かたいなか

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8/23/2024, 6:02:01 AM

「俺の投稿スタイルなら簡単なお題だと思ったんよ」
それがまさか、15時近辺までかかるとはな。某所在住物書きはため息をつき、スマホを見つめた。
「俺は前半の『ここ』で300字程度の無難な話題入れて、『――――――』の下に連載風の小話書いてるからさ。これを単純に裏返しにすりゃ良いと。
つまり前半でバチクソ短い小話書いて、後半で長々『ここ』で書いてる話を約1200字程度」

試した結果が酷くてさ。 物書きは再度息を吐く。
「300字程度の小話は普通に読めるが、後半で長々校長のスピーチレベルのハナシされるとか」
な。分かるだろ。 三度目のため息。
裏返し、裏返し。ところで古典に目を向けると、「うらみ葛の葉」という文章がある。
葉がひらり「裏見せる」葛の葉と、自分を「恨まないで」ほしい気持ちを重ねた言葉らしい。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主は名前を藤森といい、雪国の出身。
穏やかなため息ひとつ吐き、油を使った料理をしている。すなわち天ぷらである。
実家から田舎規模の量で送られてきたトウモロコシをメインに、季節の食材を静かに揚げている。

クリーム色の衣にくぐらせ、薄琥珀色の油の中へ。
くるり、裏返し。そして油を切る。
客人からは葛の葉も食べてみたいと、珍しく面白いリクエストもチラリ。食材は客自身が持参した。
『ならば葛の豆も素揚げしようか』とは藤森の提案。実は食えるし美味らしいと、風の噂で聞いたのだ。

裏返し、裏返し。 油の中は葛の葉と豆とトウモロコシと、ともかく美味でいっぱい。
1匹小魚が片栗粉と泡をまとって油中遊泳している。あまり気にしてはいけない。

「先輩ってさ、」
客であるところの職場の後輩が、リビングから藤森に声を投げてきた。
「ご近所さんの稲荷神社と、どういう関係?」
自律神経等々の理不尽でどうにもならぬ不調により、体がバチクソにダルいと言っていた後輩。
彼女を藤森が夕食に連れてきたのだ――近所の稲荷神社から頼まれた子狐の散歩の途中で。

稲荷の狐に不思議な力でもあったのか、藤森の部屋で子狐をモッフモフのコンコンこやこやしていた後輩は、たちどころに不調が回復。
細かいことは気にしてはいけない。

「私と稲荷神社との関係?」
「よくコンちゃんのお世話とお散歩頼まれてる」
「そうだな」
「あと神社の奥さんが店主してるお茶っ葉屋さんの、お得意様専用食事スペース使える」
「一応常連だからな」

「ナンデ?」
「何故と言われても」

裏返し、裏返し。 油をよく切られた天ぷらと素揚げが、最後のひと切りを経て皿に盛り付けられる。
「で、小魚の素揚げは、どうするか決まったのか」
リビングのテーブルには、既に塩とマヨネーズとポン酢と麺つゆ、すなわち味変可能な調味料の数々。
後輩がサクリ、真っ先に小魚の素揚げを箸でつまみ上げると、子狐コンコン尻尾を振り叩き、けたたましく抗議。明らかに所有権を吠え訴えている。
後輩は小魚つまむ箸を掲げて言った。
「コンちゃん、小魚食べないってさ」

「魚1匹くらい、子狐にくれてやったらどうだ」
「大丈夫だもん。コンちゃん要らないらしいもん」
「狐の恨みは深いぞ。特に執着の恨みは」
「そーなんだ頂きます」

「とり天食うか」
「とり天食べる。とり天待ちます」

ぎゃん!ぎゃぎゃん!
後輩が天ぷらの話題に気を取られているスキに、子狐は後輩の箸から器用に小魚をパクリ。
できたての温かさに苦戦しながら、しかし幸福そうに、素揚げに牙を突き立て噛んでいる。
「あ。コンちゃん私の素揚げ食べた」
「だから。魚1匹くらい食わせてやれ」
そーだそーだ!
賛同するように尻尾を振って美味を腹に収め終えると、子狐後輩を見つめ、コンコン歌い出した。

『食べ物の、うらみ葛の葉ホトケノザ、仏は三、
狐の顔は一度一生、狐ノ顔ハ一度一生。』

葛の葉の天ぷらを甘噛みして、裏返し、裏返し。
後輩に子狐の「言葉」は届かない。
藤森だけは去年の「9月11日」ゆえに、子狐の主張と挙動の意味を理解していたが、
過去投稿分の細かいことは、気にしてはいけない。

