「何の『嵐』かは、一切指定が無いんだよな」
前回も前回で今回も今回。難易度高めのお題が続くなと、某所在住物書きは天井を見上げた。
「リプの嵐、人混みの嵐、花吹雪の嵐に落ち葉の嵐。あと何あるだろな、アイドルグループ?」
鳥の嵐、称賛の嵐、激辛の嵐に誤字脱字修正の嵐。
言葉としては複数思い浮かぶ。
問題はそれらを文章にできる閃きの存在だ。
ホタルイカの嵐は幻想的だが、「夜の海」は来月に温存しておきたいのだ――去年それが出題されたから。
少しでも変わり種を、絡め手の物語を組みたい物書き。そんなことをせず、素直に天候としての嵐をストレートに書けば良いものを、「嵐」に繋げられそうな別ルートを探して迷う迷う。
「磁気嵐は、……駄目だ。無理」
あれこれ考えて、云々して、最終的に疲れて妥協した物書きは、「デカい音の嵐」に活路を見出した。
――――――
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐になるべく、不思議でご利益ゆたかなお餅を売りながら修行をしておったのですが、
今夜は19時頃から22時頃まで約3時間、数年前東京に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店に、緊急避難の最中。
暑い夜の花火大会です。
子狐は、あの大きな音に慣れていないのです。
連続する火薬の破裂音は、子狐にとって音の嵐。
人間の何倍も耳のいいコンコン子狐。遮音と遮熱の魔法が効いた喫茶店で、花火が終わるのを待つのです。
それと、なにより、綺麗な手提げランタンです。
小ちゃくて美しい、スイッチを入れれば明るく光る鉱石ランタンが、まさに今日、手に入ったのです。
コンコン子狐、それがとっても嬉しくて、自慢したくて、暑い暑い夜の道をランタンで照らして喫茶店まで、とってって、ちってって。歩いてきたのです。
「花火、はなび!」
おばあさんが焼いてくれたクッキーと、おばあさんお手製のアイスクリームを、同じ避難民の化け子猫化け子狸等々と、一緒に楽しむコンコン子狐。
「音が無けりゃ、こんなにキレイなのに」
スイーツと一緒に、大きな大きな遠見の水鏡で、花火の映像もシェアします。
ここに届くのは光だけ。どんな轟音爆音の嵐が来ようとも、花火に不慣れな彼等の耳に、それが届くことはありません。
「ウチのダディーね。『30年も生きていれば、花火の音なんてそのうち慣れる』って言うの」
スコティッシュフォールドと和猫のミックスな化け子猫が、「信じられる?」という顔をして、子狐にミャウミャウ言いました。
「それ、僕の母さんも言う」
化け子狸が同意して、会話に食いつきます。
「老けて耳が遠くなってるんだ。きっとそうだよ」
避難民の中で一番年長っぽいカマイタチの子供も、おしゃべりに混ざりたくて輪の中に入ってきました。
遠くなるのかなぁ。
違うよ。きっと慣れるんだよ。
いや意外と、怖くなくなる秘密の魔法、とか。
子猫と子狸と子イタチと、子供ながらにやんややんや、いっちょまえのディベートタイム。
主張と反論と提案で、クッキーとアイスが進みます。
「おばちゃん、どう思う?」
ここはひとつ、大人の意見も聞いてみよう。
コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「それこそ、大人になってからのお楽しみ、じゃないかしら。ねぇ」
花火の炸裂音の嵐届かぬ室内で、魔女のおばあさんはにっこり穏やかに、子供たちの交流を見守っておりましたとさ。
「お祭りに、参加するハナシかお祭り自体の関係者か、そういうのを準備する立場からのハナシか、なんなら露店視点のハナシも、書けるっちゃ書けるか」
