かたいなか

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6/18/2024, 2:56:26 AM

「4月19日が『もしも未来を見れるなら』だった」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。

「未来『は明るい』、未来『を変えてはいけない』、未来『に行くタイムマシンは理論上存在し得る』、未来『が分かってりゃ誰も苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来とか、『人の絶えた』未来とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……

――――――

未だ来ない、未だ来週・来月・来年ではない、「『未年』の誰かが来る」はさすがに難しい。
なかなか、おはなしのネタの掴みどころの無いのが「未来」なような気がします。今回は特に捻らず、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近、最高気温30℃とかトチ狂った気温を叩き出した日の都内某所の昼下がり。
人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔が住む稲荷神社で、今年も水色や薄紫がこんもり見頃。
雨の花、大きな大きな大アジサイです。神社に住む子狐は、「お星さまの木」と呼びます。
大きめな葉っぱの上で、花は多くが上を向き、満開になれば、ふっくらこんもり花が寄り合います。それはまるで、お空の星粒が地上にやってきたようです。
偉大な御狐、善き化け狐として、お餅を作って売って絶賛修行中の子狐は、お星様そっくりな花の咲く低木を、「お星さまの木」と呼ぶのです。

狐の神社は森の中。いろんな星の花が咲きます。
キラキラ黄色いフクジュソウ、パッと白いヒメウツギ。それから、青と紫の「お星さま」。
コンコン子狐、餅売りの修行に少し飽きたら、たまに、大好きなお星様のところへ行くのです。

時折完璧な星の形をした水晶のキノコが、お星様を見に来た子狐に、
「あなた近い未来、たぶん明日、今日の夜ふかしのせいでお寝坊するから、ちゃんと早く寝て目覚ましかけておくのよ」と、「私を信じなきゃあなた未来で大変なことになるわよ」と、
未来予知が得意分野の御狐に、本当か嘘か知らない未来を、胡散臭い声で授けてきたりしますが、
そういう変な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、周囲の土ごと掘り起こされ、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドと放り込まれていました。
多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。

「お星さまの木の中は、涼しいなぁ」
コンコン子狐は枝と枝の間にスルリスルリ。水色のお星様を咲かせる木の中へ、入っていきます。
そこは子狐のお気に入り。枝の伸び具合と葉のつき具合で、中に子狐1匹分の「秘密基地」があるのです。
去年も似た場所に、小さな基地ができました。
今年もこの場所に、小さな基地ができました。
きっと来年も再来年も、その先も、子狐が大人狐になる未来まで、星空の秘密基地は、ずっとそこに、在り続けるのでしょう。

「お星さま、お星さま。良い夢分けてくださいな」
お星さまの木の中で、ガンガン熱気をさえぎる星空の下で、コンコン子狐は丸くなって、ふかふか尻尾を極上の枕に、お昼寝をすることにしました。
「お星さま、星の日傘、さしてくださいな」
最高気温30℃、朝から真夏日の都内でも、森の中のアジサイの、葉っぱの下に入れば快適です。
コンコン子狐はそのまま目を閉じ、スピスピ、幸福に寝息をたて始めました……

6/17/2024, 3:18:59 AM

「5月8日のお題が、たしか『一年後』だった」
1年前の6月17日って、俺、何してたっけ。去年の行動内容をスマホに溜め込んだ写真やスクリーンショットに求めようとした某所在住物書き。
1年を通り越し、サ終したアプリや消し飛んだ課金額に思いが動いて切なくなり、発掘は5分で終了。
塵は積もり、そこそこの小山となっていた。

「『今日から数えて』1年前だったら、2024年6月17日のハナシだが、『〇〇を実行する』1年前、とかならずっと昔のハナシも書けるんよな」
たとえば「ガチャ爆死する1年前」とか。「大量課金する1年前」とか。……とか。
「……あれ。おかしいな。涙が止まらねぇや」
その日物書きが金銭の話をすることは以降無かった。

――――――

生物学ガン無視な、約1年前のひなまつり。非科学バンザイで過去投稿分と多分繋がるおはなしです。
3月3日の都内某所。丑三つ時のとあるアパートで、当時人間嫌いと寂しがり屋を併発していた自称捻くれ者が、その日の仕事で使う資料を作りながら、無糖のコーヒーを飲んでおりました。