8/22/2024, 3:44:38 AM

「基本、生き物系のお題、少ない気がする」
猫だの犬だの兎だの、これまで1年と5ヶ月このアプリに潜って、お題で見た記憶無いもんな。
某所在住物書きは今回配信分の題目の、ちょっとした珍しさに数度小さく頷いた。
鳥かごは出題された記憶があった。先月である。
蝶はモンシロチョウと「蝶よ花よ」の2例。
「そうだ。このアプリ、動物より植物が多いんだ」
そちらは桜にススキに勿忘草と少し豊富。

「ペンギンを空飛ぶ鳥のように見せる水槽、
鳥のように海に飛び出す毎年恒例鳥人間大会、
『スズメ』バチと言うが別に鳥のようには見えぬ、
焼き鳥のように、蒸し鶏のように、以下略。
……意外と余った冷やし中華のタレで半額鶏肉とか炒めるの酸味がきいて個人的に美味い」
いつの間にか食い物の話題になっている。
物書きは時計を確認した。 昼である。

――――――

今日も相変わらず東京は残暑が酷い。
「晩夏」っていつだっけ、どんな気温の頃のことだっけって、思う程度には暑さがバグってる。
大雨、道路冠水、駅の浸水に台風10号。雨降って冷涼ってワケもなく、ただジメジメで暑い。
ウチの支店長は独断で支店に小型冷凍庫を増設した。外回りから帰ってきた従業員がアイスですぐ体を冷やせるように。それから熱中症間近の通行人がウチをクーラースポットとして利用できるように。

そんな今日の、私の職場の昼休憩少し前は本店から、ひとり外回りの寄り道で休みに来た。
宇曽野主任だ。私と長い長い仕事の付き合いであるところの藤森先輩の、親友さんだ。
余ってる従業員用デスクに座るなり、まるで真夏の路上で暑さに弱ってる小鳥のように、グデっと。
吐いたため息は結構重くて深そうだった。

「中途採用の、若いのが居たんだがな」
ぐでぐで小鳥のような宇曽野先輩が言った。
朝職場に来たら、主任の隣の隣の部署が、朝から少しだけ慌ただしくて、
係長も課長補佐も、数人が課長の席に集まってて、他の人はスマホで連絡取ったりしてたと。
「無断欠勤のうえ、電話もグループチャットも、全部連絡つかずの既読無視、だとさ」

ははぁ。「脱走」ですな。
職場の鳥かごから勝手に扉開けて出てったと。

「始業時刻丁度にダイレクトメッセージで、『辞めます』の4文字だけ、送ってきたそうだ」
パリパリアイスを受け取って、またため息。
「俺も手伝ってそいつの捜索中なんだが、部署内は『例の突然解雇された青鳥のようだ』と騒動さ」

突然辞めるのはどうかと思うけど、そうしたくなった理由は、宇曽野主任も把握してたらしい。
中途採用君は最近、書類をファイルから抜いて整理する仕事を任されてたんだけど、
中途採用君の上司が「この書類は抜かないで」って、伝えるべき「例外」を伝えなかったせいで、
抜いちゃいけない書類まで抜いちゃったと。

情報伝達の不備。それによる仕事のミス。なのに責任は全部自分が被るっていう理不尽。
私にも経験があった。去年の3月18日頃だ。
似た状況で、現在は左遷制裁済のオツボネ上司から責任を押し付けられて、心をちょっと病んだ。
私には藤森先輩がいて、先輩が私の話を聞いて寄り添ってくれたから、乗り越えられた。
中途採用君には誰も居なかったのかもしれない。

「鳥なら鳥として、鳥のように、今頃自由に次の就職先でも探してるんじゃないか?」
運が悪かった、場所が良くなかった。それだけさ。
宇曽野主任はそう付け足して、アイスをぱくり。
「次の鳥かごではルールとモラルをもって、飛ぶなり騒ぐなり、再度脱走するなりしてほしいもんだ」

まぁ、そうだよね。
場所が悪かったら、鳥もうまく、飛べないもんね。
私は本店の騒動の酷さをちょっと想像してから、
今頃どこで何してるとも知れない中途採用君が、なるべく早く職場に帰ってきて謝罪の一言くらい……
いや、逃げるなら逃げるで、早めに退職代行の誰かと連絡とった方が、互いのためかなぁ……。

