「単語でも文章でもないお題ってのは、ずいぶん珍しいような気もするわな」
そっと、そっ閉じ、卒倒、出そっと、ソットーリオ。 ひらがな表記であれば漢字変換で、お題をどうとでもイジれる。
俺の十八番よな。某所在住物書きは珍しく、配信されたお題に小さく笑った。
「去年の14日配信は、『どうして』だった」
ところで、そっとーりお、なる料理は初めて知った物書きである。
イタリアの油漬けらしい。美味いのだろうか。
――――――
最近最近の都内某所。
お題回収役を藤森といい、丁度、仕事を終えて自分のアパートに帰ってきたところ。
2024年度はこの藤森にとって、騒動に騒動が重なった年度で、
職場に元恋人が就職してきたと思ったら、ヨリを戻そうと藤森を探し始めて、
最終的に、藤森の友人に計略を仕掛けられ、逃げるように退職、退散していった。
一見略着、大団円と思っていたところ、
今度は、藤森の待遇をよく思わない総務課係長が、藤森の仕事に対してイヤガラセをしてくる始末。
もちろん、解決した。
「来年度は、平和な年度であってほしいな」
2023年度も散々な年度だった。
藤森は一昨年の惨状も思い出す。
アレがあって、ソレがあって、そうだ自分の高葉井をオツボネ係長がチクチクしたのも、たしか一昨年――左遷させられた彼女は今頃どうしているだろう。
「ん?」
そんなこんなで、自分のアパートの郵便受け・配達受けコーナーにたどり着いた藤森。
「郵便?」
自分の部屋の番号が書かれたポストに、自分の前々職の図書館から、茶封筒が届いていたのに気付いた。
差し出し担当者の、名前を確認すると、
「『付烏月 殻花』……ツウキさん?」
すなわち、上記の「元恋人が就職してきたときに、計略を仕掛けて恋人を退散させてくれた」、「藤森の友人」からであった。
「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む彼は、
去年の暮れに、藤森の職場から離れて、藤森の前々職であるところの図書館に転職した。
彼が今頃、藤森に何の用事だろう。
ビリビリビリ。 その場で茶封筒を開ける。
中には白紙の履歴書と、その履歴書に貼られた弱粘着タイプのメモ用紙。
メモにはこう書かれていた。
『お前の後輩ちゃんは預かった!
てことにしたいから、図書館に戻ってきて
*´ω`*)ノシ マッテルヨ〜 付烏月』
「……」
ここでお題回収。
藤森は、そっと、封筒を閉じた。
――時間が過ぎ、場所も変わって、
藤森は藤森自身の部屋に戻ってきた。
「付烏月さん。お久しぶりです」
すぐに手に取ったのはスマホである。付烏月の番号は知っていた。
「アパートで封筒を受け取ったが、その、アレは一体、どういう意味で……?」
『そのまんまの意味だよん』
電話の向こうの友人は、相変わらずの明るい声で、メモの内容を嘘かドッキリのように錯覚させる。
ただ、付烏月の更に向こう側が、どうにもこうにも、騒がしい。
轟音と怒声と誰かの叫び声とで、付烏月が居るであろう空間は混沌としている様子。
『お前の後輩ちゃんに、後輩ちゃんの推しがウチの図書館に来てる風景の画像を見せたら、
後輩ちゃん、「このハイクオリティーなレイヤーさん、付烏月さんの職場に来るの?!」って』
「はぁ」
『職場だけ違う同僚だから、ウチの図書館で仕事してたら会えるかもよーって伝えたら、
「藤森先輩次第で転職する!!」って』
「は……」
『とゆことで、後輩ちゃんをウチで預かりたいので、お前も前々職の図書館に戻っといで』
「その前に、あなたの向こう側が随分騒がしいが、何がどうなって」
『気のせいだよん』
じゃ、イイ返事、よろしくねー。
付烏月が明るい声で通話の終わりを告げるその奥で、相変わらず混沌は続いている。
今日という今日はゆるさん!覚悟しろ!
