かたいなか

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「基本、生き物系のお題、少ない気がする」
猫だの犬だの兎だの、これまで1年と5ヶ月このアプリに潜って、お題で見た記憶無いもんな。
某所在住物書きは今回配信分の題目の、ちょっとした珍しさに数度小さく頷いた。
鳥かごは出題された記憶があった。先月である。
蝶はモンシロチョウと「蝶よ花よ」の2例。
「そうだ。このアプリ、動物より植物が多いんだ」
そちらは桜にススキに勿忘草と少し豊富。

「ペンギンを空飛ぶ鳥のように見せる水槽、
鳥のように海に飛び出す毎年恒例鳥人間大会、
『スズメ』バチと言うが別に鳥のようには見えぬ、
焼き鳥のように、蒸し鶏のように、以下略。
……意外と余った冷やし中華のタレで半額鶏肉とか炒めるの酸味がきいて個人的に美味い」
いつの間にか食い物の話題になっている。
物書きは時計を確認した。 昼である。

――――――

今日も相変わらず東京は残暑が酷い。
「晩夏」っていつだっけ、どんな気温の頃のことだっけって、思う程度には暑さがバグってる。
大雨、道路冠水、駅の浸水に台風10号。雨降って冷涼ってワケもなく、ただジメジメで暑い。
ウチの支店長は独断で支店に小型冷凍庫を増設した。外回りから帰ってきた従業員がアイスですぐ体を冷やせるように。それから熱中症間近の通行人がウチをクーラースポットとして利用できるように。

そんな今日の、私の職場の昼休憩少し前は本店から、ひとり外回りの寄り道で休みに来た。
宇曽野主任だ。私と長い長い仕事の付き合いであるところの藤森先輩の、親友さんだ。
余ってる従業員用デスクに座るなり、まるで真夏の路上で暑さに弱ってる小鳥のように、グデっと。
吐いたため息は結構重くて深そうだった。

「中途採用の、若いのが居たんだがな」
ぐでぐで小鳥のような宇曽野先輩が言った。
朝職場に来たら、主任の隣の隣の部署が、朝から少しだけ慌ただしくて、
係長も課長補佐も、数人が課長の席に集まってて、他の人はスマホで連絡取ったりしてたと。
「無断欠勤のうえ、電話もグループチャットも、全部連絡つかずの既読無視、だとさ」

ははぁ。「脱走」ですな。
職場の鳥かごから勝手に扉開けて出てったと。

「始業時刻丁度にダイレクトメッセージで、『辞めます』の4文字だけ、送ってきたそうだ」
パリパリアイスを受け取って、またため息。
「俺も手伝ってそいつの捜索中なんだが、部署内は『例の突然解雇された青鳥のようだ』と騒動さ」

突然辞めるのはどうかと思うけど、そうしたくなった理由は、宇曽野主任も把握してたらしい。
中途採用君は最近、書類をファイルから抜いて整理する仕事を任されてたんだけど、
中途採用君の上司が「この書類は抜かないで」って、伝えるべき「例外」を伝えなかったせいで、
抜いちゃいけない書類まで抜いちゃったと。

情報伝達の不備。それによる仕事のミス。なのに責任は全部自分が被るっていう理不尽。
私にも経験があった。去年の3月18日頃だ。
似た状況で、現在は左遷制裁済のオツボネ上司から責任を押し付けられて、心をちょっと病んだ。
私には藤森先輩がいて、先輩が私の話を聞いて寄り添ってくれたから、乗り越えられた。
中途採用君には誰も居なかったのかもしれない。

「鳥なら鳥として、鳥のように、今頃自由に次の就職先でも探してるんじゃないか?」
運が悪かった、場所が良くなかった。それだけさ。
宇曽野主任はそう付け足して、アイスをぱくり。
「次の鳥かごではルールとモラルをもって、飛ぶなり騒ぐなり、再度脱走するなりしてほしいもんだ」

まぁ、そうだよね。
場所が悪かったら、鳥もうまく、飛べないもんね。
私は本店の騒動の酷さをちょっと想像してから、
今頃どこで何してるとも知れない中途採用君が、なるべく早く職場に帰ってきて謝罪の一言くらい……
いや、逃げるなら逃げるで、早めに退職代行の誰かと連絡とった方が、互いのためかなぁ……。

8/22/2024, 3:44:38 AM