「花ネタの投稿、複数回書いてるのよな……」
某所在住物書きは、今回ばかりは物語の書きづらさを、己の失態によるものと認めた。
今年の3月を起点に数えるなら、花のお題は4回。
これまで桜吹雪を流れ星に見立てたり、
ポットの中に工芸茶の花を咲かせたり。
季節の花をそのまま登場させたこともあった。
花はこの物書きにとって書きやすかったのだ。
「去年は星空を花畑に例えたっけ」
なかなかの苦しまぎれよな。物書きは回想する。
「まぁ。今年も今年で、強引なネタ書くけど」
そろそろネタを発掘する必要がある。今まで考え付きもしなかった、一度も擦っていないネタを。
――――――
干し餅、凍り餅、しみごおり等々の名前を持つ一連の食べ物は、製法、期間、材料に違いこそあれど、
「粳練(こうれん)」も含めれば、北海道から信越地方のあたりまで、多くの地域で作られた。
粳練の最短数日から、干し餅・氷餅はだいたい1ヶ月。それらは冬の寒さの中で乾かされる。
食感はサクサクで、西洋菓子に比べて味は薄く、混ぜ物をしなければ、少し餅の甘さが分かる程度。
ゆえに塩でも醤油でも、多くのアレンジに対応する。
これを食べやすい細さ/太さに切り、素揚げする。
シュガーレモンや桜、ナッツなど、複数のフレーバーや色をまとったチョコレートにくぐらせる。
薄くまとったチョコのてっぺんに砂糖菓子で作った小さな小さな花をひとつ、ふたつ。
伝統の餅菓子は途端に可愛らしいチョコ菓子に変身。
器に盛られた花畑は紅茶やハーブt
カリリ、カリリ、ぽりぽりぽり!
カリカリカリ、さくさく、カリッ、ぽりぽり。
こやん。 にゃー。
「あのな、こぎつね……?」
ここより本編。 最近最近の都内某所、某アパートの一室、天気雨で空が泣いた日の夜。
部屋の主を藤森といい、上記干し餅の伝統残る雪国の出身。都内のとあるアンテナショップで、これの砂糖花付きチョコアレンジを購入した。
そのチョコアレンジを
本来チョコレートに対して致命的な中毒症状を呈する筈の子狸と子狐と、それから尻尾2本の子猫が
正しくは化け狸と稲荷神社の御狐と猫又が、
藤森の部屋に突然押し掛けてきてカリカリ、堪能し始めて、さぁ何がどうしてこうなった。
発端は過去作前回投稿分参照だが、細かいことは気にしてはいけない。要するにフィクションである。日頃の行いの善悪も影響していることだろう。
「おいしい。おいしい」
「あの、本当に、ほんッとうに、大丈夫か」
「おいしいよ。甘くて、おいしいよ」
「質問に答えてくれ。本来、犬や猫にとって、チョコレートは危険な食べ物の筈だ。
大丈夫なのか。本当に、問題無いのか」
「キツネ、犬じゃないやい」
「そうじゃない」
「僕も、犬じゃありません。タヌキです」
「だから。そういう意味じゃない」
翌日の仕事の準備を自室でしていた藤森。
タブレットに無線経由で、キーボードを叩き、
スマホで時折グループチャットに返信等々。
一段落ついたのでそろそろ休憩しようと、冷やしてあった柚子入り緑茶など用意していたところ、
部屋のロックもセキュリティーも、一切の警備を無視して、子供3匹のご来訪。
『豊穣の五穀たる米菓子、おまえの故郷たる雪国の美味をお供えしてください。』
藤森はピンときた。 そうだそろそろ自分の故郷も稲刈りだ。新米の季節である。
しっかり人間に化けたガキんちょ3名を連れて、アンテナショップにコンバンハ。
子狐は商品棚にずらり整えられた「米の花畑」、すなわち砂糖花付き干し餅のチョコレートがけを見つけると、目を輝かせて試食をパクリ!
そして藤森にねだったのだ。「お花畑、買って!」
カリカリカリ、さくさくさく。
どのような魔法か稲荷のご利益か、チョコの平気なイヌ科2匹とネコ科1匹。
藤森に買ってもらった8種類6個ずつのチョコ付き干し餅スティックを、その上に飾られた小さな花の砂糖菓子を、至極上機嫌で堪能して、
ガラスの器に整えられた「花畑」を整地してゆく。
「ねぇ。私、このキウイフレーバー大好き」
「僕の1本、あげるよ」
「うれしい!じゃあシュガーレモン味あげる」
「キツネのも、あげる!あずきチョコちょーだい」
再度明記する。本来ネコ科とイヌ科は、チョコレートに対して致命的な中毒症状を呈する。
欲しがっても、決して与えてはいけない。
「与えてはいけない筈なんだがな……」
なにがどうして、こうなった。
子狸に子狐、それから尻尾2本の子猫がチョコレート干し餅を楽しむ様子を見て、首を傾ける。
すべてはお題「花畑」の回収のためである。
しゃーない、しゃーない。
9/18/2024, 3:29:39 AM