かたいなか

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10/26/2024, 4:24:54 AM

「友達は、何回も類似のお題と遭遇しててだな」
友だちの思い出、友情、絆、子供の頃は。
3月から数えて何回、「友達」に類似したお題を物語にしてきたことだろう。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、ため息。だいぶネタが出尽くしていたのだ。

たとえば冷蔵庫のプリン食って喧嘩とか。
あるいは実山椒を口にシュートして喧嘩とか。
そして必ず、後日ケロっと元の大親友に戻る。
過去を振り返り、物書きは己のクセに気づいた。
「喧嘩してケロリの友達、俺、書き過ぎでは?」
しゃーない。そもそも「友達」をよく知らぬ。
「友達。ともだちねぇ……」
少なくとも「夏休みの友達」は友ではないと思う。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所。深めの不思議な森の中の、不思議な不思議な狐の家族が住まう稲荷神社。
時の流れがおかしいのか、森と参道は在来種の宝庫。そこそこ希少な花から、そこを根城にする蝶まで、いつか昔の東京を留めて息づいている。

なお「不思議な森」に相応しく、この稲荷神社の森と参道、時折妙な珍客も顔を出す。
たとえば小指程度の大きさにアクアマリンの光沢と透過性を秘め、ノリノリダンスをキメるキノコ。
たとえば木の根元に1匹だけで巣を作り、刺した相手を一時的に重度のチョコミン党員にするハチ。
だいたいそういう妙な客は、神社に住まう一家の父親に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれる。

多分気にしてはならない。
今回のお題とは無関係なおはなしである。
「ここ」ではない、別の世界のおはなしである。

本編開始。ようやくのお題回収。
上記稲荷神社の大座敷で、友達同士の2名が、
手足を投げ出し疲労コンパイの荒い呼吸をして、
バッタン。大の字に倒れている。
ひとりは、よく花を撮りに来る雪国からの上京者。
もうひとりは上京者の親友で妻子持ち。
藤森と宇曽野である。

藤森が稲荷神社の掃除の手伝いに呼ばれて24時間、チャットにも着信にも音信不通だったのだ。

藤森が上京してきてから面倒をみている宇曽野。
友達の安否不明で居ても立ってもいられず、目撃情報のあった稲荷神社へ向かった。
その神社は「本物」の稲荷狐が住まう神社として、一部の地元民から畏怖の対象となっていた。
社に不敬・悪意を為す人間の心魂を狐が食らうと。
まさか。ひょっとしたら。
花を愛し何事にも誠実な藤森に限って、そんな。

フタを開けてみれば稲荷神社の大掃除である。
友達を想って神社に乗り込んだ宇曽野は黒髪の女性にソッコーで見つかり、手伝い要員として確保。
『丁度良い。あなたのお友達同様、あなたにも』
によろるん。女性は妖狐の美しい微笑を浮かべた。
『お掃除を手伝っていただきましょう。
神ご不在の10月、神無月の今のうちに』

「おい、ふじもり、おまえなんで、そうじなんか」
肩で息をする宇曽野。重い家具や高価な調度品の持って移動して置いてを何度繰り返したことか。
「わたしだって、しるものか。センブリを撮っていたら、いつのまにか、あれよこれよで」
呼気に小さな疲労の喘ぎ声が交じる藤森は、稲荷神社に住まう子狐に髪をカジカジ。遊ばれている。
宇曽野がどかした家具の下を、藤森は丁寧かつ効率的な作業で拭いたり、掃いたり。綺麗に整えた。

「おまえの後輩、既読が付かない、通話が繋がらないって、酷く心配してたぞ。なんで……」
「仕方ないじゃないか。かえすヒマが、……よゆうが、無かったんだ。わかるだろう?」
「時間が無かったにしても、だな」
「それ、今じゃなきゃダメか。疲れてつかれて」

