かたいなか

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6/23/2024, 3:35:44 AM

「個人的にさ。『連載は日常ネタ職場ネタとかが長く続けやすい』と思ってたのよ。生活してるだけでゴロゴロその辺にネタが転がってると思ってたから」
3月11日のお題が「平穏な日常」だったわ。某所在住物書きは過去の投稿を辿り、当時を懐かしんだ。
今回は「日常」2文字。言葉を付け足せば、非日常も、日常の脆さも書けるだろう。

「実際書いてみるとほぼ砂金探しなのな。
生活して仕事して、その中にハナシのネタは川の砂ほど有るんだろうけど、じゃあ、実際にネタの砂をふるいにかけて、そこに『コレ投稿したい!』と納得できるハナシの砂金は、何粒残りますか、っていう。
なんなら、眼の前に明確に書ける砂金が有っても、絶対何割か見落としちゃってますよねっていう」
まぁ、だからなに、ってハナシだが。「多分それお前だけだよ」って言われても反論できねぇし。
物書きはため息を吐き、天井を見上げる。

――――――

私の理想の日常。
気圧にも自律神経にも、ホルモンバランスにも振り回されず、朝は気持ちよく起きる。
身体は倦怠感無く動いて、朝はマーマレードトーストにとろとろチーズをのっけやつとか、余りがちのイチゴジャム溶かした自家製イチゴミルク、あるいはイチゴヨーグルトとか。

日曜日は朝を食べる前に、呟きックスで自分のズボラをポスって起床報告して、
それでも、誰も荒らさないし、ゾンビも湧かない。
ただごはん画像付きのリプと挨拶が飛んできて、
推しカプ・推しキャラの概念BGMを静かに聴きながら、カリカリのマーチートーストをかじる。

『今日の正午付近、空いているか』
個人チャットに、長い付き合いな職場の先輩から、メッセが届いて、私は少し気だるくそれを見る。
『私の行きつけの例の茶葉屋、得意先専用の飲食スペースで、新作メニュー試食会がある
お前の好きな肉系も提供予定だ。ついてこないか』

晴れの日光が天井のシーリングライトと一緒に朝のテーブルを照らして、
私は、気圧も自律神経も、ホルモンバランスにも振り回されてないから、ただ自分の「食べたい」の素直だけに従って、わざと数分待って返事をする。
『考えとく』
これが私の理想の日常。
これが私の、理想の日曜日の休日の、朝。

なお本日ガッツリざーざー降りのジメジメです。
おかげで倦怠感ハーフマックスです。
現実ってきびしい(だって梅雨)

――「しゃーないよ」
なんだかんだありまして、気がつけば正午過ぎ。
同じ支店で仕事してる付烏月さん、ツウキさんから、『ジャムの賞味期限が再来月だから、消費するの手伝って』ってデザート付きランチの誘いが来た。
「事実として、気圧に敏感なひと、少なくないし。そーいうひと、自律神経も振り回されやすいし」
しゃーない、しゃーない。
付烏月さんはキレイなサファイア色したジャムを炭酸水に溶かして、コップのフチにレモンをくっつけて、私に出してくれた。
「それ知ってるからこそ、附子山、もとい藤森も後輩ちゃんを気にかけてるんでしょ。俺のことも、必要なら遠慮なく頼れば良いよ」

「真っ青。バタフライピー?」
「そそ。バタフライピーとリンゴのジャム。青って珍しいから買ってみたんだけど、青だから、なかなか使い道が思いつかなくって」

「付烏月さんでも、お菓子作りで悩むの……?」
「あのね。俺のお菓子作り、日常的な趣味なの。非日常的なプロじゃないの。おけ?」
「のん。のん……」

付烏月さんから受け取った涼しい涼しいサファイアサイダーに、ジメジメを吹き払うレモンを絞れば、上から下にアメジストが降りていく。
湿度と気圧と倦怠感を、ダルくて少し不快な日常を、「自家製のバタフライピーサイダー」っていう非日常が、良さげに中和していく。
「一応ね。お気に入りのチーズケーキ屋さんが、コレ教えてくれたの」
付烏月さんが冷蔵庫からひとつ、お皿を取り出して持ってきて、私の前に置いた。
青と紫の透明なキューブジュレが乗っかったレアチーズケーキは、まるで梅雨の中の濡れたアジサイ。
非日常的なサプライズ。特別感満載のそれは確実に、私の心を良さげに整えてくれた。

「ここまでで、やっとジャム、残り半分なの」
付烏月さんが言った。
「さすがにさ、このチーズケーキとサイダーばっかりじゃ、リピートし続けるの無理でしょ」

「先輩と宇曽野主任呼ぼうよ」
「宇曽野さんは家族サービス中で、藤森は自室で地獄の在宅ワーク消化真っ最中。ムリ」
「嘘でしょ。うそでしょ……」

6/22/2024, 2:58:47 AM

「『何故、それが』好きな色か、好きな『何の』色か、好きな色『を使って何をしたいのか』。シンプルな分、アレンジもしやすいわな」
あと好きな色「が、嫌いな色に変わった経緯」とか、「私が好きな色は、あの人の嫌いな色」とか?
某所在住物書きは新旧500円硬貨の金と銀を眺めながら首を傾けた――白金色は要するに銀だろうか?

