かたいなか

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8/2/2024, 2:55:34 AM

「『ところにより雨』、『いつまでも降り止まない、雨』、『梅雨』。雨系のお題が多い中で、『晴れ』のお題はなかなかに新鮮な気がするわ」
テレビでニュースで台風情報等々を確認しながら、スマホで明日の天気を確認する某所在住物書き。
予報では、明日は雨が降る確率の方が低く、「もし」も何も、どうやら晴れる予想のようであった。
あり得るとすればゲリラ豪雨、夕立ちだろうか――どれくらいの低確率で?

「先日は東京近辺等々で酷い雷雨があったし、梅雨明けはアレだっけ、東北南部まで行った?」
明日もし晴れたら、洗濯をしよう。
明日もし晴れたら、暑くなるだろう。
明日もし晴れたら観葉植物が弱るかもしれない。
ところでお題と全然関係ねぇけど、防災用の備えとか何とか、確認しとこうかなぁ。
物書きは文章投稿そっちのけで、備蓄食の賞味期限チェックを初めてしまい……

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室の、部屋の主は付烏月、ツウキという名前で、
夜、冷蔵庫の製氷室から製氷皿を取り出し、カチコチに整列した青と紫と空色のブロックを見て、深く、満足して頷いた。 よく凍っている。
『さーて。試作試作……』

寒色系のブロックアイスは、すなわち、かき氷のシロップで着色と味付けをした氷であった。
スマホの天気予報によれば、東京の明日の最高気温は36℃で、猛暑日確定。場所によっては体温以上、微熱程度の暑さになるという。
明日、もし晴れたら、
直射日光によって、気温以上の体感となるだろう。
その中を歩き、職場に向かうのだ。

かき氷シロップで涼しげな氷を作って、そこにキンキンに冷やした強炭酸水を注ぎ、水分補給と暑さしのぎに利用してはどうだろう?

紫、青、空色。順にプラスチックグラスに詰めて、
トプトプトプ、しゅわしゅわ、さわさわ。
低価格店舗で購入した強炭酸水を注いでいく。
小さな泡の上がる音、弾ける音は、そこそこ涼しげで、なにより付烏月の耳に心地良かった。

『味はどうかな?』
シロップアイスをかき混ぜて、突っついて、少し溶かして、口をつける。強炭酸水を喉に流し込む。
『……にがい』
結果としては失敗。
おそらく、「強」炭酸水であることがマズかった。
つまりそっちの味がバチクソに残っていたのだ。


――と、いうことがあった翌朝。付烏月の職場。

「付烏月さん、ツウキさん、どしたの。バチクソしょんぼりしてるよ。何かあったの」
「カクカクしかじか。カーカー」
「カクシカ言われても分かんないよ」

「飲む?イッパツで理由分かるよん」

明日、もし晴れたら、気温以上の体感になる。
付烏月の予想どおり、その日の東京は酷い暑さ。
カラフルアイスと炭酸水によってノスタルジックサイダーを持ち込もうとした付烏月であったが、
シロップで色付けした氷こそ成功したものの、
試作に使用した強炭酸水は苦みが強く、では水で割ればどうだと試行すれば、それはただの甘い水。
要するに、失敗したのだ。

己のデスクにアゴをのせ、深い深いため息を吐き、
そして、コテン。弱々しい視線を己のコップに向けて、またひとつ、小さなため息。
苦み除去の試行錯誤に打ちのめされたのである。

「アルコール入れれば『ちょっと辛口の、甘さもあるやつ』でイケる気がする」
「勤務中の飲酒厳禁」
「多分塩系のおつまみに合うよ。ジャーキーとか肉巻きアスパラの塩味とか」
「今日の俺のお弁当、ウィンナー」
「合う!絶対合う!

食用アルコール無い?」
「だから。勤務中の飲酒厳禁」

自作のエモエモサイダーって、難しいねぇ。
付烏月は小さく小さく首を振り、顔を上げる。
視線の先では彼の同僚が、塩分補給用に持参しているというポテトチップスをサカナに、「ちょっと辛口の、甘さもあるやつ」を楽しんでいる。
気に入ったようだ。 それはそれは、なにより。

「泡ほしい。泡無理かな」
「ビールじゃないんだからさぁ……」
明日も、どうせ晴れるだろう。
付烏月はその日何度目かのため息を吐いて、自作サイダーに適した炭酸水は何だろう、どれだろうと、頭の片隅で考察しておったとさ。

8/1/2024, 3:46:34 AM

「だから、一人で『居たい』、『痛い』、『遺体』。まぁ普通に考えりゃ『居たい』だろうな」
ひらがな表記は「漢字変換」で色々アレンジできるから便利よな。某所在住物書きはスマホで「いたい」の変換候補を見ながら、「居たい」が良いか「痛い」が物語を組みやすいか、思考していた。
去年は「だから一人で、痛いのに耐えている」の物語を書いた。……では今年は?

