かたいなか

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12/8/2024, 4:41:14 AM

「随分前に、『狭い部屋』と『静寂に包まれた部屋』っつーお題なら出てた」
部屋シリーズもこれで3回目。何を書いたか過去のことは覚えていないが、まぁ、気にしない。
静寂に包まれた狭い部屋の片隅で物語を、
某所在住物書きが書いているワケでもなく、少なくとも、執筆の際、適当にBGMでも流しておるのだ。

「食い物の番組は、よく観るよな」
物書きがぽつり、つぶやく。このアカウントでの投稿に食べ物ネタが多いのは、狭い部屋で続く食い物番組の連続視聴が理由かもしれない。

――――――

「部屋の片隅」という概念は、様々な世界において、古今東西多種多様な「役割」を担当してきた。
後に寝返る悪役は部屋の片隅で笑う。
事件解決の糸口は部屋の片隅で見つかる。
孤独に泣く少女は部屋の片隅に寄り掛かるし、
恋する青年の序は部屋の片隅の1冊かもしれない。
あらゆる「部屋の片隅」は、あらゆる「重要場面」を内包し、誰かに「その先」をもたらしてきた。

この物語ではそんな「部屋の片隅」が、概念として結晶化して、都内某所に珍妙な倉庫を爆誕させた。

珍妙倉庫は元々、某職場の某支店であった。
あんまり立地が良いもので、他の支店連中が、倉庫だの物置だの、あるいは「見られたくないもの」のゴミ捨て場だのに利用しておったところ、
無人支店になった途端、物置レベルが爆速上昇。
そこに放り込めば、二度と戻ってこないが、確実にありとあらゆる物がそこに眠っている。
付いた共通認識が「混沌倉庫支店」であった。

何故ここまで詳細に記述するかというと、
すなわちこの倉庫に、お題回収役2名が、それぞれ別の用事でもって、その日訪れたのであった。
片方は「世界線管理局」とかいう厨二ジョブ。「部屋の片隅」の概念結晶を回収するために。
もう片方は混沌倉庫支店を抱える本店の従業員。この倉庫に自分の仕事書類が投げ込まれたので、その犯人を捕まえる証拠を得るために。

「始めまして。総務課のツバメです」
本店従業員の藤森が「混沌倉庫支店」に到着すると、既に厨二ジョブ側のツバメが先客として居て、
まずツバメから、初対面の挨拶を為した。
「用事が終わればすぐ消えるので、お構いなく」
「同僚(そうむか)」か。珍しい名字の方だ。
藤森も藤森で軽く昼の挨拶を交わして、あちこち散らばるチラシやら酒瓶やらを片付ける。
「私も総務課の者です。藤森です。諸用と片付けで来ただけですので、こちらもお構いなく」

ところで双方、所属としては同じ「総務課」だが、
勤め先が全然違うことにサッパリ気付いていない。

「片付けとは、藤森さん?」
「そのままの意味ですよ。『あるもの』を探しているのですが、あちこちゴミだらけだ。まず掃除と整理をして、不要なものをどけないと」
「なんだ。つまり、あなたも探しものか」

「そちらは何の用事で、えぇと、ツバメさん?」
「遺物回収です。ここを『混沌倉庫』とかいう魔界にした元凶を、回収するために」
「異物回収……なんだ。あなたも要は掃除か。
つまり手伝ってくださる?」
「逆に、藤森さん、あなたが私の作業を手伝わされている可能性の方が高い気が」

会話がいびつに噛み合ってしまって、どちらも勘違いを勘違いと理解できないまま。
ふたりしか居ない物置支店で、「要するに探しものをしている」の大前提は一緒なので、
そのまま協力して、作業がはかどる、はかどる。

「藤森、そっちはどうだ」
「サッパリです。こちらには無いようだ」
最初はそれぞれ、片付けに関する情報提供だけしていたものの、1時間もすれば話題が枯れる。
「後輩のゲームの、課金額を捻出するためにシェアランチとシェアディナー?大変だな。藤森」
「来週から、なんでもヒーロー・ヒロイン系のイラストの新しいガチャが実装されるとかで」
「そのゲーム、後輩のアカウント名を聞いても?」
「『ツル至上銀行ATM』だったかな」