「『私が好きな色は白黒であって、断じて黒白ではない』とかにしたら、解釈問答書けそうだわ」
まぁ、頭の固い俺には常時書け「そう」であって、書け「る」までは百歩千歩遠いわけだが。物書きは更に首を傾け、最終的にうなだれた。
「色……いろ……?」
ところで日本には、「禁色(きんじき)」と「許色(ゆるしいろ)」なるものがあったらしい。
詳細は割愛する。

――――――

5月の「カラフル」に「透明な水」、4月の「無色の世界」。複数回「色」に関係するお題が出てきたこのアプリですが、今回は「好きな色」とのこと。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、そのうち末っ子の子狐は、不思議な不思議なお餅を売って、善良な化け狐、偉大な御狐となるべく修行をしておったのでした。

そんな子狐、たったひとりのお得意様である某アパート在住の雪国出身者から、なんと臨時の高収入。
お得意様が言うには、前のブショのバカジョーシが今日の半日ギョーム終了直後、突然頼み事をしてきて、
キューキョ来週「ユーキュー」を取りたいらしく、「ジムサギョー」と「シリョーサクセー」を私にタイリョーに押し付けてきたから、料理の時間を削ってザイタクの仕事時間にあてたい、とのこと。

お肉や野菜がたっぷり入った減塩低糖質のヘルシー惣菜餅を、2日半の8食分。それからおやつをたっぷり7個。しめて15個3000円。
コンコン子狐、いっちょまえに言葉は話せるので頭はそこそこ賢いのですが、なにせまだまだ生まれて○年なので、「馬鹿上司」だの「有休」だの「事務作業」だのはちんぷんかんぷん。
とりあえずお得意さんがいっぱいお餅を買ってくれた、それだけ覚えて、野口さんを3枚、代金として受け取りました。

「やった、やった!」
お札を3枚も貰った子狐。ぴょこぴょこ跳んで喜びます。ピラピラお札はキラキラ硬貨ほどキレイではありませんが、これ1枚さえあれば、子狐の欲しい物は、全部、全部手に入るのです。
「ピラピラが、こんなにいっぱいある!」
さっそく子狐、神社のお家に跳んで帰りまして、
野口さん3枚と、小さなお気に入りの宝箱を持って、ちゃんと人間に化けてから、人混みごちゃつく真夏日予報の商店街に走っていきました。

まず化け狐仲間の駄菓子屋さんで、子狐はチャリチャリキレイなおはじきと、コロコロかわいいビー玉を、野口さん1枚で買いました。
赤青紫のビー玉と、おはじきとお釣りが入り、宝箱の中に色が増えました。
赤も青も、勿論紫も、コンコン子狐の好きな色。
夕焼けと青空と、夜明けの色でした。

それから化け狸の和菓子屋さんで、子狐はあまーい金平糖と、明るい金色に透き通ったべっこう飴を、野口さん1枚で買いました。
薄緑色に薄桃色、白の金平糖と、明るい金色のべっこう飴で、宝箱の中はもっと色が増えました。
緑も桃色も白も金も、コンコン子狐の好きな色。
森の若葉と桜の花と、それらに差し込む朝夕の木漏れ日の色でした。

最後に魔女のおばあさんの喫茶店で、子狐は涼しく冷たいミントティーと、優しいマカロンとショートケーキを、野口さん1枚でご馳走になりました。
宝箱の中身は何も増えませんでしたが、子狐の心とおなかは、ほっこりいっぱいになりました。
ミントティーもマカロンもショートケーキも、コンコン子狐の好きな色で構成されていました。
だってお茶は若葉色、マカロンは桜色。ショートケーキには夕焼けの赤が飾られていたのですから。

「赤青紫、白に金色、色がいっぱいだ!」
好きな色でいっぱいになった宝箱の中を、キラキラおめめで確認して、コンコン子狐は大満足。
家に帰ってそれから1日、その日のお日さまが暮れるまで、子狐は、おはじきとビー玉と金平糖と、べっこう飴とほんの少し残った硬貨を眺めて、幸せに、幸せに過ごしましたとさ。