今では平静に穏やかに、かつ最低限以上には幸福な生活を送ってるこの雪国出身者は、名前を藤森といいまして、本当は真面目で誠実で優しいのでした。
と、いうハナシはひとまず置いといて。

都会の荒波と悪意に揉まれ、擦り切れ、はや十数年。藤森の心魂に蓄積した疲労が、重いため息となって、部屋の空気に飽和します。
金を貯めた先の、夢見た未来はどこへやら。
カップに残ったコーヒーを飲み干して、さてもう少し、とパソコンのディスプレイに向き直ったその時。

ピンポンピンポン、ピンポンピンポン。
こんな夜更けに誰でしょう。インターホンを連打するものが在りました。

「ごめんください!」
ストレスと深夜の眠気と、それから物語のお約束で、藤森が相手の確認もせずドアを開けると、
不思議な不思議な子狐が、右手にキツネノチョウチンの明かりを、左手に葛で編んだカゴを持ち、頭をうんと傾けて、部屋の主を見上げています。
「菱餅ヨモギ餅さくら餅、いかがですか!」
チリン、チリン。
揺れるキツネノチョウチンの明かりが、鈴のような美しい音色を、小さく静かに響かせました。

明らかに非現実的な状況です。藤森は数秒硬直して、フリーズした思考に無理矢理再起動をかけ、
「ゆめだな」
頭をガリガリ。ドアノブに手をかけました。
そりゃそうです。コンコンです。モフモフです。
人語を解するウルペスウルペス――ヤポニカだかシュレンキとの交雑種だかの幼獣です。
なんだこれ。 多分夢です。
「いけない。起きないと」

「待って!おねがい待って!」
きゃーん!きゃーん!ここココンコンコン!!
子狐が必死に藤森のズボンを引っぱります。
「このゴジセーなの、誰もドア開けてくれないし、おもち買ってくれないの」
そりゃそうです。急増する強盗・傷害事件によって防犯強化が叫ばれる昨今ですから。
「1個でもいいから、おねがい、おねがい」

きゃんきゃんきゃん、きゃんきゃんきゃん。
防音防振設備の完璧に施されたアパートとはいえ、さすがキツネ。子狐の懇願は、なかなかの声量。
とうとう根負けしてしまった藤森は、その日数度目のため息を吐いて、ひとまず子狐を部屋の中へ入れることにしたのでした。
「それで、私はお前から、どれを買えば良いんだ」

「おもち、かってくれる……!」
きゃんきゃん今まで泣いてた子狐、マネークリップを持ってきた藤森に、キラキラおめめを更に輝かせ、狐尻尾をぶんぶんぶん、ビタンビタン!
「えっと、えっと!ししょく、どーぞ!」
きゃきゃきゃっ、くぅくくく、くわぅ!
初めてのお客さんがそれはそれは、もう、それはとっても嬉しくて、コンコン子狐はついつい、試食用の小さいお餅ではなく、商品用の大きなお餅を、藤森に差し出してしまいました。

ああ、こいつは本当に、商売に慣れていないのだ。
税込み200円の値札を見て、そのわりに大きく、味も非常に良いお餅を、くちり、くちり。
藤森はじっくり噛み締め、よくよく味わって、
「もう1個、違う味のものを貰っても?」
値段によくよく同意したので、尻尾ぶんぶんの子狐に200円、現ナマでチャリチャリ渡しました。
「餅の販売は、今日限りか?店舗の場所は?」

それからというもの1年以上、藤森は餅売り子狐のお得意様。1年前から現代に至るまで、長いお付き合いがコンコンコン、善良に続いておったのでした。

6/16/2024, 3:14:50 AM

「意外と、何書くか、迷っちまうお題よな」
某所在住物書きは己の部屋の本棚を見つめて、一冊取ってはチラ見し、戻しを繰り返していた。
好きな本、すなわち食い物と酒と、一応薬と植物も。飲み食いに関する蔵書は計何冊になるやら。

