「部屋の窓、車窓、潜水艦の窓に監察窓、
ネットの検索窓とか窓際族とか、心の窓もあるな」
他には?某所在住物書きはそれこそ「検索窓」から、「窓」の1文字を持つ言葉を検索して、結果としての景色を確認している。
7月2日のお題が「窓越しに見えるのは」だった。
あの日は狐の窓を取り扱った筈である。
「そうだ、絵本……」
絵本は子供が世界を見る身近な窓。
ページをめくるたびに見えるファンタジーでお題回収が可能かもしれない。物書きはひらめいたが、
この物書き、絵本ネタは6月16日頃のお題「好きな本」で既に投稿していたのだった。
で、どうしよう。 検索窓の景色を再度見る。
――――――
本は極めてアナログながら、文字だの絵だの写真だので様々な世界を見せてくれる、一種の窓です。
図鑑は遠く離れた地の狐の寝姿を、
絵本はかつて昔の日本を舞台にしたおとぎ話を、
専門書はどこかの裁判官が下した判決の根拠を。
めくるページを窓にして、見せてくれるのです。
今回物書きがご用意したおはなしは、本を窓に見立ててお題回収するおはなし。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。広めの貸し倉庫を図書館のように本棚と書籍で整えた藤森という雪国出身者がおりまして、
娯楽文学ゼロ、雑誌も写真集もナシ、ただ専門書と実用書とお高めの図鑑なんかが置いてあるそこは、
図書館用語で言うところの、「7類と9類がスッポリ抜けた開架書庫」。
つまり芸術と文学に限りなく乏しいのです。
で、そんな藤森のプチ倉庫図書館に、本日ひとり来館者がお見えになりまして。
「バチクソ久しぶりにね、アナログのスケジュール手帳に、日記とか予定とか手書きしてるの」
彼女はこの倉庫図書館の館長たる藤森の、職場の後輩。藤森とは長い付き合いでした。
「『マジメ』って書こうとして、漢字忘れて、
『真 自 面』って書いちゃったの。
なんで『真 面 目』って書くんだろ、って」
気になっちゃってさ。藤森の後輩はそう付け足して、辞典の見開き、文字の窓から見える景色をパラパラ眺めておりました。
「ネットで調べれば、すぐだろう」
館長の藤森、せっかく倉庫の鍵を開けたので、庫内の掃除などホウキでサッサカ、さっさか。
「『元々仏教用語、シンメンボク』と」
何故か肩に遊び盛りの子狐が乗っかっています。
おててとあんよでバランスとって、カジカジ、噛み噛み。自分から伸びるハーネスだの藤森の髪の毛だのにイタズラする子狐は、稲荷神社の子狐。
藤森、散歩をお願いされたのです。
仏教ネタに稲荷のコンコンとはこれいかに。
「それそれ。シンメンボク。
そこから他の仏教ネタが気になったの」
「『他の仏教ネタ』?」
「仏の顔も三度とか、仏頂面とかは知ってるけど、実は八ツ橋もたくあんも仏教にゆかりアリって」
「それで?」
「なんか一気に気になっちゃって『先輩ならバチクソ分かりやすい仏教用語辞典持ってそう』って」
「何故そうなる」
「だって事実」
「まぁ、1〜2冊程度は、ひょっとしたら。仏教系も興味半分で購入した……気がしないでもない」
「ほら事実」
ぎゃぎゃっ、きゃんきゃん、くわぁーっ!
藤森に乗っかっている子狐、突然尻尾をビタンビタンして、そこそこ大きめの声で鳴きます。
仏教だけでなく神道、特に稲荷系の書籍も買え!
と言っているのでは、ないのです。
料理の本を見つけたのです。しかも背表紙においしそうな、鶏肉料理が描かれています。
くわぁー、くわぁあーん!
狐は雑食寄りながら、お肉がとっても大好き。
コンコン稲荷の子狐、美味しい肉を見たいのです。
「子狐すまない、さすがに耳元の至近距離でお前に吠えられるとだな。……子狐、こぎつね?」
困り顔で掃除を続け、美味しそうな背表紙の本を通り過ぎた藤森の無慈悲な仕打ちに、子狐コンコン、十数秒ほど鳴き続けました。
「仏教カフェ?」
子狐の声もどこ吹く風。藤森の後輩は『無神教にも分かりやすい仏教語辞典』なる本を手繰って、
ぱらり、ぱらり。ぱらぱら、パラリ。
書籍の見開き窓から見える仏教の景色をチラ見。
「ぶっきょうかふぇ……?」
自分の知らない世界が目について、なんならそれの所在地まで載っておりましたので、
後輩、一瞬で目が点になってしまって、
それは狐につままれたようであり、あるいは、荼吉尼天様にイタズラされたような顔でもあったとさ。
9/26/2024, 3:01:37 AM