かたいなか

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8/29/2024, 5:19:11 AM

「突然訪問するもの。 サ終。 ゲリラ豪雨。
好きな菓子だのリピってる消耗品だのの廃盤。
住所知らせてないのに実家の親。急な出費。
酷いモンカスに置き引き、あおり運転、ミサイル。
いつかどこぞのTLで『老いはガチで突然ストンとやってくる』って見た。 ……他は?」
お題に対するネタのアイデアは、案外「突然」っていう突然でもねぇかな。某所在住物書きは今日も今日とて、難題に頭を抱えて長考を重ねる。
去年は「恋愛トラブルの粘着質震源が突然、職場を特定して押しかけてきた」というネタを書いた。
さすがに今年は別ネタを書きたい。

「今やってるソシャゲは運営がガチャ実装予告全然してくれねぇから全部突然」
スワイプ、スワイプ。物書きはスマホをなぞる。
「某森頁のサ終も、突然だったな……」
お題から脱線するものの、やはり文章やデータの保存はアナログ・オフラインが最強かもしれない。

――――――

最近最近の都内某所、某不思議な不思議な稲荷神社の奥方が店主をつとめる静かな茶葉屋の昼。
雨雲が都内に向かってにじり寄る真っ最中、店内のレジ横に、小さな賽銭箱を模した募金箱が設置され、箱の背後に鳥居の置物が配置された。
鳥居の上には「産地支援」の4文字。
突然訪問して図々しく居座っている台風が理由。
鹿児島の知覧に指宿、佐賀の嬉野、福岡の八女に星野。九州は茶葉の産地が点在。
渋みの比較的少ないそれらは「飲みやすい」「味が優しい」と感じる者が一定数居たのだ。

なによりこの稲荷の茶葉屋は今年、大分より仕入れた柚子入り冷茶でそこそこ商売繁盛。
店が都内だろうと産地から数百km離れていようと、他人事ではない。

突然の台風の訪問。暴力的な気圧の停滞。
コンコンこやこや。
稲荷の茶葉屋はスマホで台風の進路と位置を確認。
さっそく来店した客に、ニコリ業務スマイルして、
それとなく、視線で賽銭箱への浄財行為を勧めた。
「こんにちは。お得意様のお連れ様」

「お久しぶりでーす」
来店したのは、茶葉屋の個人的得意先の後輩。
いつもなら「お得意様」と共に2人して訪れる彼女は、名前を後輩、もとい高葉井といった。
「ついさっきお向かいさんの和菓子屋さんで、キレイな琥珀糖貰ったんですけど、それに合うアイスティーをテイクアウトしたくて……」
キレイな琥珀糖とは何か。
詳細は前回投稿分参照だが面倒なので気にしない。
ともかく高葉井は諸事情により砂糖干菓子を入手したので、マッチする茶を求めて入店したのだ。

突然の茶を知らぬ客の訪問。
丁度良い。なにより砂糖干菓子と柑橘系はサッパリして非常に相性が良く、涼しくて心魂を晴らす。
コンコンこやこや。
稲荷の茶葉屋はさっそく商売を始めた。

「大分の柚子を使った冷茶がございます。長崎のレモンピールを使ったハーブティーもおすすめです。
柑橘系以外では、宮崎や長崎の釜炒り茶なども」
「かまいりちゃ?」
「本来はホットをおすすめしております。少し熱めのお湯で、サッパリした香ばしさを出すお茶です」

「んー。ハーブティーがいいな」
「では長崎と大分を」

有無を言わさず、流れ作業でふたつ、柑橘の香り立つ試飲を高葉井に提供する店主。
高葉井も高葉井で流れ作業。九州を口に含み、喉に流し、鼻腔で夏の余韻を堪能する。
「柚子おいしい。柚子の方2個ください」

「毎度、ありがとうございます」
業務スマイルの店主は満足げにふわり微笑。
「またのご利用を、お待ちしております」
次に来る頃にはぜひ四国近辺の番茶なども。
頭を下げて、突然の訪問者たる客を見送る。
客の高葉井は柚子香る冷茶をふたつ受け取ると、
店の外でひとり、同僚の男性が待っているらしい、
彼に少し微笑んで、「買ったよ」、と呟いた。