部長!!落ち着いてください!!
はなせッ!!離せ!こいつのバグった思考回路を叩き直してやる!!
あなたが本気出したら!叩き直すどころか!叩き壊すでしょってェ!!
ぎゃーぎゃー、ずどどど、ちぴゅーん。
「なんなんだ。いったい……」
2度目のお題回収。藤森は混沌音声飛び交う通話の終話ボタンを、そっと、タップ、タップ。
付烏月が自分と通話している間、彼の周囲で何が発生していたのか、藤森は理解できない。
ただ確実なのは、藤森の後輩の推しによく似たコスプレイヤーが付烏月の職場に居て、
そのレイヤーに会うため、後輩が藤森の前々職に転職しようとしていることである
……たぶん。
『景色』に関しては、9月に『窓から見える景色』っつーお題があった」
随分と、最近、お題の差し替えが多い。
これまで投稿してきた約680個分のお題を思いながら、某所在住物書きが呟いた。
「『まだ見ぬ』の理由が、
自分が見たくないから見てないのか、
見たいけどまだ見ることができない景色なのかで、変わってくるだろうな」
自分が見たくないから見てない景色ねぇ。
心当たりのある物書きである。それはすなわち、去年の合計課金額である。
見たいけど見られない景色ねぇ。
それも心当たりのある物書きである。それはすなわち、札束でパンパンの財布である。
「……今年は節約、せつやく、……くぅ……」
――――――
1月は、2024年度の終わりに近づく時期であると同時に、2025年度に向けた準備が始まる時期でもあるように思います。
ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
「この」世界とは違う、別の世界からやってきた、「世界多様性機構」とかいう厨二ちっくファンタジーな組織の活動拠点が、
すなわち、杉林の中に隠れて、美しい洋館スタイルの豪邸として建っており、
通称、「領事館」といいました。
世界多様性機構は、その名のとおり、世界の多様性を第一に考える組織。
滅びゆく世界の難民を、可能な限り救助して、まだ元気な世界に「密航」の形で、送り届け、そして「領事館」で彼等の支援をするのです。
「密航」がバレると、敵対組織の「世界線管理局」に、世界間の違法渡航として捕まります。
管理局を妨害するのも、領事館のお仕事。
管理局から難民を守るのも、領事館のお仕事。
滅んだ世界の難民は、東京のコンクリートジャングルと、LEDの強烈な明かりの中で、
初めて見る景色に驚き、
まだ見ぬ景色を思い描いて、
崩壊の恐怖から程遠い「この」世界で、一時的な休息に心魂を癒やしてもらうのです。
さて。今日はこの「領事館」に、「この」世界のお隣さんを故郷に持つ元難民さんが、
領事館の新人職員として、着任しまして。
さっそく、自己紹介などしておりました。
「『アテビ』のビジネスネームを頂いて、今日付けで、『領事館』に着任しました!」
数年前、こことは違う世界で、領事館の世話になったという新人さん。
明るい声で、領事館長に挨拶です。
「難民の皆さんが『この世界』で快適に過ごせるように、全力を尽くします!」
実は世界多様性機構、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
それらは全部、植物の名前と呼び名で、統一されておったのでした。
ちなみに『アテビ』はヒノキ科アスナロ属、ヒノキアスナロの別名だそうです。
「この領事館の館長の、スギだ」
館長さんも、館長さんの部下もまた、「この」世界の出身者ではありませんでした。
「まず、この世界で生活するにあたって、先に言っておくべき重要事項がある。
『スギ花粉症』だ。
絶対に、1月後半から7月までは、領事館の窓を開けるな。
特に2月から5月の間は、領事館の外から帰ってきた際、館内に入る前に、第一玄関で上着を脱ぎ、足まわりのコロコロを欠かすな」
