かたいなか

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4/17/2024, 5:13:42 AM

「前々回、丁度夢オチネタ、投稿したばっかり……」
3月21日に「夢が醒める前に」を書いたわ。
某所在住物書きは今日も今日とて途方に暮れている。ちなみに去年の4月16日のお題は「ここではない、どこかで」で、同年の6月27日が句読点を取っただけの「ここではないどこかで」だった。
今年は被らない。今年はひとまず、異世界ネタを2度書く必要性は消えた。物書きはその点に関してのみ、安堵のため息を吐いた。

お題の重複は執筆の訓練に、特にひとつのネタを多角的に見るトレーニングになり得る。
『前回はこれを書いた』『次はこれの他を書く必要がある』『では前回と別の切り口で文章を用意しよう』
今回のお題変更は単純にその機会の喪失を意味するものの、去年を参考に言えば、重複お題は「ここではない〜」だけではない。

「夢オチ以外。あとエモネタ苦手だから『夢見る乙女心』みたいなハナシは書けねぇ。豆知識系も無理」
物書きは呟いた。重複のお題にせよ何にせよ、ひとつの単語を多角的に見る目は大切である。

――――――

夢を見ている「心」のおはなし、
夢見る「乙女、あるいは少年の」心のおはなし、
「夢見る心」の豆知識、ないしプチ講義、
ところで「桜」の異名が『「夢見」草』。
「夢見る」だけでも、色々ありそうですね。
そんなこんなの今回のお題ですが、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷神社のご利益豊かなお餅をペッタン作って売ったり、餅売りの唯一のお得意様相手に郵便屋さんごっこをしたり、お母さん狐がいとなむお茶っ葉屋さんの看板狐をしたり。
最近はポカポカ暖かいので、神社のお庭と参道のお散歩……もとい、警備巡回もはかどります。
ニリンソウ、フデリンドウ、ヒメウイキョウにキツネノチョウチン。春の花咲く神社のお庭を、子狐、よくよく念入りに、警備巡回します。

「おとくいさん!」
今日もコンコン子狐は、神社の敷地をトテトテチテチテ、至極幸福に歩きます。
「おとくいさんだ!」
やがて子狐は神社の中で、一番大きな「夢見草」の木、つまり桜の下にやって来ました。
ソメイヨシノより遅咲きで、ソメイヨシノほどの見ごたえも華やかさも無い、けれど確実に桜の仲間ではある筈の木の下で、餅売り子狐唯一のお得意様が、お昼休憩に仮眠など、どうやらとっているようです。

夢のように儚く散るためにその異名がついた桜。
神社で一番大きい桜は、日本で一番ぼっちの桜。
見ごたえも美しさも育てやすさもなく、同種は全部切られて掘り起こされて、次々ソメイヨシノやシダレザクラと入れ替わり、
今となってはその木の存在や、本当の品種名を知る人は、だーれも居ません。
付いた愛称が夢見桜。いつか受粉して実を結ぶことを夢見ながら、でも毎年叶わず花を落とす、完全ぼっちの桜なのでした。

で、その夢見る夢見草の下で、見知った人間がスマホの20分タイマーなど設定して、すぅすぅ、穏やかに昼寝などしておったのです。
コンコン子狐、しめたとばかりにこの人間に、びゅーん!突撃してドテっ腹に飛び乗って、
「げほっ、ごほっ! ……な、なんだ?!」
いきなり全力で腹を押された人間が咳き込みバチクソ驚くのも一切気にせず、
居心地の良いリネンとコットンの服の上で、くるくる、狐団子をつくり、お昼寝を始めてしまいました。

「あの、子狐。すまないがそろそろ、戻らないと」
そろそろ戻らないといけない時間なんだが。
タイマーをかけていたスマホを確認して、残り数分のアラームを解除したお得意様。全力で飛び乗られたおなかをさすりさすり、子狐団子を抱きかかえます。
コンコン子狐は優しい人間の腕のゆりかごで夢の中。
「こぎつね……?」

