かたいなか

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11/30/2024, 4:04:15 AM

「11月17日が『冬になったら』、14日が『秋風』で先月10月18日が『秋晴れ』。
去年と同じお題なら、12月も季節の、特に冬のネタはバチクソ渋滞するんだわ……」
まぁ、そもそもこの「書く習慣」、季節ネタと雨ネタと、それから年中行事ネタに空ネタにエモネタでほぼ過半数と思われるから、ぶっちゃけお題の重複なんざ日常茶飯事なのよな。
某所在住物書きは完全にコタツムリならぬ毛布ツムリ。おお、ぬくもりの中で食うポテチの美味さよ。

「去年は『ぶっちゃけ最近「冬のはじまりが迷子」』ってハナシを書いた気がする」
物書きは言う。
「今年は冬っつーか、秋も迷子だったよな……?」
一応、北日本では今雪が降っているらしい。

――――――

大きな樹、美しい泉、高い山にありがちなハナシ。
すなわち「何がそこに居るか」、「何故そこに在るか」を辿る、不思議な不思議な物語。
花咲き風吹き渡る雪国に、樹齢数百年とも千年とも言われるイチョウの大樹があり、
まさしくお題のとおり、「冬のはじまり」の頃、他のイチョウから遅れに遅れて見頃を迎える。
大樹の下には小さな小さな祠があり、
それは「イチョウギツネの祠」と言われている。

『他のイチョウより遅れて、冬のはじまりにようやく色づくのは、きっと理由があるに違いない』
『狐だ。きっと狐がイチョウに化けているのだ』

『昔々、悪い狐が妖術で、この場所に黒い穴をこさえて、そこから魑魅魍魎を招き入れ、
悪行の限りを尽くしたものの、その悪行のせいで狐の母親が病に弱り、倒れてしまった。
ようやく己の所業を悔いて、泣いて、反省したイタズラ狐は、イチョウの大樹に身を変じて、自分でこさえた黒い穴を塞いだのだ』
『寒くて寒くて、変化が解けそうになるから、冬のはじまりに葉が狐色になるに違いない』
イタズラギツネの大イチョウは、数百年、上記のおとぎ話を現地住民と共有してきた。

で、ここからがようやく本編。
「イタズラギツネの大イチョウ」のおとぎ話をガチで本気にしている成人男性が約2名。
別の「黒い穴」を実際に、業務として管理・運用している、「世界線管理局」なる所属の2名である。

――「実際に来て見ると、デカいな」
冬のはじまり、イタズラギツネの大イチョウが見頃の早朝。野郎2人がポツンと、感嘆のため息を真っ白に吐き出して、黄色の氾濫を見上げている。
「これが、『イタズラギツネ』か」
この下に「黒穴」が、実際にあるとしたら、相当な規模だが。どうだろうな。
男その1はポツリ呟くと、「この世界」に売っていない銘柄のタバコで口元を隠し、深く吸って、灰もろとも携帯灰皿に吸い殻を押し付ける。

双方、「ここ」ではないどこかの住人であった。

「現地の方々には、丁度良い観光名所ですね」
男その2は非喫煙者らしい。流れてくる煙を片手で軽く払いながら、手元の小さなタブレットを見る。
「異なる世界同士を繋ぐ『黒穴』は、『この世界』の人類からすれば、非科学的なフィクション。
彼等が『それ』を発見すれば、大騒動の大混乱だ」

へっッ、くしゅん!! 雪国の寒さに、その2の方が小さなくしゃみをひとつ。
現地の気温は一桁前半で、明るい晴天に白い雪。
なぜこんな悪天候に、わざわざ彼等は雪国へ赴いたか。「冬のはじまり」のお題のせいである。
しゃーない。

ピリリリリ、ピリリリリ!――途端、着信音。

『やほー、バチクソ久しぶりぃ。俺だよん』
男その1、喫煙者の端末に音声通話。
『経理部が、「何回呼び出しても繋がらない」って。「すぐ帰ってきてほしい」だってさ』
「スフィンクス」が早速「ドSふぃんくす」してるらしいから、早めに行ってあげてね〜。
ひとしきり伝えることだけ伝えて途切れたそれは、野郎2名の昔の同僚。過去の同期。