「すぎかふんしょ?いちがつから……?」
随分とまぁ、注文の多い領事館だことで。
新人アテビ、言われた重要事項の意味と理由が分かりません。
というのも、アテビの故郷の世界には、「花粉症」というものが無かったのです。
領事館長も、花粉症を知りませんでした。
知らずに「この」世界で、自分のビジネスネームの花粉をノーガードで浴びて、
結果、自分のビジネスネームの、花粉症を発症したのでした。
「アレルギーの一種で、『この』世界の主要な風土病のひとつです」
スギの2人の部下のひとり、花粉症を知らない「ヒバ」が言いました。
「時期が来れば、分かりますよ。世界に黄色が飛び交って、世界が黄色で染まるんです」
2人の部下のもうひとり、花粉症も食物アレルギーも知らない「アスナロ」が言いました。
「世界が、黄色で染まる……!」
スギ花粉を知らぬ新人アテビ、まだ見ぬ黄色の景色を想像します。
きっと、それは美しい光景です。
きっと、それは幻想的な光景です。
「私、黄色、大好きなんです」
無機質で殺伐とした第一印象のこの世界が、黄色い花か霧か、鳥の群れか知りませんが、
それらでいっぱいになるのだと、思いました。
実際は、アレがドッパで、風でびゅうびゅうで、
ああ、語るも恐ろしく、記すも憎らしい。
「いいな」
スギ花粉症持ちの館長スギさん、新人アテビに再度、入念に、クギをさしました。
「絶対、ゼッッタイ、窓を開けるなよ!」
スギ花粉が「まだ見ぬ景色」という、幸運で幸福な新人アテビの、未来やいかに……?
「ひらがな表記のお題は、個人的に、だいたい漢字変換に逃げ道があると思ってる」
ほら。たとえば「あの、夢野 津々木を、窓口に出してもらえませんか」、とかさ。
某所在住物書きは相変わらず、過去配信分のお題を確認している。 これまでも何度か、漢字変換でお題を乗り切ってきたのだ。
たとえば最近では「あ戦いね」とか。
「なるべく、第一印象から離れたアイデアにも、目を向けるようにはしてるぜ」
物書きは言う。 というのも、「夢」のお題はこれでかれこれ3〜4例目なのだ。
「ただ、ド直球にストレートなネタも、時には書きたくなるんよな……」
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、遊びざかりの食いしん坊。温かい油揚げや甘いホットミルク、その他美味しいものは何でも大好き。
その日は、優しい魔女のおばあちゃんの喫茶店で、ぐーすぴ、かーすぴ。
ヘソ天キメて、寝ておったのでした。
夢の中で子狐は、綺麗な紅白のしめ縄と金色の鈴、それから真っ赤な前掛けでおめかしして、
堂々と、稲荷神社の拝殿で、招き猫ならぬ招き子狐ポーズをしておりました。
『偉大なる御狐様。ジャーキーをお持ちしました』
子狐の右隣には、優しい犬耳のおばちゃん。
『偉大なる御狐様。ジャーキーを召し上がる前に、是非一度、俺と鬼ごっこを』
左隣には、よく遊んでくれるタバコのオッサン。
双方、子狐の夢補正によって、子狐を丁寧にお世話しています。
おや。子狐を巡って、夢の中のおばちゃんと、お得意様とが、言い争いを始めたようです。
『お前ら全然分かってねぇな。御狐様に今必要なのは、俺様のミカンとコタツだ!』
『分かっていないのは、あなただ。子狐が今欲しがっているのは、ミカンでも、コタツでもない』
『これ。けんかは、やめるのです』
夢の中のコンコン子狐、満足そうな笑顔をして、尻尾も少しだけお上品にぶんぶん振って、
夢の中のみんなに言いました。
『キツネは、これから、おひるねをします。
おとくいさん、キツネに、あったかいオフトンと、あったかいマクラと、あと、
えほんを、もってきて、えほんをよみなさい』
『はい、子狐。ただいまお持ちします』
夢の中のお得意様は、深々とお辞儀をして、子狐の前から居なくなりました。