「「はぁ……」」

雪の人、藤森と、その友達の宇曽野。
ふたりして稲荷神社の大掃除を手伝って、疲れ果てて、大座敷に体を投げ出して大きなため息。
揃って音を上げて、揃って目を閉じる。
「残りの場所は……?」
「私達が任された場所では、残りは……」

残りは、このだだっ広い大座敷と、それから。
藤森が喉から疲労をこぼしながら言うと、
カタン。突然、大座敷のふすまが開いた。

「掃除の奉仕、感謝します」
藤森を神社掃除に誘い、宇曽野を手伝い要員に確保した例の女性が、穏やかな微笑を浮かべている。
「掃除の手伝いをしてくださる方が、もうひとり、いらっしゃいましたよ」
微笑の女性の隣には、困惑千万の女性がひとり。
藤森の後輩、高葉井であった。

かじかじ、カジカジ。子狐は相変わらず。
相手が一切抵抗してこないのを良いことに、宇曽野の友達の髪を遊び半分で噛んでいる。

10/25/2024, 3:34:23 AM

「『ダメ。そこへ行かないで』と、
『私はAには行かないで、Bに行きました』と、
『豪雨だったらしい。行かないで良かった』と?
他には『今行かないで、いつ行くの』とか?」
「行かないで」に繋げられそうなハナシ、昨日、まさしく書いたばっかりだな。
スマホの通知画面、今回のお題の5文字を見て、某所在住物書きは頭をガリガリかいて天井を見上げた。
「続編モドキ程度は許容範囲よな?」

再度、ため息。物書きは昨日の文章を読み返す。
「なんで今日じゃなく昨日あのネタ書いたし……」
すなわち喫茶店の奥に「この先に行かないで」の注意書きがある、というネタが書けた筈なのだ。

――――――

頑張って貯めたガチャ石が、ジャンジャンどぶどぶ溶けて流れて、消えゆく濁流に絶叫。
その「行かないで」をガチャ爆死と言うそうです。
という物書きの◯週間前の慟哭は放っておいて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
その日は一家総出で稲荷神社の大掃除。
そろそろ神無月の10月から、霜月の11月に変わります。出雲へご出立なさった稲荷の神様が、狐たちの稲荷神社へ、お戻りになるのです。

さぁさぁ、神社を清めましょう。
それそれ、汚れを払いましょう。
新しい器も美しい飾りも、ちゃんと用意するのです。
稲荷の神様の神使たる不思議な化け狐の一家は、
神様と一緒に出雲には行かないで、稲荷神社で神様の留守を、しっかり守っておるのです。
稲荷の神様がちょっと早めにお戻りになっても大丈夫なように、ぱたぱたぱた、どたどたどた。
あっちこっち、掃除しておくのです。

で、今回のお題が「行かないで」のせいで、
化け狐一家の大掃除に、ひとり人間が巻き込まれて、末っ子子狐と組んで一緒にお掃除。
哀れな人間は名前を藤森といいました。
花咲き風吹く雪国出身の、心魂清き人間でした。

「何故私が?」
深いことを気にしてはなりません。
それが今回のおはなしです。今回のお題回収です。
しゃーない、しゃーない。

「あなたは、この部屋を掃除してください」
狐一家のお母さん、美しい黒髪の女性の姿で、藤森ににっこり。お手伝い内容を伝えます。
「奉仕の報酬として、この廊下の突きあたりの部屋に、お茶とお菓子と軽食を用意してあります。
好きに行き、好きに食べて、よく働いてください。

ただし突きあたりから伸びる廊下の先には、特に廊下の先、稲荷狐の四宝の意匠が付いた部屋へは、
決して、けっッして、 行かないでください。」

行っては、なりませんよ。 ふふふ。
絶対、ぜったい行ってはなりませんよ。 うふふ。
いわゆる「押すなよ」みたいなフリなのか、「鶴の恩返し」みたいな本当の禁止事項なのか、狐のお母さんはちっとも説明しません。
ただ穏やかに微笑み、部屋から出ていきました。

