かたいなか

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9/26/2024, 3:01:37 AM

「部屋の窓、車窓、潜水艦の窓に監察窓、
ネットの検索窓とか窓際族とか、心の窓もあるな」
他には?某所在住物書きはそれこそ「検索窓」から、「窓」の1文字を持つ言葉を検索して、結果としての景色を確認している。
7月2日のお題が「窓越しに見えるのは」だった。
あの日は狐の窓を取り扱った筈である。

「そうだ、絵本……」
絵本は子供が世界を見る身近な窓。
ページをめくるたびに見えるファンタジーでお題回収が可能かもしれない。物書きはひらめいたが、
この物書き、絵本ネタは6月16日頃のお題「好きな本」で既に投稿していたのだった。
で、どうしよう。 検索窓の景色を再度見る。

――――――

本は極めてアナログながら、文字だの絵だの写真だので様々な世界を見せてくれる、一種の窓です。
図鑑は遠く離れた地の狐の寝姿を、
絵本はかつて昔の日本を舞台にしたおとぎ話を、
専門書はどこかの裁判官が下した判決の根拠を。
めくるページを窓にして、見せてくれるのです。
今回物書きがご用意したおはなしは、本を窓に見立ててお題回収するおはなし。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。広めの貸し倉庫を図書館のように本棚と書籍で整えた藤森という雪国出身者がおりまして、
娯楽文学ゼロ、雑誌も写真集もナシ、ただ専門書と実用書とお高めの図鑑なんかが置いてあるそこは、
図書館用語で言うところの、「7類と9類がスッポリ抜けた開架書庫」。
つまり芸術と文学に限りなく乏しいのです。

で、そんな藤森のプチ倉庫図書館に、本日ひとり来館者がお見えになりまして。

「バチクソ久しぶりにね、アナログのスケジュール手帳に、日記とか予定とか手書きしてるの」
彼女はこの倉庫図書館の館長たる藤森の、職場の後輩。藤森とは長い付き合いでした。
「『マジメ』って書こうとして、漢字忘れて、
『真 自 面』って書いちゃったの。
なんで『真 面 目』って書くんだろ、って」
気になっちゃってさ。藤森の後輩はそう付け足して、辞典の見開き、文字の窓から見える景色をパラパラ眺めておりました。

「ネットで調べれば、すぐだろう」
館長の藤森、せっかく倉庫の鍵を開けたので、庫内の掃除などホウキでサッサカ、さっさか。
「『元々仏教用語、シンメンボク』と」
何故か肩に遊び盛りの子狐が乗っかっています。
おててとあんよでバランスとって、カジカジ、噛み噛み。自分から伸びるハーネスだの藤森の髪の毛だのにイタズラする子狐は、稲荷神社の子狐。
藤森、散歩をお願いされたのです。

仏教ネタに稲荷のコンコンとはこれいかに。

「それそれ。シンメンボク。
そこから他の仏教ネタが気になったの」
「『他の仏教ネタ』?」
「仏の顔も三度とか、仏頂面とかは知ってるけど、実は八ツ橋もたくあんも仏教にゆかりアリって」
「それで?」
「なんか一気に気になっちゃって『先輩ならバチクソ分かりやすい仏教用語辞典持ってそう』って」

「何故そうなる」
「だって事実」
「まぁ、1〜2冊程度は、ひょっとしたら。仏教系も興味半分で購入した……気がしないでもない」
「ほら事実」

ぎゃぎゃっ、きゃんきゃん、くわぁーっ!
藤森に乗っかっている子狐、突然尻尾をビタンビタンして、そこそこ大きめの声で鳴きます。
仏教だけでなく神道、特に稲荷系の書籍も買え!
と言っているのでは、ないのです。
料理の本を見つけたのです。しかも背表紙においしそうな、鶏肉料理が描かれています。

くわぁー、くわぁあーん!
狐は雑食寄りながら、お肉がとっても大好き。
コンコン稲荷の子狐、美味しい肉を見たいのです。
「子狐すまない、さすがに耳元の至近距離でお前に吠えられるとだな。……子狐、こぎつね?」
困り顔で掃除を続け、美味しそうな背表紙の本を通り過ぎた藤森の無慈悲な仕打ちに、子狐コンコン、十数秒ほど鳴き続けました。

