かたいなか

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9/21/2024, 5:16:06 AM

「そういえば『お金より大事なもの』と、『大切なもの』ってお題が、3月4月頃あったわ」
「お金」は、「お金をいくら積んでも現代の技術では完全修復が不可能な物」みたいなことを、
「大切なもの」の方は「職場の掃除や整理の大切さ」を書いた気がする。
某所在住物書きは、さかのぼるのも億劫な過去記事を気合でスワイプしながら、なんとか探し当てた。

「ぶっちゃけ、地の文の言い回しとか言葉の選び方とか、そっちは大事にしたいわな」
やべ。ホントにそろそろネタのストックがキツい。
物書きは物語を組んで消して組み直し、結局消す。
お題は漢字変換で「大事にした胃」とも「大事にし鯛」とも、あるいは「死体」ともできるが、
胃を大事にするとは。大事な鯛とは?

「……ひとまず一回投稿して、後でまともなハナシを書き直せたら差し替えるか」
何度も何度も、数時間途中まで書いて白紙に戻し続けた投稿分の物語は遅々として進まない。
妥協も大事にしたい。物書きは挫折した。
まず、なにか、ひとつ投稿するしかない。さもなければ確実に夜まで執筆続行コースである。

――――――

大事にしたい、二度寝の時間、
大事にした、い草のたたみを張り替える、
大事に、したいり、下煎りしたコーヒー豆。
ただのケンカを大事、おおごとにしたい迷惑客。
色々考えられそうですが、今回物書きがご用意したのは「大事にしたい思い出」のおはなし。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内、メインの参道から外れた場所に、小さな石碑を伴った小さな祠がありまして、
それは名前を「たたり白百合の碑」、あるいは「附子の祠」といいました。

昔々そこに鎮まっていた花の亡霊が、人間に自分の花畑を散らされ壊され、街にされて、怒りと悲しみに狂って花の怨霊になってしまったのを、
3本尻尾の金雄狐と2本尻尾の銀雌狐が懲らしめて、トリカブトに変えて鎮め直したのが由緒。
だから附子なのです。だから祟り白百合なのです。
稲荷神社には花の怨霊を懲らしめるおはなしが絵本として残っており、
稲荷神社に住まう子狐は、皆、みんな、「自分のお家がどうしてそこに建っていて、自分のお家になんで知らない花の幽霊が同居しているか」を、
誇張表現ちょい増しで、覚えるのでした。

なんで「誇張表現ちょい増し」かって?
そりゃこの神社在住のおじいちゃん狐とおばあちゃん狐の武勇伝であり、初の共同作業だからです。
詳細は過去作、6月16日投稿分参照なのですが、
ぶっちゃけ、そんな昔々の投稿作、スワイプが面倒なのです。気にしてはなりません。

さて。
「私にとっては、大事にしたい花畑だったのさ」
やっつけられ、懲らしめられて、すっかり怨霊の毒気が抜けてしまった花の亡霊です。
稲荷の御狐にやっつけられ、三食昼寝とおやつ付きでタダ働きさせられてる亡霊です。
「何故大事にしたかったのかは、遠い昔にすっかり忘れてしまった。でも、守りたい花畑だったんだ」

覚えておきたかったのに、「狐のイタズラ」で大事な記憶を何個か盗られて隠されてしまって。
酷いハナシだろ。花の亡霊はポツリ呟いて、
さっさか、サッサカ。
参道に散らばるゴミなり枯れ葉なりを、
ボッチもとい頭の上に稲荷の子狐を乗せられ、髪などカジカジされつつ、掃除させられておりました。

花の亡霊は「人間」ではなく、「亡霊」なので、労働基準法を守る必要がありません。
花の亡霊は「人間」ではなく、「亡霊」なので、給料を現金支給する必要もありません。
福利厚生?税金控除?ナンダソレハ。
引く金取る税ありません。手取りが支給額です。
『大事にしたい労働力ですね』とは、神社の近所で茶っ葉屋さんをしているお母さん狐の言です。
「まぁ、そのわりに休みは貰えるし、ヒト並みの扱いはしてもらえるから。構わないけれど」

構わないけれど、別に、構わないけれどね。
稲荷神社に鎮められた花の亡霊は、稲荷の狐に頭が上がらないので、真面目に黙々参道のお掃除。
「……いてっ。………あだだだだ」
頭に乗っかる子狐にガジガジ髪を引っ張られつつ、
さっさか、サッサカ。花の亡霊は竹箒を1時間ほど、振り続けましたとさ。

