「アジサイには毒があって、料理の飾りに使われていたとしても食うな、ってのはネットで見た」
花言葉は「辛抱強い」に「冷酷」等々。ふーん。
物書きはスマホ画面を見て、長考に頭をガリガリ。
花以外の抜け道が無いか、探している。
4月の「桜散る」に2月の「花束」と「勿忘草(わすれなぐさ)」、去年に戻って9月の「花畑」に6月25日頃の「繊細な花」等々、等々。
このアプリは花のお題が数回登場するようだ――そのわりにヒマワリやスズランを書いた記憶がない。
恋愛系にエモネタがよく選ばれ、出題されている気がするのに、なかなか不思議なことだ。
春の「スプリングエフェメラル」など、「春の儚い命」みたいなエモエモ単語なので、それこそお題として出てきそうなのに。
「まぁ、いいや。エモ書きたくてこのアプリに投稿してるワケじゃねぇし」
ガリガリガリ。物書きは呟く。 で、何を書こう。
――――――
昨日は「はやぶさの日」だったそうですね。
どうしても花以外を書いてみたかった物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
昔々の6月13日、1機のはやぶさが多くの人に見守られながら、空気の摩擦に火をまとい、流れ星と同じ要領と美しさで、大気圏に突入して消えました。
「第20号科学衛星MUSES-C」とも言うそうです。「アトム」という名前だったかもしれないそうです。
なんやかんやあって「はやぶさ」と名付けられたはやぶさは、2003年に打ち上げられ、2010年の6月13日に、運用が終了しました。
はやぶさの、複数ある「おつかい」のひとつは、遠くの小惑星から小石や砂を持ってくることでしたが、その道のりは初っ端から、困難苦難の連続でした。
打ち上げ半年で太陽フレアに焼かれるわ、2年後11月には実家の地球と通信途絶するわ。道中故障とアクシデントで、もう踏んだり蹴ったりです。
それでもはやぶさは、辛抱強く目的地に辿り着いて、必要なものをガバチョと手に入れました。
かえろう、さあ、かえろう。
はやぶさを送り出してくれた皆がはやぶさの帰りを、梅雨空に上向いて咲くあじさいのように、空を見上げて待っています。
なんやかんや、ここで語っては文字数の酷くなるようなことがあって、なんとか帰路についた後も、はやぶさに向けられた人の目は一部冷酷でした。
「1位じゃなきゃ駄目なんですか」でお馴染みの、当時の某事業仕分けでは、後継機開発など宇宙開発関連の予算がごっそり削減。
「お前のどこに税金つぎ込む価値があるの」と、
「お前より大事な事業はいくらでもある」と、
当時の政権から無情に無駄宣言されたようなもの、だったかもしれません(断言は避けるスタイル)
それでもはやぶさは辛抱強く、当初4年だった道のりを倍近くかけ、実家の地球に向け飛び続けました。
アクシデントと故障に見舞われながら、一部の人間に価値と意義と重要性を否定されながら、それでも辛抱強く地球の近くまで来たはやぶさ。
その頃には報道や動画投稿サイト等々で、多くの人がはやぶさを知り、応援し、到着を待っていました。
体がボロボロ満身創痍で、それでも辛抱強く役目を果たし続けたはやぶさが、最期の最後に目を開き、実家にしてゴールでもある地球を見て、何を思ったか。そもそも機械なので、何も思わなかったか。
まぁ、後者であることは事実なのでしょう。
小惑星探査機のはやぶさには、思考のための前頭連合野も、褒めてほしいと望む側坐核も無いのですから。
ただ6月13日、「はやぶさの日」が流れ星程度の短い間トレンドを横切って、
はやぶさの育ての親、プロジェクトマネージャーの故郷では、「辛抱強さ」を花言葉に持つ青や紫のあじさいが、その八割九割はツボミでしょうけれど、
一部だけ、ほんの一部だけ、空を見上げて花を開き始めて……いるかもしれません(断言は以下略)
多分二割、下手すれば八割九割、事実無根、実話に基づいたフィクションで成り立っているかもしれない、「あじさい」とはやぶさのおはなしでした。
おしまい、おしまい。
6/14/2024, 2:45:19 AM