「で、なんですって?」
非喫煙者が喫煙者に訪ねた。
「先代の『ハシボソガラス』からだ」
喫煙者が口にしたのは、通話相手が昔名乗っていた、いわゆるビジネスネーム。
「経理部でスパイが見つかったらしい。先月から忍び込んで、俺達の資金と情報を持ち出していたと」

冬のはじまり早々から、随分とまた、面倒なハナシが続く。 喫煙者は完全に携帯灰皿をしまった。
「行こう」
ぽつり。喫煙者が非喫煙者に呼びかけた。
「戻るぞ。俺達の『世界線管理局』に」

冬の風が吹き、イタズラギツネのイチョウの葉を巻き上げ、いつの間にか2人の姿が消える。
その後の展開については次回投稿分の展開となるが、特に劇的な物語となるワケでもないので、ぶっちゃけ、気にしてはいけない。

11/29/2024, 3:44:05 AM

「終わらせないで欲しい、なのか、終わらせないで良かった、なのか。他にも色々考えつきそうよな」
昨日18℃だった東京の、今日の最低気温が7℃。
去年は20℃から6℃に落ちていたらしいので、それよりは、ひょっとしたら快適、かもしれない。
某所在住物書きは、モフモフにしてフカフカな、偉大なる2枚合わせハーフケットを肩より羽織って、ぬっくぬくの至福に浸っていた。
誰かが「肩は寒さを感じやすい」と言っていた。
事実か虚偽かは知らない。

「個人的にはな」
物書きは呟いた。
「コンビニのおでん、冬限定は惜しい気がすんの。いろんな具の出汁吸ったスープがたまんねぇのよ。
冷やしおでんとかで夏、いや、需要少ないか……」

――――――

まさかまさかの続き物。前回投稿分から、1日か2日経った頃のおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、そのうち末っ子の子狐が今回のお題回収役。不思議な不思議な、稲荷の子狐です。

子狐は家の中の秘密の部屋の、ぽっかりあいた黒穴を通って、不思議な職場に辿り着きました。
辿り着いた不思議な職場は、動物のビジネスネームを採用する職場で、子狐は「ノラ」、「野良」を名乗るおばあちゃんの腕の中で、丸くなって、すやすや、幸福にお昼寝をしたのでした。

ここまでが前回投稿分。
ここからが今回のお題回収。

「ノラばーば、ノラばーば!」
コンコン子狐、すっかりノラばーちゃんに懐いてしまいまして、その日も秘密の部屋の黒穴を通って、例の職場へ向かいました。
ノラばーちゃんは、コタツの中で毛糸の編み物をして、ちっともジャーキーをくれませんでしたが、
それでも、子狐は優しいノラばーちゃんを、すぐ大好きになってしまいました。
「ノラばーば、きょうも、会いたい!」

秘密の部屋の、不思議な黒穴を通って、コンコン子狐は「ここ」ではないどこかの職場へ向かいます。
「ここ」ではないどこかの職場の、受付窓口をひらりと抜けて、コンコン子狐は「経理部」と書かれたブースへ。陽光当たるコタツへ向かいます。
先日、そこでノラばーちゃんと会ったのです。

「ノラばーば!」
コタツで今日も編み物をしているノラばーちゃんを見つけて、コンコン子狐は尻尾をぶんぶん!
「ノラばーば!」
今日もキツネを撫でて。キツネといっしょにネンネして。子狐は猛ダッシュでノラばーちゃんに……

「確保ッ!!」
ノラばーちゃんに、突撃しようとしたら、
「お前か。先日、俺様のコタツに来た子狐は」
前回投稿分で爆睡していたコタツムリ姉さんが、
がばちょ!子狐を捕まえてしまいました!
「あ〜。あったけぇ。やっぱり、魂ある生き物のぬっくぬくは、格別だぜぇー」
コタツムリ姉さんは、子狐をぎゅっと抱きしめて、すりすり、スリスリ。
「よし。お前の名前は今日から、ゆたんぽだ!」
子狐を、ちっとも逃がしてくれませんでした。

