かたいなか

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「『春爛漫』、『夏』に続いて、ダイレクトな季節ネタのお題。絵文字付きは初よな」
今年の「春」は山椒の葉と桜の塩漬け、去年の「夏」は虫刺されの薬とホタル見に行く話書いた。
某所在住物書きは過去作を辿り、昔々の記事へのアクセスが相当困難であることを再認識した。
インストールが去年の春である。現在秋だ。
4月11日投稿の「春爛漫」など何ページ前か。
「で、夏日真夏日残る時期に、何だって?」

ところで「秋」の花といえば彼岸花。
ネット情報ながら、彼岸花の花が一斉に、似た背丈で咲き揃いやすいのは、「春」のソメイヨシノ同様、彼等・彼女達がクローンであるためだという。
日本の北限は秋田付近。そこより北では「田んぼの畦道に彼岸花の赤帯」は非常に珍しいとか。
なおマイナーな秋花としてはセンブリが――

――――――

カレンダー上は秋の東京、残暑残る都内某所、防音防振整った某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森というが、18時頃は少なくとも月の見えていた窓を背に、
新米で作られた餅を置いたテーブルを挟んで座り、
「げんせーな、シンサの結果、」
向かい側では、不思議な不思議な子狐が、
コンコン、言葉を喋っている。
「今年の『狐のお嫁さん』は、おとくいさんに決定となりました」

テーブルの上の餅を、商品として持ってきた子狐は、ご利益豊かな稲荷神社の神使。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、餅を売り、人を学んでいる最中。
藤森はこの不思議な餅売りの、唯一の得意先である。
目の前で狐がものを言う珍事に、藤森はいつの間にか慣れてしまった。
しかしそれでも解せぬのが、今晩の単語。
「狐のお嫁さん」とは。
「……」
素っ頓狂な藤森の、開いた口は開きっぱなし。目はパチパチ、まばたきを繰り返す。

「秋の夜長」なる言葉がある。
「秋の夢」なる季語もあるという。
自分はいつの間にか、夜長の夢の中にストン、落ちていたのだろうか。 違う。違う筈である。

「ユイショ正しい、古くから伝わるギシキなの」
コンコンコン。子狐の補足は相変わらず意味不明。
「秋のおまつりなの。狐のお嫁さんは、ウカノミタマのオオカミサマの化身役なの」
なんなら本人、本狐もよく理解していないのだ。
小さなメモ帳の、明らかに大人が書いたであろう文字を、目で追いながらのコンコンであったから。
「稲刈りが終わりに近づく、9月最後か10月最初の満月の次の日、十六夜の夜に、キツネのととさんと、ケッコンするフリするの」
藤森の理解と状況把握を置き去りに、子狐はただ、しゃべる、しゃべる。

「稲荷神社で、ケッコンして、誓いのおさけ、イッコン傾けるの。ウカサマの化身役のお嫁さんは、たくさんのお料理と踊りで、オモテナシされるの。
お料理と踊りで満足したウカサマ役は、最後に『来年も、商売繁盛、五穀豊穣』って言うんだよ。
ヨシュクゲーノ、『予祝芸能』っていうの」
理解が迷子。説明が為されているのに脳内が静寂。
藤森はただポカンであった。

「何故私なんだ」
「げんせーな、シンサの結果なの」
「狐の、『お嫁さん』だろう」
「狐のお嫁さんは、美人さんなの」

「私のどこが『美人さん』だって?」
「あのね、おとくいさん。
おとくいさんは、去年3月1日の1作目投稿から今日の最新作まで、たったの1回も『男』と明言されてないし、『女』とも断言されてないし、『彼』とか『彼女』とかも、一切特定されてないんだよ。
だから男かもしれないし、女かもしれないんだよ」
「は……?」

駄目だ。理解が追いつかない。こういう時に振るという◯◯値チェック用のダイスとやらは何処だ。
藤森は完全に頭の中がパンク状態。頭を抱えて、大きなため息を吐く。

「謹んで、辞退させて頂く」
ただ選任拒否を述べ、再度息を吐いて、思考タスクの過負荷で重くなった頭と視線を子狐に向けると、
「じたい……?」
今度は子狐の方が、口をパックリ開け、固まった。
おいしいお料理、いっぱい、食べないの……?
驚愕に見開かれた狐の目が、声無く藤森に訴える。
双方無言が続き、藤森の部屋は再度静寂に包まれた。
防音防振・都内の部屋に、秋の虫は響かない。

9/27/2024, 2:53:58 AM