かたいなか

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10/1/2024, 3:00:36 AM

「『明日』はこれで、4例目よな」
5月の「明日世界がなくなるとしたら(略)」と「また明日」、8月の「明日、もし晴れたら」。
今日は「きっと明日も」らしい。某所在住物書きは配信の題目を目でなぞり、わずかな手ごわさを感じた。
大抵配信される題目は、この物書きにとって手ごわいものであった。それこそ、「きっと明日も」、難題のそれであろう。

「きっと」。 必ず、明日も◯◯になる。おそらく明日も◯◯だろう。間違いなく申し付ける。
さすがに「きっ」という呼び名の人物は居ないと思われるので、「キッと一緒に、明日も」は無理。
これくらいか。 これくらいだろうか。
「『明日』ねぇ……」
ところで10月1日はコーヒーの日らしい。
特に「それ」を意識しているワケではないものの、きっと明日も、無糖のコーヒーを飲むだろう。

――――――

10月に突入した東京ですが、まだまだ気温気候は夏の気配。だって明日が真夏日なのです。
明後日も25℃以上の夏日、その次も30℃の真夏日。夏、なつ、ナツ。きっと明日も暑いのです。
と、いう速攻のお題回収は置いといて、今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は食いしん坊の遊び盛り。
その日も尻尾をぶんぶん振り回して、神社敷地内の縄張り巡回、もとい参拝者のための安全確認。
コロコロ美味しい栗の入ったトゲトゲが落ちていたら、参拝者が怪我をするかもしれません。
コロコロ楽しいトチの実が参道に転がっていたら、参拝者も転んでしまうかもしれません。

あっちにヤマブドウ、こっちにアケビ。
そっちのキノコは何かしら、毒かしら。
コンコン子狐は尻尾をぶんぶん振り回して、稲荷神社のご利益豊かな鎮守の森を駆け回ります。
断じて今日のおやつの収集ではないのです。

ぶんぶんぶん、パタパタパタ。
コンコン子狐は稲荷神社の森の中。参道の上。
葛の葉とツルで編んだカゴをくわえて、たまに参拝者さんからカゴの中にお賽銭を投げ入れられながら、稲荷の恵みを探します。
心の傷ついた匂いがする参拝者さん、魂にヒビ入った匂いがする参拝者さんには、1個数粒、稲荷の恵みをおすそ分けします。

ぶんぶんぶん、パタパタパタ。
コンコン子狐が今日の縄張り巡回を、丁度終えようとした頃に、木漏れ日のさすあたりを見上げると、
どうしましょう、なんということでしょう!
神社の花を撮りに来ていた参拝者さんの頭の上に、ぷっくり膨らんだイチジクが見えるのです!
「イチジクだ、イチジクだ!」
なかなかグルメな子狐、イチジクのジャムにバターとあんこを添えた、お母さん狐特製のタルトやどら焼きの味をよくよく知っているのです。

よくよく見れば、イチジクの下で写真を撮るこの参拝者、お母さん狐が人間に化けて店主をしている茶っ葉屋さんのお得意様。顔見知りです。
名前を、藤森といいます。花あふれる雪国出身の、心優しく魂清き人間です。
よし、お得意様の肩を足場にして稲荷のイチジクを採りましょう。神社の美味を頂きましょう。

人間よ、参拝者よ。狐のあんよを受け止めなさい。
子狐コンコン、くわえていた葛のカゴをおろして全力助走。力強く地面を蹴って、一気に写真撮影中の参拝者さんもといお得意様に飛び付きました。

イチジク、イチジク!
「わっ、なんだ、子狐!何をしている?!」
イチジク、もうちょっとで届く!
おとくいさん、せのびして!もっと前にきて!
「だから、何が、どれが目的なんだ、子狐!」

おとくいさん、ギリギリ届かない。不便。
「あのな……?」

突然子狐の足場にされた参拝者のお得意様。
ちょっと周囲を見渡して、丁度近くに食べごろのイチジクを見つけたので、
一生懸命おててなり首なりを伸ばす子狐に代わり、
1個2個、3個。形の良いものを採ってやります。
「ほら。これが食いたいのか」
コンコン子狐は大喜び!狐耳ペタリの狐尻尾ビタンビタンで、幸福にイチジクをカゴの中へ入れます。
イチジクの木にはまだまだいっぱい、おいしそうに膨らんだものが見えます。
きっと明日も、食べごろが見つかるでしょう。
きっと明後日も、食べごろはそこにあるでしょう。