最近は真夏日猛暑日の報道ばかりだから、ぶっちゃけ俺は夏祭り行けてねぇけどさ。どうなんだろな。
某所在住物書きは今回分の題目を見ながら、最後に祭りで飲食したのは何年前だったろうと回想した。
「あと、祭りであれば良いワケだから、春の花見だろうと冬の雪祭りだろうと」
「祭り」といえば、フェスティバルとしての祭りの他に、騒動としての「お祭り騒ぎ」も書き得る。
物書きはふと気付き、ネットニュースを確認する。
何か、ほっこりしそうな、たとえば飼い猫のハプニングが大バズりとか、ハスキーとか。
「……それただの癒やしニュースだな」
疲れてんな。俺。物書きは大きなため息を吐いた。
ところで今日は、一粒万倍日+天赦日+大安の最強開運日だという。ひょっとしたら、それこそ、宝くじ売り場は今頃お祭り騒ぎかもしれない。
――――――
最近最近の都内某所は、相変わらずの最高気温。
藤森という名前の雪国出身者は、雪国出身が影響してか、外出すれば秒で溶けてしまう。
よって、もっぱら某アパートの己の部屋で、防音防振の静寂を享受しながら、ひとり在宅のリモートワークで、効率良く仕事を捌いていた。
『今日花火大会だって!』
ピロン。そんな藤森のスマホに、グループチャットアプリでメッセージを寄せる者があった。
『19時から!花火!クレープ!たこ焼き!』
藤森の知らぬゲームキャラのスタンプが、ハイテンションで連打して添えられている。
長い付き合いであるところの、職場の後輩である。
メッセージを読み、思案に短く息を吸い、吐いて、
画面を変え17時から21時近辺の天気予測と気温を確認して、小さく首を横に振った。
16時で36℃の予測である。
大会開始時点で32℃予想である。
後輩は無事であっても、藤森は確実に、間違いなく、会場到着前にダウンしてしまう。
無理であった。自殺行為であった。
『私などと一緒に行っても楽しくないだろう』
遠回りな表現でお断りの返信をしてから、冷茶をひとくち。資料の作成に戻ろうとすると、
『行くんじゃないの。見るの』
ピロン。すぐスタンプとメッセージが返ってきた。
『先輩の部屋静かじゃん。涼しいじゃん。そこそこの高層階だから、焼きそばとかチキンとか、チョコバナナとか持ち込んでお祭りごっこ、みたいな。
なにより防音だから騒げる。楽園。天国』
そうくるか。
藤森の目は秒で点になった。
『見えるかどうか、保証できない』
『ケバブと焼き鳥があれば雰囲気は出る(断言)』
『それはただの飲み会だ』
『じゃあ例の稲荷神社のおみくじと御札買って、お祭り要素追加しとくから。あとアイスとかき氷』
『何かあったのか。やけ食いのように、食べ物の名前がポンポン出てくるようだが』
『本店のクズなパワハラ部長がウチの支店に来て、不要不急のサビ残と上司接待させられてる』
『了解。把握した』
要するに、花火や祭り云々より、心の緊急デトックスが本音本題らしい。
後輩の言う「サビ残と上司接待」を簡単に想像できる藤森は、少しの同情を寄せ、ため息をひとつ。
延々無駄な話を聞かされ、ぐずぐず己の管轄外を、書類なりデータ入力なり、させられているに違いない。
『串焼き程度は用意できる。他に食いたいものがあれば、手間だろうが自分で買ってきてくれ』
冷蔵庫の中の肉と野菜を確認して、藤森が降参のメッセージを送信すると、
『りょ!宇曽野主任も行くってさ。先輩の親友の
あと付烏月さんも来るよ。先輩の友達の
その付烏月さんがウチの新卒ちゃんも誘ったから、今夜は皆でお祭り騒ぎだね』
「は?」
すぐに返信が来て、その文面は、再度藤森の目を点にさせた――何故そんな大所帯になった……?
