かたいなか

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「原作読んだり観たりしたことないけど、そのネタだけは知ってる。……結構多いと思うんよ」
たとえばそれこそ、「時よ止まれ」の漫画とか。
某所在住物書きはネットで某漫画を検索しながら、今回配信分に何で立ち向かうか画策していた。
時間が止まればどれだけ助かることか。
「『メンテが終わればメンテが始まる』の元ネタも、読んだことは無いが原作の名前も絵も知ってるし。
『だったら漕げばいいだろ!』なんて、語録大量に覚えてるが本編観たことねぇし。……あと他は?」

ところで昔々、20年以上前、海外ゲームの映画化において、「もし時間が止まったら」を簡潔かつ短時間だけ描写した場面があった。
空間内に静止している物体は、力が加わるまで静止し続ける。慣性の法則という。
時間内に静止しているナイフに対して、「同じ『時間の力』が加わるまで静止し続ける」とした。

ひょっとしたら「時間よ止まれ」は「物体よ止まれ」であり、「空間よ凍りつけ」かもしれない。

――――――

時間が止まれば物体の全部も止まるのに、
物体が止まっても、時間の全部は止まらない。
ちょっと不公平な気がします。
つまり、物体としてのわたしがベッドの上でタオルケットにくるまって静止していても、
朝はちっとも待ってくれないし、遅刻スレスレは遅刻スレスレ。時は進むのです。
と、いう理不尽は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、雪降り花あふれる雪国の出身。
夜に明日の仕事の準備をしておりました。
冷たいお茶のオトモはお米のお菓子。
厳冬の気温と風でさくさく食感に乾燥させたお餅を、食べやすく切り素揚げして、さっと味付けを施した、伝統お餅の美味しいアレンジ。

諸事情により藤森、都内にある故郷のアンテナショップで、先日購入しておったのです。
詳細は過去作、前々回投稿分ですが、スワイプが面倒なので気にしてはならぬのです。
で、
五穀豊穣の稲、米、お餅、餅の加工品
と聞いて今の時期に黙ってないのが、藤森のアパートの近くにある稲荷神社でして。

何故か藤森の部屋に、稲荷神社在住のコンコン子狐が、セキュリティーもロックもどこ吹く風。
おめめ輝かせて、入り込んできておったのです。
非現実的ですね。しゃーない、しゃーない。

「……」
かたかたかた、パチパチパチ。
早めに仕事の準備を終えたい藤森。コンコン非現実を見て見ぬふり。資料作成頑張ります。
その間に非現実な不法侵入者、稲荷神社の子狐は、
尻尾をぶんぶんブン回し、でも静かに小さなあんよで、隠密行動の匍匐前進。
キラキラおめめはガッツリと、藤森のデスクの上にある味付き揚げ餅をロックオンしています。

見ていない。何も、聞こえていない。
背後の尻尾ぶんぶんビタンビタンは空耳だ。
仕事の準備のため、藤森、自分に言い聞かせます。

「ふぅ」
かたかたかた、パチパチパチ。
もうすぐ仕事の準備が終わる藤森。ひと息つきたくて、冷茶をひとくち、喉に通します。
そして揚げ餅をつまむべく、それを入れたガラスの器に指を、すっと伸ばして、

ぎゃあん! と、子狐がいきなり吠えまして、
ここでようやくお題回収。『時間よ止まれ!』

「なんだ、子狐!」
いきなり大きい声を出さないでくれ!
バチクソびっくりした藤森が、たまらず子狐の方を振り返ります!防音防振整った藤森の部屋は、静かなので子狐の大音量が大音量なのです。
振り返った先で藤森は、今回のお題の結果として、
稲荷神社の子狐が「揚げ餅」を入れた「ガラスの器」を両手もとい前あんよでしっかり持って、
カリカリカリ、こりこりこり!
中の揚げ餅を一心不乱に食べてるのを見ました。

「頼む。こぎつね」
ため息ひとつ。藤森の時間が、少し止まりました。
「それを食いたいなら、食いたいと、正直に……」
びっくりした心と体が、少しだけ、止まりました。

9/20/2024, 3:16:53 AM