「一人で居たいのは、ぼっち万歳ストーリーよな。
痛いハナシは痛覚的にタンスに指ぶつけたとか?
痛車痛スマホ、一人して痛い思い、痛いこと……」
一人して痛いことをしているハナシとか?物書きは言いかけ、身に覚えがあり、一人で勝手に悶絶。
「昔、ガキの頃、どちゃくそにメアリー・スーな二次創作ばっか書いてた、な……」
だから、物書きは一人で痛い古傷に耐えている。

――――――

一人で居たいのは喧嘩した日の夜、一人で痛いのはタンスや机と足の小指との単独事故。
先日寝落ち直前におでこにスマホを落としまして、
ゆえに、一人で痛い思いをしていた物書きが、今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某アパートに、雪国出身者がひとりで住んでおり、名前を藤森といいました。
この藤森の部屋に、何がどうバグって現実ネタ風の物語に忍び込んだか、週に1〜2回、
現実ネタには有るまじく、不思議なお餅を売りに、なんと不思議な子狐が、コンコン、やって来るのです。

コンコン子狐は稲荷の狐。近所の神社のご利益豊かな、ありがたいお餅を売りに来ます。
ひとくち食べれば心に溜まった毒を落としてくれる、心も身体もお財布も喜ぶコスパ抜群なお餅を、
藤森の部屋に同僚も後輩も、友人も誰も居ないとき、コンコン、売りに来るのです。
その日も土砂降り大雨の降りしきるなか、子狐が藤森のアパートにやって来ました。

「お盆のおだんご、ごよやく、いかがですか」
葛で編んだカゴの中のお餅と、クレヨンで一生懸命ぐりぐり描いたと思しき手作りパンフレットを、しっかり雨から守った子狐。
だけど自分はぐっしょり濡れて、まるで洗濯直後のぬいぐるみです。
「焼きもち、へそもち、餡かぶり、おはぎもあるよ」
雨に体温を持っていかれて、少しぷるぷる震える子狐は、なんだかんだで根っこの優しい藤森に、タオルで包まれて優しくポンポン、叩き拭かれておりました。

「今予約とって、スケジュールは間に合うのか」
忙しい仕事と、季節以上の異常な気温のせいで、すっかり忘れていた藤森。
そろそろお盆です。藤森の故郷では、もうすぐ夏の大きな祭りが、あっちこっちで始まるのです。
「予約の集計と、材料の調達と、下ごしらえも必要だろう。大丈夫なのか?」

狐ゆえに、たとえ五穀豊穣を呼び寄せる恵みの雨とて、濡れるのは好かないだろうに。
それでも商売魂たくましく、季節ものの餅の予約をとりに来るのは、なんともまた、微笑ましい。
土砂降りの未だ止まぬ外を、防音防振設備バッチリな、ほぼ静音の部屋から眺めて、
藤森は子狐を、気遣ってやりました。

「キツネのおとくいさん、おとくいさんひとりしか、いないもん。へーきだよ」
「そのびしょ濡れのせいで、予約とって帰った途端、熱出して、風邪でも引いたらどうする」
「キツネ、人間の風邪ひかないもん」
「そうじゃなくてだな」

「たんと買ってくれるの?いっぱいいっぱい、間に合わないくらい、どっさり買ってくれるの?」
「そうじゃない」
「ごよやく、ありがとうございます」
「あのな子狐」

去年の3月3日に初めて会ってから、随分稲荷の商売人、商売狐として図太く賢く、成長したものだ。
藤森はため息を吐いて、ポンポン、拭いてるタオルを新しいものに替えてやります。
「……ひとまず、何か、温かいものでも飲むか?」
いまだにプルプル、寒さで震える子狐は、「温かい」の単語に、尻尾をブンブン、振り回しましたとさ。

