かたいなか

Open App

「似たお題は、5月23日の『また明日』、それから5月19日の『突然の別れ』が該当するのかな」
前者は去年、「昨日へのさよなら、明日との出会い」
ってお題だったけど、後者は何書いたっけな。
某所在住物書きは遠い遠い過去作を辿り、スワイプに疲れてため息を吐いた。

「過去作辿るの本当にダルいから、個人サイトに一括でまとめてやろうかと思った矢先に『8月下旬で森頁サ終します!』。もう来週のハナシだろ」
まとめ作っても、そのまとめのプラットフォームがサ終しちまったら、もう元も子も、ねぇ。
物書きは再度ため息を吐き、ぽつり。
「さよならを言われる前に、個人サイトの方、バックアップ保存しねぇとな……」
結局保管にはオフラインが最適なのかもしれない。

――――――

さよならを言う前に「帰りの会」、
さよならを言う前に「貴方をフる理由の陳述」、
さよならを言う前に「必要な物は何でしょう」。
個人的には、想像力と構成力と執筆力が加齢でサヨナラを言う前に、その手のスキルのバックアップとか新規摂取とかがガチで欲しい物書きです。
苦しまぎれに、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。深めの森の中に不思議な不思議な稲荷神社がありまして、敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしております。
そこに住まう末っ子の子狐が現在絶賛爆食中。
雪国出身で近所に住まう参拝客さんが、実家から田舎クォンティティーで届いた甘い甘いトウモロコシを、いっぱいおすそ分けしてくれたのです。

「おいしい、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃむしゃ!
コンコン子狐、母狐が茹でてくれたゆでもろこしを、両前あんよで器用に掴み怒涛の勢いで牙を突き立て実を剥がして、ハゲもろこしにしていきます。
肉食寄りの雑食性な狐は意外と野菜も大好き。熟したトウモロコシの甘さをよく知っています。
それは稲荷の狐たちにも当てはまり、人間が丁寧に育てた作物、人間が心を込めて捧げた供物を、稲荷の狐はコンコン、よく好むのです。

「ゆでもろこし、甘い、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃむしゃ!
母狐が適切な量の塩と一緒に茹でてくれたトウモロコシを、子狐コンコン、尻尾をバチクソに振り倒し、次々とハゲもろこしにしてゆきました。

今年は去年に似て、高温障害の影響が出ている。
雪国出身の参拝者さん、段ボールに詰めたおすそ分けを持ってきたとき、美女に化けた母狐に言いました。
例年ならばそろそろ1日の寒暖差が開いてきて、日中はそこそこ暑く、夜はしっかり涼しくなる頃。
それが今年は夜も例年より暖かく、トウモロコシが甘さを貯め込むよりグングン大きくなる方に舵を切っちゃうとのこと。
8月最終週から9月初週には、もう少し甘くて美味いトウモロコシをおすそ分けできるかもしれない。
雪国出身の参拝者さん、母狐からお礼の無病息災と運気向上のお札を受け取りながら言いました。

へー、そうなんだ。
コンコン子狐、知ったこっちゃありません。
ゆでもろこしが、美味いのです。
茹でたホクホクの甘味、ちょっといじらしい実の皮、それらに牙を突き立てる前に鼻先で香る微量の塩と凝縮されたトウモロコシ。
美味いのです。 おお、夏の結晶よ、甘き至福よ。
汝、天ぷらや焼き肉のタレ焼きも美味とは事実か。

「ゆでもろこし、最後のひとくちだ」
そんなこんなしているうちに、コンコン子狐はゆでもろこしの、最後の1本をそろそろ食べ終える頃。
幸せな時間はすぐ過ぎます。こと食べ物に至っては、おなかに美味を収めてしまえば終了です。
スーパーむしゃむしゃむしゃタイムはこれで終わり。そろそろ綺麗に食べ尽くされたもろこしと、さよならしなければなりません。

とはいえ参拝者さんが持ってきてくれたトウモロコシ、実はまだまだ十数本残っているのです。
食べても食べても余裕がある。これぞ田舎規模。田舎クォンティティーなのです。

「甘かったなぁ、おいしかったなぁ」
目の前の最後のひとくちに「さよなら」を言う前に、コンコン子狐、念入りに香りを嗅いで、丹念に舌でペロペロして、トウモロコシを堪能します。
「次は、焼きもろこしも食べたいなぁ」
気が済んだら、はい、今度こそさようなら。
稲荷の不思議な子狐は、コンコン5本のゆでもろこしをたった1匹で綺麗に完食。
ポンポンおなかを黄色い幸福で満たしましたとさ。

8/21/2024, 3:51:27 AM