このまま子狐を桜の下に放置するにもしのびなく、
しかしそろそろ休憩を切り上げてリモートの仕事に戻る必要がありまして、
コンコン子狐のお得意様、ため息など吐いています。
そんなお得意様の葛藤を、善良な困惑とその心を、夢見る子狐が知る筈もなく、
くぅくぅ、くぅくぅ。幸福に寝言を歌って、更にお得意様を困らせましたとさ。

4/16/2024, 3:15:32 AM

「想いを詰め込んだDMが未読か送信不可、
バチクソ怒ってる相手に何度も謝罪と説明を繰り返すが全然伝わってない、つまり心に届いてない、
何時間も前から行列に並んだけど、自分の購入の番まであと2人ってところで届かなかったケーキ。
……『届かぬ』にも『想い』にも、色々あるわな」

個人的な実体験としては、「『こういうハナシを書ける物書きになりたい』って目標の同業は居たが、『目標にしてます』って想い、メッセージは、届けるつもりも予定も無い」ってとこかな。
某所在住物書きは今回配信のお題をネット検索しながら、ヒットした同名の歌の歌詞とサムネイルを見て呟いた――サジェストによればドラマもあるらしい。
観たことはない。

「電波の関係でDMが届かない、ってシチュは、なかなか書きやすそうだな」
物書きはひとり小さく頷いた。
「来年用に、ネタとしてストックしとくか……」
なお大抵そのストックは忘れられ、記憶から消えるらしい。「未来に届かぬ」ということで、今回のお題に少しは合致しているかもしれない。

――――――

早朝にトレンドが荒ぶった火曜日だった。
某キャリアの3G終了を見届ける投稿の横で、大っ量の「寝る前」がどうの、「助けが必要」がこうの。
投稿アカウントが、全員全部漢字ばっかり、っていうワードもあった。ブロックリスト提供あざすです(どうせブロックしてもすぐ次のゾンビさんが来る)

……呟きックス、今からでも遅くないから元の呟きアプリに戻らないかな(届かぬ想い)

で、そんなこんなの火曜日のお昼前。
ウチの支店は普段、あまりお客さんが来ないけど、
その日に限って、いつもに比べれば、チラホラ来客の姿があって、常連さんは支店長と一緒にお茶飲んだりお菓子食べたり。
そのお菓子が絶品だ。ウチの従業員の付烏月さん、ツウキさんお手製のプチまんじゅうだ。
あんバターに、あんホイップに、あんチーズ。勿論普通のあんこ味もある。
全部に1枚ずつ、桜の花びらが乗っかってる。桜の塩漬けっていうらしい。

東京の桜はもう結構散っちゃったし、最近春らしくない20℃超えばっかりの日々だけど、
桜の花びらを1枚くっつけたおまんじゅうは、確実にお客さんの目と舌を楽しませてた。

「ぶっちゃけ、作るの『は』、好きなんだよねぇ〜」
私のデスクに茶托と湯呑みをコトリ置いて、少しだけ申し訳無さそうな付烏月さんが言った。
「作るじゃん、作り過ぎるじゃん、独りじゃ全部は食べられないじゃん。……おすそ分けで持ってきて『美味い』って言ってもらえるからまた作るじゃん」
湯呑みの中にはアイスな緑茶。2個の氷が涼しい。
「堂々巡りだけど、まぁまぁ、この裏事情はお客さんにも支店長にも届かなくてイイよね」
一緒にバチクソ小さいけど、高級うな重に乗っかってる飾りの葉っぱみたいなのが浮いてる。ナニコレ?