彼女の購入分は次の九州茶葉仕入れ分として、しっかり茶葉農家に貢献・還元されましたとさ。

8/28/2024, 5:02:32 AM

「3月24日に『ところにより雨』、5月25日に『いつまでも降り止まない、雨』、それから6月1日が『梅雨』で、今回『雨に佇む』か」
3月は「3月の雨と季節ものの山菜」、5月は「『止まない雨は無い』って励ましのセリフがあるけど、実際絶対止まない雨は有るよな説」、6月は日本茶の茶葉「あさ『つゆ』」で書いたわ。過去投稿分を振り返る某所在住物書き。
別に外に、雨は降っていない。曇天である。
リアルタイム風の物語を投稿している身として、雨ネタの日の曇天晴天は地味に困るところであった。

「ところで別に気にしてねぇけどさ。去年の今頃、丁度某ソシャゲのリセマラしてたの。
気にしてねぇけど、1週間くらい粘って、結局、大妥協して絶対条件1枚だけ揃えたわけ。
……後日その絶対条件キャラ厳選のピックアップのガチャ始まってさ。1週間、何だったのって」
気にしてねぇよ。ホントに気にしてねぇけど。
唇をきゅっと結ぶ物書き。別に雨は降っていない。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社近くにある茶葉屋の向かい側に、タヌキの置物が目印の和菓子屋がある。
一度店名を変えて「和菓子屋ポンポコ堂」となったそこは、夏になると軒下からドライミストが噴霧され、テイクアウト客に少しの冷涼を提供している。
近くには長椅子とゴミ箱もあり、その場で食うにも画像撮影後の早食いにも対応。

その日の正午過ぎも、この物語の登場人物であるところの付烏月という男とその同僚が、
テイクアウト用窓口から商品を受け取り、金を払って少し店員と話し込み、人工霧雨に佇んでいた。

勤務先であるところの某支店に
茶と交流を楽しみに来るロマンスグレーの常連が
大口契約のハナシをドンと持ってきたのだ。

「すまないねお客さん。そんな今日に限って」
店主が申し訳無さそうに、しかし少し笑って付烏月とその同僚の女性に言った。
「おたくの店までデリバリーする予定だったのに、こっちの急な都合で突然人手不足で」
こちらお詫びの品です。ぽてぽてぽて。
店の玄関から出てきたのは背中に小さな紙箱背負った看板子狸。中身は青と透明と紫と、水色やら白やらで夏の空を閉じ込めた琥珀糖であった。

きゅっ。子狸が付烏月を見上げた。
何やら見覚えありそうに、人間がそうするごとく、ぺこり頭を下げて「会釈に見える動作」。
理由がありそうである。
詳細は過去作8月25日投稿分参照だが、スワイプが面倒なので細かいことは気にしてはいけない。

「しゃーないですよ」
看板子狸から琥珀糖の箱を受け取った付烏月。
「こっちも、今回は急な注文でしたもん」
付烏月やその同僚個人としてではなく、支店として、数年〜十数年の長い付き合いなのだ。
日頃常連と常連と常連しか来ない過疎支店たる付烏月の職場は、その常連が数ヶ月に一度、ポンと従業員ひとりのノルマ数割に匹敵するハナシを持ってくる。
ゆえに上等の菓子で接待するのだ。
ゆえに、過疎支店でも存続しておるのだ。

客層の良さと店舗の静かさ、それからいわゆる「モンスターカスタマー」とのエンカウント率の低さゆえに彼等の支店が心の少し疲れた・傷ついた従業員の療養先ともなっているのは想像に難くない。

「……琥珀糖撮ってから支店帰ってヨキ?」
こそり。付烏月の同僚が彼に耳打ちした。
「ていうか、コレ持って帰っても、ゼッタイ全員分無いよね?足りないよね?」
ひそり。同僚に付烏月が言葉を返した。
顔を見合わせて、箱を開けて、また見合わせて。
示し合わせたように、唇をきゅっと結ぶ。