「『誰の』好きな本か。好きな『何の』本か。好きな本『をどうするか』。なんなら好きな本『を書いたひと』のハナシも書けるし、好きな『電子書籍の』本『がサ終で読めなくなった』とかも」
毎度毎度、アイディアは出てくるけど、書けねぇ。
物書きは本を棚に戻し、今日もため息を吐く。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森というが、何のおとぎ話やら、
不思議な物言う子狐が部屋に来て、藤森の膝の上にお座りして、大きな絵本を読んでもらっている。
子狐はアパートの近所の稲荷神社に住まう狐で、その絵本は子狐の好きな本、好きなおはなしのひとつ。
何冊も持ち込んだわりに、何度も読んで読み終えては、それを「もういっかい!」藤森にせがんだ。
子狐いわく、「子供ってそーいうもの」。
どーいうことか、藤森には分からなかった。

「昔々、あるところにあった大きな花畑を、」
白と白と白。ユリによく似た形の花が、見開きいっぱいに描かれた美しい場面から、
ぱらり1枚、厚紙のページをめくる。
「人間が壊して慣らして道をひいて、家とお店を建てて、欲望渦巻く街に変えてしまいました」

次の見開きに描かれているのは、意図的におどろおどろしく描かれた黒い空、いわゆる昔々の昔話に登場する民家、恐ろしく描かれた人間、
それから、ひとりだけ光って見える「白い誰か」。
くわぁ、くあぁ。コンコン子狐は恐ろしい絵に怖がって鳴き、耳をペタリ、尻尾をくるり。
藤森に数秒しがみつき、また絵本を見る。

ぱらり1枚、次のページへ。
前ページで描かれていた「白い誰か」が、悲しみと憎しみで、泣いて、怒って。そして「欲深き人間ども」を、強大な力でやっつけるのだ。
 
「花畑に鎮まっていた花のおばけは、花畑を壊されて、悲しくて、うらめしくて、どろりどろり。
『おのれ、おのれ!欲深き人間どもめ!』
花のおばけはたちまち花の怨霊になってしまって、花畑を壊した人間を、次々こらしめ始めました。
えい! えい!
花の怨霊は強いので、そんじょそこらの陰陽師も、お坊さんも、刀や弓を持ったひとも、
えい! えい!
簡単に、やっつけてしまうのでした」

ここまで読み、ページをめくってきた藤森。
ちらり膝の上に座る子狐を見る。
コンコン子狐は、この後からの展開がお気に入り。
「そんじょそこらの人間」の手に負えないほど暴走してしまった花の亡霊を、2匹の狐が鎮めるのだ。
その2匹が子狐の祖父母の若い頃だという。
本当だろうか。藤森には分からなかった。

はやく、はやく!次を読んで!
展開を知っている子狐の心はクライマックスに向けて高まり、尻尾などビタンビタンのベシンベシン。
藤森の腹を何度も何度も叩く。
ぱらり1枚。次のページへ。

「このままでは、全員やっつけられてしまう!
人間たちがワンワン泣き出した、そのときです!
深い深い森の中から、金色に輝く3本尻尾の雄狐と、銀色に輝く2本尻尾の雌狐が現れて、
えい! えい!
花の怨霊を、すっかりこらしめてしまいました!

くわー、くわぁー。金色雄狐が言いました。
『花のおばけよ。お前の悲しみは、もっとも。
しかしお前はやり過ぎたし、やりかたも間違えた。
おまえは怒りに任せて、人間をいじめたのだ』
くわー、くわぁー。銀色雌狐が言いました。
『弱い人間を、いじめてはいけません。
人間がお前の愛するものを壊した以上に、
お前は人間の愛するものをいじめ過ぎたのです』

『なんということだ。なんということだ』
2匹の狐に叱られた花のおばけは、すっかり怨霊の悪い力が抜けてしまって、深く反省しました。
『たしかに私は間違えた。やり過ぎた。私はどうすれば、人間たちにごめんなさいができるだろう』」

ここからが、クライマックス。
反省した花の亡霊を、金の雄狐と銀の雌狐、つまり子狐の祖父母が不思議な力によって、
毒として人間をいじめ、薬として人間を助ける、白いヤマトリカブトに変えるのだ。
花に変じた花の亡霊は、2匹の不思議な狐のおかげで今も、己の愛した花畑のあった場所に建てられた稲荷神社で、人間を見守り続けており――

