「『ところにより雨』、『いつまでも降り止まない、雨』、『梅雨』。雨系のお題が多い中で、『晴れ』のお題はなかなかに新鮮な気がするわ」
テレビでニュースで台風情報等々を確認しながら、スマホで明日の天気を確認する某所在住物書き。
予報では、明日は雨が降る確率の方が低く、「もし」も何も、どうやら晴れる予想のようであった。
あり得るとすればゲリラ豪雨、夕立ちだろうか――どれくらいの低確率で?
「先日は東京近辺等々で酷い雷雨があったし、梅雨明けはアレだっけ、東北南部まで行った?」
明日もし晴れたら、洗濯をしよう。
明日もし晴れたら、暑くなるだろう。
明日もし晴れたら観葉植物が弱るかもしれない。
ところでお題と全然関係ねぇけど、防災用の備えとか何とか、確認しとこうかなぁ。
物書きは文章投稿そっちのけで、備蓄食の賞味期限チェックを初めてしまい……
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室の、部屋の主は付烏月、ツウキという名前で、
夜、冷蔵庫の製氷室から製氷皿を取り出し、カチコチに整列した青と紫と空色のブロックを見て、深く、満足して頷いた。 よく凍っている。
『さーて。試作試作……』
寒色系のブロックアイスは、すなわち、かき氷のシロップで着色と味付けをした氷であった。
スマホの天気予報によれば、東京の明日の最高気温は36℃で、猛暑日確定。場所によっては体温以上、微熱程度の暑さになるという。
明日、もし晴れたら、
直射日光によって、気温以上の体感となるだろう。
その中を歩き、職場に向かうのだ。
かき氷シロップで涼しげな氷を作って、そこにキンキンに冷やした強炭酸水を注ぎ、水分補給と暑さしのぎに利用してはどうだろう?
紫、青、空色。順にプラスチックグラスに詰めて、
トプトプトプ、しゅわしゅわ、さわさわ。
低価格店舗で購入した強炭酸水を注いでいく。
小さな泡の上がる音、弾ける音は、そこそこ涼しげで、なにより付烏月の耳に心地良かった。
『味はどうかな?』
シロップアイスをかき混ぜて、突っついて、少し溶かして、口をつける。強炭酸水を喉に流し込む。
『……にがい』
結果としては失敗。
おそらく、「強」炭酸水であることがマズかった。
つまりそっちの味がバチクソに残っていたのだ。
――と、いうことがあった翌朝。付烏月の職場。
「付烏月さん、ツウキさん、どしたの。バチクソしょんぼりしてるよ。何かあったの」
「カクカクしかじか。カーカー」
「カクシカ言われても分かんないよ」
「飲む?イッパツで理由分かるよん」
明日、もし晴れたら、気温以上の体感になる。
付烏月の予想どおり、その日の東京は酷い暑さ。
カラフルアイスと炭酸水によってノスタルジックサイダーを持ち込もうとした付烏月であったが、
シロップで色付けした氷こそ成功したものの、
試作に使用した強炭酸水は苦みが強く、では水で割ればどうだと試行すれば、それはただの甘い水。
要するに、失敗したのだ。
己のデスクにアゴをのせ、深い深いため息を吐き、
そして、コテン。弱々しい視線を己のコップに向けて、またひとつ、小さなため息。
苦み除去の試行錯誤に打ちのめされたのである。
「アルコール入れれば『ちょっと辛口の、甘さもあるやつ』でイケる気がする」
「勤務中の飲酒厳禁」
「多分塩系のおつまみに合うよ。ジャーキーとか肉巻きアスパラの塩味とか」
「今日の俺のお弁当、ウィンナー」
「合う!絶対合う!
食用アルコール無い?」
「だから。勤務中の飲酒厳禁」
自作のエモエモサイダーって、難しいねぇ。
付烏月は小さく小さく首を振り、顔を上げる。
視線の先では彼の同僚が、塩分補給用に持参しているというポテトチップスをサカナに、「ちょっと辛口の、甘さもあるやつ」を楽しんでいる。
気に入ったようだ。 それはそれは、なにより。
「泡ほしい。泡無理かな」
「ビールじゃないんだからさぁ……」
明日も、どうせ晴れるだろう。
付烏月はその日何度目かのため息を吐いて、自作サイダーに適した炭酸水は何だろう、どれだろうと、頭の片隅で考察しておったとさ。
8/2/2024, 2:55:34 AM