かたいなか

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3/30/2025, 3:00:06 AM

「火山涙あるいはペレーの涙、オランダの涙、蝋涙(ろうるい)に血の涙、雀の涙。
『黄なる涙』なんて言葉もあるのか。へー」
キレイな宝石に「◯◯の涙」って名前が付くこともある気がする。某所在住物書きは「涙で終わる言葉」を検索しながら、茶を飲み、むせて涙。

ところで今の時期に涙といえば、花粉症。
今年も多いらしい。 今年も酷いらしい。
北海道は杉がそもそもほぼ植樹されておらず、かわりにシラカバの木が比較的多いと聞いた。

「花粉症か」
物書きは考える。
「チートアイテムとかチート能力とかで、花粉全部吹き飛ばしたり、消したりできんかな」
世では無花粉杉を絶賛量産中とのウワサである。

――――――

雨を「空の涙」と表現することもあります。
ゲリラ豪雨は号泣、天気雨は嬉し涙。
時折カッコいいオッサンが雨の中で倒れていて、
同じくらいカッコいいニーチャンが、そのオッサンを抱きかかえて涙の咆哮をするシーン、
なんてのも、まぁベタだろうと思います。

そんな空の涙を、実は今の時期、すごく待ち望んでいる人外が、都内某所、某杉林の奥におりまして。
通称「領事館」なる不思議な館に居る人外は、ビジネスネームを杉、もとい「スギ」といいました。

「うぅぉおおおおおおお!!雨だ!あめだ!」
いつもは人間の姿に化けて、領事館で館長の仕事をしているスギさん。
「今日は何でもできる!何したってヘッチャラだ」
実はふさふさモフモフの獣人さんでして、
しかも、まさかのスギ花粉症持ち!

「おおお、うおぉぉぉ!っしゃぁぁぁぁ!」
異世界から東京に赴任してきた翌年に、スギ花粉症をガッツリ発症してしまったスギさんは、
今の時期、本性のモフモフを出してしまうと、黄色いスギ花粉が大量にふさふさ体毛に付着して、
涙はダバダバ、鼻水はぐしゅぐしゅ!
ただでさえ重度の花粉症が、更に、さらに、重篤になってしまうのです!

雨が降ればそんな涙も、鼻水だって大幅に緩和!
『その雨デバフ、天の涙デバフがかかっているのに、今年はなんだか目がかゆい』?
構いません!晴れてる日よりはマシなのです。
モフモフ獣人スギさんは、花粉が洗い流されてゆく雨の日だけ、本来の姿に戻ることができるのです。
「ああ、サイコーだ。目があまり、かゆくない!
涙も出てこない、鼻もそれほどぐずぐずしない!
なにより俺の毛に花粉がくっつかない!」

ごろんごろん、ゴロンゴロン!
獣人スギさん、今の時期は空の涙を、ずっと、ずーっと、待っておるのでした。
「よし!今のうちに、できることを全部やる!」

雨天の小さな幸せを、無駄にせず、余す所なく。
モフモフ獣人スギさん、ひとしきりゴロンゴロンのパタンパタンしてから、
猛烈な勢いでもって、書類の確認とサインと返信と連絡とを、しゅばばばばっ、バババ!
一気に片付け始めたのでした。

「館長さん、機構本部からお手紙です」
「よし!そこに置け!」

「スギ館長。今月かかった費用と、来月かかると思われる予想、それから杉花粉の飛散予測です」
「よし!こっちに置け!」

「館長。管理局から『違法密航異世界人の通報』に対する感謝と謝礼が」
「すぐ領事館専用口座に突っ込め!!」

ああ、ああ!素晴らしい! 雨のおかげで杉花粉が、スギさんに悪さをほとんど為しません。
おかげでスギさん、晴れの日風の日等の十倍も百倍もすごいスピードで、仕事を片付けてゆきます。
「スギ館長、空気清浄機の掃除は」
「念っッ入りにやってくれ!!」

しゅばばばばっ!バババ!
モフモフ獣人のスギさん、通称「領事館」の館長として、為すべきすべてを猛スピードで為しました。

杉花粉が天の涙で、なりを潜めている間に。
杉花粉が花粉症持ちに、悪さをできない日の間に。
東京は明日、晴れ予報。
雨上がりのスギ花粉は、それはそれは、もう、それは。酷く猛威を振るうのです。