ありがとう、ありがとう!
コンコン子狐は参拝者にお礼として1個、稲荷のご利益詰まったイチジクをくれてやりました。
子狐がダッシュで帰る後ろ姿を見る参拝者の肩やら服やらには、子狐が運んできたイネ科やマメ科のひっつき虫が、大量に残っておったとさ。

9/30/2024, 3:01:03 AM

「6月頃に『狭い部屋』ってお題なら書いたわ」
エモい話を、書けないこともない。某所在住物書きはカキリ小首を鳴らし、ため息を吐いた。
静寂には複数の色が存在する。
痛い、気まずい、穏やかな、あるいは感動的な。
いずれにせよ、夕暮れの部屋を舞台に主人公ひとり、あるいは友人とふたりで、何か酷く悩ませれば良い。
沈黙はスパイスとなるだろう。

「でも不得意なのよ。エモネタ。納得行くハナシ書こうとすると投稿16時17時になっちまうし……」
ぽつり。物書きは弱点を吐露し、物語を組む。
ところで主観的な議題提起だが、人口多い東京都を始めとした都市において、「静寂」はなかなか貴重で、遭遇確率は少ないように感じる。
雑踏内で無音・静寂を得る方法は何だろう?

――――――

秋が近付く頃合いから、体調というより、「心調」も、崩れることがある気がする。
何人か共感してくれるフォロワーさん&フォロイーさんもいる。それで実際に困ってる人もいる。

自律神経がどうとか、気温差疲れがどうとか、医学的には言われてるけど、
だいたいこういうハナシを呟きックスですると、
どこからともなくコレやりなさいの指示厨・価値観押し付け厨やら心の問題厨やら、変な方のスピリチュアル系が小さなレスバを繰り広げる。
いつもサーチ&バトル作業お疲れ様です(なお感謝は一切してない)

そういう「心調」が崩れた日に何をしたくなるか、何もしたくなくなるかは、人それぞれだけど、
私に関しては、静かな場所に籠城したくなる。
静寂に包まれた自然だ。
それか、静寂に包まれた部屋だ。
東京はどこもかしこも「音」で溢れてるから、多分、その反動で「無音」の栄養失調なんだと思う。

なお東京はどこもかしこもだいたい「音」で溢れてる(大事二度)

――「しゃーないよ。日本一の人口密度だもん」
私の職場の昼休憩。
「東京って基本的に何か音してるよね」ってハナシを、今年の3月から一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんって同僚にしたら、
まぁまぁ、正論っちゃ正論で返された。
「公園はだいたい誰か居るし。俺の前職の図書館も『静粛に』っては言うけど人多かったし。
カラオケはひとつの手だろうけど、隣の部屋の人がデカい声で歌ってるとか、それが聞こえるとか」
まぁ、まぁ。普通にあるよね。
付烏月さんは昼ごはんのコンビニサンドイッチの包装を開けながら言った。

「カラオケは考えつかなかった」
「どうしても静かな場所に行きたいなら、それこそ、藤森のアパートに引っ越しも手じゃない?」
「藤森先輩、」
「防音防振徹底してて、ほぼほぼ無音じゃん」

「家賃無理」
「うん」
「東京の静寂は、お金がかかる……」
「うん」

夏から秋に変わる頃の一過性だから、別に良いけどね。頑張って我慢、できないこともないけどね。
そんな言い訳をポツリして、私も私で、お昼ご飯のお弁当を突っつく。
「静寂の栄養素が不足してるっていうより、残暑だの気温差だののせいで、人付き合いの消費APとか消費HPとかが増加しちゃったって説もある?」
「ありそう。バチクソにありそう」

東京の静寂、静寂に包まれた部屋はお金がかかる。
自分で言った言葉を心の中で繰り返して、
お弁当箱の中のミートボールを、ぱくり、ぱくり。
「……そういえば藤森先輩の近所の茶っ葉屋さん、お得意様専用の飲食スペースが何故かすごく静かで、今秋のスイーツイベントやってる」

あそこ、なんであんなに静かなんだろう。
疑問提起っていうか話題提供っていうか、なんとなく「静寂」のハナシをしたら、
「ちょっとそのハナシ、詳しく」
静寂じゃなくて、「スイーツ」の方に反応した付烏月さんが、そこそこ真剣な顔してスマホをタップして、私の目を見た。
「たしかその茶っ葉屋さん、藤森がそれこそ、お得意様だったよね」
多分というか確実に、今日の仕事終わりに向けて、本店の藤森先輩にメッセ送ってるんだと思う。

