『景色』に関しては、9月に『窓から見える景色』っつーお題があった」
随分と、最近、お題の差し替えが多い。
これまで投稿してきた約680個分のお題を思いながら、某所在住物書きが呟いた。
「『まだ見ぬ』の理由が、
自分が見たくないから見てないのか、
見たいけどまだ見ることができない景色なのかで、変わってくるだろうな」
自分が見たくないから見てない景色ねぇ。
心当たりのある物書きである。それはすなわち、去年の合計課金額である。
見たいけど見られない景色ねぇ。
それも心当たりのある物書きである。それはすなわち、札束でパンパンの財布である。
「……今年は節約、せつやく、……くぅ……」
――――――
1月は、2024年度の終わりに近づく時期であると同時に、2025年度に向けた準備が始まる時期でもあるように思います。
ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
「この」世界とは違う、別の世界からやってきた、「世界多様性機構」とかいう厨二ちっくファンタジーな組織の活動拠点が、
すなわち、杉林の中に隠れて、美しい洋館スタイルの豪邸として建っており、
通称、「領事館」といいました。
世界多様性機構は、その名のとおり、世界の多様性を第一に考える組織。
滅びゆく世界の難民を、可能な限り救助して、まだ元気な世界に「密航」の形で、送り届け、そして「領事館」で彼等の支援をするのです。
「密航」がバレると、敵対組織の「世界線管理局」に、世界間の違法渡航として捕まります。
管理局を妨害するのも、領事館のお仕事。
管理局から難民を守るのも、領事館のお仕事。
滅んだ世界の難民は、東京のコンクリートジャングルと、LEDの強烈な明かりの中で、
初めて見る景色に驚き、
まだ見ぬ景色を思い描いて、
崩壊の恐怖から程遠い「この」世界で、一時的な休息に心魂を癒やしてもらうのです。
さて。今日はこの「領事館」に、「この」世界のお隣さんを故郷に持つ元難民さんが、
領事館の新人職員として、着任しまして。
さっそく、自己紹介などしておりました。
「『アテビ』のビジネスネームを頂いて、今日付けで、『領事館』に着任しました!」
数年前、こことは違う世界で、領事館の世話になったという新人さん。
明るい声で、領事館長に挨拶です。
「難民の皆さんが『この世界』で快適に過ごせるように、全力を尽くします!」
実は世界多様性機構、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
それらは全部、植物の名前と呼び名で、統一されておったのでした。
ちなみに『アテビ』はヒノキ科アスナロ属、ヒノキアスナロの別名だそうです。
「この領事館の館長の、スギだ」
館長さんも、館長さんの部下もまた、「この」世界の出身者ではありませんでした。
「まず、この世界で生活するにあたって、先に言っておくべき重要事項がある。
『スギ花粉症』だ。
絶対に、1月後半から7月までは、領事館の窓を開けるな。
特に2月から5月の間は、領事館の外から帰ってきた際、館内に入る前に、第一玄関で上着を脱ぎ、足まわりのコロコロを欠かすな」
「すぎかふんしょ?いちがつから……?」
随分とまぁ、注文の多い領事館だことで。
新人アテビ、言われた重要事項の意味と理由が分かりません。
というのも、アテビの故郷の世界には、「花粉症」というものが無かったのです。
領事館長も、花粉症を知りませんでした。
知らずに「この」世界で、自分のビジネスネームの花粉をノーガードで浴びて、
結果、自分のビジネスネームの、花粉症を発症したのでした。
「アレルギーの一種で、『この』世界の主要な風土病のひとつです」
スギの2人の部下のひとり、花粉症を知らない「ヒバ」が言いました。
「時期が来れば、分かりますよ。世界に黄色が飛び交って、世界が黄色で染まるんです」
2人の部下のもうひとり、花粉症も食物アレルギーも知らない「アスナロ」が言いました。
「世界が、黄色で染まる……!」
スギ花粉を知らぬ新人アテビ、まだ見ぬ黄色の景色を想像します。
きっと、それは美しい光景です。
きっと、それは幻想的な光景です。
「私、黄色、大好きなんです」
無機質で殺伐とした第一印象のこの世界が、黄色い花か霧か、鳥の群れか知りませんが、
それらでいっぱいになるのだと、思いました。
実際は、アレがドッパで、風でびゅうびゅうで、
ああ、語るも恐ろしく、記すも憎らしい。
「いいな」
スギ花粉症持ちの館長スギさん、新人アテビに再度、入念に、クギをさしました。
「絶対、ゼッッタイ、窓を開けるなよ!」
スギ花粉が「まだ見ぬ景色」という、幸運で幸福な新人アテビの、未来やいかに……?
1/14/2025, 4:03:46 AM