さぁさぁ、神社を清めましょう。
それそれ、汚れを払いましょう。
藤森と末っ子のコンコン子狐、放り込まれた部屋のお掃除を、さっそく始めたのでした。

「子狐。稲荷狐の四宝というのは」
「カギ、まきもの、ほーじゅ、イネのほ。
行っちゃダメ!ゼッタイ、いかないでください」
「行くなと言われている場所に立ち入るつもりは無い。言葉を知らなかったから、聞いただけだ」
「ダメ!だめ! いかないで、ください」
「分かった。わかったよ。行かない」

「ゼッタイゼッタイ、絶対、行かないでください」
「……あの、子狐。実は逆に『行け』なのか?」
「そのけんにつきましては、キツネ、もくひ」
「もくひ……?」

行けなのか、行くななのか。
なんともモヤモヤしてスッキリしない藤森です。
仕方がないのでモヤモヤを放ったらかして、ハタキにほうき、濡れ雑巾に大きなゴミ箱。
ぶんぶんビタンビタン尻尾を振りながら壺を拭く子狐と一緒に、神社掃除のお手伝い。

途中で藤森、少し喉が乾いたので、
「お茶とお菓子と軽食を用意してある」とお母さん狐が言っていた、突きあたりの部屋へ、
お茶を飲みに、歩いていったところ、
お母さん狐が「行かないでください」と言っていた「突きあたりから伸びる廊下」の先の扉が、
チラリ、はっきり、見えたのでした。

鍵と巻物と、宝珠と稲の穂の意匠が付いた扉です。
廊下の先にあるのに、何故かよく見える扉です。
あれが、 「行かないで」 と言われた扉だ。
真面目で誠実な雪の人、藤森はコクリと唾液を飲み込み、廊下の先に向いたつま先を、
ちゃんとソッポ向かせて、結局、「行かないで」の部屋へは行きませんでした。
行かないでの部屋が何の部屋で、行けば何が起こったのかは、結局分からなかったとさ。 おしまい。

10/24/2024, 3:36:53 AM

「『空』はねぇ、3月から数えて、『星空』2回に『空模様』等の天候ネタ3個、その他空ネタ2個に今回のコレで、合計8個目なんよ……」
「空」明記のお題だけでコレだから、他に「雨」とか含めれば、きっと20は空ネタ書いてきたな。
某所在住物書きは過去配信されたお題を追った。
確実に、空ネタは多い。いくつかネタをストックしておけば、いつか、お題配信とほぼ同時にコピペでズルできる日が来るだろう。 多分。

「……問題は空と雨がネタ切れ寸前ってことよな」
去年同様であれば、「空」はまだ1〜2回遭遇するし、天候として「雪」出題はほぼ確定である。
それまでにネタ枯渇を解消できるだろうか。

――――――

私が推してる同人発祥・原作のゲームに、いわゆる鉱石ランタンみたいなアイテムが出てくる。
複数個あって、それぞれ「偽物」が作られてるから、「ランタンシリーズ」と「ランタン:レプリカシリーズ」って言われてる。

有名どころでは、「癒やしのランタン」と、「癒やしのランタン:レプリカ」っていうアイテムだ。
詳しいことは割愛するけど、ランタンの中の鉱石がぼんやり、あるいは明るく輝いて、幻想的。
屋外にポツンとランタンがひとつ置かれてる、シンプルな構図の公式イラストは、
どこまでも続く青い空の下の偽物バージョンと、
星が輝く夜空の下の本物バージョンとで、
背後の裏話が違う、っていうギミックがあった。

ドチャクソに人気なゲーム内アイテムで、要望も多いのに、未だに商品化されてない。
原作者さんがランタンの光り方・光らせる方法・大きさと付属品等々にバチクソこだわり過ぎてて、企画書にゴーサインが全然出ないってウワサ。