8/21/2024, 3:51:27 AM

「似たお題は、5月23日の『また明日』、それから5月19日の『突然の別れ』が該当するのかな」
前者は去年、「昨日へのさよなら、明日との出会い」
ってお題だったけど、後者は何書いたっけな。
某所在住物書きは遠い遠い過去作を辿り、スワイプに疲れてため息を吐いた。

「過去作辿るの本当にダルいから、個人サイトに一括でまとめてやろうかと思った矢先に『8月下旬で森頁サ終します!』。もう来週のハナシだろ」
まとめ作っても、そのまとめのプラットフォームがサ終しちまったら、もう元も子も、ねぇ。
物書きは再度ため息を吐き、ぽつり。
「さよならを言われる前に、個人サイトの方、バックアップ保存しねぇとな……」
結局保管にはオフラインが最適なのかもしれない。

――――――

さよならを言う前に「帰りの会」、
さよならを言う前に「貴方をフる理由の陳述」、
さよならを言う前に「必要な物は何でしょう」。
個人的には、想像力と構成力と執筆力が加齢でサヨナラを言う前に、その手のスキルのバックアップとか新規摂取とかがガチで欲しい物書きです。
苦しまぎれに、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。深めの森の中に不思議な不思議な稲荷神社がありまして、敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしております。
そこに住まう末っ子の子狐が現在絶賛爆食中。
雪国出身で近所に住まう参拝客さんが、実家から田舎クォンティティーで届いた甘い甘いトウモロコシを、いっぱいおすそ分けしてくれたのです。

「おいしい、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃむしゃ!
コンコン子狐、母狐が茹でてくれたゆでもろこしを、両前あんよで器用に掴み怒涛の勢いで牙を突き立て実を剥がして、ハゲもろこしにしていきます。
肉食寄りの雑食性な狐は意外と野菜も大好き。熟したトウモロコシの甘さをよく知っています。
それは稲荷の狐たちにも当てはまり、人間が丁寧に育てた作物、人間が心を込めて捧げた供物を、稲荷の狐はコンコン、よく好むのです。

「ゆでもろこし、甘い、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃむしゃ!
母狐が適切な量の塩と一緒に茹でてくれたトウモロコシを、子狐コンコン、尻尾をバチクソに振り倒し、次々とハゲもろこしにしてゆきました。

今年は去年に似て、高温障害の影響が出ている。
雪国出身の参拝者さん、段ボールに詰めたおすそ分けを持ってきたとき、美女に化けた母狐に言いました。
例年ならばそろそろ1日の寒暖差が開いてきて、日中はそこそこ暑く、夜はしっかり涼しくなる頃。
それが今年は夜も例年より暖かく、トウモロコシが甘さを貯め込むよりグングン大きくなる方に舵を切っちゃうとのこと。
8月最終週から9月初週には、もう少し甘くて美味いトウモロコシをおすそ分けできるかもしれない。
雪国出身の参拝者さん、母狐からお礼の無病息災と運気向上のお札を受け取りながら言いました。

へー、そうなんだ。
コンコン子狐、知ったこっちゃありません。
ゆでもろこしが、美味いのです。
茹でたホクホクの甘味、ちょっといじらしい実の皮、それらに牙を突き立てる前に鼻先で香る微量の塩と凝縮されたトウモロコシ。
美味いのです。 おお、夏の結晶よ、甘き至福よ。
汝、天ぷらや焼き肉のタレ焼きも美味とは事実か。

「ゆでもろこし、最後のひとくちだ」
そんなこんなしているうちに、コンコン子狐はゆでもろこしの、最後の1本をそろそろ食べ終える頃。
幸せな時間はすぐ過ぎます。こと食べ物に至っては、おなかに美味を収めてしまえば終了です。
スーパーむしゃむしゃむしゃタイムはこれで終わり。そろそろ綺麗に食べ尽くされたもろこしと、さよならしなければなりません。

とはいえ参拝者さんが持ってきてくれたトウモロコシ、実はまだまだ十数本残っているのです。
食べても食べても余裕がある。これぞ田舎規模。田舎クォンティティーなのです。

「甘かったなぁ、おいしかったなぁ」
目の前の最後のひとくちに「さよなら」を言う前に、コンコン子狐、念入りに香りを嗅いで、丹念に舌でペロペロして、トウモロコシを堪能します。
「次は、焼きもろこしも食べたいなぁ」
気が済んだら、はい、今度こそさようなら。
稲荷の不思議な子狐は、コンコン5本のゆでもろこしをたった1匹で綺麗に完食。
ポンポンおなかを黄色い幸福で満たしましたとさ。

8/20/2024, 3:53:17 AM

「『星空の下で』、『遠くの空へ』、『あいまいな空』、『星空』、『空を見上げて心に浮かんだこと』、それから今日の『空模様』……」
そろそろ『空』のネタが枯渇しそうですが、まだ空のお題来そうですか、そうですか。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら苦悩した。過去のお題で扱った以外の「空」とは?

