かたいなか

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「ひらがな表記のお題は、個人的に、だいたい漢字変換に逃げ道があると思ってる」
ほら。たとえば「あの、夢野 津々木を、窓口に出してもらえませんか」、とかさ。
某所在住物書きは相変わらず、過去配信分のお題を確認している。 これまでも何度か、漢字変換でお題を乗り切ってきたのだ。

たとえば最近では「あ戦いね」とか。

「なるべく、第一印象から離れたアイデアにも、目を向けるようにはしてるぜ」
物書きは言う。 というのも、「夢」のお題はこれでかれこれ3〜4例目なのだ。
「ただ、ド直球にストレートなネタも、時には書きたくなるんよな……」

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、遊びざかりの食いしん坊。温かい油揚げや甘いホットミルク、その他美味しいものは何でも大好き。
その日は、優しい魔女のおばあちゃんの喫茶店で、ぐーすぴ、かーすぴ。
ヘソ天キメて、寝ておったのでした。

夢の中で子狐は、綺麗な紅白のしめ縄と金色の鈴、それから真っ赤な前掛けでおめかしして、
堂々と、稲荷神社の拝殿で、招き猫ならぬ招き子狐ポーズをしておりました。

『偉大なる御狐様。ジャーキーをお持ちしました』
子狐の右隣には、優しい犬耳のおばちゃん。
『偉大なる御狐様。ジャーキーを召し上がる前に、是非一度、俺と鬼ごっこを』
左隣には、よく遊んでくれるタバコのオッサン。
双方、子狐の夢補正によって、子狐を丁寧にお世話しています。

おや。子狐を巡って、夢の中のおばちゃんと、お得意様とが、言い争いを始めたようです。
『お前ら全然分かってねぇな。御狐様に今必要なのは、俺様のミカンとコタツだ!』
『分かっていないのは、あなただ。子狐が今欲しがっているのは、ミカンでも、コタツでもない』

『これ。けんかは、やめるのです』
夢の中のコンコン子狐、満足そうな笑顔をして、尻尾も少しだけお上品にぶんぶん振って、
夢の中のみんなに言いました。
『キツネは、これから、おひるねをします。
おとくいさん、キツネに、あったかいオフトンと、あったかいマクラと、あと、
えほんを、もってきて、えほんをよみなさい』

『はい、子狐。ただいまお持ちします』
夢の中のお得意様は、深々とお辞儀をして、子狐の前から居なくなりました。

『では、御狐様。お昼寝の準備が整う間――』
そして、お得意様の代わりに、コーヒーのおじちゃんと、お化粧のお姉さんがやってきて、
それから、ああ、それから……

――「んん、くるしゅない、くるしゅない……
あれ、 ジャーキー、どこ……」
気が付くとコンコン子狐は、夕暮れの都内の稲荷神社に至る道路を、子狐の商売のお得意様に暖かく抱きかかえられて、
ぬくぬく、ぬくぬく、運ばれておりました。

「寒かったか?」
冷たい風に当てられて子狐が起きたと思ったお得意様。自分の体温で暖まったマフラーを取って、オフトンよろしく、それで子狐を包んでやりました。
「お前の母さんから、お前を迎えに行くように言われた。晩飯は、鶏の照焼きと稲荷寿司だとさ」

「おにく、おいなりさん、」
おやおや。子狐、寝ぼけているようです。
「くるしゅない。くるしゅない……」
マフラーのぬくもりで、むにゃむにゃ、こやん。
コンコン子狐は幸福に、また、ぐーすぴかーすぴ。
ソッコーで、寝てしまいます。
きっと、あの夢のつづきを、見ているのでしょう。
きっと、あの夢の中でも、お昼寝の準備を見守っているのでしょう。
そんなことは知りもせず、子狐を迎えに来てくれたお得意様は、子狐を優しく抱っこしたまま稲荷神社に入っていったとさ。 おしまい。

1/13/2025, 5:56:44 AM