「ちょっとその後輩さんの連絡先を」
「断りますが?」
「どうしても、伝えたいことが」
「伝言なら預かりますが……??」

そろそろこのあたりで、お題回収。
双方、「部屋の片隅で」目当ての物を見つけた。
藤森は悪質イタズラ犯のクッキリとした靴の跡を。
ツバメは混沌倉庫支店の「部屋の片隅」に妙な闇の穴を生成しているアンティーク調の宝石鍵を。
見つけた、 見つけた。 呟いたのもほぼ同時。
互いが互いの仕事の終了を、すぐに理解した。

「先に、失礼します」
藤森がツバメを置いて、支店から出ていく。
「私が借りた方の鍵を置いておきます。あなたのと一緒に、事務の鍵田さんに返しておいてください」

「かぎ?」
ここでようやく、ツバメが気付く。
ツバメは混沌倉庫に、「鍵」を使わず入り込んだ。
そもそもツバメの勤務先、「世界線管理局」の事務員に、「カギタ」という人物は居ない。
「えっ、藤森??」
おまえ、そういえば「誰」だ? 「知らない職場」の鍵を預けられて、ツバメは完全に目が点。
「部屋の片隅で」、途方に暮れておったとさ。

12/7/2024, 4:54:12 AM

「向きが逆さま、上下関係が逆さま、川の流れが逆さま、優先順位が逆さま。まぁ、色々あるわな」
ただ「真っ逆さま」って書けば、何か誰かが落ちるハナシもできそう。落下は既に2回出題されてっけど。
某所在住物書きは、過去のお題「落下」と「落ちていく」の投稿内容を確認しようとして挫折している。

「落ちていく」は数日前。「落下」は何ヶ月前?

「『上がる』に関係したお題は、今年の3月から数えて『空を見上げて―』の1回きり、なのにな」
下向き3回、上向き1回。ポジティブなお題よりエモいお題が多いように感じるこのアプリである。
次の上下系のお題は、いつだろう。

――――――

「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ちっくファンタジーな職場があり、
そこは、世界から世界への渡航申請の受付だの、
滅びそうな世界の保全、または「遺品」回収だの、
あるいは悪質な侵略に対する監視、介入行為だの。
まさしく、厨二ちっくな業務を日々こなしていた。

そこの管理局、ビジネスネーム制を採用しており、
経理部は猫系の名前で揃えられておりまして。

「覚えておくのよ。マンチカン」
ベテランのロシアンブルーが、新人のマンチカンを、経理部内に設置されている1台のコタツの前に連れてきて、よくよく言って聞かせていた。
「これを私達は『マンドラゴラ』と呼んでいるわ」
コタツのことではない。
コタツから生えている足2本、
そしてその持ち主の説明である。

つまり「コタツに入れる体の向きが『逆さま』」。
早くもお題回収である。
コタツに頭から突っ込んでいる「マンドラゴラ」は、ビジネスネームを無毛種、「スフィンクス」といって、経理部いちの寒がりであった。

「せんぱい」
ロシアンブルーの言いつけを、懸命に、真面目にメモ帳に記しながら、新人マンチカンが聞いた。
「つまり、『引っこ抜くな』ってことですか」
そうよ。 ロシアンブルーが満足そうに頷く。
スフィンクスは己をコタツから引っこ抜いた者に――特に「マンドラゴラを引っこ抜いた者」に、
一切、容赦しないのだ。

以下はスフィンクスの機嫌を損ねて、安眠を破ったものの末路。そのオーソドックスな事例である。

「先輩。逆さまでコタツに突入しちゃったスフィンクスさんを引っこ抜いたら、どうなるんですか」
「マンドラゴラ状態のなら、セーフと、マシな場合と、悪い場合と、最悪な場合があるわ。
確率でいえば、セーフが5%、マシが20%、悪いケースが60%。14.95%が最悪な場合ね」

「0.05%足りません」
「酷く最悪な場合。数年に1回くらい、あるの」
「数年に1回……??」

ほら、ごらんなさい。
ロシアンブルーが、一点を指さした。
受付係に配属されている犬耳の女性、コリーが、経理部から突っ返された伝票を持って、
スタスタ、つかつか。一直線にコタツを目指して。