「……ふぅ」
藤森は続きを読まず、絵本をぱたり。
電池が切れたコンコン子狐、数度目の絵本リピート朗読の果てに、とうとう寝落ちてしまった。
大好きな本の読み聞かせは、これでおしまい。
就寝子狐はフカフカクッションのベッドの上へ。
「好きな本を聴きながら寝落ち。贅沢なことだ」
夢の中の子狐は答えない。ただ幸福に腹を上下させ、時折寝言を吠えるだけである。

6/15/2024, 3:42:18 AM

「『あいまい』ってなんだって、検索したのよ」
前回投稿分、13日のはやぶさの日を、まだ引きずっているらしい某所在住物書き。当時の画像を見ては泣き、当時の動画を観ては鼻をかむ。
弱い涙腺の面目躍如。歳をとるとは、かくの如し。
すなわち落涙のタガにガタが来るのだ。

「サジェスト検索に『アイマイミーマイン』だとさ。最初『何だっけソレ』って、約15年前の某『アイマイマイン』な歌と脳内で誤変換したわ」
単純に英語「アイ」の三段活用よな。懐かしいわな。
物書きはぽつり呟き、口をとがらせて、
「『曖昧な空』じゃなく『I My な空』とか一瞬閃いたんだ。……『どう書けってよ』って即ボツよな」

――――――

「でもね、昨日の話、藤森先輩のハナシによると結局はやぶさの育ての親の故郷、今アジサイあんまり咲いてないらしいの。見頃は7月頃なんだってさ」
「よく知ってるね」
「去年先輩から聞いた。『日当たりや周辺温度の条件が良い場所なら、ごく一部咲いている筈』って」
「藤森、そこの出身だっけ?」
「違うって言ってた」

土曜日だ。 土曜の午前営業だ。
相変わらず、ふぁっきん梅雨シーズン継続中。
職場は再拡大してきたらしい感染症への対策ってことで、換気機能付きの冷房と空調機をダブルで稼働中だけど、なんだろう、雰囲気が既に多湿。
窓の外は今のところ晴れてるけど、天気予報によれば、午後2時頃から曇り空。
降水確率40%の、たまにどこかで降ってそうな降ってなさそうな、非常にあいまいな空がずーっと続くとみられてる、らしい。
何度も言うけど、雰囲気的湿度が酷くて、蒸ッし蒸しだ。ふぁっきん(大事二度)

「ところでさ」
私のデスクの向かい側で作業してる付烏月さん、ツウキさんが言った。氷の入ったクラフト紙色の紙コップを差し出して。
「昨日、その藤森がちょくちょく通ってる茶っ葉屋さんに、言ってみたんだけど」
中身はミントをブレンドした台湾烏龍茶。
冷房使ってるとはいえ蒸し暑い雰囲気の店内。スッキリしたアイスティーは、ひとつの救いだ。
「今年の新発売ってのを、店長さんが丁度お店に並べてたの。ミント入り水出し台湾茶だってさ」

「丁度チョコ持ってる。付烏月さん2個あげる」
「後輩ちゃん、チョコミン党?」
「言うほどじゃないけど好き」
「月曜日、少しミントきかせたチョコ系プチマカロンか何かでも、せっかくだし」
「やった付烏月さん愛してる」

ところでお仕事、進捗は? 私を見る付烏月さんに、ひとまずリュックから出したチョコを2個シェアして、チョコ食べつつミント台湾茶飲みつつ。
これからあいまいに傾く予報の空と、じめっとした雰囲気が、ちょっとだけ気にならなくなる程度には、ミントの冷たさとチョコの甘さは偉大だ。
「そういえばこの近所に、おいしいチョコミントの専門店あるよ。去年見つけたの」
「『午前営業終わったら一緒に行こう』って?」
「別に、強制はしないの。でも付烏月さん、お菓子作り趣味じゃん。今後のアイデアのひとつにでも、ならないかなぁ〜、なんて」
「はぁ。そりゃどうも」

何度も聞いて悪いけど、本当に進捗大丈夫?
少しだけ心配色の濃くなっていく付烏月さんをチラ見しながら、私は知らんぷりのつもりで、もう少しだけミント台湾茶を楽しんだ。

