「向きが逆さま、上下関係が逆さま、川の流れが逆さま、優先順位が逆さま。まぁ、色々あるわな」
ただ「真っ逆さま」って書けば、何か誰かが落ちるハナシもできそう。落下は既に2回出題されてっけど。
某所在住物書きは、過去のお題「落下」と「落ちていく」の投稿内容を確認しようとして挫折している。
「落ちていく」は数日前。「落下」は何ヶ月前?
「『上がる』に関係したお題は、今年の3月から数えて『空を見上げて―』の1回きり、なのにな」
下向き3回、上向き1回。ポジティブなお題よりエモいお題が多いように感じるこのアプリである。
次の上下系のお題は、いつだろう。
――――――
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ちっくファンタジーな職場があり、
そこは、世界から世界への渡航申請の受付だの、
滅びそうな世界の保全、または「遺品」回収だの、
あるいは悪質な侵略に対する監視、介入行為だの。
まさしく、厨二ちっくな業務を日々こなしていた。
そこの管理局、ビジネスネーム制を採用しており、
経理部は猫系の名前で揃えられておりまして。
「覚えておくのよ。マンチカン」
ベテランのロシアンブルーが、新人のマンチカンを、経理部内に設置されている1台のコタツの前に連れてきて、よくよく言って聞かせていた。
「これを私達は『マンドラゴラ』と呼んでいるわ」
コタツのことではない。
コタツから生えている足2本、
そしてその持ち主の説明である。
つまり「コタツに入れる体の向きが『逆さま』」。
早くもお題回収である。
コタツに頭から突っ込んでいる「マンドラゴラ」は、ビジネスネームを無毛種、「スフィンクス」といって、経理部いちの寒がりであった。
「せんぱい」
ロシアンブルーの言いつけを、懸命に、真面目にメモ帳に記しながら、新人マンチカンが聞いた。
「つまり、『引っこ抜くな』ってことですか」
そうよ。 ロシアンブルーが満足そうに頷く。
スフィンクスは己をコタツから引っこ抜いた者に――特に「マンドラゴラを引っこ抜いた者」に、
一切、容赦しないのだ。
以下はスフィンクスの機嫌を損ねて、安眠を破ったものの末路。そのオーソドックスな事例である。
「先輩。逆さまでコタツに突入しちゃったスフィンクスさんを引っこ抜いたら、どうなるんですか」
「マンドラゴラ状態のなら、セーフと、マシな場合と、悪い場合と、最悪な場合があるわ。
確率でいえば、セーフが5%、マシが20%、悪いケースが60%。14.95%が最悪な場合ね」
「0.05%足りません」
「酷く最悪な場合。数年に1回くらい、あるの」
「数年に1回……??」
ほら、ごらんなさい。
ロシアンブルーが、一点を指さした。
受付係に配属されている犬耳の女性、コリーが、経理部から突っ返された伝票を持って、
スタスタ、つかつか。一直線にコタツを目指して。
「おい、コタツムリ!スフィンクス!」
ぐいぐいぐい。コリーがまさに、「マンドラゴラ」のスフィンクスを、引っこ抜こうとしている。
「君がメンテナンスしてから、我々受付係の資金管理プログラムがおかしいぞ!」
「うぅー。やめろー。俺様は寝るんだ。起こすな」
スフィンクスはコタツの足を持って、懸命に抵抗しているのだろう。コリーがどれだけ彼女の両足を引っ張っても、抜けない、抜けない。
「我々の!プログラムを!直してから眠れ!」
「自業自得だろー。ジャーキーは、経費じゃ落ちませぇーん。嗜好品を経費で、何度警告しても買ってるから、俺様が鉄槌を下したんでーす」
「嗜好品ではない!接待費だ!!」
ぐいぐい、むにゃむにゃ、
ギャーギャー、むにゃむにゃ。
犬耳とコタツ猫の問答は、片方だけヒートアップ。
「それっ!!抜けた――」
ついに、犬耳コリーがコタツ猫を、コタツから勢いよく引っこ抜き、
ゆえに安眠を阻害されたマンドラゴラ、あるいはスフィンクスが、頭足逆さまでコタツから出される。
「――あれ?」
受付係の会計プログラムを直させようと、コリーはスフィンクスの足をそのまま引きずって、
行こうとしたが、
酷い業火の形相のスフィンクスに、
逆に足を掴まれて、
豪速でコタツの中に投げ込まれ、
コントローラーのスイッチが、ひとつ、押される。
スポン。
数秒と待たず、コタツは静かになり、
その上の網カゴにひとつ、ミカンが増えた。
「あれが、酷く最悪な0.05%ですか」
新人のマンチカンが、おそるおそる尋ねた。
「まさか」
ロシアンブルーは眉ひとつ動かさない。
「マシな20%よ」
ロシアンブルーの視線の先では、「コリーへの制裁」に満足したスフィンクスが、
あくびひとつしてコタツの中に、頭足の向きを逆さまにして再侵入している。
コタツに投げ込まれたコリーはその後、受付係に戻ってきたが、「マンドラゴラ」を引っこ抜いた前後数時間の記憶がすっぽ抜けていたそうである。
12/7/2024, 4:54:12 AM