「おい、コタツムリ!スフィンクス!」
ぐいぐいぐい。コリーがまさに、「マンドラゴラ」のスフィンクスを、引っこ抜こうとしている。
「君がメンテナンスしてから、我々受付係の資金管理プログラムがおかしいぞ!」

「うぅー。やめろー。俺様は寝るんだ。起こすな」
スフィンクスはコタツの足を持って、懸命に抵抗しているのだろう。コリーがどれだけ彼女の両足を引っ張っても、抜けない、抜けない。
「我々の!プログラムを!直してから眠れ!」
「自業自得だろー。ジャーキーは、経費じゃ落ちませぇーん。嗜好品を経費で、何度警告しても買ってるから、俺様が鉄槌を下したんでーす」
「嗜好品ではない!接待費だ!!」

ぐいぐい、むにゃむにゃ、
ギャーギャー、むにゃむにゃ。
犬耳とコタツ猫の問答は、片方だけヒートアップ。

「それっ!!抜けた――」
ついに、犬耳コリーがコタツ猫を、コタツから勢いよく引っこ抜き、
ゆえに安眠を阻害されたマンドラゴラ、あるいはスフィンクスが、頭足逆さまでコタツから出される。
「――あれ?」

受付係の会計プログラムを直させようと、コリーはスフィンクスの足をそのまま引きずって、
行こうとしたが、
酷い業火の形相のスフィンクスに、
逆に足を掴まれて、
豪速でコタツの中に投げ込まれ、
コントローラーのスイッチが、ひとつ、押される。

スポン。
数秒と待たず、コタツは静かになり、
その上の網カゴにひとつ、ミカンが増えた。

「あれが、酷く最悪な0.05%ですか」
新人のマンチカンが、おそるおそる尋ねた。
「まさか」
ロシアンブルーは眉ひとつ動かさない。
「マシな20%よ」
ロシアンブルーの視線の先では、「コリーへの制裁」に満足したスフィンクスが、
あくびひとつしてコタツの中に、頭足の向きを逆さまにして再侵入している。

コタツに投げ込まれたコリーはその後、受付係に戻ってきたが、「マンドラゴラ」を引っこ抜いた前後数時間の記憶がすっぽ抜けていたそうである。

12/6/2024, 5:35:43 AM

「眠れないほど、うるさい、忙しい、蒸し暑い、散らかっている、嬉しい、気になる。
まぁ、感情や状況は、多々豊富っちゃ豊富よな」
去年は「眠れないほど大量の仕事を押し付けられた」っていうネタを書いた。
某所在住物書きは天気予報を確認しつつ、これから訪れるであろう「眠れないほどの寒さ」を想像して、温かいコーヒーをあおった。

極寒の北海道、道北地方などからすれば、物書きの居住地域は南国に等しいと思われた。
とはいえ寒いのは寒いのだ。仕方無い。
「こういうときは、いっそ、温めた酒……」
物書きが呟いた。 眠れないほど酒を浴びるのは、健康上、そして睡眠の質からも、推奨できない。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
通称ミカンのおばちゃんと、タバコのオッサンの、
片方はミカンをくれるコタツ在住のコタツムリ、
もう片方は子狐とよくよく遊んでくれるオッサン、
ともかく、おとなの友達も最近できまして、
双方、同じ大きな大きな職場に勤めておりました。

ミカンのおばちゃんのコタツには、不思議なミカン製造機が完備されております。
タバコのオッサンは「こら子狐!あれほど勝手に入ってくるなと言っているだろう!」なんて言って、子狐と追いかけっこしてくれます。
どちらもコンコン子狐の、大好きな大好きなお友達ですが、どうやらタバコのオッサンの方が、最近お仕事中にケガをしてしまった様子。
原因は過去作、12月3日投稿分あたりに埋もれていると思いますが、ぶっちゃけスワイプが面倒。
細かいことは、気にしない、気にしない。

「おばちゃん!ミカンのおばちゃん!」
コンコン子狐、タバコのオッサンが遊んでくれないと思われるので、オッサンじゃなくておばちゃんの方へ、とってって、ちってって。
「おばちゃん、ミカン、ちょーだい!」
尻尾ぶんぶん振りながら、おばちゃんが居るであろう経理部のコタツへ、突撃します。