「付烏月さん、湯呑みに浮いてるコレ、うな重の葉っぱみたいなの何」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「で?ツウキさん」
「木の芽だよん。山椒の葉っぱ。春の味覚と香り」
「ふーん」

「天ぷらにしてお塩振ると美味しい」
「マジ?!」
「山椒味噌も美味しい。今日お弁当に入れてきたから、ちょっとおすそ分けしたげる」
「あざすです附子山さん!」

スーパーで買うと少し高いし量が多いけどね。
お茶に入れると簡単にフレーバーティーになるから、余っちゃったら、丁度良いよね。
付烏月さんは追加情報を提示しながら、自分のデスクでノートのスリープを解除して、カタカタパチパチ。
自分で淹れた山椒入りのアイス緑茶を飲みながら、
昼休憩まで残り数十分のラストスパートをしてる。

(天ぷらと、味噌か)
湯呑みに口をつけ、日本茶の若葉色を喉に通すと、山椒の若葉のジャパニーズシトラスが鼻に抜けた。
湯呑みの中の氷が動いて、涼しげで、耳に心地良い。
(……チューハイよりはビールかな)
付烏月さんお手製の桜プチおまんじゅうを1個貰って、桜と山椒を一緒に楽しみながら、
だけど氷の音と「天ぷら」と「味噌」のせいでどうしてもお酒が頭から離れなくなっちゃって、
まぁ、まぁ。
そういう食欲、そういう勤務時間外のリクエスト、そういう想いは、誰にも届かない方が良い、と思った。

4/15/2024, 2:29:50 AM

「神様、来たな、かみさま……」
神様はこのアプリ、3部作になるのよ。今月の「神様へ」と7月あたりの「神様だけが知っている」、それから「神様が舞い降りてきて、こう言った」なんよ。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、今回はどのネタで行くべきか途方に暮れていた。
前回はそのまま、丁度自分の持ちネタに「稲荷神社に住む子狐」というキャラが居たため、文字通り「神様」を登場させた。
「神様だけが」に関しては、同設定を利用して、「御神木だけが知っている」とした。
今回は、どうすべきか。

「いっそ二番煎じも可能なんよ」
物書きは言った。
「だって約360個前の、長文の投稿だぜ。スワイプなんか面倒で面倒で、できやしねぇ。
……ただ俺自身も過去記事参照クソ面倒だがな」

――――――

すごくリアルな夢を見た。
私は自分のアパートで寝てて、そこに、職場で長い付き合いの先輩がいつの間にかお邪魔してる。
その先輩は今どの部署で仕事してるか、どこに住んでるかも分からない、藤森っていう名前の先輩で、
今月の2月まで一緒に仕事してた筈の、雪国出身の花好きなひとだった。

『起きろ。寝坊助』
夢の中だから、先輩が自分の部屋に居るのも、全然変に思わない。
『私の故郷の、桜のイベントに行きたいと言っていたな。支度しろ。新幹線の始発に乗るぞ』

私がおととい、13日頃に先輩に、「先輩の故郷の桜を見たい」とか手紙を書いて、
その手紙を、先輩の居場所を知る稲荷神社の子狐ちゃん(子狐くんかも)に持たせたのを、
ひょっとしたら、神社の神様が見てて、「願いを叶えてやろう」って、そういうシチュエーションの夢を見せてくれてるのかも知れない、
と、「夢の中の私は」、考えた。

『昨今のインバウンドだの、5類移行だのの影響で、あそこに関しては観光客が激増してしまった』
夢の中の先輩は言った。
『平日、かつ桜のまだ満開でない今、行ったほうが人は少ないし、ゆっくりもできる。
有給休暇は既に申請済みだ。急げ』
実際に先輩の故郷の桜が、まだ満開じゃないか、そもそも咲いてないか、いっそ既に見頃のピークかは知らない。ニュースの桜前線見てない。

神様へ。そのへん、どんなモンですか。
先輩の口調も、仕草も、バチクソにリアルで、ほぼほぼ4K8Kの高解像度な夢だけど、
神様へ、その辺の設定は、反映されてるモンですか。