「仏教カフェ?」
子狐の声もどこ吹く風。藤森の後輩は『無神教にも分かりやすい仏教語辞典』なる本を手繰って、
ぱらり、ぱらり。ぱらぱら、パラリ。
書籍の見開き窓から見える仏教の景色をチラ見。
「ぶっきょうかふぇ……?」
自分の知らない世界が目について、なんならそれの所在地まで載っておりましたので、
後輩、一瞬で目が点になってしまって、
それは狐につままれたようであり、あるいは、荼吉尼天様にイタズラされたような顔でもあったとさ。

9/25/2024, 3:20:00 AM

「『無形』文化財、『無形』資産、『無形』商材、それから仏教用語の『無形(むぎょう)』。
……意外と『形』が『無い』って多いのな」
ぶっちゃけ「目に見えないもの」も「無形」と定義するなら空気も無形だし、液体は確実に形無いし。
まぁ、まぁ。自由度はそこそこ高いわな。
某所在住物書きは、「無形」の検索結果を辿りながら、どれが書きやすいだろうと首を傾けた。

「仏教用語ネタは4月頃、『無色の世界』ってお題を『ムシキの世界』って読んで一回使ったわ」
二番煎じが無難だろうか。「形を持たぬ」と「形が定まらぬ」は異口同音であろうか。
物書きは云々悩み、今日もネタ探しを開始した。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
近々最高30℃台が再来する予報ながら、ようやく最低気温の予測に20℃以下が登場し始めた頃。
寒い。
と感じて覚醒した部屋の主、藤森は、ベッドから薄手の毛布が1枚、落ちていることに気が付いた。
今藤森を包んでいるのは、やや厚手のタオルケットだけ。枕元のスマホ、天気予報ウィジェットは珍しく外気温18℃を示している。
窓を開けているので、ほぼ同温の周囲であろう。
20℃未満の数字は、彼に秋の到来を予告していた。

真冬の8℃や10℃、それどころか最高零下でさえ、どうということもないのに、
この時期、暖から寒へ変わろうとしている転換期の冷涼、15℃だの16℃だのは、幼少時を雪国で育った藤森とて、苦手としているところである。
ましてや朝のタオルケットの中とあっては。
(朝飯、どうしよう)
毛布床に落ちているとはいえ、タオルケットの中はそこそこ快適な温度を、すなわち涼しさと温かさの中間を保持していた。

おお、形の無いものよ、日中の残暑と朝夕の冷涼との寒暖差よ。すなわち四捨五入10℃の開きよ。
汝の名は数値であり、季節の境目であり、
つまり暑さに慣れてきた体への無慈悲である。
(……さむい)

外に出たって寒々しいだけだよ、中にいなよ。
文字通り「涼しげな」ささやきで誘惑する室温は、藤森を二度寝のまどろみに押しやる。
通勤のために部屋を出る必要のある時刻までは、まだ間がある。こんな寒いさむい時間帯から活動せずとも良いじゃないかと。
(どうせこれから、日中は暖かくなる。
シリアルで十分か?それとも、久しぶりにこの室温だし、温かい茶を淹れて、茶漬けでも?)

タパパトポポトポポ。
ティーポットから、茶香と湯気たつ不定形の、確固たる形持たぬ、80℃90℃程度の平和が、
低糖質にして炊飯の手間無きオートミールで代用されたカップと、海苔茶漬けの素の上に注がれる想像。
きっと至福であろう。
それを食うためであれば、眠気に抵抗し、微妙な寒さを跳ね除けて、タオルケットの外へ出てゆくのも、やぶさかでない。

「……」
勇気を出して、タオルケットから右手を、肩を出す。
頭上の枕をつかみ、僅かに外へ体を出してみる。
「さむい」
しつしつしつ、と下りてきた19℃が、適温の安全地帯から逸脱した手を、腕を、何より背中を包んだ。
藤森はそれに抵抗することなく、もそもそ、ぬくもりの中へ退却した。 無条件降伏であった。
(なぜこの時期の20℃未満はこんなに寒いんだ)

そういえばエアコンのスイッチはどこだったか。
藤森はベッドの上から周囲を見渡した。
眠気酷い目に映るのは、綺麗に整えられた室内。
目標物はテーブルの上で無造作に鎮座している。

テーブルまでは少々距離があり、
それはつまり、室内を温めたいなら一度寒い思いをしなければならぬという世の不条理を示していた。

不条理に異を唱えるか、
寒気に身を晒すか、
タオルケットの温かさに服従するか。
「……」
悶々5分ほど毛布の中で悩んで、
最終的に、藤森はそのまま意識を手放してしまった。
その日の無形・不定形の平和は、結局80℃90℃の温かいほうじ茶ではなく、5℃から10℃程度の柚子入り冷茶になったとさ。

