「『あいあいがさ』って、こう書くのな……」
相合傘ネタ、5月29日に投稿しちゃってたっけ。
某所在住物書きは今回投稿分に悩み、天井を見た。
「シチュは作れるの。カンタンさエモくすんの。仕事に酷く疲れた後輩とその先輩でも放り込んどけよ、雨の中で先輩が濡れた後輩に傘差し出すから」
でもエモなお題には非エモで対抗したいのよ。物書きは己のこだわりを告白し、今日もため息をつく。
「ふーん、ウィキの『傘』の項目によると、『中国や韓国では、従者が主人に差し掛ける「差し掛け傘」はしばしば見られるけれども、相合傘は日本にのみ見られる図様である』。
『単純に例の相合傘マークが日本のローカルネタなだけです』じゃなくて?マジ?」
――――――
私がつい数ヶ月前まで勤めてた本店に、花や自然風景の写真を撮るのが趣味の先輩が居るんだけど、
その日久しぶりに一緒にごはん食べたら、珍しく腕を日焼けして少しヒリヒリしてそうだった。
日焼け止め、塗ってないらしいし、日傘も使わない民らしい。先輩、アカンやで(シミ予防、将来の皮膚ステータス、皮膚がんの潜在的リスク、美容)
で、腕をヒリヒリにしながら何を撮ってたかというと、やっぱり花、ハナ、はな。
物持ちの良い先輩が、最近敢えてスマホを新調したらしくって、その性能確認をしたかったとか。
「先輩リンゴフォン買わないの?」
「何故?」
「カメラ、バチクソ良い。2台持ち便利だよ」
「あのな。OS違いの2台だ。リンゴをカメラ専用にするとしても、私に使いこなせると思うか?」
「できるでしょ?先輩だもん」
「私を過大評価するな」
「できるもん。おいでませリンゴ教」
「つつしんで拒否申し上げる」
スワイプ、スワイプ、スワイプ。
元々撮るのが上手な先輩だから、画素数が変わったってことくらいしか、あんまり驚かない。
スワイプ、スワイプ。
先輩から借りたスマホに、すいすい指を滑らせて滑らせて、相変わらずのキレイな花びら、接写、青空と緑のコントラストなんかを見続けてたら、
突然、バチクソにかわいい写真がヒット。
相合傘だ。
子狐と子狸が地面にペッタリ伏せて、大きめのフキの葉の下で、相合傘みたいにこっちを見てる。
多分先輩のアパート近くの稲荷神社の森だと思う。
木漏れ日がところどころに光を投げてるから、
きっとそれは、日傘の相合傘だった。
かわええ(ポンポコこんこん)
「先輩こういう写真も撮るんだ」
「ドン引きしたか」
「なんで?バチクソにかわいい。上げれば絶対千バズできるよ。コンとポンの相合傘だもん」
「その前におそらくエキノコックス警察と過激な動物愛護の突撃を食らって面倒事になる」
「あっ。わかる。完全に脳内再現できる。なんならそこにインプレゾンビが湧くまである」
「あるな。あるだろうな……」
何枚か撮られてた、子狐と子狸の相合傘。
こっちを見て、コンポコで見つめ合って、子狸が背伸びして立ち上がったら葉っぱが頭に当たって。
狐の方がカジカジ、ちょっと茎をかじってみて、すぐに口を離しておキツネドリル。
ところどころ数枚、ピントがズレてぼやけてたけど、それらのかわいい相合傘は、私の心を癒やした。
「そろそろスマホ、返してくれないか」
「ちょっと待って。もちょっと見せて」
「そんなに良い写真でもないだろう」
「それは先輩の感想だし。コンポンかわいいし」
「コンビニで刷ってやろうか?L判の写真紙に?」
「あざす。コレとコレとコレとコレ2枚ずつ」
「待て。本気にしないでくれ。冗談だ」
「1枚50円で合ってる?」
「あのな?」
「合 っ て る ?」
「あっ、いいえ、30円です」
なんでこんなことになってしまったんだ。
いや、私が妙なことを提案した自業自得だよな。
先輩はぽつぽつ呟きながら、写真のデータを編集して少しキレイに調整して、それをUSBに移してる。
「他に相合傘写真無い?」
「黙秘」
ため息吐いて、小さく数度首振って、私をチラッと見て、それでもやることはやってくれる。
「ちょっと、待ってろ」
先輩は席をたって、外に出た。この隣は青いコンビニだ。そこでプリントしてくれるんだろう。
先輩を待ってる間、私はプリント代の現金の持ち合わせを確かめて、小銭を探して、
最終的に諦めてスマホ決済の方の残高を確認した。
6/20/2024, 2:53:55 AM