「イベント限定スイーツセット、6種類らしいよ」
「ろくしゅるい」
「お一人様1日につき、2種類までだって」
「にしゅるいまで」

「静寂に包まれた部屋で、私と藤森先輩と、付烏月さんとで3人。1日で制覇できる」
「よぉしちょっと3人してスイーツでAPだのHPだの回復しに行こうか」

9/29/2024, 3:36:04 AM

「いつの、何の別れ際。どこで誰との別れ際。
別れ際に何をするとか、どこに行くとか……?」
5月頃に、「突然の別れ」ってお題は書いた。
某所在住物書きは過去配信分のお題を確認しながら、ぽつり、ぽつり。
現代・日常ネタ、続き物の連載風で文章を投稿しているため、「別れ」そのものは何度か書いている。
今回の題目は「別れ際」。
日常的な別れから、セーブデータ誤削除等による悲劇、恋愛沙汰、人生最大の際まで、執筆可能なネタは幅広い。広いのだが。

「恋愛沙汰と閉店ネタは去年書いたし、セーブデータご削除の別れ際なんざ俺のトラウマなんよ……」
当分、執筆作業は始まりそうにもない。

――――――

食材の買い出しで近くのスーパーに行ったら、
ちょっと昔の数週間〜1ヶ月くらい前にプチバズしてた、地方のお菓子が入荷してた。
たしか私の先輩の故郷のお菓子だ。伝統の餅菓子に、チョコをコーティングしたやつ。
バズった本家の正規品じゃなくて、ジェネリックお菓子の方らしく、名前も包装も違う。
でも気になった。 おいしいらしい。

ただジェネリックのくせに値段が高い。
(プラボトル約100g入りで700円税別)

『藤森の故郷の伝統お菓子のジェネリック??』
付烏月さん、ツウキさん。ふたりして半額づつ出してスイーツを一緒に食べようよ。
休日の曇天、ちょっと涼しい昼下がりに、同じ支店で仕事してる同僚さんに通話相談。
『なに、後輩ちゃん、食べたいの?』
付烏月さんは最近お菓子作りがトレンド。スイーツバイキングとかのお誘いは基本乗ってくれる。
基本、乗ってくれるハズなんだけど。

『あのね、今別れた嫁に売られて行方不明だった息子の救出ミッション中なの。ごめんねぇ』
ガッツリ独身でぼっちの付烏月さんが言った。
要するに今日は都合が悪いらしい。

仕方無い。故郷の先輩本人を誘おう。

『私の故郷の、伝統菓子のジェネリック?』
せんぱい、藤森先輩。ふたりして半額づつ出してスイーツを一緒に食べようよ。
同僚の付烏月さんとの割り勘計画、ゲホゲホ!
スイーツのシェア相談が決裂したので、今年の2月まで一緒の本店で仕事してた先輩に通話相談。
『ジェネリック「を」、食いたいのか?それともジェネリック「しか無かった」のか?』
先輩はあまり糖質を欲しがらないけど、故郷のものは大好きで、そういう誘いは基本乗ってくれる。
基本、乗ってくれるハズなんだけど。

『すまない。実は今、
……え? ……は? ………はぁ、分かった。
すまないが高葉井。今娘を売っ払った、夫?の浮気現場?の確保と、お別れ会?の最中、らしい』
ガッツリ独身かつ、最近恋愛トラブルが綺麗さっぱり解決したばっかりの先輩が言った。
つまり、今日は都合が悪いらしい。

これ確実に先輩と付烏月さん一緒に居るよね。
何してるんだろう。

「ジェネリックスイーツに700円は、うーん」
本家本物とほぼ同額を、「実際に食べたい方」じゃない方に使うのはちょっと、私としてはヤダ。
他のお客さんが「ジェネリックでも話のネタとしては十分だよ」って、プチバズスイーツのボトルをひとつ、ふたつ、持っていく。
ひとり、またひとり、また1個2個。
ポツポツ減っていくボトルに、私は値段を一番の理由に、さよならバイバイした。

別れ際に40代男性が一気に伝統菓子ボトルを3個カゴに突っ込んだのを見て、
一瞬「やっぱ買っといた方が良いのかな」って気持ちがバチクソに揺らいで売り場に戻ったけど、
やっぱり、値段が値段だったから、結局やめた。

半額の加熱用野菜セット、半額のお肉、食べたことないライ麦食パンとパッキン便利ないちごジャム&マーガリンなんか突っ込んで、お会計。
帰りにふと雑貨屋さんを見たら、
息子の救出中らしい付烏月さんと
浮気相手処理中の先輩が
ふたりしてディスプレイされてるコタツの前でなにやら熱心に議論と相談とを繰り広げてた。
別れ際に付烏月さんと目が合ったけど、どっちのコタツを買おうとしてたのかは分からなかった。