どうする。 どーしよっか。
片やスマホを取り出し、片や周囲を見渡す。
ドライミストの人工霧雨に佇むふたりはその後数分、軒下から動かなかったとさ。

8/27/2024, 3:05:51 AM

「呟きックスしかり、このアプリしかり、定期的に『その日その時』を保存するって意味では、ネット媒体だのアプリだのも日記帳になり得るんかな」
俺の日記帳っつーかスケジュール帳はここのアプリのお題記録帳になっちまってるけどな。某所在住物書きはプチプライスショップで購入したスケジュール帳を開き、ページをめくった。
去年の8月27日は雨関連のお題であった。28日は昨年通りなら難題であろう。

「実際去年、呟きックスを日記帳に見立てて『他人の日記帳見ちゃった』ってネタ書いたわ」
物書きが言った。
「さすがに今年は別のハナシ書きてぇのよな……」
ところで最近の日記帳には、読書日記やら家計簿日記やら、プラスアルファ系が存在するという。

――――――

台風近づく都内某所、某職場某支店の昼休憩。
かつて物書き乙女であったところの現社会人が、スマホに指を置きスワイプしてタップして、ボタンを押して、ともかく忙しそうにしている。
「今日の15時でサ終なの」
なにしてんの、乙女の同僚たる付烏月、ツウキが尋ねると、彼女は作業の理由をサ終と答えた。
「神サイトのスクショとWebノベルリーダーへの保存と、感謝コメントの送信は全部終わったんだけど、昔々の自分のサイトだけ保存してなかった」

どゆこと? 付烏月は他者に説明を求める。
支店長は知らぬ存ぜぬの演技で肩をすくめた。
真面目な新卒は視線をそらし頬を掻いた。

ほほん。新卒ちゃんは意味が分かると。

「カイシャクガー爆撃と相互様間トラブルで、何年も昔に辞めちゃったんだけどね」
スワイプスワイプ、タップ。元物書きが言った。
「昔々、個人サイトで二次創作やってたの。駄作だったけど、毎月何か投稿してた」
数年間放ったらかしてたけど、今日の15時で、その黒歴史が全部消えちゃうの。
ぽつりぽつり言う昔々の物書き乙女は、ただ淡々と、事務的に、一切の感傷無く作業を進めた。

君も書いてたの? 付烏月は新卒を見遣った。
書いても描いてもないですね。彼女は首を振った。

「尊敬してた方の相互様がね」
「うん」
「昔々、『有れば戻ってこれる』って言ってたの」
「うん」
「残しておけば戻せる、置いておけば帰ってこれる。そこに有れば、そこからまた繋ぎ直せるって」
「ふーん」

「だから私、ツー様の没ネタもルー部長の書き損じも、非公開の方の日記に残しておいて、たまにそこから持ってきてリメイクしたりしてたの」
「ごめんそのツーサマとルーブチョー知らない」
「知らなくていいの。いいの」

スワイプスワイプ、タップ。かつての物書き乙女は淡々々。過去と向き合い、作業を続ける。
「残ってれば、そこにあれば、戻ってこれるの」
完全に独り言の抑揚で、彼女は言った。
「この頃やってたサイトは黒歴史だけど、きっと、昔の私の大事な日記帳だったんだと思う」

ごめんやっぱ分かんない。
付烏月は目を点にして、こっくり、首をかしげる。
その間もかつての物書き乙女は、過去の創作物を、電子的な日記帳を淡々とサルベージし続け、
その顔には、特段ポジティブもネガティブも無い。
ただ微量若干の懐かしさが、見え隠れするばかり。

どゆこと? 付烏月は再度、新卒を見遣った。
目が合った彼女は今回も小さく首を振る。
しまいには少しだけ元物書き乙女の先輩に視線を置いて、静かに外して、昼休憩ゆえに己のランチであるところのサンドイッチを食べ始めてしまった。

8/26/2024, 6:29:27 AM

「8月22日が『裏返し』で、今回が『向かい合わせ』。3月13日は『ずっと隣で』だったな」
他に類似のお題あったっけ。12月の「逆さま」?
某所在住物書きは今回も今回で、去年の投稿分を確認しながらついでに台風の動向を辿っている。

鏡2枚を使えば向かい合わせの合わせ鏡、
顔ふたつを使えば向かい合わせの「ルビンの壺」。
磁石を向かい合わせにすればリニアかモーターか。
「隣り合わせ」や「背中合わせ」は?
天才と狂人は云々に関しては「紙一重」だったか?