――『私の実家の一番近く、お前が先々月行った「あの公園」に関しては、最近の高温でようやく開花宣言、あるいは1〜2分咲きの頃だと思うが、』
夢の場面が変わる。
舞台は私のアパートから、新幹線の車内に移る。
『お前が行きたいと行った方に関しては、既にある程度、咲いて桜を楽しめる程度にはなっている』
新幹線の中で私は、冷たいお茶と駅弁を楽しんで、先輩からイベントの場所の予備知識をご教授頂いて、

なんでだろう、稲荷神社がご実家の、漢方医な旦那さんとお茶っ葉屋さんな奥さんが、
私達の座席の、通路越しの隣で、
膝に例の子狐が入ったキャリーケースを載せ抱えて、
すっごく穏やかな顔して稲荷弁当食べてる。
くぅくぅ、くっくぅくぅ。
子狐の幸せそうに歌う声が、先輩の解像度同様、バチクソリアルに聞こえた。

『早咲き、ソメイヨシノより先に咲く桜に関しては、だいぶ開いている筈だ。胴吹き桜も咲いている筈だから、桜の木の幹を、よく見てみるといい』
お隣さんのことなんて、夢の中の先輩は気にしない。
『どーぶき?どーぶきって、何?』
夢の中の私も、お隣さんのことを気にも止めない。

『年齢を重ねた桜は、枝ではなく、幹から花を咲かせることがある。私の故郷の桜では、よく見られる』
『キレイ?可愛い?』
『どちらかというと、ちょこんと咲いているから、可愛いに分類されるだろう』
夢の中の私と先輩は、ただふたりして、駅弁とお茶を楽しんで穏やかにおしゃべりをして、

『さぁ、そろそろ――』
そろそろ、降りるべき駅に着くぞ、
ってところで、
案の定、夢から覚めた。

――「……知ってた」
気がつくと、最高気温夏日の朝、ベッドの上。
「うん。夢だよね。知ってた」
丁度スマホのアラームが鳴って、それを解除して、
バッタン。再度ベッドに倒れ込む。
もう少しだった。たとえ夢の中だけど、もう少しで、桜のイベントに行った気分になれた。

「あのさぁ〜……」
神様へ。せっかくあそこまで、夢を見せてくれたなら、力尽きずに最後まで夢見させてください。
私は大きなため息ひとつ吐いて、
仕方無いから、その日の出勤の準備にとりかかった。

4/14/2024, 3:48:10 AM

「雲の量が1割以下(0~1割)の状態を『快晴』、2割から8割の状態を『晴れ』。……つまり雲がほとんど無い日を言うわけか」
夜の雲無しも、「快晴」って言うんかな。某所在住物書きは窓の外を見ながら、明日の天気予報を、正確にはその最高気温を見つめた。
スマホの示す予報によれば、明日の東京も夏日、最高気温が25℃になる模様。
「真夏日でないだけマシ」。4月に抱く感想としては完全におかしいものの、事実現実だから仕方無い。

「これでホントに、春の間にエルニーニョ現象、終わるのかよ……」
4月で夏日なら、5月に猛暑日、あり得るのかな。
物書きはチベットスナギツネのジト目で、自室の窓の外を見つめ……

――――――

夏日到来。朝から直射日光と大変なニュース飛び交う快晴の日曜、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
比較的閑静な住宅街、宇曽野さん一家の一軒家に、
旧姓附子山、現在藤森という名字の、夫の方の親友であるところの雪国出身者が諸事情で居候しており、
朝から、でろるん、溶けておりました。

「あつい」
その日の最高気温は25℃。正しく、気象庁の定めるところの「夏日」です。
「しんでしまう」
今日は風の弱い、雲も少ない、花見日和の快晴。
4月の太陽はエルニーニョの暑い名残りをまとって、明るい日差しをすべてに届け、すべてを温めます。
室内の温度は20℃とちょっと。
極寒の田舎から来た雪の人は、それでも、でろるん、床に落ちて溶けておりました。

「うその」
「なんだ雪だるま」
「スマホで、なにをとっている」
「付烏月がお前の溶けてる姿を見たいとさ」
「つうきさん」
「『一緒に仕事してた時、そんな弱さを見たことは無かった』、『貴重だから見たい』だとさ」

