かたいなか

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「何の『声』が聞こえるか、ってハナシよな」
某所在住物書きは通知画面を見ながら、書きやすいんだか難しいんだか分からぬお題に目を細めた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』がこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、

「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回のお題配信まで5時間プラス数分となった。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といい、雪降り花あふれる田舎町の出身なのですが、
今回のお題の関係で、その日妙な夢を見まして。
というのも、夢の中で子狐1匹抱えて、自分の職場であるところの、広めの部屋におったのです。
子狐は藤森のアパート近くの、稲荷神社に住んでいる、藤森はじめ善良な人間に撫でられるのがバチクソ大好きな子狐でした。

そういえば先日参道にポイ捨てされたゴミが目に余ったから、こっそりゴミ拾いなどして帰った。
夢うつつの中、藤森、ぼーっと思い出しました。
ひょっとして、そのお礼か何かでしょうか。

『よいですか』
夢の中で、声が聞こえます。
子狐抱えた藤森の前に、稲荷神社の近くの茶っ葉屋さんの店主さんが、巫女さん姿して立っています。
美しい毛並みの狐耳と狐尻尾2本を輝かせ、
ニヨリ、ニヨリ。悪い笑顔をしています。
すなわち「祟る御狐」の笑顔を。
『お前の職場に着いたら、お前の職場の総務課のイヤガラシ、五夜十嵐に、「私のスマホをいじっていたの、専務に見られてましたよ」と言うのです』

こんな恐ろしい笑顔をした店主を、藤森、見たことがありません。そして狐耳に狐尻尾なモフモフ店主も、もちろん、見たことがありません。
頭にハテナマークが浮かびっぱなしの藤森。
抱えた稲荷の子狐が、お構いなしに藤森の鼻をべろんべろんに舐め倒し、腹を撫でろと甘えます。

『五夜十嵐の真っ青になる表情を、よくよく、鮮明に、目に焼き付けるのです』
祟る狐の笑顔の巫女さんが、バチクソ悪い笑顔のままで、藤森に優しく言いました。
『ウカノミタマのオオカミ様は、善良で心魂清きお前をいじめた者の哀れな顔を存分に堪能なさり、それを肴にお酒を召し上がると仰せです』
くわー、くわぁー。くわぅー。
藤森の不思議な夢の中、狐の歌う声が聞こえます。

『よいですね』
声が、聞こえるのです。
『必ずや、総務課の五夜十嵐に言葉を伝え、己のしでかした行動の意味を知らしめるのです』
恐ろしく、畏れ多い、「稲荷神社に善い行いを為す者をイジメるとどうなるか」を諭す狐の声g

ぎゃん!ぎゃぎゃ、ここココンコンコン!!!
「わっ!、なんだ、何だ!!」

いきなり急展開。
耳元で子狐に吠えられて、藤森びっくり!
文字通りの意味で「飛び起きて」、はやく動く心臓の声をハッキリ、しっかり、聞きました。
「また勝手に入ってきたのか。いい加減に、」
イタズラも、いい加減にしてくれ。
飛び起きた藤森に驚いてコロン!ヘソ天してる子狐に、藤森よくよく言い聞かせまして、
「――ん?」
スマホを手繰り寄せ、時刻を確認したところ、

「今朝のアラームが、解除されている……?」
通勤に間に合うように、いつも設定して鳴らしている筈のアラームが、何故か今朝に限って鳴っていないことに気付きました。
「設定し直した覚えは無いが?」

そういえば。
藤森、昨日の勤務中の出来事を思い出します。
仕事の途中、デスクから離れた数分がありまして、
そういえばそのとき、私物のスマホのロックを丁度、そのときだけ、かけ忘れておりました。
「まさか……まさかな」

その後のおはなしは、敢えて詳しくは語りません。
ただ藤森はその日、退勤後にアパート近くの稲荷神社で、ちょっと多めのお賽銭して、二礼二拍手一礼。
お参りしてから、帰りましたとさ。

9/23/2024, 4:40:18 AM