6/14/2024, 2:45:19 AM

「アジサイには毒があって、料理の飾りに使われていたとしても食うな、ってのはネットで見た」
花言葉は「辛抱強い」に「冷酷」等々。ふーん。
物書きはスマホ画面を見て、長考に頭をガリガリ。
花以外の抜け道が無いか、探している。

4月の「桜散る」に2月の「花束」と「勿忘草(わすれなぐさ)」、去年に戻って9月の「花畑」に6月25日頃の「繊細な花」等々、等々。
このアプリは花のお題が数回登場するようだ――そのわりにヒマワリやスズランを書いた記憶がない。
恋愛系にエモネタがよく選ばれ、出題されている気がするのに、なかなか不思議なことだ。
春の「スプリングエフェメラル」など、「春の儚い命」みたいなエモエモ単語なので、それこそお題として出てきそうなのに。

「まぁ、いいや。エモ書きたくてこのアプリに投稿してるワケじゃねぇし」
ガリガリガリ。物書きは呟く。 で、何を書こう。

――――――

昨日は「はやぶさの日」だったそうですね。
どうしても花以外を書いてみたかった物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
昔々の6月13日、1機のはやぶさが多くの人に見守られながら、空気の摩擦に火をまとい、流れ星と同じ要領と美しさで、大気圏に突入して消えました。

「第20号科学衛星MUSES-C」とも言うそうです。「アトム」という名前だったかもしれないそうです。
なんやかんやあって「はやぶさ」と名付けられたはやぶさは、2003年に打ち上げられ、2010年の6月13日に、運用が終了しました。

はやぶさの、複数ある「おつかい」のひとつは、遠くの小惑星から小石や砂を持ってくることでしたが、その道のりは初っ端から、困難苦難の連続でした。
打ち上げ半年で太陽フレアに焼かれるわ、2年後11月には実家の地球と通信途絶するわ。道中故障とアクシデントで、もう踏んだり蹴ったりです。
それでもはやぶさは、辛抱強く目的地に辿り着いて、必要なものをガバチョと手に入れました。

かえろう、さあ、かえろう。
はやぶさを送り出してくれた皆がはやぶさの帰りを、梅雨空に上向いて咲くあじさいのように、空を見上げて待っています。

なんやかんや、ここで語っては文字数の酷くなるようなことがあって、なんとか帰路についた後も、はやぶさに向けられた人の目は一部冷酷でした。
「1位じゃなきゃ駄目なんですか」でお馴染みの、当時の某事業仕分けでは、後継機開発など宇宙開発関連の予算がごっそり削減。
「お前のどこに税金つぎ込む価値があるの」と、
「お前より大事な事業はいくらでもある」と、
当時の政権から無情に無駄宣言されたようなもの、だったかもしれません(断言は避けるスタイル)
それでもはやぶさは辛抱強く、当初4年だった道のりを倍近くかけ、実家の地球に向け飛び続けました。

アクシデントと故障に見舞われながら、一部の人間に価値と意義と重要性を否定されながら、それでも辛抱強く地球の近くまで来たはやぶさ。
その頃には報道や動画投稿サイト等々で、多くの人がはやぶさを知り、応援し、到着を待っていました。
体がボロボロ満身創痍で、それでも辛抱強く役目を果たし続けたはやぶさが、最期の最後に目を開き、実家にしてゴールでもある地球を見て、何を思ったか。そもそも機械なので、何も思わなかったか。
まぁ、後者であることは事実なのでしょう。
小惑星探査機のはやぶさには、思考のための前頭連合野も、褒めてほしいと望む側坐核も無いのですから。

ただ6月13日、「はやぶさの日」が流れ星程度の短い間トレンドを横切って、
はやぶさの育ての親、プロジェクトマネージャーの故郷では、「辛抱強さ」を花言葉に持つ青や紫のあじさいが、その八割九割はツボミでしょうけれど、
一部だけ、ほんの一部だけ、空を見上げて花を開き始めて……いるかもしれません(断言は以下略)

多分二割、下手すれば八割九割、事実無根、実話に基づいたフィクションで成り立っているかもしれない、「あじさい」とはやぶさのおはなしでした。
おしまい、おしまい。

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