かたいなか

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「お祭りに、参加するハナシかお祭り自体の関係者か、そういうのを準備する立場からのハナシか、なんなら露店視点のハナシも、書けるっちゃ書けるか」
最近は真夏日猛暑日の報道ばかりだから、ぶっちゃけ俺は夏祭り行けてねぇけどさ。どうなんだろな。
某所在住物書きは今回分の題目を見ながら、最後に祭りで飲食したのは何年前だったろうと回想した。
「あと、祭りであれば良いワケだから、春の花見だろうと冬の雪祭りだろうと」

「祭り」といえば、フェスティバルとしての祭りの他に、騒動としての「お祭り騒ぎ」も書き得る。
物書きはふと気付き、ネットニュースを確認する。
何か、ほっこりしそうな、たとえば飼い猫のハプニングが大バズりとか、ハスキーとか。
「……それただの癒やしニュースだな」
疲れてんな。俺。物書きは大きなため息を吐いた。
ところで今日は、一粒万倍日+天赦日+大安の最強開運日だという。ひょっとしたら、それこそ、宝くじ売り場は今頃お祭り騒ぎかもしれない。

――――――

最近最近の都内某所は、相変わらずの最高気温。
藤森という名前の雪国出身者は、雪国出身が影響してか、外出すれば秒で溶けてしまう。
よって、もっぱら某アパートの己の部屋で、防音防振の静寂を享受しながら、ひとり在宅のリモートワークで、効率良く仕事を捌いていた。

『今日花火大会だって!』
ピロン。そんな藤森のスマホに、グループチャットアプリでメッセージを寄せる者があった。
『19時から!花火!クレープ!たこ焼き!』
藤森の知らぬゲームキャラのスタンプが、ハイテンションで連打して添えられている。
長い付き合いであるところの、職場の後輩である。
メッセージを読み、思案に短く息を吸い、吐いて、
画面を変え17時から21時近辺の天気予測と気温を確認して、小さく首を横に振った。

16時で36℃の予測である。
大会開始時点で32℃予想である。
後輩は無事であっても、藤森は確実に、間違いなく、会場到着前にダウンしてしまう。
無理であった。自殺行為であった。

『私などと一緒に行っても楽しくないだろう』
遠回りな表現でお断りの返信をしてから、冷茶をひとくち。資料の作成に戻ろうとすると、

『行くんじゃないの。見るの』
ピロン。すぐスタンプとメッセージが返ってきた。
『先輩の部屋静かじゃん。涼しいじゃん。そこそこの高層階だから、焼きそばとかチキンとか、チョコバナナとか持ち込んでお祭りごっこ、みたいな。
なにより防音だから騒げる。楽園。天国』
そうくるか。
藤森の目は秒で点になった。

『見えるかどうか、保証できない』
『ケバブと焼き鳥があれば雰囲気は出る(断言)』
『それはただの飲み会だ』
『じゃあ例の稲荷神社のおみくじと御札買って、お祭り要素追加しとくから。あとアイスとかき氷』

『何かあったのか。やけ食いのように、食べ物の名前がポンポン出てくるようだが』
『本店のクズなパワハラ部長がウチの支店に来て、不要不急のサビ残と上司接待させられてる』
『了解。把握した』

要するに、花火や祭り云々より、心の緊急デトックスが本音本題らしい。
後輩の言う「サビ残と上司接待」を簡単に想像できる藤森は、少しの同情を寄せ、ため息をひとつ。
延々無駄な話を聞かされ、ぐずぐず己の管轄外を、書類なりデータ入力なり、させられているに違いない。
『串焼き程度は用意できる。他に食いたいものがあれば、手間だろうが自分で買ってきてくれ』
冷蔵庫の中の肉と野菜を確認して、藤森が降参のメッセージを送信すると、

『りょ!宇曽野主任も行くってさ。先輩の親友の
あと付烏月さんも来るよ。先輩の友達の
その付烏月さんがウチの新卒ちゃんも誘ったから、今夜は皆でお祭り騒ぎだね』

「は?」
すぐに返信が来て、その文面は、再度藤森の目を点にさせた――何故そんな大所帯になった……?

7/29/2024, 2:56:51 AM