「なにするの、なにするの!はなして!」
「やーだね。ゆたんぽ、テメェはこれから、俺様の湯たんぽだ。俺様の膝の上でネンネしろ」
「はなせ!しらないおばちゃん!はなせっ!!」
「おばちゃんじゃねぇ!俺様は『スフィンクス』。この経理部で最も寒がりな万年コタツムリだ」

コンコン子狐、「スフィンクス」と名乗ったコタツムリ姉さんから逃げたくて、前あんよも後ろあんよもジタジタバタバタ。必死に動かします。
「へへへっ。ゆたんぽ。お前は、あったかいなぁ」
だけど、スフィンクスは、のらりくらり。
子狐のジタバタパワーを器用に逃がして、ぎゅっと、抱きしめ続けます。
「なぁ、ゆたんぽ。ハウスミカン食わねぇか。ハウス食って、コタツの中に入らねぇか」

逃さねぇぜ、ぐへへ。
スフィンクスがコタツの上の、どっさり積まれたカゴからミカンを、ひとつ掴んで子狐のクチに……

「そこまで」
子狐のクチに、ミカンが突っ込まれる前に、
タバコの香りのするおじさんが、子狐をスフィンクスから引き剥がしてくれました。
「こいつは俺達の管轄だ。勝手に所有物にするな」
オッサン!オッサンが、たすけてくれた!
子狐はタバコのおじさんを知っていたので、ぶんぶんぶん!尻尾をバチクソに振り回します。

「茶番は終わり。業務に戻れ。泥棒猫」
タバコのおじさん、子狐を抱えて言いました。
「あーん?法務の小鳥サマが何か鳴いてんな?」
対してスフィンクス、すぐには引き下がりません。
「こちとら、ゆたんぽと取込み中だ。お楽しみを勝手に終わらせないでほしいんだが?
なぁ、ルリビタキ部長。デコポンぶつけるぞ」
タバコのおじさんとスフィンクスの口喧嘩は、その後コンコン5分ほど、続きましたとさ。

11/28/2024, 3:00:13 AM

「愛情1本、愛情サイズ、愛は食卓にある、今日を愛する。……愛情と愛の違いって何だろな?」
アイ ラブ マニー、その神引きがアイラビュー。某所在住物書きは「愛」に関するキャッチコピーを検索しながら、もしゃもしゃ、むしゃむしゃ。
サンドイッチなど食い、コーヒーをすすっている。

「書く習慣」のアプリに恋愛のお題は多い。今年の3月からのカウントで、「愛」の字を明確に含むお題だけでも、これで5回目である。
「『恋』も含めればもっと増える」
で、俺が去年の10月31日に投稿したハナシに出した低糖質キューブチョコのモデル、来月値上げだって?――物書きは呟き、ため息をひとつ。
愛情とは何だろう。味は?価格は?

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、最近、お父さん狐の隠し部屋にある黒い穴から、「ここ」ではないどこかの職場に忍び込むのがトレンド。

そこは非常に、厨二設定はなはだしい職場です。
「世界線管理局」といって、あっちの世界からこっちの世界への渡航の申請を受理したり、
そっちの世界が別の世界に悪さをするのを監視したり、もしくは止めさせたり、
あるいは、滅びそうな世界を保全したり、
既に滅んだ世界の欠片が、どこかの世界に流れ着いて、良くない影響を及ぼす前に回収したり。
要するに、とってもフィクションでファンタジーなことを、ガチで仕事にしている職場なのです。

で、そのフィクションファンタジーな職場の受付職員、癒やしにバチクソ飢えてるらしく、
子狐が来ると、やれジャーキー、それモフモフと、完全にお祭り状態。子狐それが楽しいのです。
なお、偉い法務部さんにバレると叱られます。
コンコン子狐、ジャーキースニーキングなのです。