9/20/2024, 3:16:53 AM

「原作読んだり観たりしたことないけど、そのネタだけは知ってる。……結構多いと思うんよ」
たとえばそれこそ、「時よ止まれ」の漫画とか。
某所在住物書きはネットで某漫画を検索しながら、今回配信分に何で立ち向かうか画策していた。
時間が止まればどれだけ助かることか。
「『メンテが終わればメンテが始まる』の元ネタも、読んだことは無いが原作の名前も絵も知ってるし。
『だったら漕げばいいだろ!』なんて、語録大量に覚えてるが本編観たことねぇし。……あと他は?」

ところで昔々、20年以上前、海外ゲームの映画化において、「もし時間が止まったら」を簡潔かつ短時間だけ描写した場面があった。
空間内に静止している物体は、力が加わるまで静止し続ける。慣性の法則という。
時間内に静止しているナイフに対して、「同じ『時間の力』が加わるまで静止し続ける」とした。

ひょっとしたら「時間よ止まれ」は「物体よ止まれ」であり、「空間よ凍りつけ」かもしれない。

――――――

時間が止まれば物体の全部も止まるのに、
物体が止まっても、時間の全部は止まらない。
ちょっと不公平な気がします。
つまり、物体としてのわたしがベッドの上でタオルケットにくるまって静止していても、
朝はちっとも待ってくれないし、遅刻スレスレは遅刻スレスレ。時は進むのです。
と、いう理不尽は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、雪降り花あふれる雪国の出身。
夜に明日の仕事の準備をしておりました。
冷たいお茶のオトモはお米のお菓子。
厳冬の気温と風でさくさく食感に乾燥させたお餅を、食べやすく切り素揚げして、さっと味付けを施した、伝統お餅の美味しいアレンジ。

諸事情により藤森、都内にある故郷のアンテナショップで、先日購入しておったのです。
詳細は過去作、前々回投稿分ですが、スワイプが面倒なので気にしてはならぬのです。
で、
五穀豊穣の稲、米、お餅、餅の加工品
と聞いて今の時期に黙ってないのが、藤森のアパートの近くにある稲荷神社でして。

何故か藤森の部屋に、稲荷神社在住のコンコン子狐が、セキュリティーもロックもどこ吹く風。
おめめ輝かせて、入り込んできておったのです。
非現実的ですね。しゃーない、しゃーない。

「……」
かたかたかた、パチパチパチ。
早めに仕事の準備を終えたい藤森。コンコン非現実を見て見ぬふり。資料作成頑張ります。
その間に非現実な不法侵入者、稲荷神社の子狐は、
尻尾をぶんぶんブン回し、でも静かに小さなあんよで、隠密行動の匍匐前進。
キラキラおめめはガッツリと、藤森のデスクの上にある味付き揚げ餅をロックオンしています。

見ていない。何も、聞こえていない。
背後の尻尾ぶんぶんビタンビタンは空耳だ。
仕事の準備のため、藤森、自分に言い聞かせます。

「ふぅ」
かたかたかた、パチパチパチ。
もうすぐ仕事の準備が終わる藤森。ひと息つきたくて、冷茶をひとくち、喉に通します。
そして揚げ餅をつまむべく、それを入れたガラスの器に指を、すっと伸ばして、

ぎゃあん! と、子狐がいきなり吠えまして、
ここでようやくお題回収。『時間よ止まれ!』

「なんだ、子狐!」
いきなり大きい声を出さないでくれ!
バチクソびっくりした藤森が、たまらず子狐の方を振り返ります!防音防振整った藤森の部屋は、静かなので子狐の大音量が大音量なのです。
振り返った先で藤森は、今回のお題の結果として、
稲荷神社の子狐が「揚げ餅」を入れた「ガラスの器」を両手もとい前あんよでしっかり持って、
カリカリカリ、こりこりこり!
中の揚げ餅を一心不乱に食べてるのを見ました。

「頼む。こぎつね」
ため息ひとつ。藤森の時間が、少し止まりました。
「それを食いたいなら、食いたいと、正直に……」
びっくりした心と体が、少しだけ、止まりました。

9/19/2024, 3:20:23 AM

「月夜、真夜中、夜の海、夜明け前。『夜』とも随分長い付き合いよな……」
某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり。そもそも「夜明け前」を先週書いたばかりだ。
静かなため息を吐き、ネタを探す。
やがてメモ帳アプリを呼び出し、簡単そうなひとつを閃いて書き始めると、

「都市部や観光地の夜景は大抵高地から低地を見下ろして人口の光を見るけど、
田舎や山間部の夜景はそもそも人口の光がバチクソ少ないから、天を見上げて星の光を見る、
とか考えたけど、ぜってー説教くさくなる……」

