「火山涙あるいはペレーの涙、オランダの涙、蝋涙(ろうるい)に血の涙、雀の涙。
『黄なる涙』なんて言葉もあるのか。へー」
キレイな宝石に「◯◯の涙」って名前が付くこともある気がする。某所在住物書きは「涙で終わる言葉」を検索しながら、茶を飲み、むせて涙。
ところで今の時期に涙といえば、花粉症。
今年も多いらしい。 今年も酷いらしい。
北海道は杉がそもそもほぼ植樹されておらず、かわりにシラカバの木が比較的多いと聞いた。
「花粉症か」
物書きは考える。
「チートアイテムとかチート能力とかで、花粉全部吹き飛ばしたり、消したりできんかな」
世では無花粉杉を絶賛量産中とのウワサである。
――――――
雨を「空の涙」と表現することもあります。
ゲリラ豪雨は号泣、天気雨は嬉し涙。
時折カッコいいオッサンが雨の中で倒れていて、
同じくらいカッコいいニーチャンが、そのオッサンを抱きかかえて涙の咆哮をするシーン、
なんてのも、まぁベタだろうと思います。
そんな空の涙を、実は今の時期、すごく待ち望んでいる人外が、都内某所、某杉林の奥におりまして。
通称「領事館」なる不思議な館に居る人外は、ビジネスネームを杉、もとい「スギ」といいました。
「うぅぉおおおおおおお!!雨だ!あめだ!」
いつもは人間の姿に化けて、領事館で館長の仕事をしているスギさん。
「今日は何でもできる!何したってヘッチャラだ」
実はふさふさモフモフの獣人さんでして、
しかも、まさかのスギ花粉症持ち!
「おおお、うおぉぉぉ!っしゃぁぁぁぁ!」
異世界から東京に赴任してきた翌年に、スギ花粉症をガッツリ発症してしまったスギさんは、
今の時期、本性のモフモフを出してしまうと、黄色いスギ花粉が大量にふさふさ体毛に付着して、
涙はダバダバ、鼻水はぐしゅぐしゅ!
ただでさえ重度の花粉症が、更に、さらに、重篤になってしまうのです!
雨が降ればそんな涙も、鼻水だって大幅に緩和!
『その雨デバフ、天の涙デバフがかかっているのに、今年はなんだか目がかゆい』?
構いません!晴れてる日よりはマシなのです。
モフモフ獣人スギさんは、花粉が洗い流されてゆく雨の日だけ、本来の姿に戻ることができるのです。
「ああ、サイコーだ。目があまり、かゆくない!
涙も出てこない、鼻もそれほどぐずぐずしない!
なにより俺の毛に花粉がくっつかない!」
ごろんごろん、ゴロンゴロン!
獣人スギさん、今の時期は空の涙を、ずっと、ずーっと、待っておるのでした。
「よし!今のうちに、できることを全部やる!」
雨天の小さな幸せを、無駄にせず、余す所なく。
モフモフ獣人スギさん、ひとしきりゴロンゴロンのパタンパタンしてから、
猛烈な勢いでもって、書類の確認とサインと返信と連絡とを、しゅばばばばっ、バババ!
一気に片付け始めたのでした。
「館長さん、機構本部からお手紙です」
「よし!そこに置け!」
「スギ館長。今月かかった費用と、来月かかると思われる予想、それから杉花粉の飛散予測です」
「よし!こっちに置け!」
「館長。管理局から『違法密航異世界人の通報』に対する感謝と謝礼が」
「すぐ領事館専用口座に突っ込め!!」
ああ、ああ!素晴らしい! 雨のおかげで杉花粉が、スギさんに悪さをほとんど為しません。
おかげでスギさん、晴れの日風の日等の十倍も百倍もすごいスピードで、仕事を片付けてゆきます。
「スギ館長、空気清浄機の掃除は」
「念っッ入りにやってくれ!!」
しゅばばばばっ!バババ!
モフモフ獣人のスギさん、通称「領事館」の館長として、為すべきすべてを猛スピードで為しました。
杉花粉が天の涙で、なりを潜めている間に。
杉花粉が花粉症持ちに、悪さをできない日の間に。
東京は明日、晴れ予報。
雨上がりのスギ花粉は、それはそれは、もう、それは。酷く猛威を振るうのです。
「館長さん。申請があと、50件たまってます」
「問題無い!今日のうちに!終わらせる!!」
「館長。予報では明後日から3日間、雨です」
「ぉおおおおおっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」
急げ、いそげ!
異世界から杉花粉多い東京に赴任してきた、ビジネスネームが「スギ」の獣人さん。
天が涙をこぼす雨の日と、杉花粉のオフシーズンだけ、100%のパフォーマンスが出せるのです。
明日は雨が降らない。スギさんは明後日からの雨天で最高のランチと、ティータイムができるように、
ラストスパート、晴天で溜まった仕事を一気に片付けて、執務室の掃除まで終えたとさ。
「館長さん、館長さん!」
「なんだ!」
「管理局からの謝礼を全額使えば、◯◯リの花粉シャットアウトカーテンを、導入できます」
「……保留!!」
3/30/2025, 3:00:06 AM