6/21/2024, 3:16:31 AM

「あなたがいたから、『選択を誤った』のか『ミスを回避できた』のか、『新しい発見ができた』か」
何かの困難に耐えることができた、なんてバリエもあるんだろうな。過酷なダイエットとか。某所在住物書きは己の腹をプルプル、掴んでは上下に揺らした。
「あなたがいたから『そこに行くのをやめた』とか『アレを食えなくなった』とか、『彼は彼女と別れた』とかつったら、不穏なハナシも書ける、か?」

まぁ俺の場合、このアプリと、ハートくれる誰かがいたから、1年以上投稿を続けてこれたワケだが。
物書きは腹を突っつき、ため息をひとつ吐いて、ふと気付く――お題、全部ひらがなだな。
「『貴方が板から』も可能ってこと?」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
防音と防振設備のよくよく整えられたそこの、部屋の主を藤森というが、
心地良く響く木材の切断音とサンドペーパーの往復を、その発生源を、ポカン顔で見つめている。

シャッシャッシャ、シャカシャカシャカ。
完全に手慣れた作業は、趣味の賜物とは思えない。
藤森の職場の後輩と彼女の趣味仲間が、驚異的な手際で木材を――間伐杉の中古板材を加工していく。
「ヤバくない、私達、ツー様の執務室のポールラック錬成してるよ。すごいよ」
後輩が言った。
藤森は「ツーサマ」なる単語を知らない。
「あのね。ルー部長のコート掛けたい。先輩さんの丈に合わせて作って良き?良きよね。ありがと」
後輩の趣味仲間が言った。
藤森は「ルーブチョウ」も知らない。

後輩よ。 後輩のご友人よ。
あなたが いた から つくりだしているのは、
本当に、ほんとうに、サマーコートやストール、マフラーあたりを掛けるための、ポールラックか。
そのにんしきで、 あっているのか。
設計図も説明書も無く図面を引いて、迷いなくノコギリを動かし、ヤスリをかける淑女2名を、藤森は奇跡の所業かプロの本気でも見る心地でいた。

「『プロ』?私達、完全にアマチャンですけど」
「そうそう。本業のレイヤーさん、もっと神だし」
すべての発端は先日。メタフィクションな物言いをすれば、前回投稿分。
藤森は己の趣味によって、季節の花と山野草を、それから子狐と子狸の相合傘を、写真におさめた。
コンコンとポンポコの愛くるしい風景を、藤森の後輩がいたく気に入り、データのプリントを要請。
そこからアレよコレよとハナシがトントン進み、いつの間にか後輩の趣味仲間が合流し、
近くの神社でハンドメイド衣装の着用例の撮影、
同社で自作概念アクセサリー着用例の撮影、
少し移動して云々、かんぬん、以下略。
日頃、動植物や景色だけを撮る藤森。後輩とその趣味仲間に頼まれるまま、数時間たらずで一生分、人間とアクセサリーと衣服を撮った。

『写真が趣味でも「美しい写真」の撮影は高等スキルだし、撮影場所のコネと人脈はひとつの才能』
写真撮影の礼として、藤森の後輩と彼女の趣味仲間は、無償で家具ひとつの作製を請け負った。
その家具がポールラックだったのだ。
『「写真撮影と家具ひとつが釣り合わない」?
いや全然等価交換だけど?』
ダメ元で「実は」と申し出た藤森の部屋に、後輩が杉の板材を持ってきたときは、酷く驚いた。
冗談だと思っていたのだ。己の写真に一切の価値を認めていない藤森であったから。

ぶっちゃけ「あなたがいたから」のお題解消ゆえの苦しまぎれなこじつけであることは、事実ではあるものの、深く気にしてはいけない。

「こっち切るの終わった。ヤスリ手伝う?」
「大丈夫。先輩さん先に測っといて」
「おけ」
本当にこの重労働が、私の写真撮影と等価なのか?
藤森のポカン顔は今もなお継続中。
後輩とそのお仲間の手により瞬時に、かつ端材少なく形を変えていく板材を、それこそ、ポカン。

後輩よ。 後輩のご友人よ。
本当に、本っ当に、あなたが板から、流れる無駄のない作業と所業で作っているそれは、私の趣味道楽なんかと釣り合う価値であるところの家具か。
藤森はただただ、深く首を傾けた。