それが確実に「自分は書きやすいけど読者はゼッタイ読むのがダルい内容」になると理解し、
文章をタップして、範囲指定して、切り取り。
すべてを白紙に戻した。

――――――

最近最近の都内某所、某ホテルの中にある「少しだけ価格が高め」なレストラン、夜。
曇天ゆえにあいにくの空模様ながら、
そもそも東京はLED照明やデジタルサイネージによる圧倒的な光量のため、前提として星が少ない。
夜景といえば人のいとなみ、人の光である。

このレストランを夜に訪れる客もそれが目当てで、
幸運にも窓際を引き当てた、あるいは事前に窓際席を予約していた男女は、それぞれスマホを取り出すなり、他者に配慮しつつ動画を撮るなり、
あるいは、静かに指輪の入った小箱をテーブルの上へ置いて、結局爆死するなり。
BGMのジャズは共感のピアノと慰めのストリングスを伴って、小箱に涙落とす者に寄り添った。

ドラムはレストラン予約料と指輪デザイン費用、それから失恋に対する慟哭かもしれない。

「見ろよ藤森。アレが普通の、普ッ通ーの失恋だ」
一連の夜の景色をふたつ後ろの席から見ていた既婚男性の名前を、宇曽野という。
「表で『自分もそれが好き』『あなたと同じこと考えた』とか言いながら裏垢で『地雷』『解釈違い』『あたまおかしい』は、相当のレアケースだぞ」
覚えておけよ、藤森。 そう付け足して、同じテーブルの向かい側に視線を合わせると、
「あまり見てやるなよ。傷心中なのに」
『藤森』と呼ばれた「向かい側」は、小さくため息を吐き、あきれた顔で言葉を投げた。

「で、何故わざわざ私をココに呼んだんだ。
私の前の職場で、お前が『表で自分も好きと言いつつ裏で地雷と呟いた人』も勤めていたココに?」

「単純に最近お前とメシ食ってないなと」
「それだけか」
「あとお前の後輩の高葉井に『茂部さんの告白偵察行ってきて』と頼まれた」

「は?」
「そこの、今ひとりで2人分の料理を泣きながら食ってるやつな。ウチの本店の総務課の茂部だ」
「……は?」
「お前の後輩のほぼほぼ同期だとさ。『多分脈無いよ、って忠告したのに見切り発車するらしいから、宇曽野主任、偵察おねがいします』と」

「何故あいつ本人ではなく、お前に?
そもそも私が呼ばれた理由がどこにも無い」
「野郎ひとりで来る店でもないだろ。
あとあいつが俺に頼んだのは、茂部にあいつの顔がバレてるからだろうさ」

「お前だって、茂部さんとは一応ある程度」
「俺は茂部から恋愛相談なんざされてないからな」

結果としては、「見切り発車によるプロポーズは予想通り、相手側の拒否で終了」ってところか。
スマホを取り出し、スワイプ、タップ。
宇曽野がどこかへ、おそらく告白偵察の依頼者へ、実況のメッセージを送信してステーキをぱくり。
他者の悲哀に我関せず。満面の笑顔を咲かせる。
「なかなか夜景がキレイな店だな。藤森」
宇曽野が言った。

「だろうな」
藤森が返して、ぽつり。
「ところで元従業員として白状すると、実は……」
実はな。そこで藤森の言葉が、一旦途切れる。
前職がこのレストランであった藤森。プロポーズに関する強力なジンクスをひとつ、知っていた。

このレストランの夜景美しい窓際席の中に、
ひとつだけ、「そこを予約して告白すると、朝は必ず成功し、夜は必ずフられる席」があって、
そのジンクスが破られたことは一度も無いという。

9/18/2024, 3:29:39 AM

「花ネタの投稿、複数回書いてるのよな……」
某所在住物書きは、今回ばかりは物語の書きづらさを、己の失態によるものと認めた。
今年の3月を起点に数えるなら、花のお題は4回。
これまで桜吹雪を流れ星に見立てたり、
ポットの中に工芸茶の花を咲かせたり。
季節の花をそのまま登場させたこともあった。
花はこの物書きにとって書きやすかったのだ。

「去年は星空を花畑に例えたっけ」
なかなかの苦しまぎれよな。物書きは回想する。
「まぁ。今年も今年で、強引なネタ書くけど」
そろそろネタを発掘する必要がある。今まで考え付きもしなかった、一度も擦っていないネタを。