「あったかいもの!おしるこ!」
「小豆が無い。雑煮なら、可能だが」
「おぼん雑煮!
ごよやく、ありがとうございます」
「そうじゃないと言っている」
「おもちはいくつ、ごよーいしましょう」
「子狐。ひとの話を、まず聞きなさい」

「ふぇっ、へっッ、くしゅん!」
「そらみろ。くしゃみが出た……」

ポンポンポン、ぽんぽんぽん。
子狐がこんな雨の日に、たったひとりで藤森のお部屋へ行くと、藤森がふわふわタオルでもって、子狐を優しく包んで、軽く叩き拭いてくれます。
藤森の優しい手も心も、温かい魂も、ぜんぶ独り占めできるのです。
だからコンコン子狐は、お得意様は一人だけのままでいたいのかも、別にそうでもないかも。
そんなアパートの一室のおはなしでした。そんな都内某所の夜の、おはなしでした。 おしまい。

7/31/2024, 2:57:03 AM

「3月14日付近に『安らかな瞳』があったわ」
当時も相当四苦八苦したわな。某所在住物書きは過去を思い出し、遠くを見た。
「去年も今年同様、サッパリイメージ湧かなくてさ。そもそも『安らかな瞳』って、『澄んだ瞳』ってどんな瞳よって。鏡見て再現しようとしてさ。
バチクソなアホ面で無事轟沈したわな」
どうせ今回も爆笑して敗北して崩れるぜ。
物書きはカードミラーを手繰り、『澄んだ瞳』を再現しようとして、案の定轟沈した。

ところで、人間の目というのは加齢とともに多少は濁っていく。よくよく澄んでいる瞳というのは、健康的な目の指標にもなりそうである。
ただ昨今、若年層の目の不調も増加の一途を辿っていると聞く。「澄んだ瞳」の維持が求められる。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を売ったり、お母さん狐が店長をしているお茶っ葉屋さんの看板子狐をしたりして、絶賛修行中。
キラキラくりくり、まんまるお目々の澄んだ瞳で、現代の人間を、人間の社会で行きていく化け物を、あるいは幽霊だの何だの■■■だのを、見てきました。

今回は「澄んだ瞳」と題しまして、
コンコン子狐がその目で見てきたエピソードを、
2個ほど、ちょっとだけ、ご紹介しましょう。

まず1個目。
あるときコンコン子狐は、子狐のおうちの稲荷神社でアジサイの花が満開を迎える頃、
神社の参拝者さんがおばあちゃん狐、もとい巫女さんから冷たいお茶とみたらし団子を受け取って、ひと息ついているのを見つけました。

「最近、どうにもツイてないんですよ」
美しい瞳の若い巫女さん(に化けた優しいおばあちゃん狐)に、参拝者さん、言いました。
「ワケ分からないところで仕事をミスるし、この前なんか、危なくアパートの鍵を閉め忘れた」
かといって俺、落ち込んでるワケでもないし。誰かにパワハラ食らってるワケでもないし。
ホントにワケ分からなくて。
参拝者さんは少し、うわのそら。ぽわぽわした心で言いました。どうも、誰かにご執心のようでした。しかもその「誰か」とは、実は両思いだったのでした。

巫女さん、ハッキリ言いました。
「多分あなたが告白すれば全部解決しますよ」
どんがらがっしゃん。参拝者さんがマンガやアニメよろしく腰抜かすのを、コンコン子狐は澄んだ瞳で、一部始終、全部、見ておりました。

そして2個目。
あるときコンコン子狐は、子狐のおうちの稲荷神社でひらひら裏の葉見せる葛の花が見頃を迎える頃、
子狐の餅売り修行のお得意様が、お得意様の親友と一緒に、神社特製の冷やし甘酒とこしあん団子でひと息ついているのを見つけました。

「だからお前、今日は在宅にしておけと、あれほど散々言っただろう」
鋭く力強い瞳の親友さんが、優しく誠実な瞳のお得意様に、言いました。
「ただでさえ暑さに弱いくせに。酷暑手前のこんな日に、仕事優先して無理しやがって」
今日は部屋でこのまま休め。事情は俺が話しておく。親友さんはそう言いながら、甘酒をぐいっと飲み干して、おかわりを注文しに行きました。