ほら、お前の分。
「20℃超の『暑さ』」を知らぬ、東京生まれ東京育ちの宇曽野。今年の3月からの同居人の唇に、ソーダなガリガリアイスを近づけます。
ああ。つめたい。
でろんでろんだった雪の人、藤森は、文字通り灼熱地獄から救われたような顔をして、ガリガリアイスにかじりつきました。

「付烏月に言いたいこと、何かあるか?」
「じんべーを、」
「『じんべー』?」
「私の部屋から、甚平を持ってきてほしい」
「『甚平』……?」


…――「はいはい、見つけた〜!」
場面変わりまして、こちら、宇曽野邸に居候している藤森の自宅。某アパートの一室です。
「白い甚平でしょ?あったよん」
快晴の陽気が入り込む防音防振構造の静寂の室内で、白い甚平を日光にかざす男が在りました。
「宇曽野さんの自宅宛てに送っとくね〜」

藤森の部屋に居たのは、付烏月、ツウキという男。
諸事情で宇曽野邸に居る藤森に代わり、
部屋を掃除したり、ニリンソウだかフウロソウだかに似た葉っぱの茂る鉢植えひとつのお世話をしたり。
実は付烏月、藤森の前々職、都内の某図書館で一緒に仕事をした過去がありまして、
その頃の藤森は、都会と田舎の違いに揉まれて擦れて、人間嫌いの捻くれ者を発症しておったのでした。

『人間は、敵か、「まだ」敵じゃないか』。
そんな藤森が親友を持ち、後輩を持ち、他者に「暑さで溶ける」なんて弱さを開示できるまでになった。
藤森の昔々を知る付烏月にとって、それはとても、とても喜ばしいことでした。

4月の快晴で溶ける藤森の過去、付烏月が見た前々職の頃のおはなしは、過去作3月7日から10日付近、
藤森が自分の後輩とおそろいの白い甚平を買うに至ったおはなしは、去年の6月22日投稿分で、それぞれご紹介していますが、
双方スワイプがバチクソ面倒なだけなので、まぁまぁ、昔のことは気にしない、気にしない。

「これで加元が、藤森に激重独占欲で執着するの、いい加減キッパリやめてくれたらなぁ」
そうすれば、藤森が加元から隠れて宇曽野の家に居候する必要も、俺が藤森の代わりに藤森の部屋の管理をする必要も無くなるのに。
ため息ひとつ吐き、付烏月は小さく首を振ります。

「過去の恋愛トラブルで親友宅に避難。
んん〜。恋愛、独占欲、執着……」
端から見る分に関しては興味深いけど、
振り回される身としては、タイヘンだよねぇ。
そりゃ一時的な人間嫌いも悪化するよね。
付烏月はパタパタ、白雪のような甚平を畳みながら、窓の外、4月の快晴、夏日の陽光広がる外を見遣り、再度、長いため息を吐きました。

4/13/2024, 4:01:54 AM

「先々週だったかな、空としては、『星空の下で』を書いたばっかりなんよ……」
6月の「あいまいな空」、7月の「星空」、9月頃の「空が泣く」、あるいは10月の「どこまでも続く青い空」。このアプリはともかく空ネタが多い。
都内と、ほんの少しだけ雪国を舞台に現代軸リアル連載風を書き続けているが、東京の空に「遠く」の「空」などあっただろうか。某所在住物書きは窓の外を見遣り、再度スマホのお題通知を見る。
港区や品川区、江戸川区あたりはどうだろう。たとえば、海浜公園のような?