「館長さん。申請があと、50件たまってます」
「問題無い!今日のうちに!終わらせる!!」

「館長。予報では明後日から3日間、雨です」
「ぉおおおおおっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

急げ、いそげ!
異世界から杉花粉多い東京に赴任してきた、ビジネスネームが「スギ」の獣人さん。
天が涙をこぼす雨の日と、杉花粉のオフシーズンだけ、100%のパフォーマンスが出せるのです。
明日は雨が降らない。スギさんは明後日からの雨天で最高のランチと、ティータイムができるように、
ラストスパート、晴天で溜まった仕事を一気に片付けて、執務室の掃除まで終えたとさ。

「館長さん、館長さん!」
「なんだ!」

「管理局からの謝礼を全額使えば、◯◯リの花粉シャットアウトカーテンを、導入できます」
「……保留!!」

3/29/2025, 7:58:15 AM

「物理的に小さい幸せなのか、運や確率的に小さな幸せなのか、数字として小さい幸せか。
まぁまぁ、それくらいは、一応選べそう」
小さい砂金、丁度ひとつ残っていた半額スイーツ、少しだけ減った体重。
あとは何だろう。某所在住物書きは投稿作業に用いているボードを見ながら、ぽつり、ぽつり。

個人的に「当初考えていた投稿案がそのまま何の問題もなく形になる」などは、小さな幸せだと思う。
今回は以下略。みなまで言わぬ。
「……うん」

――――――

地味に500円玉貯金などしている物書きです。
小さな幸せといえば、最近その貯金総額が、やっと1万円を超えたこと。
『これを競馬に突っ込めば』
『これをパチンコ、スロットに突っ込めば』
それを考えている頃くらいが、実際に突っ込むその直前より、「幸せ」なのかもしれません。

今回はそんなレベルのおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。とある厨二ふぁんたじー組織、「世界線管理局」の経理部、
1年中置きっぱなしのコタツの中のおはなしです。

ふわふわ不思議なリネン製の毛糸で、せっせと猫耳ポンチョを編んでいるおばあちゃんがおりまして、
静かに優しい鼻歌などする温厚おばあちゃんは、ビジネスネームを「ノラ」といいました。
「ほら、スフィンクスちゃん。そろそろあなたの分のリネンポンチョ、完成するわ」

ノラばあちゃんの編み物は不思議な編み物。
ノラばあちゃんが編んでくれたマフラーやストール等々には、不思議なおまじないが為されていて、
それを付けて外を歩けば、悪い心や良くない事件、都合のよろしくない不調等々から、
ほんの少しだけ、守ってくれるというウワサ。

だけどぶっちゃけウワサを信じて、ノラばあちゃんに編み物製品を頼む局員なんて居ません。
ノラばあちゃんのマフラーの素朴なデザイン、ストールの優しい肌触り、毛糸帽子のあたたかさを求めて、管理局員は「作ってくれ」と頼むのです。

「ほら」
パッ、と完成したリネンリボンの猫耳ポンチョを、ノラばーちゃんがスフィンクスに見せますと、
出てきた刺繍の図柄は、スフィンクスの大好きなミカンの花と、それによく似たカラタチの花。
ノラばーちゃんが編んでいたのは、初夏と春の花が一緒に咲く、キレイな猫耳ポンチョでした。
「羽織ってみせて」

「おー、ミカン!」
ノラばーちゃんが入っていたコタツの持ち主、経理部の天才エンジニア、スフィンクスがガバチョと昼寝から起きて、完成したポンチョに大興奮!
友達の収蔵部局員、ドワーフホトが可愛い可愛いウサ耳ポンチョを着ておったので、
羨ましくなったスフィンクス、「俺様のも作れ」とニャンニャン!ワガママ言ったのです。
「良い!良いぞ!こいつは俺様の宝物とする」

猫耳ポンチョを頭にかぶって、肩に羽織って、
くるくる回ってみせますと、ポンチョの花の刺繍が、美しくヒラヒラ、ひらひら。
スフィンクスの動きの風に、明るく揺れます。

「ホトのやつに、自慢してこよっと」
ノラばーちゃんのポンチョがよほど気に入ったらしく、コタツでやってた自分の仕事を放り出して、友人が居るであろう部署にひらぁり、はらぁり。

「帰ってきたら、ちゃんと残りの仕事やるのよ」
編んであげたポンチョをわざわざ自慢しに行くスフィンクスを、見送るノラばーちゃんは、
小さな幸せでいっぱい、いっぱい。
幸福な微笑を、しておったとさ。

