かたいなか

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「雲の量が1割以下(0~1割)の状態を『快晴』、2割から8割の状態を『晴れ』。……つまり雲がほとんど無い日を言うわけか」
夜の雲無しも、「快晴」って言うんかな。某所在住物書きは窓の外を見ながら、明日の天気予報を、正確にはその最高気温を見つめた。
スマホの示す予報によれば、明日の東京も夏日、最高気温が25℃になる模様。
「真夏日でないだけマシ」。4月に抱く感想としては完全におかしいものの、事実現実だから仕方無い。

「これでホントに、春の間にエルニーニョ現象、終わるのかよ……」
4月で夏日なら、5月に猛暑日、あり得るのかな。
物書きはチベットスナギツネのジト目で、自室の窓の外を見つめ……

――――――

夏日到来。朝から直射日光と大変なニュース飛び交う快晴の日曜、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
比較的閑静な住宅街、宇曽野さん一家の一軒家に、
旧姓附子山、現在藤森という名字の、夫の方の親友であるところの雪国出身者が諸事情で居候しており、
朝から、でろるん、溶けておりました。

「あつい」
その日の最高気温は25℃。正しく、気象庁の定めるところの「夏日」です。
「しんでしまう」
今日は風の弱い、雲も少ない、花見日和の快晴。
4月の太陽はエルニーニョの暑い名残りをまとって、明るい日差しをすべてに届け、すべてを温めます。
室内の温度は20℃とちょっと。
極寒の田舎から来た雪の人は、それでも、でろるん、床に落ちて溶けておりました。

「うその」
「なんだ雪だるま」
「スマホで、なにをとっている」
「付烏月がお前の溶けてる姿を見たいとさ」
「つうきさん」
「『一緒に仕事してた時、そんな弱さを見たことは無かった』、『貴重だから見たい』だとさ」

ほら、お前の分。
「20℃超の『暑さ』」を知らぬ、東京生まれ東京育ちの宇曽野。今年の3月からの同居人の唇に、ソーダなガリガリアイスを近づけます。
ああ。つめたい。
でろんでろんだった雪の人、藤森は、文字通り灼熱地獄から救われたような顔をして、ガリガリアイスにかじりつきました。

「付烏月に言いたいこと、何かあるか?」
「じんべーを、」
「『じんべー』?」
「私の部屋から、甚平を持ってきてほしい」
「『甚平』……?」


…――「はいはい、見つけた〜!」
場面変わりまして、こちら、宇曽野邸に居候している藤森の自宅。某アパートの一室です。
「白い甚平でしょ?あったよん」
快晴の陽気が入り込む防音防振構造の静寂の室内で、白い甚平を日光にかざす男が在りました。
「宇曽野さんの自宅宛てに送っとくね〜」

藤森の部屋に居たのは、付烏月、ツウキという男。
諸事情で宇曽野邸に居る藤森に代わり、
部屋を掃除したり、ニリンソウだかフウロソウだかに似た葉っぱの茂る鉢植えひとつのお世話をしたり。
実は付烏月、藤森の前々職、都内の某図書館で一緒に仕事をした過去がありまして、
その頃の藤森は、都会と田舎の違いに揉まれて擦れて、人間嫌いの捻くれ者を発症しておったのでした。

『人間は、敵か、「まだ」敵じゃないか』。
そんな藤森が親友を持ち、後輩を持ち、他者に「暑さで溶ける」なんて弱さを開示できるまでになった。
藤森の昔々を知る付烏月にとって、それはとても、とても喜ばしいことでした。

4月の快晴で溶ける藤森の過去、付烏月が見た前々職の頃のおはなしは、過去作3月7日から10日付近、
藤森が自分の後輩とおそろいの白い甚平を買うに至ったおはなしは、去年の6月22日投稿分で、それぞれご紹介していますが、
双方スワイプがバチクソ面倒なだけなので、まぁまぁ、昔のことは気にしない、気にしない。

「これで加元が、藤森に激重独占欲で執着するの、いい加減キッパリやめてくれたらなぁ」
そうすれば、藤森が加元から隠れて宇曽野の家に居候する必要も、俺が藤森の代わりに藤森の部屋の管理をする必要も無くなるのに。
ため息ひとつ吐き、付烏月は小さく首を振ります。

「過去の恋愛トラブルで親友宅に避難。
んん〜。恋愛、独占欲、執着……」
端から見る分に関しては興味深いけど、
振り回される身としては、タイヘンだよねぇ。
そりゃ一時的な人間嫌いも悪化するよね。
付烏月はパタパタ、白雪のような甚平を畳みながら、窓の外、4月の快晴、夏日の陽光広がる外を見遣り、再度、長いため息を吐きました。

4/14/2024, 3:48:10 AM