さて。そんなこんなの子狐です。
今回のお題が「愛情」ということもありまして、
愛情たっぷりな高級ジャーキー、あるいは愛情どっぷりな頭ナデナデ、おなかスリスリが欲しくて、
その日もその日とて、お父さん狐の秘密の部屋から、世界線管理局に堂々潜入、
できたのは、まぁまぁ、良かったとして、
どうやら子狐が忍び込んだのがバレたらしく、もう既に、子狐の知らない法務部職員がスタンバイ。子狐を追い返すべく、目を光らせています。

「きょうは、ほかのところをタンケンしよう!」
みすみす、おとなしく捕獲されて、黙って強制送還されてやる子狐ではないのです。
受付の窓口を抜けて、子狐の背丈が小ちゃいのを良いことに、するり、するり、コンコンこやん。
稲荷の狐の不思議なチカラも上手に使います。
そしてコンコン子狐は、「経理部」と書かれた、陽光よく当たるポカポカブースに、やって来ました。

ところでこのフィクションファンタジーな管理局、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
経理の職員は全員、猫に関係した名前で統一されているんだとか。にゃーにゃー。

「なんか、みんな、ごーいんぐまいうぇい」
コンコン子狐、経理の職員を見て、気付きました。
経理部の職員は、みんな、自分の思い思いの場所で仕事をして、自分の思い思いのタイミングで休憩しているようなのでした。
ほら、目の前に、大きめのコタツがあります。
そこには、ぐーぐー爆睡しているコタツムリなお姉さんと、ちまちま編み物をしている優しそうなおばあちゃんがいます。

「あら。かわいい子狐ちゃん」
優しそうなおばあちゃんは、「ノラ」、「野良」と名乗りました。そして愛情に満ちた笑顔を子狐に向けて、子狐を腕の中に迎え入れました。
「あなたのことは、知っているわ。最近しょっちゅう、管理局に忍び込んで、法務部を困らせている、『稲荷神社の末っ子子狐』ちゃんでしょう。
悪い子ね。あなたのおばあちゃんに、そっくり」
子狐を抱き寄せるノラばあちゃんは、とっても温かくて、とってもいい匂い。子狐はすぐ、ノラばあちゃんを好きになりました。

「おばーばのこと、しってるの?」
「よーく知ってるわ。昔一緒に働いていたのよ。そして若い頃、一緒にね、やんちゃしてたの」
「ヤンチャ?」
「そう。やんちゃ」

さぁさぁ、今日はどこの部署にもイタズラしないで、おばあちゃんのところでおネンネなさい。
ノラばあちゃん、子狐をモフモフとフカフカで包んで、ゆっくりゆっくり、背中をなでます。
それは正しく愛情で、それは正しく優しさでした。
愛情と優しさに包まれて、こっくり、こっくり。
コンコン子狐はものの数秒で寝落ち寸前。
その日はなんにも迷惑かけず、どこからも叱られず、幸福にお昼寝して過ごしましたとさ。

11/27/2024, 3:59:29 AM

「微熱は知らんが、『発熱』の定義って、世界と日本とで、微妙に違うのな」
日本の法律において37.5℃以上を発熱、38℃以上を高熱といい、アメリカで売っている内科の教科書では午前と午後で体温の基準を変えているという。
「発熱 定義 世界的」等々で検索をかけていた某所在住物書きは、「ハリソン内科学」なる単語を見つけて、ぽつり。完全に初耳であった。

「風邪とか体調崩したとかのネタは、何度か書いて、複数回実際に投稿してるのよな」
なんなら、俺から出せるほぼほぼ風邪ネタは書き尽くした説。 物書きは言う。
「風邪以外の『微熱』っつったら、たとえば、そうさな、強火じゃない方の微熱調理とか……?」
ひと、それを微熱より「低温」という。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内に、稲荷の子狐と化け子猫と、それから子猫又が集まって、
小さな広場のような場所で、小さな小さな火にかけられた茶釜をかこみ、なにやら、わちゃわちゃ。
「がんばれ、がんばれ!」
「見て、ちょっとお肉、色が変わってきた!」
茶釜に対して、話しかけておりました。

ところでこの茶釜、タヌキの尻尾が生えています。
「ねぇ、後で、ちゃんと洗ってよ。約束だよ」
なんなら茶釜、言葉も発しています。
そうです。小さな小さな火に、微熱の火加減であぶられているのは、化け子狸なのです。

