かたいなか

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「雨のお題はこれで5回目なんよ……」
過去の雨ネタで何書いたかは、8月27日投稿「雨に佇む」のお題冒頭でまとめてあるから、気になったら確認してくれや。某所在住物書きは今日も頭を抱え、重複ネタにどう立ち向かうか思考を巡らせた。

ここで折れてはいられない。きっと、あと2〜3回は対峙することになる「雨」である。
筆投げて、「もう雨は書けません」して、ではいずれ来るであろう次の雨を、どう乗り切るのか。
「つっても、思いつかねぇものは思いつかねぇわ」
秋雨、氷雨、通り雨に豪雨。まだ書いていない「雨」はどこだろう。物書きは思いつく限り、泣く空を表す言葉を挙げ続けた。

――――――

9月はひと雨ごとに、気温が下がる。
空が泣くごとに、秋が寄ってくる。
平成までの日本はそんな四季情緒であった筈ですが、令和からは随分と、真夏な日が多く続いているように感じます。いかがお過ごしでしょうか。
なんて挨拶はここまでにして、今回の物書き、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益豊かなお餅を作って売って、あるいはお母さん狐が店主をしている茶っ葉屋さんで看板子狐などして、人間と社会を学んでおりました。

その日は子狐の遊び相手のお天気指示棒が、
もとい、お父さん狐が通勤前に観ている天気予報が、「晴れる」と予報したのに空がギャン泣き。
太陽が出てるのに雨ザーザー。天気雨です。
これではお外で遊べません。

同い年で同じ化け狐のミーちゃんは、天気予報士を目指しているので、こんな日には「狐の嫁入り」に突撃取材などしに行くのでしょうけれど、
別に子狐はミーちゃんのように、ギャン泣きのお空を追いかけたり、ブチギレモードの雷雲を追いかけたりできる狐じゃないのです。

さて。
「秋のしょーひん、どーなってる?」
空泣いて残暑継続中の稲荷神社です。
餅売りの子狐は、近所で和菓子職人の見習いをしてる化け子狸と、それから雑貨屋さんのスタッフをしてる子猫又と一緒に、
冷やし団子やら練り切り生菓子やら、それから座り心地の良いクッションなどを持ち寄って、
ガキんちょなりの、緊急会合中。
なんてったって、空泣くごとに涼しくなり始める筈の9月に、相変わらず真夏日の熱帯夜なのです。

「ウチはもう、今週末まで夏物8の秋物2で、秋系はほとんどバックヤードでお留守番しちゃってる」
やっぱり売れ筋はまだ夏物ね。
いちばんしっかり者の子猫又が、クッションの上でまんまるくなって、ちょっと冷茶などピチャピチャしながら言いました。

「僕のとこは、一応『9月』の生菓子、出してる」
季節と一緒に商売をする和菓子屋の子狸が、子狐の作った団子を食べながら続きます。
「ただ最近、9月が、『9月』じゃないじゃん。
『なんか、この暑いのをイジるようなお菓子出したいよね』って、副店長が言ってた」
あと、アレだね。雨と大雨。
ポンポコ子狸、自分のお菓子のアイデア帳を引っ張り出しまして、くずきり使った雨のお菓子の絵を、子狐と子猫に見せたのでした。

「ねぇ、それならウチの雑貨屋と『大雨』の防災グッズで、コラボってどうかしら?」
「どういうこと?」
「和菓子屋が本気で作った防災用備蓄ようかん!
アリだと思うの。ウチのチーフにも聞いてみる」
「ちーふ?」

「偉い人」
「分かったおぼえた」

「やっぱり、どこも、今年タイヘンだなぁ」
ふたりのハナシを聞いて、来週のお餅のネタを考えようと思っていた子狐。
片や夏のまま様子見する雑貨屋子猫宅、
片や一応本来の季節を店に出す和菓子子狸宅。
自分はどっちに立とうかと、コンコン子狐は両端の真ん中で、こっくりこっくり。

「……ぼーさい?」
「あなたも一緒に、ハナシに乗っかってみない?
お餅にも保存食みたいなヤツ、あるんじゃない?」
「あげ餅とか。あと、キツネのおとくいさんが、去年ホシモチ、『干し餅』お供えしてくれた」
「ホシモチ……?」

なにそれ、ナニソレ。
知らない食べ物が出てきまして、子狸と子猫、顔を見合わせて目をパチクリ。
「今、その、ホシモチって、ある?」
子猫が言いました。子狐はぶんぶん首振るばかり。
空の天気雨は、まだまだ泣き止みません。
「おとくいさんなら、持ってるかも」
晴れたらちょっと、行ってみようか。
コンコン子狐そう言って、だいたい餅売り子狐のお得意様が住んでるあたりの方角を、見つめましたとさ。

9/17/2024, 3:49:00 AM