「悲報。物語が浮かばねぇ」
毎度恒例。物書きは大きくため息を吐く。
「……そういや台風の進路、初期から大分ズレたな」
日頃の防災意識と臨時の準備・備蓄補充は向かい合わせ、とも言えよう。特に台風増える今の時期は。

――――――

下がらない夜の気温、続く熱帯夜、猛暑こそ減ったものの常時夏日から真夏日の気温帯。
8月の終わりは残暑との戦いですが、暑さゆえに冷たいアイスやラムネが美味。 快不快が向かい合わせの晩夏、いかがお過ごしでしょうか。
冷々麦飲料のオトモは甘じょっぱいアスパラ肉巻き派の物書きが、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は良き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売ったり、お母さん狐が店主をしている茶っ葉屋さんで看板子狐をしたりして、世界と人間をお勉強しています。

今日は友達で和菓子屋さんの化け子狸のために、ペット用和菓子の試作品のお手伝い。
『人の和菓子だけでなく、犬用猫用、狐用狸用も、和菓子屋の技術で製作してみてはどうだろう』
ひょんなことから閃いたポンポコ子狸、アイデアを店主のお父さん狸に言ってみたのです。
『面白い。ひとつやってみなさい』
何事もまずやらせてみる方針のお父さん狸。ポンポコ子狸の挑戦の背中をポンと押しました。

人間も食べられる鶏肉、人間も食べられるカボチャ、ニンジンにメバチマグロにお芋さん。
熱を通してよくよく潰して、裏ごしして、かわいい練り切りに整えて、まず試作第1号の完成。
ポンポコ子狸、試食を友達であるところの子狐に、まずひとくち、お願いしたのですが。

子狐が試食のセカンドオピニオンとして、自分のとこのお得意様たる人間も1人呼んじゃいまして。

「おいしい、おいしい!」
がつがつがつ、ちゃむちゃむちゃむ!
コンコン子狐、試作品を怒涛の勢いで堪能。
マグロのフィッシュ練り切りより鶏肉のチキン練り切りがお気に召した様子です。
「もっと甘く、舌触りなめらかに……!」
がつがつがつ、ちゃむちゃむちゃむ!
子狸の試作品に、更なる改善を提案しました。

「素材の食感が残るくらいも面白い、とは思う」
対する子狐のお得意様、藤森という名前の人間は練り切りをお吸い物に浮かべ、つみれ汁の様相。
塩不使用ゆえに人間にとって完全薄味なそれですが、汁物の具には最適です。
「肉の量と糖分のバランスも丁度良い。個人的には、このままでも優しい甘さで美味いよ」
子狸の試作品に、現状維持を提案しました。

で、困ったのが子狸なのです。
もっと甘いのが良い――いやバランスが丁度良い。
もっとなめらかに――いやこのままが面白い。
1匹と1人の提案が、向かい合わせになってしまって、ぜんぜん同じ方向を向いてくれません。
子狐の左と人間の右、試作品製作者の子狸は、いったいどっちを向けば良いのでしょう?

「わぁ。どうしよう……」
向かい合わせ、向かい合わせ。
試食の感想が左と右で正反対。
ポンポコ子狸、感想をメモする手が完全に止まります。思考も迷子でごっちゃです。
「感想が多い、いや、感想が少ない……?」
向かい合わせ、向かい合わせ。
和菓子屋の子狸は試作のペット用和菓子と自分のメモ帳を見比べて、見返して、十数秒後、
ポン。頭がフリーズしちゃってコロリン。ひっくり返りましたとさ。 おしまい、おしまい。

8/25/2024, 4:27:59 AM

「やるせない、遣る瀬無い。去年は『自分の名字のルーツになっている花が、一部の無思慮のせいで悪役認定されてる人の気持ち』みたいなネタ書いた」
去年も難産だったお題だわな。某所在住物書きは今年も相変わらず、この難題にため息を吐いた。

言葉の意味を辿れば、「渡れる(川や海等の)浅瀬が無い」が文字通りの意味と思われる今回のお題。
転じてどうしようも無いこと、思いを晴らす術が無いこと、気持ちに余裕が無いことを言うようだ。
「転売ヤーへの恨みでも書くか? やだよ俺、日曜の真っ昼間からそんなモンと向き合いたかねぇよ」
ある意味、今のこのどうしようも無い状況こそ、「やるせない気持ち」とも言えるか。
再度ため息――で、今回の物語のネタは?