惣菜屋の娘にして、近所の魚屋でお魚の修行をしておる化け子猫が、このたび実家の惣菜屋から豚バラブロックを貰ってきまして。
こう言われたのです。「友達皆で、これを料理して、食べてごらん」――すなわち修行の一環です。

で、美味そうなお肉だったもので、
都合のつかぬ子カマイタチを除いた友達全員呼んで、稲荷神社に集まって食べよう!
というハナシになったのですが。
丁度稲荷の母狐が晩ごはんの仕込みで厨房を使っておったので。調理場が使えない。

『僕、茶釜に化けられるよ』
化け子狸が代替案を出しました。
『火は、狐火で、がんばって』
で、稲荷の子狐が頑張って、火事や延焼の心配が無い狐火をポツポツ起こして、
沸騰してるかしてないかの温度で、タヌキの茶釜に、豚バラブロックを調味料と一緒に、ポン!
入れてみたのでした。

「沸騰しなくても、お肉ってなんとかなるのね」
コンコン子狐が頑張って、おりゃー!とりゃー!
狐火を焚き続けているのを見ながら、
にゃーにゃー、子猫又が言いました。
「低温調理、っていうの」
微熱な火加減で、じっくり火を通すのよ。
お肉の提供者、化け子猫が言いました。
「テーオンチョーリ。 どこかで聞いた」
「多分、あなたの雑貨屋さんの、家電コーナーに、その調理器具があるんだと思う」

「テーオンチョーリの家電?」
「温度と、時間をセットして、放っとくの。そうすれば、勝手に温めてくれて、料理ができる」

ぽつぽつ、ぷかぷか。 子猫ーズがおしゃべりをしている隣で、稲荷の子狐、茶釜に火をくべます。
まだまだ修行の途中なので、使える狐火は小ちゃいし、温度も大人狐に比べれば、微熱なのです。
まぁ、おかげでポンポコ子狸も、茶釜の底、つまりおなかを焦がさず茶釜の中を、ポコポコ温めることが、できておるワケなのですが。
「お肉って、ニオイ、残るかな」
「だいじょーぶだよ。ちゃんと、あらうよ」
「ところでさ。低温調理って、あとどれくらいお肉茹でるんだろう。そろそろ僕、眠くなってきた」
「わかんない!」

そりゃ!えいやぁ! 狐火の微熱は相変わらず。
茶釜に化けて微熱に温められている子狸は、
あんまり微熱の狐火が心地良いので、こっくり、こっくり。もうちょっとで寝落ちてしまいそう。
「がんばれー!ねちゃダメー!」
「がんばる、がん……ばる……!」
最終的に子狐たちの「なんちゃって屋外調理実習」に気付いた母狐が、釜から豚バラを取り出して、
美味しく、ジューシーに、仕上げをしてくれましたとさ。 おしまい、おしまい。

11/26/2024, 4:48:08 AM

「『太陽の下』って言葉の第一印象が夏なのは、だいたい理由分かるけどさ。
『月の下』って言われても、そういえばいまいち、特定の季節と結びつきづらいよなって」
なんでだろうな。不思議だけど、俺だけかな。某所在住物書きはポツリ呟き、太陽と夏の妙な結びつきを引き剥がそうと、懸命な努力を続けていた。

今は冬である。一部地域は平地で雪が降った。
東京の明日が20℃超え予想だろうと、どこかで寝ぼけた桜が狂い咲こうと、今は冬である。
寒空の太陽の下はさぞ、さぞ……どうであろう。
「放射冷却?寒い?それか道路の雪が溶ける?」
ヤバい。分からん。物書きは首を大きく傾けた。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の、完全に倉庫かゴミ置き場と化した支店、朝。
お題回収役を藤森といい、まさしく「おてんとさまの下」すなわち「緒天戸」という男の下で、彼の指示に従い、本店から業務用車両で、ここに来た。
『混沌倉庫支店の整理をせよ』とのお達しである。