「きょうは、仕方がなかったんだ」
雪国出身のお得意様、どうやら暑さで数十分前まで溶けていたらしく、弱々しい声で反論しました。
「あさから会議があるから、そうじと、かんようしょくぶつの整理と、コーヒーの、ほじゅうと……」
ぽわぽわぽわ。 あれ。それから私は、何をしていたっけ。いつこの親友に助けられたのだっけ。
お得意様の上司と他の上司と、他店の偉い人と、ともかく重役ばっかりの会議の部屋を、整えていた話をぽつりぽつり。お得意様、言い訳として言いました。
つまり真面目なのです。要は真面目なのです。

親友さん、お得意様にハッキリ言いました。
「その真面目を自分の体調管理にも使え」
甘酒4杯目。お買い上げありがとうございます。
コンコン子狐は澄んだ瞳で、商売繁盛、冷やし甘酒とお団子が売れるのを見ておりました。

「澄んだ瞳」と題しまして、子狐が見た人間と人間のおはなしでした。
子狐は人間の他にも、アレやらコレやら、不思議な不思議な物だの者だのを見ておるのですが、
それのおはなしは、また今度、またいつか。
おしまい、おしまい。

7/30/2024, 3:00:27 AM

「何の『嵐』かは、一切指定が無いんだよな」
前回も前回で今回も今回。難易度高めのお題が続くなと、某所在住物書きは天井を見上げた。
「リプの嵐、人混みの嵐、花吹雪の嵐に落ち葉の嵐。あと何あるだろな、アイドルグループ?」
鳥の嵐、称賛の嵐、激辛の嵐に誤字脱字修正の嵐。
言葉としては複数思い浮かぶ。
問題はそれらを文章にできる閃きの存在だ。
ホタルイカの嵐は幻想的だが、「夜の海」は来月に温存しておきたいのだ――去年それが出題されたから。

少しでも変わり種を、絡め手の物語を組みたい物書き。そんなことをせず、素直に天候としての嵐をストレートに書けば良いものを、「嵐」に繋げられそうな別ルートを探して迷う迷う。
「磁気嵐は、……駄目だ。無理」
あれこれ考えて、云々して、最終的に疲れて妥協した物書きは、「デカい音の嵐」に活路を見出した。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐になるべく、不思議でご利益ゆたかなお餅を売りながら修行をしておったのですが、
今夜は19時頃から22時頃まで約3時間、数年前東京に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店に、緊急避難の最中。

暑い夜の花火大会です。
子狐は、あの大きな音に慣れていないのです。
連続する火薬の破裂音は、子狐にとって音の嵐。
人間の何倍も耳のいいコンコン子狐。遮音と遮熱の魔法が効いた喫茶店で、花火が終わるのを待つのです。
それと、なにより、綺麗な手提げランタンです。
小ちゃくて美しい、スイッチを入れれば明るく光る鉱石ランタンが、まさに今日、手に入ったのです。
コンコン子狐、それがとっても嬉しくて、自慢したくて、暑い暑い夜の道をランタンで照らして喫茶店まで、とってって、ちってって。歩いてきたのです。

「花火、はなび!」
おばあさんが焼いてくれたクッキーと、おばあさんお手製のアイスクリームを、同じ避難民の化け子猫化け子狸等々と、一緒に楽しむコンコン子狐。
「音が無けりゃ、こんなにキレイなのに」
スイーツと一緒に、大きな大きな遠見の水鏡で、花火の映像もシェアします。
ここに届くのは光だけ。どんな轟音爆音の嵐が来ようとも、花火に不慣れな彼等の耳に、それが届くことはありません。

「ウチのダディーね。『30年も生きていれば、花火の音なんてそのうち慣れる』って言うの」
スコティッシュフォールドと和猫のミックスな化け子猫が、「信じられる?」という顔をして、子狐にミャウミャウ言いました。
「それ、僕の母さんも言う」
化け子狸が同意して、会話に食いつきます。
「老けて耳が遠くなってるんだ。きっとそうだよ」
避難民の中で一番年長っぽいカマイタチの子供も、おしゃべりに混ざりたくて輪の中に入ってきました。

遠くなるのかなぁ。
違うよ。きっと慣れるんだよ。
いや意外と、怖くなくなる秘密の魔法、とか。
子猫と子狸と子イタチと、子供ながらにやんややんや、いっちょまえのディベートタイム。
主張と反論と提案で、クッキーとアイスが進みます。