「おばちゃん、」
オッサンが寝てる医療のフロアから、おばちゃんがいる経理部へ、コンコン子狐が到着しますと、
「おばちゃん?」
ぽかぽか、陽だまりの当たるコタツにもぐって、若い女性がぐーぐーすぴぃ。 そうです。このお姉さんこそ、「ミカンのおばちゃん」なのです。
おなかの上に陣取っても、髪をかじかじしても、おばちゃんはぐーぐーすぴぃ、ぐーぐーすぴぃ。
「朝からお仕事して、疲れちゃったのよ」
おばちゃんと一緒にコタツに入っていたおばあさんが、優しい声で言いました。
「何したって、きっと、起きないわ」

で、ここでお題回収。
ミカンのおばちゃんに起きてほしくて、おばちゃんのおなかを掘り掘りしていたコンコン子狐、
コタツの上に、1リットル程度の保温瓶があるのを見つけました。 お茶が入っているのでしょう。
「なんの、おちゃだろう?」
コンコン子狐、保温瓶の中が、見たくなりました。
コンコン子狐、保温瓶の注ぎ口を、えい、えい!頑張って回して開けようとしました……

ところで保温瓶、メーカーや品物によっては、
100℃の熱湯を注いですぐ密封などすると、中の空気の体積が変化して、フタを開けるとき、バチクソ大きな音がしたりしますよね?
そう、まさに、「眠れないほど」。

ポンッ!!!

「ぎゃー!! なんだ!どうした!敵襲か!?」
寝ていられないほどの「体積変化の爆発音」が、ミカンのおばちゃんを一気に覚醒させました。
コタツの上の保温瓶の、フタがクッと動いた途端、
保温瓶の中の空気に耐えられなくなったフタが、ポン!大音量とともに吹っ飛んだのです。

一瞬で飛び起きたミカンのおばちゃんと、大音量をたてて吹っ飛んだフタに、子狐自身もびっくり!
狐尻尾を完全に足の間に丸めて引き込んでしまって、安心できるおばあちゃんの懐に、一直線!
逃げ込んでプルプル震えています。

「こら、子狐!」
保温瓶の轟音を、どうやって聞きつけたのか、病衣のタバコのオッサンが、脇腹押さえて、
「おまえ、また勝手に、」
痛そうな顔で子狐捕獲にすっ飛んで来たのですが、
「……おい、なんだ。どうした……?」
経理部のコタツは、フタを吹っ飛ばした保温瓶と、その音に飛び起きてテンパっている女性と、
その様子を見てツボって笑ってるおばあさんの胸の中で小ちゃくなってビクビクしてる子狐という、
カオスでシュールな光景が、広がっておったとさ。

12/5/2024, 3:17:40 AM

「愛と平和、天国と地獄、あなたとわたし、安心と不安、夢と現実。……前々回は『光と闇』だった」
書く習慣アプリ、記憶してるだけでも「◯◯と△△」のお題が6個ある件。
某所在住物書きは過去投稿分のお題をたどりながら、いち、に、さん。お題とお題を数えている。
比較的、「これが出題されやすい」が決まっているように見えるのだ――すなわち空ネタ、雨、恋愛にエモ、そして年中行事と「◯◯と△△」である。
他にも1〜2ジャンル、あるかもしれない。

「夢と現実ねぇ」
物書きは呟いた。
「そもそも、去年何かいたっけな」
たしか夢オチ、起きたらベッドの上の物語である。

――――――

走ってるソシャゲで、バチクソな神引きに歓喜して、スキル枠を見たら存在しない属性持ち。
現実に戻ってきたら普通に夢オチでしたの慟哭を、丁度先日経験した物書きです。
「夢と現実」と題しまして、今回は新着ガチャ実装なおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。お題回収役の名前を、後輩、もとい高葉井といいまして、いわゆる推し課金者。
彼女が走っているソシャゲは、たまに、事前に来週実装予定のガチャが告知されるタイプ。
その日、高葉井はスマホをガン見して、
ぱっくり、口を開けておりました。

戦隊ヒーロー・ヒロインコスの新規絵ガチャです。
高葉井が走っているゲームは元々、警察モノや博物館モノ、異世界モノと好相性だったものの、
そこに公式が、ガッツリSNSで事前PVを打って、戦隊モノを噛ませてきたのです。
名付けて「管理局戦隊 アドミンジャー」!
高葉井の推しカプは双方、最高レアでの実装です。

