「『雨』もね。3月から数えて5例目なのよ……」
どの「雨」が何月何日に出題されたかは、8月27日投稿分「雨に佇む」の上部にまとめてあるから、気になったらどうぞ。某所在住物書きはポツリ、降雨の外を気にしながら言った。
「物語に出てくる『通り雨』も、3月24日あたりの『ところにより雨』に似たところが有る気がする」
つまり、一部地域にしか降らない筈が、まさしくその「一部地域」に、自分が居るシチュエーション。
二番煎じが無難かと、物書きはため息を吐く。
雨、空、恋愛ネタ、年中行事のお題が比較的多いこのアプリである。今後も「雨」は続く。
去年は11月に「柔らかい雨」なるお題が来た。
12月からは「雪」になる。降り続く降雨降雪によるネタ切れの風邪に、注意しなければならない。
――――――
最近最近の、おはなしの前座。
コウハイ、高葉井という元物書き乙女の社会人が、夜の通り雨のイタズラに、服を濡らしながら家路を急いでおったのですが、
パタリ、視線の先の一点に目を留めて、数秒ないし十数秒、立ち止まったのでした。
「先輩?」
ナイトカフェのオープンテラスのパラソルの下。
高葉井の職場の先輩が、ひとり、座っています。
メニューボードを見る佇まいはどこか空虚。
先輩は名前を、藤森といいます。
何かあったらしい。
藤森と長い付き合いの高葉井、後輩の勘です。
何があったのだろう。
高葉井が先輩のパラソルに相席したところから、
本編・本題の、はじまり、はじまり。
…――「酒でも飲んで、酔いつぶれて、勢いで暴言でも送ってやれば良いのか、と思ったんだ」
別に思い詰めてる風でもない藤森は、ただ平静。
「縁を完全に切った筈の例の『初恋の人』から突然メッセージが来たんだ。『元気ですか』と」
あぁ、「例の初恋の人」。
後輩の高葉井、すぐ思い当たります。なんなら高葉井自身も初恋さんから迷惑を被ったのです。
藤森には約10年前、恋人がいました。
その恋人は自分から藤森の心魂をズッタズタのボロッボロにしたくせに、
いざ藤森が恋人さんから逃げると、約10年後の今更になって、「ヨリ戻して」と追ってきました。
藤森と高葉井はその他約2名と結託して、
今年ようやく、完全に、恋人と藤森の縁を完全にバッサリ切り離すことに、成功したのでした。
だいたいのことは過去作5月25日投稿分参照ですがスワイプがバチクソ面倒なので気にしない。
ともかく、藤森の悪しき初恋さんが、縁切ったのに1通メッセージを送ってきたのです。
藤森としては完全に寝耳に水。
傘無しの通り雨、夕立ち、ゲリラ豪雨。
いつも通り未読スルーすべきか、それこそ暴言でも吐いて今度こそ完膚無きまでに縁を断つべきか。
藤森、考えておったのでした。
「先輩、お酒飲んでも酔わないし寝ちゃうじゃん」
後輩もとい高葉井、藤森が見てるメニューボードを引っ手繰り、通り雨の雨宿りに丁度良いノンアルコールとおつまみとスイーツを少し注文。
雨が止むまで居座る魂胆です。
「慣れないことしないの」
そもそも先輩の心を傷つけたやつのことなんか、ブロック&スルーの一択で良いのに。
高葉井はそう付け足して、藤森が勝手に高度数のお酒を頼まないように、自動的にコーヒーを1杯。
藤森のために、勝手に頼みました。
「なんで先輩、わざわざ自分を傷つけた相手にまで真面目に誠実に対応するのさ」
「そのような意図や魂胆は無い」
「だって事実そうして、向き合ってるじゃん」
「今度こそ関係の息の根を止めるためだ」
「はいはい。悪役のフリしないの」
「嘘は言っていない。事実だ」
「本音でも本心でもないでしょ。はいはい。ケーキセットが届いたから一緒に食べよ」
「夜の糖質は太るぞ」
「あーあー聞こえない。耳圏外。電波障害」
相変わらず先輩は真面目なんだから。
通り雨の雨宿り目当てで、ナイトカフェのパラソルに相席した高葉井は、大きなため息ひとつ。
そのまま藤森の話を聞いて、共感して、飲酒の無茶したがるのを全力で阻止して、
最終的に通り雨が通り過ぎる頃、初恋さんがメッセージを送ってきた捨てアカウントに律儀に、誠実に返信して、ブロックしてから、
夜の背徳スイーツと洒落込みましたとさ。
9/28/2024, 2:59:28 AM