3/28/2025, 3:00:04 AM

「去年4月10日頃のお題が『春爛漫』だった」
一昨年はスミレの砂糖漬け、去年は桜の塩漬けと山椒の新芽。それぞれ春にふさわしいであろう食い物を投稿してきた某所在住物書きである。
スミレも桜も投稿済み。今年は何を書こう。

「5月前後に咲くらしいミカンって『春』?」
それは初夏かもしれない。または晩春か。
「じゃあリンゴの花は?」
ネット検索によれば5月上旬に咲くとの情報。
意外と南国のミカンと雪国のリンゴは似た時期に春爛漫、花を咲かせるらしい。

「来年もこのお題が来たら、次はミカンかな」
なお季語としては、「ミカンの花」は初夏で「リンゴの花」は晩春とのこと。
3月に真夏日など観測する昨今。いずれミカンで「春爛漫」を書ける時期が来るかもしれない。

――――――

花より団子、春のパンまつり、お花見ケバブ。
春爛漫を楽しむ食い物の言葉というのは、世に多々色々、あるもので。
今回は桜とお菓子とグルメと、不思議な子狐が出てくるおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の宿坊に、稲荷の子狐と和菓子屋の化け子狸と、
それから別の世界から仕事でやってきた管理局員が、それぞれ、「春の美味しい」を持ち寄って、
秘密の春爛漫会合を、開催しておりました。

「キツネは、キツネはね、まず、フキの肉づめ」
稲荷神社在住のコンコン子狐、母狐が宿坊の厨房で作ってくれた大きな大きなお弁当箱の、フタをよいしょ、開けました。
「それから、フキの天ぷら、ワラビとおニクのあぶらいため、おあげさんの肉づめ」
子狐が持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、早春の山菜がいっぱい!
「あのね、キツネ、イチバンおいしーのは、コレだとおもう。おニクとキノメ、木の芽」
最後に出したのは鶏肉の甘じょっぱ煮に、山椒の新芽を添えたピリ辛メニュー。

「わぁ……いいよ、イイよぉ……」
秘密会合唯一の人間、「ドワーフホト」というビジネスネームの女性が、幸福のため息をひとつ、
はわぁ。吐きました。
「あたしが持ってきたジュースに、合いそう」

「次は、僕だ」
和菓子屋さんで見習いをしてる化け子狸が、2段の木箱をゆっくり、開けました。
「春だから、僕、お花の和菓子と、おまんじゅう、がんばって作ってきた。
お花のネリキリ、おはなのワサンボンって砂糖菓子、お花見団子、あとサクラのおまんじゅう」

化け子狸が持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、春の花がいっぱい!
「おはぎもあるよ」
みて、みて。白あんをサクラの色に染めたおはぎの上に、本物の桜の花を添えて、季節感もばっちり。

「うぅ〜、どれから食べるか、迷うよぉ」
ドワーフホトは子狸の、一生懸命作った和菓子に一目惚れ。だってすべてが、今日のため、この春爛漫な秘密会合のためだけに、作られたのです。

「よぉし!最後は、あたしだよー!」
唯一の人間のドワーフホト、満を持して、持ってきたものをお披露目です。
「少しずつお湯で溶かして楽しめる、スープ系とか飲み物系とか、持ってきたぁ!
コンちゃんの山菜料理に合いそうな、新玉ねぎとか新じゃがとかのお味噌汁の味噌玉でしょ〜、
ポンちゃんのお菓子に合いそうな、桜の緑茶とか紅茶とかぁ、あと、山椒の香りがするジュースぅ!」

ドワーフホトが持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、花と美味の香りがいっぱい!
「個人的に桜とチェリーの紅茶はマストぉ〜」
タパパトポポ、とぽぽ。
さっそくドワーフホト、ティーセットを引っ張り出して、ティーバッグにお湯をそそぎました。
「あとねぇ、今日来れなかった友達から、ミカンの花とミカンジュース預かってきた〜」

「キツネ、この、おあげさんにする!」
ドワーフホトが持ってきた油揚げ味噌汁の味噌玉に、早春の山菜を並べた子狐は大興奮!
「僕はこれだ、桜のかおりがするお茶!」
ドワーフホトが持ってきた桜緑茶のティーバッグに、花のお菓子を並べた子狸も大喜びです。