制服の上着を脱ぎ、汚れないように車に収納して、
ひとり、腕まくり、腕まくり。
「で?」
どこから手をつけろとのご命令だったか。
無人支店のドアを開け、一歩踏み出すと、
カサリ、靴と紙との接触音。
足をどける。 踏んだのは数年前の競馬新聞だ。

…――発端は昨日、本店の昼休憩にさかのぼる。
「おい。藤森」
緒天戸と藤森、ふたりで昼食を食っていたところ、
藤森の上司のお天道、もとい緒天戸が言った。
「お前このまま、俺の下で仕事しねぇか」
藤森の職場において、役員であるところの緒天戸。
藤森が今年の春まで抱えていた「職場内の恋愛トラブル」の一時的な避難先として、己の部屋の整備役という立場を提供していた。

「茶ァ淹れるのうめぇし、掃除丁寧だし、電話もすぐ出るから、総務課連中が助かっててよ」
「一時的」で終わらせる仮の仕事が、絶妙かつ高効率的に機能・貢献を果たしてしまい、
今ではお天道の下、もとい緒天戸の下で、藤森が緒天戸の仕事部屋を完璧に整えていることが「あたりまえ」になってしまった。

「『ヒラ』の私には、荷が重過ぎます」
あくまで自分は、「一時的」なのだ。藤森は緒天戸の残留の指示に、「否」を突きつけた。

「そこをなんとかしてくれよ。俺の下の方が、給料良いだろ?有給もとりやすいだろ?」
「ごもっともですが、私にできることは、誰でもできる雑用です。私のトラブルが解決して、ここに置いていただく必要が無くなった以上、」
「その『誰でもできる雑用』を、総務課の連中はお前ほど完璧には、やってくれねぇんだって」
「あの、」
「考え直せよ。藤森。

あ、そうそう。お前のウデを見込んで頼みてぇことがあってだな。『混沌倉庫支店』、『ブラックホール倉庫』のことは知ってるだろ。あそこの――」

――…「さすが『混沌倉庫支店』だ。置かれているもののラインナップが酷い」
時は進み場所も変わって、現在。
「競馬新聞、雑誌、本来なら廃棄されているべき契約書と解約書のセットにポテチの袋……
なんだこれは。『コンコン稲荷ブライダル』?」

その混沌倉庫に放り込めば、二度と戻ってこないが、確実にありとあらゆる物がそこに眠っている。
ブラックホールの異名と噂はダテではなく、混沌の比喩は直喩かと疑うほどのごちゃつき。
ひとまず「確実にゴミと断定できるもの」の回収から、藤森の混沌整理が始まった。

「あの人の下で、こんな酷い『ゴミ箱』が残っているとは……あー、20年前の退職届けまである」
菓子の袋、タバコの箱、ペットボトル。
紫外線に焼けた紙には昭和の日付が記されていたり、あるいはつい数ヶ月前の、「本来各支店・本店に並べられて在るべきチラシ」が数枚落ちていたり。
「いや、その『支店と本店に在るべきチラシ』が『ここにある』のは一大事では?」
ゴミとゴミでない物、正体不明と出所明確な物。
分けて、まとめて、袋の山が1時間も経たずにどっさり。撤去にはトラックが必要だろう。

「これ、今日で終わるのか……?」
「太陽」の下で働くのも、ラクじゃない。
大きなため息をひとつ吐いた藤森の手に、複数枚の紙の束が当たる。ほこりの付き具合から、最近置かれたものだろうと、藤森は推理した。
「えっ?」
それは現在、実際に効力を持っている最中であるところの、本店の従業員が取った契約書。
契約を取ってきた者の枠には、すべて、同一人物の名前が手描きで記入されている。

従業員の名前は、
「『藤森 礼(ふじもり あき)』……、」

藤森は業務用のスマホを取り出し、
「お疲れ様です。藤森です」
緒天戸に電話をかけた。
『お前の契約書、見つけたか』
太陽もといお天道、緒天戸はお見通しだった様子。
『お前が俺の下で働いてるのを、よく思ってない総務課のいち派閥、数名の悪いイタズラさ』
緒天戸が言った。
『「それ」をやったヤツの証拠が欲しい。
お前もちょっと手伝えよ。藤森』

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