かたいなか

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「3月14日付近に『安らかな瞳』があったわ」
当時も相当四苦八苦したわな。某所在住物書きは過去を思い出し、遠くを見た。
「去年も今年同様、サッパリイメージ湧かなくてさ。そもそも『安らかな瞳』って、『澄んだ瞳』ってどんな瞳よって。鏡見て再現しようとしてさ。
バチクソなアホ面で無事轟沈したわな」
どうせ今回も爆笑して敗北して崩れるぜ。
物書きはカードミラーを手繰り、『澄んだ瞳』を再現しようとして、案の定轟沈した。

ところで、人間の目というのは加齢とともに多少は濁っていく。よくよく澄んでいる瞳というのは、健康的な目の指標にもなりそうである。
ただ昨今、若年層の目の不調も増加の一途を辿っていると聞く。「澄んだ瞳」の維持が求められる。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を売ったり、お母さん狐が店長をしているお茶っ葉屋さんの看板子狐をしたりして、絶賛修行中。
キラキラくりくり、まんまるお目々の澄んだ瞳で、現代の人間を、人間の社会で行きていく化け物を、あるいは幽霊だの何だの■■■だのを、見てきました。

今回は「澄んだ瞳」と題しまして、
コンコン子狐がその目で見てきたエピソードを、
2個ほど、ちょっとだけ、ご紹介しましょう。

まず1個目。
あるときコンコン子狐は、子狐のおうちの稲荷神社でアジサイの花が満開を迎える頃、
神社の参拝者さんがおばあちゃん狐、もとい巫女さんから冷たいお茶とみたらし団子を受け取って、ひと息ついているのを見つけました。

「最近、どうにもツイてないんですよ」
美しい瞳の若い巫女さん(に化けた優しいおばあちゃん狐)に、参拝者さん、言いました。
「ワケ分からないところで仕事をミスるし、この前なんか、危なくアパートの鍵を閉め忘れた」
かといって俺、落ち込んでるワケでもないし。誰かにパワハラ食らってるワケでもないし。
ホントにワケ分からなくて。
参拝者さんは少し、うわのそら。ぽわぽわした心で言いました。どうも、誰かにご執心のようでした。しかもその「誰か」とは、実は両思いだったのでした。

巫女さん、ハッキリ言いました。
「多分あなたが告白すれば全部解決しますよ」
どんがらがっしゃん。参拝者さんがマンガやアニメよろしく腰抜かすのを、コンコン子狐は澄んだ瞳で、一部始終、全部、見ておりました。

そして2個目。
あるときコンコン子狐は、子狐のおうちの稲荷神社でひらひら裏の葉見せる葛の花が見頃を迎える頃、
子狐の餅売り修行のお得意様が、お得意様の親友と一緒に、神社特製の冷やし甘酒とこしあん団子でひと息ついているのを見つけました。

「だからお前、今日は在宅にしておけと、あれほど散々言っただろう」
鋭く力強い瞳の親友さんが、優しく誠実な瞳のお得意様に、言いました。
「ただでさえ暑さに弱いくせに。酷暑手前のこんな日に、仕事優先して無理しやがって」
今日は部屋でこのまま休め。事情は俺が話しておく。親友さんはそう言いながら、甘酒をぐいっと飲み干して、おかわりを注文しに行きました。

「きょうは、仕方がなかったんだ」
雪国出身のお得意様、どうやら暑さで数十分前まで溶けていたらしく、弱々しい声で反論しました。
「あさから会議があるから、そうじと、かんようしょくぶつの整理と、コーヒーの、ほじゅうと……」
ぽわぽわぽわ。 あれ。それから私は、何をしていたっけ。いつこの親友に助けられたのだっけ。
お得意様の上司と他の上司と、他店の偉い人と、ともかく重役ばっかりの会議の部屋を、整えていた話をぽつりぽつり。お得意様、言い訳として言いました。
つまり真面目なのです。要は真面目なのです。

親友さん、お得意様にハッキリ言いました。
「その真面目を自分の体調管理にも使え」
甘酒4杯目。お買い上げありがとうございます。
コンコン子狐は澄んだ瞳で、商売繁盛、冷やし甘酒とお団子が売れるのを見ておりました。

「澄んだ瞳」と題しまして、子狐が見た人間と人間のおはなしでした。
子狐は人間の他にも、アレやらコレやら、不思議な不思議な物だの者だのを見ておるのですが、
それのおはなしは、また今度、またいつか。
おしまい、おしまい。

7/31/2024, 2:57:03 AM