「先輩、先輩立って両手広げて」
「……」
「大丈夫ヘンなことしないから。
はいピシっと立って。もちょっと腕上げて。
はーい、はーい。ほいほい……」

6/20/2024, 2:53:55 AM

「『あいあいがさ』って、こう書くのな……」
相合傘ネタ、5月29日に投稿しちゃってたっけ。
某所在住物書きは今回投稿分に悩み、天井を見た。
「シチュは作れるの。カンタンさエモくすんの。仕事に酷く疲れた後輩とその先輩でも放り込んどけよ、雨の中で先輩が濡れた後輩に傘差し出すから」
でもエモなお題には非エモで対抗したいのよ。物書きは己のこだわりを告白し、今日もため息をつく。

「ふーん、ウィキの『傘』の項目によると、『中国や韓国では、従者が主人に差し掛ける「差し掛け傘」はしばしば見られるけれども、相合傘は日本にのみ見られる図様である』。
『単純に例の相合傘マークが日本のローカルネタなだけです』じゃなくて?マジ?」

――――――

私がつい数ヶ月前まで勤めてた本店に、花や自然風景の写真を撮るのが趣味の先輩が居るんだけど、
その日久しぶりに一緒にごはん食べたら、珍しく腕を日焼けして少しヒリヒリしてそうだった。
日焼け止め、塗ってないらしいし、日傘も使わない民らしい。先輩、アカンやで(シミ予防、将来の皮膚ステータス、皮膚がんの潜在的リスク、美容)

で、腕をヒリヒリにしながら何を撮ってたかというと、やっぱり花、ハナ、はな。
物持ちの良い先輩が、最近敢えてスマホを新調したらしくって、その性能確認をしたかったとか。

「先輩リンゴフォン買わないの?」
「何故?」
「カメラ、バチクソ良い。2台持ち便利だよ」
「あのな。OS違いの2台だ。リンゴをカメラ専用にするとしても、私に使いこなせると思うか?」

「できるでしょ?先輩だもん」
「私を過大評価するな」
「できるもん。おいでませリンゴ教」
「つつしんで拒否申し上げる」

スワイプ、スワイプ、スワイプ。
元々撮るのが上手な先輩だから、画素数が変わったってことくらいしか、あんまり驚かない。
スワイプ、スワイプ。
先輩から借りたスマホに、すいすい指を滑らせて滑らせて、相変わらずのキレイな花びら、接写、青空と緑のコントラストなんかを見続けてたら、
突然、バチクソにかわいい写真がヒット。

相合傘だ。
子狐と子狸が地面にペッタリ伏せて、大きめのフキの葉の下で、相合傘みたいにこっちを見てる。
多分先輩のアパート近くの稲荷神社の森だと思う。
木漏れ日がところどころに光を投げてるから、
きっとそれは、日傘の相合傘だった。
かわええ(ポンポコこんこん)

「先輩こういう写真も撮るんだ」
「ドン引きしたか」
「なんで?バチクソにかわいい。上げれば絶対千バズできるよ。コンとポンの相合傘だもん」

「その前におそらくエキノコックス警察と過激な動物愛護の突撃を食らって面倒事になる」
「あっ。わかる。完全に脳内再現できる。なんならそこにインプレゾンビが湧くまである」
「あるな。あるだろうな……」

何枚か撮られてた、子狐と子狸の相合傘。
こっちを見て、コンポコで見つめ合って、子狸が背伸びして立ち上がったら葉っぱが頭に当たって。
狐の方がカジカジ、ちょっと茎をかじってみて、すぐに口を離しておキツネドリル。
ところどころ数枚、ピントがズレてぼやけてたけど、それらのかわいい相合傘は、私の心を癒やした。

「そろそろスマホ、返してくれないか」
「ちょっと待って。もちょっと見せて」
「そんなに良い写真でもないだろう」
「それは先輩の感想だし。コンポンかわいいし」
「コンビニで刷ってやろうか?L判の写真紙に?」

「あざす。コレとコレとコレとコレ2枚ずつ」
「待て。本気にしないでくれ。冗談だ」
「1枚50円で合ってる?」
「あのな?」
「合 っ て る ?」
「あっ、いいえ、30円です」

なんでこんなことになってしまったんだ。
いや、私が妙なことを提案した自業自得だよな。
先輩はぽつぽつ呟きながら、写真のデータを編集して少しキレイに調整して、それをUSBに移してる。
「他に相合傘写真無い?」
「黙秘」
ため息吐いて、小さく数度首振って、私をチラッと見て、それでもやることはやってくれる。
「ちょっと、待ってろ」
先輩は席をたって、外に出た。この隣は青いコンビニだ。そこでプリントしてくれるんだろう。
先輩を待ってる間、私はプリント代の現金の持ち合わせを確かめて、小銭を探して、
最終的に諦めてスマホ決済の方の残高を確認した。