書きやすいといえば書きやすいと言える。
どんよりした空模様は心模様の暗喩にもなり得る。
急変すれば、場面を始めるにも変えるにも役立つ。
夏の夜の空模様をパッケージに印刷した飴は?いつから人気であっただろうか?

「『くもり空の夜のテラス席』、『遠い空=遠い場所』、『晴れ雨あいまいな空を背景に日常ネタ』、『星空に見立てた、白い雨粒と青い池』、『空模様から連想する夏の食い物』……他には?」
で、何を書く?どう組み立てる?物書きはため息を吐いた――そして明日のお題も多分難しいのだ。

――――――

久しぶりに、私のアパート近くのコンビニで、長い長い仕事上の付き合いの先輩を見かけた。
狭い都内の、同じ区内に住んでるのに、会わない日・会わない週は本当に会わない。
私が本店で仕事してたときは毎日会って、同じ部署で理不尽もパワハラもカスハラも、先輩に対する粘着質な恋愛トラブルも乗り越えてきたのに、
私が諸事情で今年の3月、支店に異動になってからは、とんと遭遇率が減った。

真面目で誠実で娯楽や流行にバチクソうとい先輩。
コンビニの飴ちゃん・グミちゃんコーナーを注意深く見て、視線が一点に止まって、途端、先輩の空模様が平坦な曇り気味の晴れからレアな晴天に変わる。
小さな小さな小袋サイズの飴ちゃんを2袋3袋、ちゃっちゃと取って、セルフレジに並んだ。

先輩 あなたが会計した3袋って
某夜の空模様キャンディーじゃありませんか。
パッケージに夏の夜空が数種類描かれて
ソーダ柚子味のエモバズ大人気なヤツですよね。
てっきり流行興味ナシと思ってたけど
実は南西から徐々に北東に移動してく天気みたいに
時間差で影響出てくるタイプですか、
どうですか。 どうなんですか。

「糖質が3g程度で、比較的少ないんだ」
ほくほく晴れ空の空模様でコンビニから出た先輩を緊急観測、もとい突撃取材したところ、
流行もエモいパッケージも、ナンダソレハ。
完全にいつもの先輩らしく、実用の見地から空模様キャンディーを買ったらしい。

「塩分も微量に入っているから、気休め程度ながら、少量の糖分と塩分が同時に摂れる」
先輩は言った。
「先月食ってみて美味かったから、金平糖以外の選択肢として少しストックしておこうと思ったんだが、なかなか見つけられない。期間限定だろうか」
寂しい話さ。 先輩は本当にエモも映えも興味無いらしく、淡々と平坦に、安定してる春の空みたいに、某空模様キャンディー購入の理由を話した。

「季節限定?」
「パッケージに、夏の空模様がランダムで描かれている。だから夏の限定商品なのだろうかと」
「そろそろ夏終わるから?」
「そう。そろそろ夏が終わる。だからこの飴も、もうシーズン外で売っていないのだろうかと」

「私ホントの理由知ってるよ」
「えっ?」
「あと、割高だけど密林ストアで売ってるよ」
「なんだって?」

天気急変。平坦な晴天から素っ頓狂の天気雨。
エモエモキャンディーをエモではなく実用的な理由から買ってた先輩が、目をパチクリ。
「パッケージ、キレイでしょ?」
私は先輩に、先輩が欲してる飴ちゃんが、呟きックスでどういうふうにポスられてるかを見せた。

「夏の夜の空模様。美味しい。パケ買い多数」
タップ、スワイプ。 スマホの画面を呟きックスから例のネットスーパーへ。
「そのパケ買いしてる人が多い中で、先輩、コンビニの購入レースに参加してたワケ」
ほら、在庫、ちょこっと有るよ。
3袋のまとめ買いタイプを先輩に見せると、
素っ頓狂継続中な空模様の先輩は、数秒そのまま素っ頓狂で私のスマホを見続けて、ひとことポツリ。
「有るな」