さぁさぁ、皆で春爛漫、山菜の天ぷらと花のお菓子を食べながら、それらを繋ぐ飲み物を飲もう。
稲荷の子狐と和菓子屋の化け狸と、それからドワーフホトのビジネスネームを持つ女性は、笑って仲良く秘密の会合。春のグルメ祭り。
次は誰を誘おう、何を持ってこようと、
わいわい、わいわい。語り合ったとさ。

3/27/2025, 9:51:38 AM

「3年も『書く習慣』で連載モドキしてるおかげで、キャラクターというか組織というか、それはけっこう増えたから、ネタは色分けしてるわな」

先月「君と見た虹」のお題を片付けた某所在住物書きである。今回は別の七色を書くために、「医療 七色」を検索したり、「食の七色」を調べたり。
結果、面倒になって検索スクショをすべて消した。

何が悲しくて健康食としての「七色料理」を説教よろしく書かねばならぬのだ。
「フルーツサンドイッチにフルーツジャムで七色、とかならアリか……?」
いちご、みかん、黄色と緑のキウイ、以下略。
できないこともない。 ただ青と藍色は?

――――――

先月のいわゆる「七色」、虹のお題では新札の、ホログラムを七色に見立てて投稿した物書きです。
今回は別の七色のおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこはたとえば、自分の世界から別世界への渡航申請を受理したり、密航者を取り締まったり、
あるいは、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界で悪さをしないよう、回収して適切な方法で保管したり、活用したり。
いろんな世界のために、いろんなことを、アレコレやっている組織なのでした。

ところでその「世界線管理局」の局員、実は最近、都内某所に出没しておりまして、
理由がなんとも単純明快。
滅んだ世界から逃げ延びてきた難民が、密航の形で「こっちの世界」に渡ってきまして、
東京の雑踏に、紛れて隠れ住んでおるのです。

異世界からの密航は、「その世界」の文化と生活と、その世界自体の独自性を崩すリスクです。
ましてや異世界渡航が夢物語でしかない「こっち」の世界に、本物の異世界人が入ってきて、好き勝手に異世界技術を行使しては。
「こっちの世界」の「常識」が壊れてしまいます。

こっちの世界が「こっちの世界」のまま、自分たちの知識と技術と運でもって、
どこかの真似事ではなく、独自の技術を確立して、独自の成長を成し遂げられるように。
世界線管理局は今日もどこかで、異世界人による密航や違法行為を、取り締まっておるのです。

ところで今回のお題は「七色」です。

実は東京から異世界の密航者を、管理局内の難民シェルターに護送してきた管理局員が、
護送の途中で「七色」の美味を昼食に食べまして、
本人、その料理をいたく気に入ったのに、
美味かったその七色料理の名前を忘れたのです。

「くそっ、思い出せん、もどかしい!」
ぐるるるる、うぐぐぐぐ!
七色のお題回収役、七色料理を東京で食ってきた特殊即応部門長、ルリビタキが頭をガリガリ。
七色料理の名前を思い出せず、悶絶しています。
「美味かったんだ、甘じょっぱいというか、しょっぱ辛いというか、唐辛子の少しの辛さがだな、
そのタレと一緒に食った肉が最高だったのに!」

あの美味は何だ、何という食い物だったんだ。
管理局に就職してから異世界グルメを覚えたルリビタキは、自分のデスクで「七色」を食った記憶を、掘り返して、掘り返して、
名前だけ思い出せなくて、がるるるる、ぐるる!

「召し上がった店にもう一度、行ってみてはいかがです?それはご存知でしょう?」
部下のツバメがやってきて、ルリビタキに新規出動要請のリストを渡しながら正論をぽつり。

「それが分かれば苦労しない」
正論のツバメにルリビタキ、反論します。
「護送対象が『どうしても東京を離れる前に食っておきたい』と行った飯屋だ。俺には分からん」

「和洋中、伊仏、どのあたりの料理でした?」
「漢字ばっかりだった」
「和食か中華ですね。で?」

「七色くらいあった」
「彩りが多いなら、和食かもしれませんね。色は」
「茶色と赤とオレンジと、黄色と濃い茶色とk」
「待った待った。待ってください。
それ『七色』って言います?」

「七色だろう。茶色、赤、オレンジ黄色、濃い茶色、あと黒と白。そら、七色だ」
「白は白米として」
「こんにゃくだった」
「こんにゃく」

ポカンとするツバメを置いてけぼりに、ルリビタキは美味の七色を、遠くを見ながら思い出します。
「美味かったんだ……」
最終的にルリビタキ、都内の現地住民に情報を渡して、料理の名前を推理してもらったところ、
無事、それが「野菜マシマシのピリ辛あんかけごぼうこんにゃく」であったと判明。
『そりゃ分かりませんよ』。正解を聞いたツバメは大きく、短いため息を吐いたとさ。