9/24/2024, 3:12:11 AM

「『そもそも都会の公園で、ジャングルジムにせよ何にせよ、遊具自体少なくなった』ってのは、気のせい、……じゃ、ないよな?多分?」
俺がガキの頃通ってた小学校の校庭は、いつの間にか遊具っつー遊具がほぼ消えて、鉄棒とブランコ程度の更地になってたわ。
某所在住物書きは時代の流れを思いながら、しかし更地ゆえに、遊具無しで楽しめる遊びも何か有ろうと、個人に解釈する。
雲梯が消えた。登り棒も無くなった。代わりに校庭はサッカーができる程度に広くなり、子どもたちが歓喜の叫び声とともに走り回っているようである。

「で。……『ジャングルジム』?」
何書けって?
物書きはまず、対象の画像検索から始めた。

――――――

そもそも最近ジャングルジムを、見た記憶が無い物書き。今回はこんなおはなしをお送りします。
最近最近の都内某所、某星リンクな衛星鉄道が、東京の夜の空を横切ったころ。
残暑少々な暗い公園で、妻子持ちの既婚とその親友が、ジャングルジムの上に乗っかって、コンビニで購入した唐揚げ棒片手に、
ふたりして、空を見上げておりました。

東京生まれで妻子持ちの野郎を宇曽野、その親友で雪国出身のぼっちを藤森といいます。
ふたりは同じ職場の親友。ドチャクソ激しいケンカをしても翌日にはケロッと一緒にメシを食う間柄。
その日も仲良しこよしで、ジャングルジムの上から空を、見上げておったのでした。

「見えた」
ちびちび1本目の2個目をかじっていた藤森が、まず最初に衛星列車を見つけました。
「意外と速い」
1本ぱくぱく平らげた宇曽野が、2本目1個目を食べ終えた直後、ようやくそれらに気付きました。
はっきり明るい白の点が、一直線に5個6個7個、たくさん並んで右から左へ。
なかなかの速度で、空を横切ってゆきます。

『18時45分頃、衛星列車が見えるらしいから』
子供の消えた公園、近々の撤去が噂されているジャングルジムに、18時半頃から居座っていた、花と雨と空の好きな心優しきぼっち、藤森。
宇曽野は近場のコンビニで、揚げたて唐揚げ棒を4本買って、藤森の観測に付き合うことにしたのです。

「ジャングルジムに登るのは去年ぶりか」
「そうだな」
「外で遊ばない優等生だったって聞いた」
「私の田舎にジャングルジムが、たしかそもそも当時無かったからな」

「田んぼで泥パックしてたんだろう?」
「公園走り回ってキノコ踏んづけたり狐探したり」
「狐も居るってな?」
「リスの方がエンカウント率は高かった」

フクロウ云々花云々。ジャングルジムの上で空を見上げて、子供時代の話をしている間に、
衛星列車は次々スイスイ、右から左、右から左。
現れては、通り過ぎてゆきます。

「ところで」
2本目の唐揚げ棒も食べ終えた宇曽野。
空を見上げたまま、意味深に、淡々と、
事実確認然とした声で尋ねます。
というのも藤森、割愛しますが過去作前回投稿分で、自分の職場のイヤガラシさんに、
悪意ある小さな嫌がらせを食らったのです。
「俺のじーちゃんから、専務に確認がとれた。

イヤガラシーな総務課の五夜十嵐。たしかにお前のスマホの起床アラームをいじられた可能性のある日の時間帯に、お前の部署に忍び込んでたそうだ。
それを、事実として、専務が見たと」

「私などにちょっかいを出して、一体何がしたかったんだ。五夜十嵐さん」
3個目の唐揚げをちまちま食べている藤森は、カキリ、小首を鳴らして頭を深く傾けて。
「私はただの、あの部屋の今年度限定掃除係で、電話の一次応対係で、消耗品補充と茶の接待係だ。
五夜十嵐さんから恨みを買う理由が無い」
何がどうなっているのだろう。
ため息を吐き、藤森、唐揚げをかじりました。

「恨みは、買っちゃいないだろうさ」
「恨み『は』?」
「妬みだ。藤森。五夜十嵐がお前に売ったのは、今まで役職でも総務でもなかったお前が『今年度限定』とはいえあの部屋の直属になった妬みだ」