――――――

干し餅、凍り餅、しみごおり等々の名前を持つ一連の食べ物は、製法、期間、材料に違いこそあれど、
「粳練(こうれん)」も含めれば、北海道から信越地方のあたりまで、多くの地域で作られた。
粳練の最短数日から、干し餅・氷餅はだいたい1ヶ月。それらは冬の寒さの中で乾かされる。

食感はサクサクで、西洋菓子に比べて味は薄く、混ぜ物をしなければ、少し餅の甘さが分かる程度。
ゆえに塩でも醤油でも、多くのアレンジに対応する。

これを食べやすい細さ/太さに切り、素揚げする。
シュガーレモンや桜、ナッツなど、複数のフレーバーや色をまとったチョコレートにくぐらせる。
薄くまとったチョコのてっぺんに砂糖菓子で作った小さな小さな花をひとつ、ふたつ。
伝統の餅菓子は途端に可愛らしいチョコ菓子に変身。
器に盛られた花畑は紅茶やハーブt

カリリ、カリリ、ぽりぽりぽり!
カリカリカリ、さくさく、カリッ、ぽりぽり。
こやん。  にゃー。


「あのな、こぎつね……?」
ここより本編。 最近最近の都内某所、某アパートの一室、天気雨で空が泣いた日の夜。
部屋の主を藤森といい、上記干し餅の伝統残る雪国の出身。都内のとあるアンテナショップで、これの砂糖花付きチョコアレンジを購入した。

そのチョコアレンジを
本来チョコレートに対して致命的な中毒症状を呈する筈の子狸と子狐と、それから尻尾2本の子猫が
正しくは化け狸と稲荷神社の御狐と猫又が、
藤森の部屋に突然押し掛けてきてカリカリ、堪能し始めて、さぁ何がどうしてこうなった。

発端は過去作前回投稿分参照だが、細かいことは気にしてはいけない。要するにフィクションである。日頃の行いの善悪も影響していることだろう。

「おいしい。おいしい」
「あの、本当に、ほんッとうに、大丈夫か」
「おいしいよ。甘くて、おいしいよ」
「質問に答えてくれ。本来、犬や猫にとって、チョコレートは危険な食べ物の筈だ。
大丈夫なのか。本当に、問題無いのか」

「キツネ、犬じゃないやい」
「そうじゃない」
「僕も、犬じゃありません。タヌキです」
「だから。そういう意味じゃない」

翌日の仕事の準備を自室でしていた藤森。
タブレットに無線経由で、キーボードを叩き、
スマホで時折グループチャットに返信等々。
一段落ついたのでそろそろ休憩しようと、冷やしてあった柚子入り緑茶など用意していたところ、

部屋のロックもセキュリティーも、一切の警備を無視して、子供3匹のご来訪。
『豊穣の五穀たる米菓子、おまえの故郷たる雪国の美味をお供えしてください。』
藤森はピンときた。 そうだそろそろ自分の故郷も稲刈りだ。新米の季節である。
しっかり人間に化けたガキんちょ3名を連れて、アンテナショップにコンバンハ。
子狐は商品棚にずらり整えられた「米の花畑」、すなわち砂糖花付き干し餅のチョコレートがけを見つけると、目を輝かせて試食をパクリ!
そして藤森にねだったのだ。「お花畑、買って!」

カリカリカリ、さくさくさく。
どのような魔法か稲荷のご利益か、チョコの平気なイヌ科2匹とネコ科1匹。
藤森に買ってもらった8種類6個ずつのチョコ付き干し餅スティックを、その上に飾られた小さな花の砂糖菓子を、至極上機嫌で堪能して、
ガラスの器に整えられた「花畑」を整地してゆく。
「ねぇ。私、このキウイフレーバー大好き」
「僕の1本、あげるよ」
「うれしい!じゃあシュガーレモン味あげる」
「キツネのも、あげる!あずきチョコちょーだい」

再度明記する。本来ネコ科とイヌ科は、チョコレートに対して致命的な中毒症状を呈する。
欲しがっても、決して与えてはいけない。
「与えてはいけない筈なんだがな……」
なにがどうして、こうなった。
子狸に子狐、それから尻尾2本の子猫がチョコレート干し餅を楽しむ様子を見て、首を傾ける。
すべてはお題「花畑」の回収のためである。
しゃーない、しゃーない。

9/17/2024, 3:49:00 AM

「雨のお題はこれで5回目なんよ……」
過去の雨ネタで何書いたかは、8月27日投稿「雨に佇む」のお題冒頭でまとめてあるから、気になったら確認してくれや。某所在住物書きは今日も頭を抱え、重複ネタにどう立ち向かうか思考を巡らせた。

