かたいなか

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「『明日』はこれで、4例目よな」
5月の「明日世界がなくなるとしたら(略)」と「また明日」、8月の「明日、もし晴れたら」。
今日は「きっと明日も」らしい。某所在住物書きは配信の題目を目でなぞり、わずかな手ごわさを感じた。
大抵配信される題目は、この物書きにとって手ごわいものであった。それこそ、「きっと明日も」、難題のそれであろう。

「きっと」。 必ず、明日も◯◯になる。おそらく明日も◯◯だろう。間違いなく申し付ける。
さすがに「きっ」という呼び名の人物は居ないと思われるので、「キッと一緒に、明日も」は無理。
これくらいか。 これくらいだろうか。
「『明日』ねぇ……」
ところで10月1日はコーヒーの日らしい。
特に「それ」を意識しているワケではないものの、きっと明日も、無糖のコーヒーを飲むだろう。

――――――

10月に突入した東京ですが、まだまだ気温気候は夏の気配。だって明日が真夏日なのです。
明後日も25℃以上の夏日、その次も30℃の真夏日。夏、なつ、ナツ。きっと明日も暑いのです。
と、いう速攻のお題回収は置いといて、今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は食いしん坊の遊び盛り。
その日も尻尾をぶんぶん振り回して、神社敷地内の縄張り巡回、もとい参拝者のための安全確認。
コロコロ美味しい栗の入ったトゲトゲが落ちていたら、参拝者が怪我をするかもしれません。
コロコロ楽しいトチの実が参道に転がっていたら、参拝者も転んでしまうかもしれません。

あっちにヤマブドウ、こっちにアケビ。
そっちのキノコは何かしら、毒かしら。
コンコン子狐は尻尾をぶんぶん振り回して、稲荷神社のご利益豊かな鎮守の森を駆け回ります。
断じて今日のおやつの収集ではないのです。

ぶんぶんぶん、パタパタパタ。
コンコン子狐は稲荷神社の森の中。参道の上。
葛の葉とツルで編んだカゴをくわえて、たまに参拝者さんからカゴの中にお賽銭を投げ入れられながら、稲荷の恵みを探します。
心の傷ついた匂いがする参拝者さん、魂にヒビ入った匂いがする参拝者さんには、1個数粒、稲荷の恵みをおすそ分けします。

ぶんぶんぶん、パタパタパタ。
コンコン子狐が今日の縄張り巡回を、丁度終えようとした頃に、木漏れ日のさすあたりを見上げると、
どうしましょう、なんということでしょう!
神社の花を撮りに来ていた参拝者さんの頭の上に、ぷっくり膨らんだイチジクが見えるのです!
「イチジクだ、イチジクだ!」
なかなかグルメな子狐、イチジクのジャムにバターとあんこを添えた、お母さん狐特製のタルトやどら焼きの味をよくよく知っているのです。

よくよく見れば、イチジクの下で写真を撮るこの参拝者、お母さん狐が人間に化けて店主をしている茶っ葉屋さんのお得意様。顔見知りです。
名前を、藤森といいます。花あふれる雪国出身の、心優しく魂清き人間です。
よし、お得意様の肩を足場にして稲荷のイチジクを採りましょう。神社の美味を頂きましょう。

人間よ、参拝者よ。狐のあんよを受け止めなさい。
子狐コンコン、くわえていた葛のカゴをおろして全力助走。力強く地面を蹴って、一気に写真撮影中の参拝者さんもといお得意様に飛び付きました。

イチジク、イチジク!
「わっ、なんだ、子狐!何をしている?!」
イチジク、もうちょっとで届く!
おとくいさん、せのびして!もっと前にきて!
「だから、何が、どれが目的なんだ、子狐!」

おとくいさん、ギリギリ届かない。不便。
「あのな……?」

突然子狐の足場にされた参拝者のお得意様。
ちょっと周囲を見渡して、丁度近くに食べごろのイチジクを見つけたので、
一生懸命おててなり首なりを伸ばす子狐に代わり、
1個2個、3個。形の良いものを採ってやります。
「ほら。これが食いたいのか」
コンコン子狐は大喜び!狐耳ペタリの狐尻尾ビタンビタンで、幸福にイチジクをカゴの中へ入れます。
イチジクの木にはまだまだいっぱい、おいしそうに膨らんだものが見えます。
きっと明日も、食べごろが見つかるでしょう。
きっと明後日も、食べごろはそこにあるでしょう。

ありがとう、ありがとう!
コンコン子狐は参拝者にお礼として1個、稲荷のご利益詰まったイチジクをくれてやりました。
子狐がダッシュで帰る後ろ姿を見る参拝者の肩やら服やらには、子狐が運んできたイネ科やマメ科のひっつき虫が、大量に残っておったとさ。

10/1/2024, 3:00:36 AM