「全っッ然お題と関係ねぇこと共有していい?」
たしか去年は、長年大事に使い続けてきた茶香炉に付喪神モドキが舞い降りてくるってハナシ書いた。
某所在住物書きは過去投稿分を思い出し、ぽつり。
「朝っぱらに、ちょいと液体カプセルタイプの薬飲もうとしてよ。薬飲むための水をバチクソにケチったの。……そのせいで水が多分気管に入って、誤嚥したんじゃねーのってくらい酷く咳き込んだの」
さいわい今は何ともねぇけどさ。最近ホント、きっと飲み込むチカラとか喉の筋肉とか弱ってるわな。
物書きは強引にオチをつけるべく、強制総括。
「多分神様が舞い降りてきたら、こう言うわ。
『年齢考えろよ。もう若くねぇんだから』」
諸兄諸姉。薬を飲む際は無駄にケチらず、誤嚥リスク回避のためにも、十分な量の水でお飲みください。
――――――
多分暑さのせいだけど、バチクソに変な夢を見た。
夢の中の私は何故か、職場の先輩のアパートの近所にある稲荷神社で突っ立ってて、
空からゆっくりゆっくり、狐色に光るモフモフな子狐がフワフワ舞い降りてきた。多分神様だと思う。
私の前に神様が舞い降りてきて、こう言った。
『キレイな明るいランタンを、4個こさえて、この神社にほーのー、奉納するのです』
モフモフの神様(仮)は前足で、バチクソにかわいい小さな巾着財布をしっかりホールドしてた。
……この子狐ドチャクソ見覚えある
(職場の先輩の行きつけ茶葉屋の看板子狐にして夢の舞台の稲荷神社在住な子コンコン)
『キレイな明るいランタンって?』
夢の中の私は、勿論夢の中だからなんだろうけど、
「目の前に狐色に光るモフモフ子狐が舞い降りてきて、かつ人語まで話してる」っていう状況を、全然まったく一切気にしてない。
『私が職場に持ってった、百均の鳥かごオーナメントとクリアオブジェと、LEDのマルチアングルライトで作った手提げランタンのこと?』
ただ、ひとつ心当たりのある自作の作品を、丁度この夢を見たその日に職場に持ってったから、
「それのことか」って、子狐に聞いた。
小さな鳥かごと鉱石みたいなクリアオブジェ、それからLEDライトで作った鉱石ランタン。
ちょっと大きめのバッグチャームになるし、そのチャームが非常時の光源として使える。
1個2000円で同僚からひとつ、発注を受けた。
バチクソにメタいハナシをすると、
過去作前々回投稿分、あるいは前回投稿分のこと。
『ランタンを、こさえるのです』
見覚えあるコンちゃん神様モドキは言った。
『よいですか。あのキレイなランタンを、4個こさえて、神社にほーのーするのです。
さすれば、ウカノミタマのオオカミさまの、しもべがコンコン、おまえにウカサマのごりやくと、ランタンの代金をさずけるでしょう』
『コンちゃんランタン欲しいの』
『コンチャンでは、ありません。キツネはあの、いともかしこきハヤスサノオノミコトの子、ウカノミタマのオオカミサマのしもべなのです』
『何色のランタン欲しいの。値段は500円から2000円の間で、鉱石の大きさ変えられるよ』
『キレイなのください、じゃなくて、キレイなのほーのー、奉納するのです。夜のおさんぽに、使えそうな色のを、ほーのーするのです』
『誰と誰の分?全部コンちゃんの分?』
『かかさんと、ととさんと、おばーばとおじーじのぶん。4個ください。ほーのーしてください』
『はぁ』
ちゃんとお金は、払います。おねがいします。
くわぁくくく、くわぅ。
なんか「キツネ、やりきった!」って達成感でほくほく笑って、見覚えのある子狐神様モドキは、
巾着咥えて手足を広げて、ポンポンおなかをバッチリ見せて、空の上にフワフワ舞い戻ってった。
そこで、夢が丁度終わって私は現実に戻ってくる。
「……で?」
開口一発、目覚めて一言。
「どゆこと……?」
夢の中で、神様モドキの子狐が舞い降りて、人語を言う。SAN値チェックまっしぐらな状況。
よほど素っ頓狂な表情してたみたいで、夢に出てきた稲荷神社の近くに住んでる職場の先輩から「何かあったのか」って心配された。
実はこんな夢を見たって先輩に説明したら、なんか思うところがあったらしくって、「そうか」って。