3/26/2025, 9:11:56 AM

「記憶力、記憶保持、記憶器官、記憶装置。
長期記憶とか短期記憶とかのハナシも書ける」
他には何があったかな。某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、ぽつり、ぽつり。
去年「遠い日の記憶」を書いて、先月「未来の記憶」のお題が配信されたのは、記憶に新しい。

「記憶にございません」はよく用いられている言葉である。物書きも先日使った。
ガチャ石である。50連分である。
「いけると思ったんだよ。……だけどな」
おかしいなぁ。ピックアップが当たらないし、ガチャ石も消えてしまった。
それらはどこへ消えたのだろう。

――――――

自分の記憶力に自信が無い物書きです。
「書く習慣」に使えそうなネタはなるべく、メモとして残すようにしているものの、
何故「その文字」をメモったのか、記憶に残っていない場合もあったり、なかったり。

『人は腹が減るとロクなことを考えない』。
何にひらめいて何を書こうとしたんでしょう。
と、いうハナシは置いといて。
今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某深い深い杉林の中に隠れて、立派な建物が建っており、それは通称「領事館」といいました。
「お久しぶりです。どうです、もう慣れましたか」
「少しだけ、慣れた気がします」
その領事館はこの世界の、どこの国のものでも、どの星や銀河のものでもなく、
つまり、「ここ」ではない別の世界に本拠地を置く組織が開設した領事館。異世界から「この世界」に避難してきた難民のための領事館でした。

領事館の所有者は、「世界多様性機構」。
滅びそうな世界に取り残されている人々を、他のまだ生きている世界に「密航」させて、
違法ながら、しかしそれによって、多くの異世界人の命を救っておったのでした。

「領事館」は密航に成功した異世界難民のための、世界多様性機構による支援拠点。
領事館を訪れたエルフ耳も、つい先日崩壊した故郷から逃げてきたばかりの異世界人です。
この世界に密航してきて、エルフ耳異世界人さんの東京生活も、はや1週間。
東京での新生活にあたって、現地住民からイジワルされていないかとか、困りごとは無いかとかを、
密航と定住の支援をしてくれた領事館に、エルフ耳異世界人さん、報告しに来たのです。

「すごく不思議な気分です」
領事館の館長さんから出されたお茶を飲みながら、エルフ耳異世界人、言いました。
「この世界は、私の故郷にとてもよく似ています。
文化レベル、言語、気候、気温。どれも私の、滅んだはずの世界の記憶を呼び起こします」

そうですか、それは良かった。
言おうとした館長さんでしたが、
「でも、」
エルフ耳異世界人、寂しそうに付け足します。
「故郷の世界の記憶を呼び起こされるからこそ、時折感じる『故郷』との違いが、苦しくなります。
絶妙に似ていて、微妙に違う。現地住民の優しさと
親切が、時折怖く感じるのです」

なんで怖いんですか?
何か、現地住民にイジワルされたんですか?
お茶のおかわりを注ぐ職員さんが、エルフ耳さんに聞こうとすると、
領事館の館長さん、黙って職員を右手で制します。

館長は事前に、知っておったのです。
エルフ耳さんの故郷では、膨大な魔力を持つこのエルフ耳さんは、被差別対象だったのです。
なんやかんや、アレやコレや、色々耐えて忍んできた世界の記憶が、東京の景色に重なるのです。
記憶とのズレが、怖いのです。

「どうしてもツラくなってきたら、我慢せず、我々領事館に御一報ください」
領事館の館長さん、エルフ耳さんに言いました。
「至急、別の定住先を探します」

「ありがとうございます」
深々とお辞儀をして、エルフ耳異世界人、領事館から出てゆきました。
「苦しくなったら、よろしくお願いします」

それから後のエルフ耳さんの行方を、領事館が知ることはありませんでした。
密航がバレて管理局に保護されてしまったか、領事館を頼る必要が無いくらい生活が安定したか。
ただ、このおはなしから1ヶ月後、領事館に切手も消印も無い手紙が届いて、
ただ短文、『お世話になりました。おかげで本当の安全を得ました』と、書かれておりましたとさ。
おしまい、おしまい。

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