『では、御狐様。お昼寝の準備が整う間――』
そして、お得意様の代わりに、コーヒーのおじちゃんと、お化粧のお姉さんがやってきて、
それから、ああ、それから……
――「んん、くるしゅない、くるしゅない……
あれ、 ジャーキー、どこ……」
気が付くとコンコン子狐は、夕暮れの都内の稲荷神社に至る道路を、子狐の商売のお得意様に暖かく抱きかかえられて、
ぬくぬく、ぬくぬく、運ばれておりました。
「寒かったか?」
冷たい風に当てられて子狐が起きたと思ったお得意様。自分の体温で暖まったマフラーを取って、オフトンよろしく、それで子狐を包んでやりました。
「お前の母さんから、お前を迎えに行くように言われた。晩飯は、鶏の照焼きと稲荷寿司だとさ」
「おにく、おいなりさん、」
おやおや。子狐、寝ぼけているようです。
「くるしゅない。くるしゅない……」
マフラーのぬくもりで、むにゃむにゃ、こやん。
コンコン子狐は幸福に、また、ぐーすぴかーすぴ。
ソッコーで、寝てしまいます。
きっと、あの夢のつづきを、見ているのでしょう。
きっと、あの夢の中でも、お昼寝の準備を見守っているのでしょう。
そんなことは知りもせず、子狐を迎えに来てくれたお得意様は、子狐を優しく抱っこしたまま稲荷神社に入っていったとさ。 おしまい。
「去年は『寒さが身に染みて』だった」
ちょっと書きやすく修正されたカンジはする。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、呟いた――これで5日連続の、お題差し替えであった。
「別にお題、変えても俺は構わねぇけどよ。
あの、『Web版』の方、2023年頃配信されたお題ラインナップから、一切変更されてねぇよな?」
「Web版」とは何か。ナイショである。
ところで。
「ひらがなのお題は、結構、自由度が高い」
物書きは考える。
「『あ、戦いね』とか、『阿多田か伊根』とか、漢字変換が可能なんよ。だって『暖かいね』でも、『温かいね』でもねぇからな」
今回は戦いの方で行かせてもらうぜ、と物書き。
すなわち、以下のおはなしである。
――――――
前回からの続き物。「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なんて厨二ちっくファンタジーな団体組織がありまして、
そこはビジネスネーム制を採用しており、全員、動物の名前で統一されておったのでした。
今日のお題回収役は、ドワーフホトと言いまして、ウサギのビジネスネームの持ち主。
同期で友達のスフィンクスから頼まれた用事を、丁度やり終えて職場に戻ってきたところでした。
「うぅぅ。にがい。すっぱい。しぶいぃ……」
自分の同僚で先輩で師匠、アンゴラに、スフィンクスが作った「未来への鍵」を持っていって、手渡すまでが用事だったのですが、
この鍵の不思議なチカラによって、ドワーフホト、
東京全土の「酸っぱい」と「渋い」と「渋&酸の合体技としてのニガい」を合わせて煮詰め凝縮したような金平糖によって舌が総攻撃を受けまして。
本当に、ほんとうに、酷い目に遭ったのでした。
「ひどいよぉ。 ひどいよ、スフィちゃん……
あたし、スフィちゃんに何か、うらまれること、
……少なくとも『恨まれることは』してないよぉ」
わぁん。スフィちゃん、鬼ぃ。鬼畜猫。
舌に残る酸味と渋味と苦味の記憶を、濃厚生シュークリームのホイップで誤魔化しながら、
ドワーフホト、職場に戻ってきたのでした。
「鍵、ちゃんと手渡してきたよ」とスフィンクスに、報告するまでが用事です。
ところでスフィンクスが仕事をしている筈の経理部のあたりが、どうもこうも、賑やかですね……?
「賑やか、っていうより、さわがしーよぉ?」
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!!