で。何故そんな鉱石ランタンのハナシを紹介するかというと。 とある喫茶店で見つけたのだ。
ゲーム内のランタンとはそれほど似てないけど、
なんなら光る色も中の鉱石の形も違うけど、
すっッごく、雰囲気が「それ」っぽいランタンが、
喫茶店の、青空ゼリーの大食い完食チャレンジの景品として、掲げられてたのだ。

なんでも店主のおばあちゃんが、最近の長い長い夏と高温多湿を見越して、涼しげな形と味のブルーサイダーゼリーを大量に作ったらしい。
で、好評と売り切れと増産を繰り返して、昨今の最低気温ストンで余っちゃったと。
先着10名、ブルーサイダーゼリーを1kg完食したら、無料でランタンが貰えると。

はい。職場で長い付き合いの先輩連れて来ました。
実用と保存用、2個頂く所存です。
「永遠のこうはい」こと私、高葉井、頑張ります。

「後輩。こうはい」
「なぁに先輩」
「私は特に大食いでもないし、なんなら一般的には、少食にカテゴライズされる可能性がだな」
「大丈夫。ここのゼリー、低糖質」
「高葉井、」

「腹をくくれツバメ。お前も管理局の職員だろう」
「すまない高葉井。発言の元ネタが分からないし、私はツバメじゃない」

それじゃ、頑張ってね。
優しくて穏やかな顔したおばあちゃんが、
私と先輩が座ってるテーブルに、とことことこ。
1人分100gのガラスの器に盛られた「青空ゼリー」が、私と先輩の分で、ずらり合計20個。
整然と、並べられた。
青いソーダ味のキレイなゼリーの中に、ふわふわなホワイトサワーが閉じ込められてる。

卓上に大量展開された、どこまでも続く青い空。
20のガラスの器の中に、青と白が広がってる。
キレイといえばキレイだし、壮観といえば壮観。
内容物の重量は、2人分だから約2kg。
これを完食すれば、鉱石ランタンが2個手に入る。

「いくぞ。ツバメ!」
「だから。私はツバメじゃないし、どう返答すれば良いのか理解していない」
「ランタン回収ミッション、開始!」
「あのな高葉井」

大食い完食チャレンジ用に用意してくれたと思しきレンゲスプーンを持って、
ぷるん、青空のひとつを、青いゼリーの形を崩す。
口に含めば優しいシュワシュワ感が先に来て、
私の舌に、ゼリーじゃなくてホワイトサワーのソフトグミが当たってるってことに気づいた。
「美味しい。好き」
味変用に出されたハチミツは、さながら空の奥に控える陽光のモチーフだ。

ぺろり。秒で1個目を胃袋に収容する。
残りの大食い完食チャレンジ、青空ゼリーの個数は、19個。私は2個目に早々、ハチミツをかけた。
オチを言うと、先輩はなかなか健闘して、7個で撃沈。私は頑張って先輩の分も食べきった。
めっちゃ幸福に景品の鉱石ランタン2個を抱える私を、先輩は苦しそうな顔して、見てた。

10/23/2024, 3:44:29 AM

「衣替えの、何が面倒って、収納の中身をいちいち総入れ替えすることだと思う」
オールシーズン着られる服が有ったら理想だが、
日本の冬は北だとバチクソ寒いし、夏は最近「酷暑日」なんて単語まで出てきちまってるから、きっと現実には無理なんだろうな。
某所在住物書きは秋冬用の部屋着を取り出して、眺めながら言った。 そろそろ秋だ。……多分。

「服の量減らせば、衣替えの時の総入れ替えも、そりゃラクだろうけどさ」
それができりゃ、まぁ、苦労しねぇわな。物書きはため息を吐き、服を畳む。
夏物を完全にしまい込むには勇気がいるものの、
いい加減決断しなければ、収納が足りない。