「ただの掃除係だぞ」
「『ウチの職場のトップの部屋の』掃除係だ」
「仕事の重要度も役職も、五夜十嵐さんの方が」
「そこは問題じゃない。違うんだ。藤森」

妻子持ちとぼっちが繰り広げる、職場ネタで内輪ネタで、ひょっとしたらどこにでもありそうな話。
衛星列車はそれらを別に観察することもなく、
ただ計算通りの軌道に従い、静かにスイスイ、通り過ぎてゆくのでした。 おしまい、おしまい。

9/23/2024, 4:40:18 AM

「何の『声』が聞こえるか、ってハナシよな」
某所在住物書きは通知画面を見ながら、書きやすいんだか難しいんだか分からぬお題に目を細めた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』がこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、

「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回のお題配信まで5時間プラス数分となった。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といい、雪降り花あふれる田舎町の出身なのですが、
今回のお題の関係で、その日妙な夢を見まして。
というのも、夢の中で子狐1匹抱えて、自分の職場であるところの、広めの部屋におったのです。
子狐は藤森のアパート近くの、稲荷神社に住んでいる、藤森はじめ善良な人間に撫でられるのがバチクソ大好きな子狐でした。

そういえば先日参道にポイ捨てされたゴミが目に余ったから、こっそりゴミ拾いなどして帰った。
夢うつつの中、藤森、ぼーっと思い出しました。
ひょっとして、そのお礼か何かでしょうか。

『よいですか』
夢の中で、声が聞こえます。
子狐抱えた藤森の前に、稲荷神社の近くの茶っ葉屋さんの店主さんが、巫女さん姿して立っています。
美しい毛並みの狐耳と狐尻尾2本を輝かせ、
ニヨリ、ニヨリ。悪い笑顔をしています。
すなわち「祟る御狐」の笑顔を。
『お前の職場に着いたら、お前の職場の総務課のイヤガラシ、五夜十嵐に、「私のスマホをいじっていたの、専務に見られてましたよ」と言うのです』

こんな恐ろしい笑顔をした店主を、藤森、見たことがありません。そして狐耳に狐尻尾なモフモフ店主も、もちろん、見たことがありません。
頭にハテナマークが浮かびっぱなしの藤森。
抱えた稲荷の子狐が、お構いなしに藤森の鼻をべろんべろんに舐め倒し、腹を撫でろと甘えます。

『五夜十嵐の真っ青になる表情を、よくよく、鮮明に、目に焼き付けるのです』
祟る狐の笑顔の巫女さんが、バチクソ悪い笑顔のままで、藤森に優しく言いました。
『ウカノミタマのオオカミ様は、善良で心魂清きお前をいじめた者の哀れな顔を存分に堪能なさり、それを肴にお酒を召し上がると仰せです』
くわー、くわぁー。くわぅー。
藤森の不思議な夢の中、狐の歌う声が聞こえます。

『よいですね』
声が、聞こえるのです。
『必ずや、総務課の五夜十嵐に言葉を伝え、己のしでかした行動の意味を知らしめるのです』
恐ろしく、畏れ多い、「稲荷神社に善い行いを為す者をイジメるとどうなるか」を諭す狐の声g

ぎゃん!ぎゃぎゃ、ここココンコンコン!!!
「わっ!、なんだ、何だ!!」

いきなり急展開。
耳元で子狐に吠えられて、藤森びっくり!
文字通りの意味で「飛び起きて」、はやく動く心臓の声をハッキリ、しっかり、聞きました。
「また勝手に入ってきたのか。いい加減に、」
イタズラも、いい加減にしてくれ。
飛び起きた藤森に驚いてコロン!ヘソ天してる子狐に、藤森よくよく言い聞かせまして、
「――ん?」
スマホを手繰り寄せ、時刻を確認したところ、

「今朝のアラームが、解除されている……?」
通勤に間に合うように、いつも設定して鳴らしている筈のアラームが、何故か今朝に限って鳴っていないことに気付きました。
「設定し直した覚えは無いが?」

そういえば。
藤森、昨日の勤務中の出来事を思い出します。
仕事の途中、デスクから離れた数分がありまして、
そういえばそのとき、私物のスマホのロックを丁度、そのときだけ、かけ忘れておりました。
「まさか……まさかな」

その後のおはなしは、敢えて詳しくは語りません。
ただ藤森はその日、退勤後にアパート近くの稲荷神社で、ちょっと多めのお賽銭して、二礼二拍手一礼。
お参りしてから、帰りましたとさ。