スフィンクスが居る経理部に、近づくにつれて場違いな、戦場のごとき魔法発動音が響きます。
ズダダダダ、スパパパパン!!
スフィンクスが居る、経理部のコタツに近づくにつれて、魔法の防御音や無効果音も届きます。
「あ、たたかいね。戦いの音ねぇ……」
そうです。「あたたかいね」を、「あ戦いね」に変換して、お題を回収するおはなしなのです。
で、誰と誰が戦っておるかと申しますと。
ドワーフホトの舌を酸味と渋味と苦味でコテンパンにしてしまったスフィンクスと、
ドワーフホトと同じ目に遭わされた、総務部総合案内課の、コリーです。
「今日という今日は許さんぞスフィンクス!!」
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!!
普段は受付に居る犬耳コリー、「本来の姿」に戻って牙をむき出しにして、光の弾をぶつけます。
「私を、実験のネズミ同然に使いおって!!」
相当キレているようです。そりゃそうです。
前回投稿分の「未来への鍵」と同じ製法で作られた酸味と渋味と苦味の金平糖を1粒、
それから同じ製法で作られた激辛の金平糖を2粒、
実験として、食わされたのですから。
「ハーッハッハッハァ!!
効かねぇな!全然効いてねぇぜ、駄犬ちゃん!」
ズダダダダ、スパパパパン!!
コリーの本気を爆笑しながら、全弾防御して無効化して、爆笑してるのがスフィンクスです。
「俺様の傑作、24機の不知火とデコ〜ポンの前には、すべてが無力なのだぁ!!」
キングマンダリンの統合合体承認、する必要も無いぜぇ!ふぅはははァ!!
爆笑スフィンクスを守るのは、24個と1個、「しらぬい」タイプのミカンたち。
ポォンポォンと跳んではねて、小さなエネルギーシールドを展開して、コリーの攻撃をことごとく、全部無駄無駄してしまうのです。
「これが、俺様の至宝、水晶文旦と日向夏を守護する精鋭の実力、その4分の1だぜェ!
はははっ!!ハァーッハッハッハァー!!」
「うぅーん……」
駄犬と鬼畜猫が経理部で、ズドドドスパン、とっても楽しそうにじゃれておるので、ドワーフホトは用事完了を報告できません。
「あとでで、良いよねぇ」
しかたない、しかたない。すべては「あ戦いね」のお題回収の影響です。
ドワーフホトは諦めて、一旦、自分の収蔵部収蔵課のブースに戻ることにしたそうな。
おしまい、おしまい。
「未来への鍵垢、未来への鍵外し、未来への鍵点検。『鍵』っつー単品をネタにするだけでなく、SNSとか点検動作とかの物語も書けそうだな」
まぁ、今回はガッツリ、ファンタジー爆盛りのフィクション書いたけどさ。
数回消して書き直してまた消してを繰り返した某所在住物書きは、最終的に投稿文章の妥協案を探し出して、文字通り「未来への鍵」の物語を完成させた。
個人的には茶会のような、オシャレなハナシを書きたかったのだ。それこそ糖分マシマシな、エモいものをたまにはひとつ、書きたかったのだ。
ただの毎度恒例食い物フィクションである。
「まぁいっか」
物書きは再認識した。 自分とエモは相性が悪い。
――――――
昨日投稿分からの続き物。最近最近の都内某所、魔女のおばあさんの喫茶店が舞台です。
稲荷神社の子狐が、金平糖のボトルのフタを取ってほしくて、前回、喫茶店にご来店。
取ってもらった金平糖は、1人のお客さんと、
コンコン子狐と魔女の店主さんとでもって、
仲良く分け合って、カリカリ、コリコリ。
甘い金平糖を幸福に、おなかに収めた子狐は、すっかり満足してしまって、
店主の膝の上で、ヘソ天して、ぐーすぴ。
お昼寝など、始めてしまったのでした。
ところで「1人のお客さん」、何が目的で魔女の喫茶店に来たのでしょう?