――――――

衣服としての衣替えを書きたくないために、「エビ天の衣をパン粉に変えちまえ!」と閃いた物書きです。
天ぷらなんて最近食ってないせいで、天ぷら粉とパン粉の違いをガチで忘れる大失態。
エビ天の衣は最初とろとろなのです。
エビフライの衣は最初パン粉なのです。
衣替えしたら別の料理になってしまう。
なんてハナシはここまでにして、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人の世界を勉強しておるのでした。

さて。 今日は子狐、新しいお餅のレパートリーを探るべく、子狐のお家のお台所で大実験。
衣替えを試みるのです。
すなわち、お餅の中に入れる具をそのままに、その具をつつむ衣――お餅の生地を探求するのです。
そろそろ、子狐の住まう東京にも、秋冬の気配。
美味しい具に秋らしい衣を着せて、冬らしい衣も着せて、参拝者の胃袋に送り出してやるのです。

さぁ、お餅を衣替えしよう。
お餅の衣を、生地を、美しく飾ろう。
コンコン子狐、お餅に狐耳や狐尻尾の毛がまざらぬよう、人間に化けて、お台所に立ちました。

コンコン稲荷マジック、めたもるふぉーぜ!
……はい。そろそろ、本題に入りましょう。

「秋といえば、こーよー。紅葉のおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐。まず最初に、カボチャの黄色をお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
イチョウの色付きを表現して、つぶあんお餅を衣替え。甘い甘い秋をこしらえました。
「黄色だけじゃなく、赤も、あってもいい」
そっちはピリ辛としょっぱさを合わせて、惣菜おもちにしてしまおう。子狐はまずひとつ、ふたつ。お餅の衣替えを成し遂げました。

「カキも、秋だ。カキのおもちつくろう」
お餅の衣替えを画策中の子狐、次は柿のオレンジをお餅の生地に、ぱったん、ぺったん!
きっと美味しくなるだろうと、こしあんお餅を衣替え。深まる秋をこしらえましたが、
「……なんかちがう」
試食してみると、これが意図した味じゃない。
柿は餅の生地に入れるべきではなかったようです。衣より、あんの中に仕込むべきだったようです。
子狐は失敗作を甘じょっぱく煮付けて、これを美味しく処理。お餅の衣替えに失敗しました。

「冬のおもち、なにがいいかなぁ」
お餅の衣替えを画策中の子狐、最後は冬を先取りしたお餅を作ろうと、考えて、かんがえて、
なんにも案が浮かばないので、悶々モヤモヤ。
頭の中にハテナマークをいっぱいこしらえました。
「冬。ふゆ。ゆき。しろ。
しろいまんまじゃ、ふつーのおもち……」
子狐はうんうん考えて、苦しまぎれに白くて冷たいものとクリーム色でしょっぱいものを、
つまりバニラアイスとチーズを白い生地で包み込んで、意外と美味かったのでヨシとしました。

「これはもうすこし、ケントーがひつようだ」
イチョウを表す衣のカボチャお餅、
紅葉を表す衣のピリ辛お餅、
衣から具材に異動になった柿とこしあんのお餅、
それから要検討、アイスとチーズの冬お餅。
コンコン子狐、まだお餅の生地の衣替えが納得いかない様子。美味いお餅は1日にしてならずです。
「でもアイスおもち、おいしかった」
子狐はそれから2時間くらい、あーでもない、こーでもないと、「衣替え」のお題に従って、
秋冬のお餅を包む衣を、かえ続けておったとさ。

10/22/2024, 3:00:44 AM

「喉の酷使、アルコールによる影響、除湿機不使用による喉の乾燥、風邪による炎症。あと加齢。
まぁまぁ、声が枯れる理由は多いらしいな」
ガンとかポリープとかでも声が枯れることはあるのか。某所在住物書きはネットの情報を確認しながら、そもそもの声枯れの原因を探した。
風邪ネタに飲酒、季節的な保湿物語にカラオケも書けそうではある。問題は「実際に」書けるかだ。