「おばちゃん、どう思う?」
ここはひとつ、大人の意見も聞いてみよう。
コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「それこそ、大人になってからのお楽しみ、じゃないかしら。ねぇ」
花火の炸裂音の嵐届かぬ室内で、魔女のおばあさんはにっこり穏やかに、子供たちの交流を見守っておりましたとさ。

7/29/2024, 2:56:51 AM

「お祭りに、参加するハナシかお祭り自体の関係者か、そういうのを準備する立場からのハナシか、なんなら露店視点のハナシも、書けるっちゃ書けるか」
最近は真夏日猛暑日の報道ばかりだから、ぶっちゃけ俺は夏祭り行けてねぇけどさ。どうなんだろな。
某所在住物書きは今回分の題目を見ながら、最後に祭りで飲食したのは何年前だったろうと回想した。
「あと、祭りであれば良いワケだから、春の花見だろうと冬の雪祭りだろうと」

「祭り」といえば、フェスティバルとしての祭りの他に、騒動としての「お祭り騒ぎ」も書き得る。
物書きはふと気付き、ネットニュースを確認する。
何か、ほっこりしそうな、たとえば飼い猫のハプニングが大バズりとか、ハスキーとか。
「……それただの癒やしニュースだな」
疲れてんな。俺。物書きは大きなため息を吐いた。
ところで今日は、一粒万倍日+天赦日+大安の最強開運日だという。ひょっとしたら、それこそ、宝くじ売り場は今頃お祭り騒ぎかもしれない。

――――――

最近最近の都内某所は、相変わらずの最高気温。
藤森という名前の雪国出身者は、雪国出身が影響してか、外出すれば秒で溶けてしまう。
よって、もっぱら某アパートの己の部屋で、防音防振の静寂を享受しながら、ひとり在宅のリモートワークで、効率良く仕事を捌いていた。

『今日花火大会だって!』
ピロン。そんな藤森のスマホに、グループチャットアプリでメッセージを寄せる者があった。
『19時から!花火!クレープ!たこ焼き!』
藤森の知らぬゲームキャラのスタンプが、ハイテンションで連打して添えられている。
長い付き合いであるところの、職場の後輩である。
メッセージを読み、思案に短く息を吸い、吐いて、
画面を変え17時から21時近辺の天気予測と気温を確認して、小さく首を横に振った。

16時で36℃の予測である。
大会開始時点で32℃予想である。
後輩は無事であっても、藤森は確実に、間違いなく、会場到着前にダウンしてしまう。
無理であった。自殺行為であった。

『私などと一緒に行っても楽しくないだろう』
遠回りな表現でお断りの返信をしてから、冷茶をひとくち。資料の作成に戻ろうとすると、

『行くんじゃないの。見るの』
ピロン。すぐスタンプとメッセージが返ってきた。
『先輩の部屋静かじゃん。涼しいじゃん。そこそこの高層階だから、焼きそばとかチキンとか、チョコバナナとか持ち込んでお祭りごっこ、みたいな。
なにより防音だから騒げる。楽園。天国』
そうくるか。
藤森の目は秒で点になった。

『見えるかどうか、保証できない』
『ケバブと焼き鳥があれば雰囲気は出る(断言)』
『それはただの飲み会だ』
『じゃあ例の稲荷神社のおみくじと御札買って、お祭り要素追加しとくから。あとアイスとかき氷』

『何かあったのか。やけ食いのように、食べ物の名前がポンポン出てくるようだが』
『本店のクズなパワハラ部長がウチの支店に来て、不要不急のサビ残と上司接待させられてる』
『了解。把握した』

要するに、花火や祭り云々より、心の緊急デトックスが本音本題らしい。
後輩の言う「サビ残と上司接待」を簡単に想像できる藤森は、少しの同情を寄せ、ため息をひとつ。
延々無駄な話を聞かされ、ぐずぐず己の管轄外を、書類なりデータ入力なり、させられているに違いない。
『串焼き程度は用意できる。他に食いたいものがあれば、手間だろうが自分で買ってきてくれ』
冷蔵庫の中の肉と野菜を確認して、藤森が降参のメッセージを送信すると、

『りょ!宇曽野主任も行くってさ。先輩の親友の
あと付烏月さんも来るよ。先輩の友達の
その付烏月さんがウチの新卒ちゃんも誘ったから、今夜は皆でお祭り騒ぎだね』

「は?」
すぐに返信が来て、その文面は、再度藤森の目を点にさせた――何故そんな大所帯になった……?

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