結局ランタンを作ったかどうかとか、奉納したかどうかについては、敢えて公言しないでおく。
「誰かのためになるから、それをしようと思う。
誰かのためになるならまだしも、害にしかならないことをするのはどうかと思う。
誰かの『タメ』、同等同列の地位になるくらいならば、上級役職のまま今の職を辞する。
……他に思いつくといえば、何だろな」
去年はたしか、「後輩のためになるならば、手放そうと思っていた家具を、思いとどまろうと思う」みたいなハナシを書いたが、今年はどうしよう。
某所在住物書きはガリガリ頭をかき、どう物語を組むべきか、相変わらず途方に暮れていた。
「何年も昔の、個人サイトでのハナシだけど、一番困ったのがコレよ。
『そのひとのためになるならば』って、サイトにコメントくれた人のコメントどおりな物語書いて掲載したら、コメの本人から『それ私地雷です』だとさ」
あのひと、今頃どうしてるかねぇ。物書きは遠くを見た。今も相変わらず二枚舌しているのだろうか。
――――――
最近最近の都内某所、あの雨がやたら酷かった頃、
すなわち空がギャン泣きしていた例の日。
某稲荷神社を包む森は、バケツどころか浴槽をひっくり返したような雨量に叩かれて、石畳の階段のわきに小さな川を作っておりました。
梅雨末期の大雨です。いっそ雷雨かもしれません。
雨の音が強くて強くて、遠くに雷鳴の響くか響かぬか、よく、分からないのです。
こんなに雨が降ってしまっては、参拝者のたった一人も、1匹も、来やしません。
「誰か」が来るなら、その「誰かのため」に雨宿りの宿坊も、タオルや少しの軽食も提供しますが、
ふわふわタオルも、美味しい手まり稲荷寿司も、
ぜんぜん、ちっとも、誰のためにもならぬのです。
稲荷神社の神職一家は、父親母親はそれぞれ仕事に、おじいちゃんおばあちゃんは雨音に茶をすすり、
末っ子は人間に化けるのもやめてコンコンと、
……「コンコンと」?
「小ちゃいキラキラが1枚、小ちゃいキラキラが2枚、3枚、4枚……」
そうです。末っ子はなんと、人間に化ける妙技を持つ化け狐だったのです。
つまりその某稲荷神社は、不思議な狐が運営する、不思議な不思議な稲荷神社だったのです。
何故こんなトンデモ設定なのでしょう。
物書きが去年の3月1日の初投稿から続けてきた連載風のハナシの中で、去年のひなまつり頃に妙な狐のフィクションを書いたからです。
細かいことは気にしない、気にしない。
しゃーないのです。
「おっきいキラキラも、1枚、2枚……」
さて。
ザーザーぶりの雨の中、お外に出られぬコンコン子狐、小銭入れた宝箱をひっくり返して、宝物である硬貨を丁寧に、多分丁寧に数えております。
それは子狐が貯めたお小遣い。稼いだお駄賃。
コンコン子狐の一族は、小さい頃から稲荷のご利益たっぷりなお餅を作って売って、それでもって、人間を学ぶのです。
今は漢方医のお父さん狐も、今は巫女さんのおばあちゃん狐も、子狐の一族はまず最初に、みんな稲荷の餅売り修行をしたのです。
なお嫁入りしてきたお母さん狐と婿入りしてきたおじいちゃん狐は別の一族だったので気にしない。
「んんん。ちょっと、まだ、足りない」
100円硬貨と新旧500円硬貨を双方数えて、合計して、子狐が欲しい物の目標金額まであと少し。
お母さん狐とお父さん狐、それからおばあちゃん狐とおじいちゃん狐のために、コンコン子狐、夜道散歩用にして防災用品にもなるという、手提げの小さめな鉱石ランタンなるものを買いたいのです。
某所でこっそり聞いたハナシによると(メタい話をすると過去作、前回投稿分の物語なのですが)、
技術料込み、1個2000円以下で、光源がLEDライトのなかなか明るい手提げランタンを、作ってくれる人が在るのです。
お仕事で夜帰ってくることもあるお父さん狐や、散歩が趣味のおばあちゃん狐にプレゼントすれば、
それはそれはもう、きっと、それは。
大喜びしてくれるに違いないのです。
今までお駄賃もお小遣いも、ほとんど自分のためだけに使っていたコンコン子狐。
そのお金を、誰かのために使うならば、思いやりの大きな一歩です。優しさの美しい一歩です。