ここで折れてはいられない。きっと、あと2〜3回は対峙することになる「雨」である。
筆投げて、「もう雨は書けません」して、ではいずれ来るであろう次の雨を、どう乗り切るのか。
「つっても、思いつかねぇものは思いつかねぇわ」
秋雨、氷雨、通り雨に豪雨。まだ書いていない「雨」はどこだろう。物書きは思いつく限り、泣く空を表す言葉を挙げ続けた。

――――――

9月はひと雨ごとに、気温が下がる。
空が泣くごとに、秋が寄ってくる。
平成までの日本はそんな四季情緒であった筈ですが、令和からは随分と、真夏な日が多く続いているように感じます。いかがお過ごしでしょうか。
なんて挨拶はここまでにして、今回の物書き、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益豊かなお餅を作って売って、あるいはお母さん狐が店主をしている茶っ葉屋さんで看板子狐などして、人間と社会を学んでおりました。

その日は子狐の遊び相手のお天気指示棒が、
もとい、お父さん狐が通勤前に観ている天気予報が、「晴れる」と予報したのに空がギャン泣き。
太陽が出てるのに雨ザーザー。天気雨です。
これではお外で遊べません。

同い年で同じ化け狐のミーちゃんは、天気予報士を目指しているので、こんな日には「狐の嫁入り」に突撃取材などしに行くのでしょうけれど、
別に子狐はミーちゃんのように、ギャン泣きのお空を追いかけたり、ブチギレモードの雷雲を追いかけたりできる狐じゃないのです。

さて。
「秋のしょーひん、どーなってる?」
空泣いて残暑継続中の稲荷神社です。
餅売りの子狐は、近所で和菓子職人の見習いをしてる化け子狸と、それから雑貨屋さんのスタッフをしてる子猫又と一緒に、
冷やし団子やら練り切り生菓子やら、それから座り心地の良いクッションなどを持ち寄って、
ガキんちょなりの、緊急会合中。
なんてったって、空泣くごとに涼しくなり始める筈の9月に、相変わらず真夏日の熱帯夜なのです。

「ウチはもう、今週末まで夏物8の秋物2で、秋系はほとんどバックヤードでお留守番しちゃってる」
やっぱり売れ筋はまだ夏物ね。
いちばんしっかり者の子猫又が、クッションの上でまんまるくなって、ちょっと冷茶などピチャピチャしながら言いました。

「僕のとこは、一応『9月』の生菓子、出してる」
季節と一緒に商売をする和菓子屋の子狸が、子狐の作った団子を食べながら続きます。
「ただ最近、9月が、『9月』じゃないじゃん。
『なんか、この暑いのをイジるようなお菓子出したいよね』って、副店長が言ってた」
あと、アレだね。雨と大雨。
ポンポコ子狸、自分のお菓子のアイデア帳を引っ張り出しまして、くずきり使った雨のお菓子の絵を、子狐と子猫に見せたのでした。

「ねぇ、それならウチの雑貨屋と『大雨』の防災グッズで、コラボってどうかしら?」
「どういうこと?」
「和菓子屋が本気で作った防災用備蓄ようかん!
アリだと思うの。ウチのチーフにも聞いてみる」
「ちーふ?」

「偉い人」
「分かったおぼえた」

「やっぱり、どこも、今年タイヘンだなぁ」
ふたりのハナシを聞いて、来週のお餅のネタを考えようと思っていた子狐。
片や夏のまま様子見する雑貨屋子猫宅、
片や一応本来の季節を店に出す和菓子子狸宅。
自分はどっちに立とうかと、コンコン子狐は両端の真ん中で、こっくりこっくり。

「……ぼーさい?」
「あなたも一緒に、ハナシに乗っかってみない?
お餅にも保存食みたいなヤツ、あるんじゃない?」
「あげ餅とか。あと、キツネのおとくいさんが、去年ホシモチ、『干し餅』お供えしてくれた」
「ホシモチ……?」

なにそれ、ナニソレ。
知らない食べ物が出てきまして、子狸と子猫、顔を見合わせて目をパチクリ。
「今、その、ホシモチって、ある?」
子猫が言いました。子狐はぶんぶん首振るばかり。
空の天気雨は、まだまだ泣き止みません。
「おとくいさんなら、持ってるかも」
晴れたらちょっと、行ってみようか。
コンコン子狐そう言って、だいたい餅売り子狐のお得意様が住んでるあたりの方角を、見つめましたとさ。

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