『諸君に最新情報を共有しよう』
ソシャゲのログボ更新とともに公開されたPVを、後輩もとい高葉井、もう何回も視聴しました。
『管理局収蔵品「変身ジェム」の暴走により、
適性を秘めた世界線管理局員が、緊急着装!
ゆけ。アドミンジャー!世界の調和を守るのだ!』
戦隊アニメの大御所にコスチューム作成を依頼したおかげで、その手の方々は大歓喜。
『次回、管理局戦隊アドミンジャー「夢と現実」
来週も統合合体承認! 物語の鍵はコレだ』

なお「物語の鍵」として表示されていたのは、普通にログボキャンペーンとガチャ内容の紹介、
そして、対象キャラ獲得による限定ボイス開放のお知らせと、サンプル視聴用のリンクでした。

神引き完凸全種コンプの夢と、
先月の神ガチャ&課金による金欠の現実。
おお、高葉井よ。汝、推しと推しの幸福をただただ見つめていたい観測者よ。
あるいは推しカプの関連グッズは実用と実用のスペア用と保存用を最低でも確保したい収集者よ。
汝の夢は遠く、汝の現実は非情なのです。

ということで、高葉井に協力者を召喚しましょう。
後輩の先輩です。藤森といいます。

「着装! アドミニスターレッド、現着!」
ビシッ! 先輩・藤森のアパートで、コタツに足を埋めながら、高葉井、藤森にプレゼンです。
「統合合体承認。ゴー!キングマンダリン!!」
高葉井はバチクソにノリノリですが、
藤森としては、完全にチベットスナギツネ。
はぁ、左様ですかの心境です。

「カッコイイでしょ、このボイスと、ジョブ衣装、期間限定なの。逃がしたら、復刻まで来ないの」
夢を追いたい後輩なのです。金欠を変えたい後輩なのです。完凸が無理でも、無凸コンプあるいは、最低限推しタッグだけは、確保したいのです。
「おねがい、先輩、おねがい。協力申請……」
コタツのテーブルに、おでこペッタリ。
後輩の高葉井、先輩に頭をバチクソ下げました。

何度も見た光景だ。 藤森、胸中で呟きます。
まぁ、こちらに特に、これといって、デメリットは無いし。 藤森、小さなため息など吐きます。
通常どおり。平常運転。藤森、お人好しなのです。

「いつもどおりの協力内容で、良いのか。
つまり、食費と光熱費節約を目的とした、シェアランチとシェアディナーと?」
「おべんとーも、おねがいします」
「期間は」
「今週から、来週の、ひとまずガチャ実装まで」

「今週は、私のほうが少したて込む」
「そこを何とか、神様、藤森様、スフィンクス様」
「……す?」
「アドミニスターオレンジなの。日向夏内蔵基地Ko-Ta2の操縦士で、水晶文旦の守護者で、不知火24+1が統合合体、キングマンダリンなの」
「きんぐまんだりん??」

「お願いします。後輩の夢を、後輩の現実を」
「はぁ……」

最終的に、協力申請は双方が、光熱費なり調理費なり、あるいは食材そのものなんかを、
5:5想定で持ち寄って、2人分を一気に藤森が調理し、生活費を圧縮するということで、
スポン。承認されましたとさ。

12/4/2024, 4:08:36 AM

「さよならを、言わないでください。
さよならを言わないで、別の挨拶を言われました。
さよならを言わないで彼女は消えました。
……まぁ、まぁ。色々アレンジはできるわな」

去年は何書いたっけ。食い物料理?
某所在住物書きは天気予報を確認しながら、呟いた。来週の金曜日から東京はストンと気温が落ちるらしい――最高一桁である。
あんまりそんな、突然、「温暖」と「快適」両名におかれては、さよならは言わないでほしい物書きだが、仕方無い。もう、冬である。

「……今年、寒いんだっけ?」
ぽつり。ため息を吐いて、天井を見る。
「暖房、光熱費、風呂……」

――――――

11月30日から続く一連の厨二的物語も、ようやく一旦の終結。ひとまず今回のお題は、最近最近の都内某所、某おでん屋台から幕をあける。
深夜帯であった。ひとりの男がカウンターで、自分をそこに呼びつけた相手を待ちながら、
牛すじ煮込みなり、味しみ大根なり。
賞味しつつ、温めた酒を堪能している。