9/22/2024, 5:09:59 AM

「『恋』+『愛』で合計8回目のお題なんよ……」
このアプリ、今年3月からのカウントなら、エモと空ネタと恋愛ネタで3割4割は成り立ってる説。
某所在住物書きは「秋恋」の進出単語に首を傾け、なんだそれはとネット検索を開始した。
そういうタイトルの歌があるらしい。

「初恋も、本気の恋も、失恋の恋物語も書いた。愛があれば云々ってお題もあった。ラブロマンスはエモネタ以上に不得意だ。その俺に、何書けって……?」
書いて、消して、また書いて消して。
何度も物語を組み直すが、己の納得のいく話がさっぱり出てこない。

ひとまず、何か投稿しよう。物書きはネタの枯渇に敗北し、ともかく今書けるものを書き始めた。
前回も前回であった。去年通りなら「次とその次のお題」も高難度のお題である。

――――――

今日も東京は相変わらず、9月下旬なのに暑くて雨降って、ムシムシしてて、
まるで梅雨明け前かその真っ只中みたいな状況。
季節通りの平常運転してるのは、新米と季節物の野菜に果物にスイーツと、あと来月に向けたハロウィンキャンペーンくらい。
お魚はよく分からない。ひとまず鮮魚コーナーにサンマが増えた気がするのは事実。

で。「季節物のスイーツ」だ。
栗だ。サツマイモだ。多分カボチャもギリ圏内だ。
おお、モンブランよ、スイートポテトよ。
私の愛しく恋しい秋の甘味たちよ。
今年はスイーツビュッフェでお目にかかります。

「やー、ホント助かった!ありがと」
貸しスペースに、今の時期だけ現れるスイーツビュッフェ専門店がありまして。
今年の3月から一緒の支店で仕事してる付烏月さん、ツウキさんと一緒に来店。
野郎な付烏月さんはお菓子作りが最近のトレンド。
『予約受け付け開始からこのビュッフェに目は付けてたんだけど、野郎ひとりじゃなかなか』って、来れずにいたらしい。
そこに私が声をかけたワケだ。「行こうよ」って。

なお付烏月さんより仕事上の付き合いが長い藤森先輩は「先約がある」ってことでパスされた。
1日150gくらいしか糖質を欲しがらない先輩だから、低糖質系でもないとなかなか捕まらない。
しゃーない。

「見て見て。ちゅら恋紅と紅はるかのプチケーキ」
紫と琥珀色のハロウィンカラーは、冷やされたカップに詰められて涼しそう。
「恋だって。どんな名付け物語があったんだろ」
『濃い味』と『恋味』でもかけたのかな。
そう付け足して、付烏月さんはぺろり、ふたくちサイズのそれを舌にのせて、堪能して、胃袋に収めて。幸福そうに笑った。

「そういえば付烏月さん。脳科学詳しいよね」
「詳しいってゆーか、図書館勤務時代に本読んだだけの、付け焼き刃の独学ね」
「ちゅら『恋』紅で、思い出したの」
「はいはい」

「付烏月さん昔バチクソ恋したひとが居て理詰めで秋にプロポーズして秒でフられたってホント?」
「ぶふっ、……ゲホッゲホッ!!」

「秋にプロポーズしたって、なんか脳科学的な根拠とかあったりするの?『秋の恋は』ってやつ?」
「どっから聞いたのそんなハナシ?!」
「私の質問に先に答えてくれたら話す」

はぁ。
ちゅら恋紅のプチケーキ、2個目をつまんで、付烏月さんが小さく首を振り、ため息をついた。
別に悪い思い出ではないみたい。イヤそうな雰囲気でもない。でも数年とか十数年とか、それくらい昔の懐かしそうな表情をしてた。

「ネットでは『秋は脳が恋をしたがる』とか、ホルモン的に秋に恋したがる』とか、言われてるね」
自分の「秋のプロポーズ」には言及せず、付烏月さんがプチケーキを食べながら言った。
「俺はそれの根拠になるハナシ、読んだことないし、それ系の論文漁ったこともないからなぁ」
なんとも言えないねー。
そう結ぶ付烏月さんはどうやら、少なくとも、「秋が恋や告白に適した季節だから」って理由で理詰めをしたワケでは、なさそうだった。

「いやそもそも、俺『実際にプロポーズしました』とも『恋人いました』とも言ってないからね?」
「ふーん」
「多分色々、誇張表現と誤解があるからね?」
「ふぅ〜〜ん」

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