9/28/2024, 2:59:28 AM

「『雨』もね。3月から数えて5例目なのよ……」
どの「雨」が何月何日に出題されたかは、8月27日投稿分「雨に佇む」の上部にまとめてあるから、気になったらどうぞ。某所在住物書きはポツリ、降雨の外を気にしながら言った。
「物語に出てくる『通り雨』も、3月24日あたりの『ところにより雨』に似たところが有る気がする」
つまり、一部地域にしか降らない筈が、まさしくその「一部地域」に、自分が居るシチュエーション。
二番煎じが無難かと、物書きはため息を吐く。

雨、空、恋愛ネタ、年中行事のお題が比較的多いこのアプリである。今後も「雨」は続く。
去年は11月に「柔らかい雨」なるお題が来た。
12月からは「雪」になる。降り続く降雨降雪によるネタ切れの風邪に、注意しなければならない。

――――――

最近最近の、おはなしの前座。
コウハイ、高葉井という元物書き乙女の社会人が、夜の通り雨のイタズラに、服を濡らしながら家路を急いでおったのですが、
パタリ、視線の先の一点に目を留めて、数秒ないし十数秒、立ち止まったのでした。
「先輩?」

ナイトカフェのオープンテラスのパラソルの下。
高葉井の職場の先輩が、ひとり、座っています。
メニューボードを見る佇まいはどこか空虚。
先輩は名前を、藤森といいます。

何かあったらしい。
藤森と長い付き合いの高葉井、後輩の勘です。
何があったのだろう。
高葉井が先輩のパラソルに相席したところから、
本編・本題の、はじまり、はじまり。


…――「酒でも飲んで、酔いつぶれて、勢いで暴言でも送ってやれば良いのか、と思ったんだ」
別に思い詰めてる風でもない藤森は、ただ平静。
「縁を完全に切った筈の例の『初恋の人』から突然メッセージが来たんだ。『元気ですか』と」
あぁ、「例の初恋の人」。
後輩の高葉井、すぐ思い当たります。なんなら高葉井自身も初恋さんから迷惑を被ったのです。

藤森には約10年前、恋人がいました。
その恋人は自分から藤森の心魂をズッタズタのボロッボロにしたくせに、
いざ藤森が恋人さんから逃げると、約10年後の今更になって、「ヨリ戻して」と追ってきました。
藤森と高葉井はその他約2名と結託して、
今年ようやく、完全に、恋人と藤森の縁を完全にバッサリ切り離すことに、成功したのでした。

だいたいのことは過去作5月25日投稿分参照ですがスワイプがバチクソ面倒なので気にしない。
ともかく、藤森の悪しき初恋さんが、縁切ったのに1通メッセージを送ってきたのです。

藤森としては完全に寝耳に水。
傘無しの通り雨、夕立ち、ゲリラ豪雨。
いつも通り未読スルーすべきか、それこそ暴言でも吐いて今度こそ完膚無きまでに縁を断つべきか。
藤森、考えておったのでした。

「先輩、お酒飲んでも酔わないし寝ちゃうじゃん」
後輩もとい高葉井、藤森が見てるメニューボードを引っ手繰り、通り雨の雨宿りに丁度良いノンアルコールとおつまみとスイーツを少し注文。
雨が止むまで居座る魂胆です。
「慣れないことしないの」
そもそも先輩の心を傷つけたやつのことなんか、ブロック&スルーの一択で良いのに。
高葉井はそう付け足して、藤森が勝手に高度数のお酒を頼まないように、自動的にコーヒーを1杯。
藤森のために、勝手に頼みました。

「なんで先輩、わざわざ自分を傷つけた相手にまで真面目に誠実に対応するのさ」
「そのような意図や魂胆は無い」
「だって事実そうして、向き合ってるじゃん」
「今度こそ関係の息の根を止めるためだ」
「はいはい。悪役のフリしないの」

「嘘は言っていない。事実だ」
「本音でも本心でもないでしょ。はいはい。ケーキセットが届いたから一緒に食べよ」
「夜の糖質は太るぞ」
「あーあー聞こえない。耳圏外。電波障害」

相変わらず先輩は真面目なんだから。
通り雨の雨宿り目当てで、ナイトカフェのパラソルに相席した高葉井は、大きなため息ひとつ。
そのまま藤森の話を聞いて、共感して、飲酒の無茶したがるのを全力で阻止して、
最終的に通り雨が通り過ぎる頃、初恋さんがメッセージを送ってきた捨てアカウントに律儀に、誠実に返信して、ブロックしてから、
夜の背徳スイーツと洒落込みましたとさ。