「声枯れねぇ」
そういや、最近そもそも会話する機会自体減った気がする。物書きはここ数年の会話回数を想起する。
「声って、出さねぇと声帯が衰えるらしいな」
そういえば最近、声がたまに、かすれる。
加齢か。あるいは声帯筋肉の老化かもしれない。
「……まめまめまめまめまー……」
声が完全に枯れる前に、ボイトレか何かで筋力を回復したいが、どうだろう。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の本店近くに、酒とおでんが絶品の「蕎麦処 蛇上分店」なる店がある。
深夜に手押し屋台での営業もしているという噂だが、さだかではない。酒ならなんでも飲む店主が、周囲の職場に生きる複数名の昼休憩を支えている。

店主は物静かだが、バイトがやんちゃで元気。
らっしゃいあせェ!8番卓天蕎麦2入りましたァ!
声が枯れるまではいかないが、張り上げている。
店主の静かさとバイトの元気のギャップが、名物といえば名物と言えなくもない飲食店であった。

さて。
「イヤガラシーな五夜十嵐の件から、約1ヶ月だ」
そんな蕎麦処、5番卓のテーブルで、大盛りの肉蕎麦などすすっている宇曽野という男。
「地味な嫌がらせを食らったようだが、あれから、どうだ。何事もなく仕事できてるか」
向かい側で真剣に考え事をしている親友、藤森に向かって、届いているんだか聞こえていないんだか分からぬ言葉を、それでも投げている。

「……」
パッ、ぱっ。 鶏ネギの温かいつけ蕎麦の、つけダレに七味を振りながら、藤森はどこか上の空。
勿論視線はタレを向いているのだ。
見えていないに違いない。
辛味好きでもないのに少々「振り過ぎ」ている。

まぁ、そういうのを食いたくなるときも、こいつにだってあるのだろう。宇曽野は見て見ぬフリ。

「一応総務には、五夜十嵐がこれ以上妙な真似をしないよう、言いつけてもらった」
経緯説明しながら肉を食う宇曽野と、
唇を真一文字に結び、時折七味を振る藤森。
「ただ、専務が妙な情報を仕入れたらしくてな」
藤森のつけダレを見なかったことにする宇曽野と、
宇曽野の声がおそらく届いていない藤森。

ぴたり。藤森の七味が止まった。
考えがまとまったらしい。
「うん」
数度、小さく頷いた藤森は、忘我のまま箸入れから箸を取り出し、蕎麦をつけダレにくぐらせて、
ちゅるり、真っ赤なつけダレから蕎麦を引き上げて空気を含みながらすすった。
「……っ!! が、ぐッ!げほ!ゲホッ!!」
喉をつかみ口をおさえて、ひとしきり咳き込んで――いや、むせたのであろう。
藤森はそれが収まってから、コップの水を一気に喉へ流し込み、卓上から2杯目を注いだ。

「無事か?藤森」
「だぶッ、たぶん、ぶじだどおもうが、げほッ!」
「つけダレ、変えてもらうか?」
「めいわぐが、かかる、だいじょうぶ、……っぐ」

「すいません。つけダレのおかわりを」
「うぞの、うその。いらない。だいじょうぶ」

ゲホゲホ、けほけほ。唐辛子が喉の「ひどいところ」にくっついたらしく、藤森は大惨事。
つけダレおかわりの名目で、バイトが情けをかけて宇曽野のオーダーに追加50円で応じている。

声が枯れるまでの量を藤森が投下する前に、気付かせてやった方が良かっただろうか。
宇曽野は赤い赤い方のつけダレから鶏肉とネギを救出しながら、藤森のコップに3杯目の水を注ぐ。
「何を考えていた?」
「ちょっと、きのうの、でぎごとを」
「昨日?」

なにやらまた、ひと騒動あったらしい。
七味を適度に払って、宇曽野は辛口の鶏肉を舌にのせた――なかなかピリピリしていた美味い。
勿論、適度な量まで七味を落とせばの話である。

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