かたいなか

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「遠くから何の声が聞こえるか、ってハナシよな」
某所在住物書きは通知画面を見ながら、書きやすいんだか難しいんだか分からぬお題に目を細めた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』とかがこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、

「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回のお題配信まで3時間プラス数分となった。

――――――

前回投稿分からの続き物。
桜もだいぶ散った最近最近の都内某所で、春恋をテーマにしたスイーツフェスが大盛況。
前回投稿分では東京に住む稲荷の子狐と、
その親戚であるところの小さい霊場の子狐が、
人間2名に連れてってもらって、人間の春恋スイーツをたっぷり堪能。
双方不思議な狐なので、人間のスイーツを食っても平気なのです。野良の良い狐は、特にチョコレートなどは、真似をしてはなりません。

さて。
スイーツフェスの春恋お菓子をたっぷり買い込み、都内某所の稲荷神社に戻ってきた、稲荷の子狐と霊場の子狐です。
買い込んできたスイーツというスイーツを、
お母さん狐に分けて、お父さん狐に分けて、
それから稲荷神社の方の、おじいちゃん狐とおばあちゃん狐にも分けて、
それでもお菓子は、どっさり余っておりました。

自分たちをスイーツフェスに連れてってくれた人間とも仲良く分けっこして、
皆でもぐもぐもぐ、ちゃむちゃむちゃむ!
ケンカせず、楽しく、スイーツフェスの二次会を、自主開催しておったのでした。

「おい、スフィンクス。この稲荷神社の子狐は1匹のハズだぞ。何故2匹に増えている」
おやおや。子狐2匹と人間1人の二次会の、遠くの声は随分と、ギャーギャーしていますよ。
「いつもの子狐の親戚だとよ。母親の妹の子供だとさ。別に分身の術でも何でもねぇよ」

「母親の妹の子供?」
「行楽シーズン。都外の故郷から都内に旅行。
なんでも両親とガキとで2泊3日だとさ」
「聞いていない」
「どうせ面倒見てやるくらいしか能が無いんだから、遊んでやれって鳥頭ちゃん」
「なんだと」

ギャーギャー、ギャーギャー。
遠くの声は物騒です。でも子狐2匹は気にしない。
だって、遠くでギャーギャーされても、自分のお菓子を奪いに来るワケじゃないのです。
遠くでガーガーされても、自分のお菓子は自分で食べることができるのです。

もぐもぐ、ちゃむちゃむ。
美味しいお菓子を全部食べたら、
子狐2匹はお昼寝の時間。
たっぷり食べて、たっぷり寝ましょう。

「やだ!ぼん、あそぶ!」
おやおや。2匹のうちの1匹は、ちょうど第一次イヤイヤ期。一緒にお菓子を食べていた、人間の1人の方によじ登り、登山ごっこなど始めます。
「ぼん、まだ、ぜったい、おひるねしない!」

「お昼寝、しないのー?」
周囲のお菓子のケースやラップを片付けてしまった人間は、子供の対応なんて、おてのもの。
おなかに登ってくる子狐に構わず、おっきい敷布団と、フカフカふわふわタオルケットを敷きまして、にっこり。言います。
「じゃあ、お布団の中で、かくれんぼしよ〜」
そうです。ひとまず、布団の中に入れるのです。
そして寝転がせて、静かにさせるのです。

「あたしがオニぃ。10数えるよ〜。
ほら!いーち、 にーい!」

「かくれんぼ!」
あそぼう、あそぼう!
どっちの子狐も、かくれんぼは大好き!さっそく布団の中に潜り込んで、一生懸命隠れます。
「ぼんも!ぼんも!」
遊びたがりの子狐も、タオルケットの中に潜入!
鬼に見つからないように、ピッタリ、静かに、動かなくなりました。

「さー、どこかなー、ここかなぁっ」
ポンポン、ぽんぽん。
人間は子狐の身体を、優しく、ぽんぽん。
「ちがうよっ、ちがうもーん」
子狐たちは「自分は見つかってない」と自信たっぷり。そこじゃないと、声を出します。

「ここかぁー。ここじゃないかなぁ」
「そこじゃないよ、ここじゃないよ」
ふふふ。どこだろねぇ。人間の声が段々、だんだん、遠くなってきて、静かになってきて、
いつの間にか、タオルケットに潜る子狐たちも、声が小さく、遠くなってゆきます。

気がつけばどっちの子狐も、ぐぅすぴ、かぁすぴ。
タオルケットの軽い圧迫感と通気性と、ほんのり暗い安心に負けて、深井深い夢の中。
たっぷり2時間、お昼寝しておったとさ。

4/17/2025, 6:23:33 AM