コンコン子狐、自分ではなく他の誰かのために、始めて合計8000円の高額取引を画策中なのです。
ざーざーざー、ばちばちばち。
大雨が屋根を叩く家の中、それでもコンコン子狐は、お母さん狐とお父さん狐、それからおじいちゃん狐とおばあちゃん狐が自分のプレゼントを気に入ってくれる想像をすることで、
それはそれは、もう、それは。とっても幸福な気持ちになって、尻尾をぶんぶん振っておったとさ。
「『鳥かご』、とりかごねぇ……」
前回が前回で今回も今回。難題去ってまた難題。某所在住物書きは19時着の題目を見て、今日も天井を見上げ途方に暮れた。
「『いわく付きの鳥かごがひとつありました』と、『鳥かごの中の鳥は幸福でしょうか不幸でしょうか』と、『◯◯さんはまるで、鳥かごに囚われた鳥みたいでした』と?あと何だ……?」
うんうん恒例に悩んで複数個物語のネタを書くも、「なんか違う」と頭をかいては白紙に戻す。
妙案閃かぬ苦悩の顔はチベットスナギツネである。
「ダメだわ。頭固くて思いつかねぇ」
次回はもう少しイージーなお題でありますように。物書きは祈り、ため息を吐いたが……
――――――
例の雷と雨が酷かった日の都内某所、某支店。
大雨と雷の予報で客が一人もおらず、ほぼほぼ完全に開店休業状態であったところの昼休憩。
照明は最低限以外の半分が消されている。
3月からこの支店で働いている通称「後輩ちゃん」の高葉井、コウハイは、
「万が一の停電に備えて」の建前で、自作の小さなランタン照明モドキを持参しており、
それが、ぱったり、同僚の目に留まった。
「百均の鳥かごのオーナメントと、LEDのマルチアングルライトを使ってるの」
昼休憩、さてさてランチと弁当箱を取り出した同僚。
後輩ちゃんのメニューは何だろう、ふと視線を移した先に、見よ、なにやらちょっとカッコいい照明。
いわゆる鉱石ランタンである。
なかなかの光量で、優しい黄橙色を発している。
なんだそれ。なんだそのカッコいいもの。
同僚は高葉井に、ランタンに負けぬ輝度の瞳で尋ねた――どこで買ったのそれ。……え、自作?
「鳥かごの底切って、その底にライトを接着剤で、
くっつける前にそのライトに鉱石みたいなクリアオブジェ固定するの。全部百均で手に入る」
カチ、カチ。ライトのスイッチを消して付けて。
「雷で停電からの、真っ暗とかヘコむじゃん」
小型のLEDライトから放たれた光は、直後に鉱石を形どったオブジェに進入・反射して、オブジェ全体を輝かせてから鳥かごの外へ出ていく。
「『ライト+ペットボトルでランタン』って防災トリビア見て、『ならペットボトルじゃなくて鉱石オブジェ使えば鉱石ランタンでエモいよね』って」
これならバッグチャームにもなるし。普通に普段から持ち運べるし。なによりエモい。
高葉井は自作ランタンの性能をひとしきり確かめると、満足して数度頷き、それからようやくバッグからランチボックスを取り出した。
「後輩ちゃん。後輩ちゃん」
「なぁに付烏月さん」
「それ、材料費、おいくら百円」
「鳥かごオーナメントとクリアオブジェとライトで330円。あとは接着剤と、私の場合鉱石をレジンで盛り増ししたからレジン代。以上」
「レジン?」
「私は百均縛りで、百均のLEDレジン使った」
「百均の、えるいーでぃー……LED、レジン?」
「欲しいの?」
「あくまで防災用品としてだよん」
「つまり、欲しいの?」
「鳥かごのバッグチャームが非常用ライトになるのは画期的だと、思っただけだよん」
「技術料込み、2000円以内で請け負います」
「2000円コースでお願いします」
お渡しは早ければ今日中となります。ヒヒヒ。
バーコード決済アプリで残高を移して、受け取って。片や照れながらも少々幸せそうに、片やオヌシモワルヨノウの典型的な含み笑い。
一瞬顔を見合わせ、互いの昼食に箸等々をつける。
ぷらぷら揺れる鳥かごの鉱石ランタンの先では、素直で真面目で人付き合いが酷く苦手な新卒が、
『趣味の開示で会話が広がることもあるらしい』と、さらりメモしておったとか。
おしまい、おしまい。