6/19/2024, 3:01:23 AM

「『勝手に』落下『する』、『意図的に』落下『させる』、『誰かによって』落下『させられる』。
あとは何だ、『自由』落下?落下『防止対策』?」
サーバーが「落ちる」とかは、落下ってより陥落が近いよな。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、ネット検索結果を辿っている。
「テーブルからパンが落ちる時、ほぼ確実にジャムを塗った面を下にして落下する、てのもあった」
落下って、結構いろんなハナシに持っていきやすいな。実際に書けるかは別として。
物書きはカキリ首を傾け、鳴らし、ため息を吐く。

――――――

夢オチネタが書きやすい気がする物書きです。
だって適当に夢を見ておいて、キリの良いところで現実サイドの自分の足を引っ張れば、簡単に「『落下』する心地」で起きることができるのです。
あの一気に落下する感覚、ネットによると「ジャーキング」と言うらしいですが、別の記事では「ミオクローヌス」なんて単語が出てきます。
どっちでしょうね。素人の不勉強なので、分かりません。 と、いう雑学は置いといて。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、偉大な化け狐、善き御狐となるべく、人界で絶賛修行中。
まだまだお得意様はひとりだけですが、ぺたぺたコンコン、お餅をついてアレコレ入れて、狐のおまじないをひと振り、ふた振り。
週に1〜2回の頻度で売り歩きます。
子狐のお餅は不思議なお餅。ウカノミタマの大神様のご利益ある、心の病や魂の傷を癒やし、ちょっと運を良くしてくれます。
高コスパで、バチクソありがたいお餅なのです。

今日もコンコン子狐は、お守りさげて人間に化けて、白いホタルブクロの明かりと、お餅を入れた葛のカゴを手に、たったひとりのお得意様の、アパートのインターホンを鳴らしました。
今回のお餅は特別なお餅。1年に1回だけの「落とし餅」。昔々から続く、ひとつの農耕儀礼でした。

「おとくいさんも、今年のおとしもち、どうぞ」
キラキラ硬貨が好きな子狐のため、コインケースを持ってきたお得意様。真面目な雪国出身者でして、名前を藤森といいます。
その藤森を、うんと見上げて、コンコン子狐、いつもより少し小さめなお餅を差し出しました。
「『落とし餅』?」
「そろそろ、ぜんこく、つっつウラウラ、田植えが揃うの。早いとこは3月で、遅いとこは今頃なの」
「そうだな」
「田植えが終わったら、さのぼりなの。泥落としで、虫追いなの。稲を食べちゃう悪い虫さん、心を弱らせる悪い虫さん、落とすの」
「そう……だな、多分?」
「だからおとくいさんも、おとしもちで、今年の悪い虫さん落とし。どうぞ」
「そうか」

「心のばるさーん、魂のごきーじぇっと」
「それはちょっと違うと思う」
「とんでとんで、まわっておち〜るぅ」
「聞いてくれ子狐。多分、違う」

それは、田植えの終わりを祝い、五穀豊穣と悪疫退散を祈る、1年に1度だけのお餅でした。
かつてほぼ全国で祝われた、時期も形式も餅の有無さえ違えど、労働のねぎらいと豊作を願う根っこはきっと一緒であった、しかし昨今各地で失われつつある、日本の昔々でした。
藤森の雪降る故郷でも「さなぶり」として僅かに残る、稲田と生き四季を辿る風習の欠片でした。

「虫落としの餅か」
懐かしさと共に、餅をひと噛み、ふた噛み。落とし餅は藤森の心魂の中の、悪い虫にもっちゃり引っ付いて、それらを善良に落としていきます。
「お布施は、いくらが良いだろう?」
私のところでは、餅や御札を貰ったり、舞を舞ってもらったりする礼に、たしかお布施を渡していたから。
藤森は付け足して、説明しました。

コンコン子狐、まんまるおめめをキラキラさせて、小さなおててをうんと上げて、答えます。
「いっせんまんえんです」
パッタリ。藤森のコインケースが、落下しました。

「冗談だろう?」
「キツネうそいわない。いっせんまんえんです」
「よし分かった質問を変えよう。私が食ったこの餅と、虫落としの御札の値段は?」
「おとくいさん価格、おもちおんりー500円、ウカサマのおふだ3枚付き2000円。ぜーこみ」
「……御札付きを、ひとつ」
「おキツネみくじ5000円おつけしますか」
「そんなコンビニの箸やスプーンを付けるノリで言わないでくれ。いらない……」

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