かたいなか

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「『星空の下で』、『遠くの空へ』、『あいまいな空』、『星空』、『空を見上げて心に浮かんだこと』、それから今日の『空模様』……」
そろそろ『空』のネタが枯渇しそうですが、まだ空のお題来そうですか、そうですか。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら苦悩した。過去のお題で扱った以外の「空」とは?

書きやすいといえば書きやすいと言える。
どんよりした空模様は心模様の暗喩にもなり得る。
急変すれば、場面を始めるにも変えるにも役立つ。
夏の夜の空模様をパッケージに印刷した飴は?いつから人気であっただろうか?

「『くもり空の夜のテラス席』、『遠い空=遠い場所』、『晴れ雨あいまいな空を背景に日常ネタ』、『星空に見立てた、白い雨粒と青い池』、『空模様から連想する夏の食い物』……他には?」
で、何を書く?どう組み立てる?物書きはため息を吐いた――そして明日のお題も多分難しいのだ。

――――――

久しぶりに、私のアパート近くのコンビニで、長い長い仕事上の付き合いの先輩を見かけた。
狭い都内の、同じ区内に住んでるのに、会わない日・会わない週は本当に会わない。
私が本店で仕事してたときは毎日会って、同じ部署で理不尽もパワハラもカスハラも、先輩に対する粘着質な恋愛トラブルも乗り越えてきたのに、
私が諸事情で今年の3月、支店に異動になってからは、とんと遭遇率が減った。

真面目で誠実で娯楽や流行にバチクソうとい先輩。
コンビニの飴ちゃん・グミちゃんコーナーを注意深く見て、視線が一点に止まって、途端、先輩の空模様が平坦な曇り気味の晴れからレアな晴天に変わる。
小さな小さな小袋サイズの飴ちゃんを2袋3袋、ちゃっちゃと取って、セルフレジに並んだ。

先輩 あなたが会計した3袋って
某夜の空模様キャンディーじゃありませんか。
パッケージに夏の夜空が数種類描かれて
ソーダ柚子味のエモバズ大人気なヤツですよね。
てっきり流行興味ナシと思ってたけど
実は南西から徐々に北東に移動してく天気みたいに
時間差で影響出てくるタイプですか、
どうですか。 どうなんですか。

「糖質が3g程度で、比較的少ないんだ」
ほくほく晴れ空の空模様でコンビニから出た先輩を緊急観測、もとい突撃取材したところ、
流行もエモいパッケージも、ナンダソレハ。
完全にいつもの先輩らしく、実用の見地から空模様キャンディーを買ったらしい。

「塩分も微量に入っているから、気休め程度ながら、少量の糖分と塩分が同時に摂れる」
先輩は言った。
「先月食ってみて美味かったから、金平糖以外の選択肢として少しストックしておこうと思ったんだが、なかなか見つけられない。期間限定だろうか」
寂しい話さ。 先輩は本当にエモも映えも興味無いらしく、淡々と平坦に、安定してる春の空みたいに、某空模様キャンディー購入の理由を話した。

「季節限定?」
「パッケージに、夏の空模様がランダムで描かれている。だから夏の限定商品なのだろうかと」
「そろそろ夏終わるから?」
「そう。そろそろ夏が終わる。だからこの飴も、もうシーズン外で売っていないのだろうかと」

「私ホントの理由知ってるよ」
「えっ?」
「あと、割高だけど密林ストアで売ってるよ」
「なんだって?」

天気急変。平坦な晴天から素っ頓狂の天気雨。
エモエモキャンディーをエモではなく実用的な理由から買ってた先輩が、目をパチクリ。
「パッケージ、キレイでしょ?」
私は先輩に、先輩が欲してる飴ちゃんが、呟きックスでどういうふうにポスられてるかを見せた。

「夏の夜の空模様。美味しい。パケ買い多数」
タップ、スワイプ。 スマホの画面を呟きックスから例のネットスーパーへ。
「そのパケ買いしてる人が多い中で、先輩、コンビニの購入レースに参加してたワケ」
ほら、在庫、ちょこっと有るよ。
3袋のまとめ買いタイプを先輩に見せると、
素っ頓狂継続中な空模様の先輩は、数秒そのまま素っ頓狂で私のスマホを見続けて、ひとことポツリ。
「有るな」

そういう背景だったのか。
先輩は最近のマイトレンドになってたらしい飴の小袋を、まじまじと見て、小さなマイバッグに戻す。
複数のコンビニを巡っても商品が見つからない理由が判明して、先輩の空模様は素っ頓狂の天気雨から、通常平坦・一定の曇り気味な晴れまで回復。
「買う?」
私が先輩に聞くと、先輩はちょっと私を見て、視線外して、唇かるく結んで、
「……んん」
どっちともとれる声を、小さく漏らした。

8/20/2024, 3:53:17 AM