んであげるぅ。
どれ食べたい?キウイ?イチゴ?」
「いちご!」

「おれさま、ミカンジュレのケーキ、くえるかな」
ドワーフホトと小ちゃい方の子狐を、なんとか確保している間に、大きい方の子狐が行方不明。
みたらし団子を食いに行くと言っていました。
みたらし団子のキッチンカーには、大きい方の子狐、並んでいないようでした。
「むりかな。どうだろな」

スイーツフェスのような会場で、食いしん坊1人と2匹の引率も、ラクなものではありません。
それはさながら春恋というより、春騒動、運動会。
保護者な人間スフィンクスは、ドワーフホトと小ちゃい子狐の安全を確保しながら、
大きい方の子狐を探して、10分、20分。
頑張って、歩き回ったとさ。

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