「探しました。ハシボソガラス前主任」
屋台の客が2人になる。
「ルリビタキ部長からの伝言を伝えます。『長期休暇解除。とっとと戻ってこい』。以上です」
鳥の名前ばかり登場するが、細かいことは気にしてはならぬ。「そういう物語」なのだ。

「長期休暇〜?」
先客はおでんを食うばかり。
「俺、管理局は辞めたし、『カラス』のビジネスネームもとっくの昔に譲渡したハズだけど?」
言うわりに、差し出された写真は受け取るし、それを見て数度頷きもする――茶化しているのだ。

「局員1名が、敵性組織へ機密情報をリークしました。ウサギという、収蔵品保護課の男です。
スフィンクス査問官の『コタツ』による尋問も、キツツキ前査問官によるサルベージも効きません」
「俺、もう部外者だよん。そっちで頑張ってよ」
「あなたは、

『さよなら』は言わないで局を去るし、引き継ぎは残さない、局からの貸与品も返却なさっていない。
戻ってきてください。カラス前主任」
お願いします。本当に今、あなたが必要なんです。
頭を下げる男を、カラスはじっと、見ている。
「おやっさーん」
カラスが言った。
「豚バラ5本追加。こいつのおごりで〜」


――ところで前回投稿分で張った伏線を回収する。
今回お題回収役の後輩、高葉井という女性が、
前回の物語で、喫茶店の店主に、アンティークの鉱石ランタンを手渡した。 それはその喫茶店で獲得した、大食いチャレンジの景品であった。

「さよなら」されたのだ。
せっかく頑張って食ったチャレンジを、無かったことにされて、ランタンを回収されてしまった。
「不具合が見つかった」という名目であった。
高葉井としてはギャン泣きするしかない。

「せんぱぁぁぁい!!わたし、もう、もう、
うわぁあああああん!!」

場面は変わり都内某所、高葉井の先輩のアパート。
コタツのテーブルに高葉井が突っ伏し、
回収されたランタンの代わりとして渡された、別のランタン2個を抱きかかえて、
缶チューハイなど並べ、慟哭している。
「バチクソ気に入ってたの!明かり、付かなくていいの!不具合ぜんぜん気にしないの!
なのにさぁ!いきなりさぁ!突然さぁ!
さよならは言わないでよ!!うわぁああああん」

はぁ。それは、災難だったな。
高葉井の先輩、藤森は完全にチベットスナギツネのジト目で、彼女をどうすることもできぬ。
ただ後輩の心が温まるように、煮込みラーメンの鍋をコタツに持ってきて、ちゃぷり、ちゃぷり。
少し後輩によそってやるばかり。
「伸びるぞ」
淡々と、藤森は事実を述べた。

「聞いてよ、聞いてよせんぱいッ!!」
「聞いている」
「バチクソに、キレイだったの!最初に貰った方のランタン、宝石みたいな、太陽のチャームとか月のチャームとか付いてたの!!」
「そうか」
「太陽と月だよ!光と闇だよ!
いきなりハイさよならは、ひどいよぉ!!」
「そうか」

「代わりに貰ったランタンが完全に私がやってるソシャゲに出てくるランタンだったの」
「はぁ」
「完全再現だよ。公式、グッズ化してないの。
『さよなら』は言わないで、『はじめまして』になっちゃったんだよ。どうしよ、だよ」
「うん」
「聞いてよせんぱい。聞いてるせんぱい?」
「酔ってきたか。少し水でも飲め」

しゃぶしゃぶ、じゅるじゅる。
泣きながら小椀に盛られたラーメンを、スープとともにすする高葉井は、美味に対して幸福な表情。
「とつぜん、さよならはひどいよ」
缶チューハイをつかもうとした高葉井の手は、藤森の計略により、水入りのコップを得た。
「さよならは、はじめまして、なんだよ」

ぐびぐび。おかわり。
ラーメンの汁が飛ばぬよう、光と闇のランタンの代わりに得た新ランタンをどかす後輩を、
先輩の藤森は相変わらず、ジト目で見守っている。

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