「……奥多摩西多摩あたりも、確実に空はある」
物書きは考える。
「でも多摩は『星空』のためにキープしておきてぇのよ。『東京にだって美しい星空がある』って……」
重複しやすいお題は、空、雨、恋愛、等々等々。ネタが枯渇しないよう、引き出しは多めに持ちたい。

――――――

「春」がどこかに行っちゃったような温暖が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今日は晴れた都内某所、涼しい涼しい、森深き稲荷神社を舞台に、遠くの空の下の桜を思うおはなしです。

最近最近のおはなしです。雪降る田舎出身の、名前を藤森といいますが、最近あんまり暑いので、
春なのに木陰の涼など求めて、在来の花のたっぷり咲く稲荷神社に来ておりました。
だって、最高気温23℃など、藤森の故郷の晩春初夏。来週25℃予想が続くらしいですが、4月にそんな気温が襲来しては、藤森、溶けてしまうのです。
雪女か雪だるまみたいですね。

さて。その雪女か雪だるまみたいな藤森です。
食材の買い出しの前に、お茶っ葉屋さんでカラリ氷の涼しげな冷茶をテイクアウト。
そのお茶っ葉屋さんの店主の実家であるところの稲荷神社で、飲んでも良いと許可が下りまして、
涼しい木陰に腰を下ろし、ニリンソウにフデリンドウ、エンゴサクなんかを見渡して、
ふわり、穏やかに笑っておったところ、

くわー!くわぁー!くわうぅぅー!!
藤森の顔面目掛けて、稲荷神社在住の子狐が、郵便屋さんのポンチョを羽織って突撃してきたのです!
「おてがみ、おてがみ!お届けものです!」
しかもこの子狐、人間の言葉まで喋っちゃうから、さぁフィクション。
子狐の郵便屋さんに関しては、過去投稿分4月6日や5日あたりの作品でも取り上げていますが、まぁまぁ細かいことは気にしない。

「子狐、どいてくれ!あと私の髪など食っても美味くない!」
尻尾びたんびたん、甘え声くぅくぅ、藤森の髪をカジカジして毛づくろいのつもり。
子狐コンコン、随分藤森に懐いています。
それもそのはず。花と風と雨を愛する藤森、この稲荷神社にはよく来るのです。

子狐は藤森が稲荷神社の花を撮りに来るたび、突撃して、腹を見せて、背中も頭も撫でてもらって、
「おてがみっ!」
そして、こうして郵便屋さんのポンチョを着ているときは、藤森の後輩から預かった手紙を藤森に届けたり、逆をしたりするのです。
「手紙は分かった、分かったから!離れてくれ!」

なんとか子狐を顔から引っ剥がし、後輩からの手紙を受け取った藤森です。
「どれどれ。『拝啓先輩 今年ここ行きたい! 敬具』。……『ここ』?」
相変わらず手紙というより、グループチャットのメッセージに近い。藤森が封筒の中をよく見ると、1枚の便箋の他、カラーのチラシが畳まれて入っています。
「『これ』か」

それは、藤森の故郷の盛春を楽しむ、桜のイベントのチラシでした。
去年藤森の出身地を知り、今年の2月の帰省にちゃっかり同行して、雪とグルメと花を堪能した後輩です。
今度は藤森の故郷の桜を、東京より遅く涼しい薄桃色の氾濫を、スマホで撮りたいようです。

「あそこの桜は、たしか今……」
雪国出身の藤森、遠くの空へ、思いを馳せます。
藤森の故郷からは少し離れた、しかし同じ都道府県内のイベント会場であるそこは、子供の頃、藤森自身もよく連れて行ってもらった思い出の場所。
東京の桜は見頃のピークを過ぎましたが、遠くの空の下、故郷の桜の木は、今頃どうしているのやら。

「子狐おまえ、まぁ行かないとは思うが、仮に私が桜の故郷に帰省するとしたら、何か欲しいものは?」
後輩からの手紙を畳んで封筒に戻して、藤森、尻尾をぶんぶん振り回す子狐の背中を撫でました。
子狐は食べ物やらお花やら、何かの善良な匂いを感じたらしく、尻尾をびたんびたん、更に幸福に振り回して、藤森の頬という頬、鼻という鼻をべろんべろんに舐め倒しましたとさ。

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