かたいなか

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「随分前に、『狭い部屋』と『静寂に包まれた部屋』っつーお題なら出てた」
部屋シリーズもこれで3回目。何を書いたか過去のことは覚えていないが、まぁ、気にしない。
静寂に包まれた狭い部屋の片隅で物語を、
某所在住物書きが書いているワケでもなく、少なくとも、執筆の際、適当にBGMでも流しておるのだ。

「食い物の番組は、よく観るよな」
物書きがぽつり、つぶやく。このアカウントでの投稿に食べ物ネタが多いのは、狭い部屋で続く食い物番組の連続視聴が理由かもしれない。

――――――

「部屋の片隅」という概念は、様々な世界において、古今東西多種多様な「役割」を担当してきた。
後に寝返る悪役は部屋の片隅で笑う。
事件解決の糸口は部屋の片隅で見つかる。
孤独に泣く少女は部屋の片隅に寄り掛かるし、
恋する青年の序は部屋の片隅の1冊かもしれない。
あらゆる「部屋の片隅」は、あらゆる「重要場面」を内包し、誰かに「その先」をもたらしてきた。

この物語ではそんな「部屋の片隅」が、概念として結晶化して、都内某所に珍妙な倉庫を爆誕させた。

珍妙倉庫は元々、某職場の某支店であった。
あんまり立地が良いもので、他の支店連中が、倉庫だの物置だの、あるいは「見られたくないもの」のゴミ捨て場だのに利用しておったところ、
無人支店になった途端、物置レベルが爆速上昇。
そこに放り込めば、二度と戻ってこないが、確実にありとあらゆる物がそこに眠っている。
付いた共通認識が「混沌倉庫支店」であった。

何故ここまで詳細に記述するかというと、
すなわちこの倉庫に、お題回収役2名が、それぞれ別の用事でもって、その日訪れたのであった。
片方は「世界線管理局」とかいう厨二ジョブ。「部屋の片隅」の概念結晶を回収するために。
もう片方は混沌倉庫支店を抱える本店の従業員。この倉庫に自分の仕事書類が投げ込まれたので、その犯人を捕まえる証拠を得るために。

「始めまして。総務課のツバメです」
本店従業員の藤森が「混沌倉庫支店」に到着すると、既に厨二ジョブ側のツバメが先客として居て、
まずツバメから、初対面の挨拶を為した。
「用事が終わればすぐ消えるので、お構いなく」
「同僚(そうむか)」か。珍しい名字の方だ。
藤森も藤森で軽く昼の挨拶を交わして、あちこち散らばるチラシやら酒瓶やらを片付ける。
「私も総務課の者です。藤森です。諸用と片付けで来ただけですので、こちらもお構いなく」

ところで双方、所属としては同じ「総務課」だが、
勤め先が全然違うことにサッパリ気付いていない。

「片付けとは、藤森さん?」
「そのままの意味ですよ。『あるもの』を探しているのですが、あちこちゴミだらけだ。まず掃除と整理をして、不要なものをどけないと」
「なんだ。つまり、あなたも探しものか」

「そちらは何の用事で、えぇと、ツバメさん?」
「遺物回収です。ここを『混沌倉庫』とかいう魔界にした元凶を、回収するために」
「異物回収……なんだ。あなたも要は掃除か。
つまり手伝ってくださる?」
「逆に、藤森さん、あなたが私の作業を手伝わされている可能性の方が高い気が」

会話がいびつに噛み合ってしまって、どちらも勘違いを勘違いと理解できないまま。
ふたりしか居ない物置支店で、「要するに探しものをしている」の大前提は一緒なので、
そのまま協力して、作業がはかどる、はかどる。

「藤森、そっちはどうだ」
「サッパリです。こちらには無いようだ」
最初はそれぞれ、片付けに関する情報提供だけしていたものの、1時間もすれば話題が枯れる。
「後輩のゲームの、課金額を捻出するためにシェアランチとシェアディナー?大変だな。藤森」
「来週から、なんでもヒーロー・ヒロイン系のイラストの新しいガチャが実装されるとかで」
「そのゲーム、後輩のアカウント名を聞いても?」
「『ツル至上銀行ATM』だったかな」

「ちょっとその後輩さんの連絡先を」
「断りますが?」
「どうしても、伝えたいことが」
「伝言なら預かりますが……??」

そろそろこのあたりで、お題回収。
双方、「部屋の片隅で」目当ての物を見つけた。
藤森は悪質イタズラ犯のクッキリとした靴の跡を。
ツバメは混沌倉庫支店の「部屋の片隅」に妙な闇の穴を生成しているアンティーク調の宝石鍵を。
見つけた、 見つけた。 呟いたのもほぼ同時。
互いが互いの仕事の終了を、すぐに理解した。

「先に、失礼します」
藤森がツバメを置いて、支店から出ていく。
「私が借りた方の鍵を置いておきます。あなたのと一緒に、事務の鍵田さんに返しておいてください」

「かぎ?」
ここでようやく、ツバメが気付く。
ツバメは混沌倉庫に、「鍵」を使わず入り込んだ。
そもそもツバメの勤務先、「世界線管理局」の事務員に、「カギタ」という人物は居ない。
「えっ、藤森??」
おまえ、そういえば「誰」だ? 「知らない職場」の鍵を預けられて、ツバメは完全に目が点。
「部屋の片隅で」、途方に暮れておったとさ。

12/8/2024, 4:41:14 AM