9/27/2024, 2:53:58 AM

「『春爛漫』、『夏』に続いて、ダイレクトな季節ネタのお題。絵文字付きは初よな」
今年の「春」は山椒の葉と桜の塩漬け、去年の「夏」は虫刺されの薬とホタル見に行く話書いた。
某所在住物書きは過去作を辿り、昔々の記事へのアクセスが相当困難であることを再認識した。
インストールが去年の春である。現在秋だ。
4月11日投稿の「春爛漫」など何ページ前か。
「で、夏日真夏日残る時期に、何だって?」

ところで「秋」の花といえば彼岸花。
ネット情報ながら、彼岸花の花が一斉に、似た背丈で咲き揃いやすいのは、「春」のソメイヨシノ同様、彼等・彼女達がクローンであるためだという。
日本の北限は秋田付近。そこより北では「田んぼの畦道に彼岸花の赤帯」は非常に珍しいとか。
なおマイナーな秋花としてはセンブリが――

――――――

カレンダー上は秋の東京、残暑残る都内某所、防音防振整った某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森というが、18時頃は少なくとも月の見えていた窓を背に、
新米で作られた餅を置いたテーブルを挟んで座り、
「げんせーな、シンサの結果、」
向かい側では、不思議な不思議な子狐が、
コンコン、言葉を喋っている。
「今年の『狐のお嫁さん』は、おとくいさんに決定となりました」

テーブルの上の餅を、商品として持ってきた子狐は、ご利益豊かな稲荷神社の神使。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、餅を売り、人を学んでいる最中。
藤森はこの不思議な餅売りの、唯一の得意先である。
目の前で狐がものを言う珍事に、藤森はいつの間にか慣れてしまった。
しかしそれでも解せぬのが、今晩の単語。
「狐のお嫁さん」とは。
「……」
素っ頓狂な藤森の、開いた口は開きっぱなし。目はパチパチ、まばたきを繰り返す。

「秋の夜長」なる言葉がある。
「秋の夢」なる季語もあるという。
自分はいつの間にか、夜長の夢の中にストン、落ちていたのだろうか。 違う。違う筈である。

「ユイショ正しい、古くから伝わるギシキなの」
コンコンコン。子狐の補足は相変わらず意味不明。
「秋のおまつりなの。狐のお嫁さんは、ウカノミタマのオオカミサマの化身役なの」
なんなら本人、本狐もよく理解していないのだ。
小さなメモ帳の、明らかに大人が書いたであろう文字を、目で追いながらのコンコンであったから。
「稲刈りが終わりに近づく、9月最後か10月最初の満月の次の日、十六夜の夜に、キツネのととさんと、ケッコンするフリするの」
藤森の理解と状況把握を置き去りに、子狐はただ、しゃべる、しゃべる。

「稲荷神社で、ケッコンして、誓いのおさけ、イッコン傾けるの。ウカサマの化身役のお嫁さんは、たくさんのお料理と踊りで、オモテナシされるの。
お料理と踊りで満足したウカサマ役は、最後に『来年も、商売繁盛、五穀豊穣』って言うんだよ。
ヨシュクゲーノ、『予祝芸能』っていうの」
理解が迷子。説明が為されているのに脳内が静寂。
藤森はただポカンであった。

「何故私なんだ」
「げんせーな、シンサの結果なの」
「狐の、『お嫁さん』だろう」
「狐のお嫁さんは、美人さんなの」

「私のどこが『美人さん』だって?」
「あのね、おとくいさん。
おとくいさんは、去年3月1日の1作目投稿から今日の最新作まで、たったの1回も『男』と明言されてないし、『女』とも断言されてないし、『彼』とか『彼女』とかも、一切特定されてないんだよ。
だから男かもしれないし、女かもしれないんだよ」
「は……?」

駄目だ。理解が追いつかない。こういう時に振るという◯◯値チェック用のダイスとやらは何処だ。
藤森は完全に頭の中がパンク状態。頭を抱えて、大きなため息を吐く。

「謹んで、辞退させて頂く」
ただ選任拒否を述べ、再度息を吐いて、思考タスクの過負荷で重くなった頭と視線を子狐に向けると、
「じたい……?」
今度は子狐の方が、口をパックリ開け、固まった。
おいしいお料理、いっぱい、食べないの……?
驚愕に見開かれた狐の目が、声無く藤森に訴える。
双方無言が続き、藤森の部屋は再度静寂に包まれた。
防音防振・都内の部屋に、秋の虫は響かない。

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