――――――

最近最近のおはなし。都内某所での一幕。
静かな小さい書店で、ひとりの雪国出身者が、近所の稲荷神社の子供とその友達の手を引き、スイーツ本の棚を目指している。雪の人は名前を藤森といった。

「昨日たべたお菓子、おいしかったの」
コンコン。稲荷神社の子が言う。
「作ってあげたいけど、おとなの本は、難しい漢字ばっかりだから分からないよ」
ポンポコ。神社の子の友達が(彼は和菓子屋の子であった。ともかくその子が)言う。
間に挟まれている藤森はつまり彼等の翻訳家。
目当ての菓子のレシピが書かれた本を探し、それを購入して、材料と分量と作り方を子供にも分かるよう解読するために呼ばれた。
自室に難しい本を収蔵する藤森は、神社の子と和菓子屋の子に「本に詳しい人」と認識されていたのだ。

私にも用事があったのだが。藤森は胸中で抗議。
誠実でお人好しで根が優しい藤森は、ご近所さんのコンコンポンポコからの要請を断れなかった。
仕方がない。どうしようもない。
「やるせない気持ち」とはこのことかもしれない。

とてとてとて、とてとてとて。
おてて繋いで料理本コーナーに到着した御一行。
「よぉし!さがせー!」
「新しいお菓子だ。やさしい甘さだけどお肉の味もするってことは、きっと伝統菓子じゃないよ」
子供たちは、片や宝物を探すように、片や手がかりを探すように、それぞれ棚から本を引っこ抜く。

藤森は書店の奥、医療や脳科学等々のコーナーに己の友人を見つけた――菓子作りが趣味の付烏月だ。
『同じ書店に居る。ちょっと助けてくれないか』
スマホでメッセージを送ると、数秒してきょろきょろ周囲を見渡した付烏月と目が合った。
『肉の味がして砂糖不使用、子狐でも食べられる甘い菓子を探している。付烏月さん、心当たりは?』

ここでネタばらし。非現実的で非科学的だが、稲荷神社の子と和菓子屋の子は化け子狐と化け子狸。
人に化ける妙技を持つ一族の末裔なのだ。
神社の子狐は「昨日」、メタいハナシをすると前回投稿分で、それはそれは美味な「菓子」を堪能した。
和菓子の見た目をしたそれの素晴らしさを子狸に共有したところ、「作ってやりたいが肉入り和菓子を知らぬ」、「自分の知らない創作和菓子に違いない」と力説。真相を突き止めるべく、藤森を呼び出した。

『子狐でも食べられて、甘くて、お肉?』
床に座ってお菓子の本を見るコンコンとポンポコを尻目に、藤森のスマホに返信が届く。
これが美味そう、それが美しいと、目を輝かせている子供2名は幸福の真っ只中だ。
『ペット用のお菓子じゃない?』
それならお前の居るそこじゃなくて、隣の棚だよ。
付烏月は藤森を見ながら、つんつんつん。
右隣へ移動するように、人差し指で示した。

藤森は情報の礼に頭を下げ、小さく右手を振る。
そりゃペット用スイーツなら肉を使うだろうなと。

「お肉をお菓子に使うなんて、おもしろい」
「おいしかった。すごく、すごくおいしかった」
「それの作り方をおぼえれば、僕も、いいシュギョーになる。ぜったい見つけたい」
「しさくひん、たべる!作るときは呼んでっ」

コンコンコン、ぽんぽこぽん。
藤森と付烏月のやり取りも知らず、稲荷神社の子供と和菓子屋の子供は「肉を使った和菓子っぽいスイーツ」を探すべく、大きな本のページをめくる。
(事実を教えてやるべきだろうか)
彼等の感動を壊さず情報を伝える手段が無い、方法を知らない、どうしようもない。
かりかりかり。やるせない気持ちの遣り場に困った藤森は、唇をキュっと結んで、首筋を掻いた。

結果として30分ほど粘ったものの、案の定、神社の子と和菓子屋の子は、目当てのレシピが掲載された文献を見つけられなかった。
藤森はこっそり「それっぽい書籍」を購入したが、彼等に公開すべきか否か、数時間悩み続けたとさ。

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