そこからが今回のお題の、はじまり、はじまり。
魔女の喫茶店に来ていたお客さん、ビジネスネームをドワーフホトといいますが、
店主の魔女・アンゴラに、レモンの薄黄色に美しく光る鍵を手渡して、言いました。
「スフィちゃんがねぇ、『頼まれてたヤツが完成したから、アンゴラに持ってけ』、ってさー」
客のドワーフホトが持ってきたのは、
魔女の喫茶店で新しいサービスを始めるための、
すなわち、文字通り、「未来への鍵」でした。
「あらあら。ありがとう」
これで、新しい商売ができるわ。
店主のアンゴラ、レモンの鍵と、その説明書とを受け取って、穏やかに優しく笑いました。
くしゅっ、くしゅん。
「商売」の漢字二文字に反応して、お昼寝中のコンコン子狐、くしゃみなどして目を覚まします。
さすが商売繁盛・五穀豊穣の稲荷狐。そういう言葉を、まるで「犬にジャーキー」、「猫にちぅーる」のように、本能的に好むのです。
周囲を見渡して、「商売」を探して、見つからないので毛づくろい、からの……
途中で電池が切れまして、ぐーすぴ。またヘソ天をキメてお昼寝を再開したのでした。
「最近ね」
アンゴラが言いました。
「心魂を濁らせて私の店に来るひとが、本当に、ほんとうに、多くなってしまったのよ」
ドワーフホトが持ってきた「未来への鍵」、「魔女の喫茶店の新サービス」を、
店主アンゴラ、アンティークの不思議なオルゴールに差し込んで、カチリ、回しました。
すると、どうでしょう。
ポン、ポロン。ポン、ポロン。
オルゴールが小さな小さな金属音を奏でるたび、
コン、コロン。カタン、コトン。
オルゴールの下に付けられた引き出しの中に、レモンの色した少し大きめの金平糖が、ゆっくり、ゆっくり、溜まっていくではありませんか!
「周囲の人の心魂の、錆だの渋だのを研磨して、レモンピールの苦みと香りに変換する鍵よ」
店主のアンゴラが、ドワーフホトに説明します。
「金平糖が溜まっているように見えるけれどね。
見た目に騙されてはダメよ。レモンだもの」
さぁ、どうぞ。
オルゴールの下の、引き出しを開けて金平糖を1個、つまみ上げた店主のアンゴラ。
指の中で金平糖を転がして、イタズラに微笑すると、淹れたばかりの紅茶にポトリ。
これみよがしに、落とします。
さぁ。
レモン金平糖入りの紅茶はティーカップソーサーにのせられて、カタン。ドワーフホトの目の前へ。
「わぁ。ちゃーんと、レモンだ」
差し出された紅茶の香りを吸い込んで、少しふーふー吐息で冷まして、
ドワーフホトが、味見をします。
「あ゛ぅ! だめ、コレ、 だめぇ……!」
ひとくち含んだ途端、極限まで凝縮されたレモンの渋みと苦みと酸味が、ドワーフホトの味覚という味覚を占領して、チクチク攻撃し始めました。
「うぅ〜ぅ! 酸っ、渋……分かんないぃー!」
そういえば「未来への鍵」を受け取ったとき、説明書も一緒に貰ったような……?
「あら」
口を押さえて悶絶しているドワーフホトに、大至急ホットミルクを出動させて、
魔女のアンゴラ、説明書を確認しました。
「あらあら。ごめんなさいね」
未来の鍵の説明書には、こう書かれていました。
『!!Danger!!
飲み物1杯(約200〜400ml)につき、
かならず金平糖をすり潰して、粉にして、ひとつまみ(0.2〜0.4g)だけ入れること!
※ウチの駄犬に金平糖まるまる1個ブチ込んだ紅茶飲ませたら、酸味とシブみと苦みで11分死んだ』