そういう背景だったのか。
先輩は最近のマイトレンドになってたらしい飴の小袋を、まじまじと見て、小さなマイバッグに戻す。
複数のコンビニを巡っても商品が見つからない理由が判明して、先輩の空模様は素っ頓狂の天気雨から、通常平坦・一定の曇り気味な晴れまで回復。
「買う?」
私が先輩に聞くと、先輩はちょっと私を見て、視線外して、唇かるく結んで、
「……んん」
どっちともとれる声を、小さく漏らした。

8/19/2024, 4:37:33 AM

「水鏡、鏡文字、鏡餅、鏡面反射、魔境現象、合わせ鏡に内視鏡に心理学としてのミラーリング効果、脳科学のミラーニューロン。三種の神器に『白雪姫』に『鏡の大迷宮』。鏡花水月は四字熟語よな」
8月、難題お題の方が簡単お題より多い説。
某所在住物書きは鏡という鏡を検索で探し回り、己の引き出しの無さを再認識して早々に力尽きた。
単語は複数出せる。そこから先が酷く少ないのだ。

「『田んぼの水路とかため池とか、風の無い日には空だの風景だのがよくリフレクションして、エモい写真撮れる』ってネタは知ってるが、知ってるが……」
前々回で、そういう田舎の帰省シリーズ、使っちまってるもんな。物書きはため息を吐く。夜の湖に鏡面反射する月以外のネタはどこにあるだろう。

――――――

ようやく東京も、37℃だの38℃だの酷い最高気温をあまり見なくなってきた。
なんなら木曜日に、最高気温30℃未満が表示されてる。「最低」じゃない。「最高」だ。
常時真夏日に慣れきった体だから、木曜には「寒い」なんて言葉が出てくるかもしれない。
もうすぐ東京の夏の終わりが来る。 多分。

なお私が3月一緒に仕事してる同僚の付烏月さん、ツウキさんによると
『人間、実はバチクソ酷く暑い日はそうでもないけど、適度に暑い日は犯罪が増える説』らしい。

それが事実かどうか分かんないけど、
今日は、いっつも過疎って常連さんくらいしか来ない私達の支点に、数ヶ月ぶりに変なお客さんが来た。
暴言吐くおっちゃんだ。
言葉のブーメラン投げるおっちゃんだ。
理解不能で意味の通らない主張を続けて怒鳴り散らしてウチの新卒ちゃんを酷く怖がらせて、
最終的に、支店長が満面のビジネススマイルで警察に通報して、おまわりさんにご送迎頂いた。

「言葉は鏡だ」
めっちゃ怖がって震えてる新卒ちゃんのメンタルケアをしながら、支店長が言った。
「覚えておきたまえ。相手の話す言葉と抑揚を知れば、相手がどのような人間かよく分かる。
言葉は君の性質を正確に映し出す鏡なのだよ」
新卒ちゃんは真面目だから、言われた助言をちゃんとメモに残す――で、納得したらしく数度頷いた。

鏡ね(ところで:支店長のあだ名が教授)
……鏡ねぇ(ところで:ブーメラン客の鏡とは)

「さっきのおっちゃんは、『言葉が自分の鏡』ってだけのハナシじゃなさそうだけどねぇ」
「どゆこと付烏月さん」
「『言葉は鏡』は、俺もバチクソ同意なの。賛同なの。でも人間、加齢とともに頭のブレーキがだんだん緩くなってきちゃうんだなぁ」
「で?」
「しゃーない部分はあるの。我慢しづらくなっちゃうのも、多少は脳の発達過程なの」

「それでもキレて吐いた言葉は『その人』でしょ」
「ごもっともです」

言葉が鏡で加齢でブレーキで、難しいなぁ。
私と付烏月さんのハナシからも学びを得ようとしてる新卒ちゃんは、なにやらこっちを見ながら、だけどメモに触れてるペンが止まってる。
何か書きたいけど、どう書きたいか分からない、そんな悩みの顔をしてた。

「ちなみにそれ言ったら、言葉を鏡とすると顔とか仕草とかも鏡でコミュニケーションツール」
困ってる新卒ちゃんにイタズラな笑顔をして、付烏月さんが言った――ホントに良い笑顔だ。
「言葉で言ってることと心で考えてることが違う人の顔よく観察してみなよ。多分左右非対称だよ」

ヒヒヒ。自慢気に笑う付烏月はバチクソ楽しそう。
「言葉は鏡」。たしかに鏡だと思った。
付烏月さんってそーいうところがあると思う。
「どしたの後輩ちゃん」
「なんでもないです」
「なんか俺のこと考えてそう」
「なんでもないでぇ〜す」

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